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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2025/04/22 (Tue) 09:20:22

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No.61
2009/10/16 (Fri) 01:38:03

阪急梅田駅の巨大なテレビスクリーン「ビッグマン」の前には、待ち合わせする人々も多かったが、今日はそこに映し出されるサッカーの試合を見物する人が大勢いた。日本対ウズベキスタン戦。
一つ目のモンスターも、モップを片手に人だかりの中で、その試合に見入っていた。日本が先に一点を入れ、再三の敵の攻撃をぎりぎりのところで防ぎ続ける日本のディフェンダーたち。手に汗握る攻防だった。双方のシュートが放たれるたびに、喚声が沸く。

そのときである。試合の応援とは違う、男女数名のかん高い叫び声が駅構内に鳴りひびいた。「おい、なんだ貴様!」
「あーっ、腕を切られたあ!!」
「きちがいだ!!」
大勢がいっせいに振り向くと、血だらけの白いシャツを着た顔面蒼白の若い男が、軍用ナイフを振り回して、周りの人間に手当たりしだいに襲い掛かっていた。腰にはバールやドライバーなど凶器になりそうなものをわんさと吊っていた。
「そいつを取り押さえろ!」
「あぶない、下手に手を出すな!」
モンスターは、一つ目を怒らし、無言で通り魔に近づいていき、その腕をひねりあげた。
「お前、なんでこんな真似をする?」
「うるせー、俺は死刑になりたいんだ!」
モンスターは冷然と通り魔を見おろした。しかし、いつものようにすぐにとどめはささなかった。見れば気の弱そうな男だ。社会全体に恨みをもち、同時に死にたいと思っているが自分では死ねない。思い返せばモンスターも放射性廃棄物を浴びて超人となるまでは、そんな心理状態におちいったことがよくあった。

「おちつけ。抹茶アイスクリームでも食べながら話そうぜ」
モンスターはいきつけの喫茶店「茶茶」に青年を連れて行った。
「おれ、会社をリストラされてから、バイトとか派遣の仕事やってたんです。でも、もうこのごろはぜんぜん仕事がなくなっちまって」
「そりゃ今のご時勢、そういう悩みを持ってる奴はいくらでもいるもんだ。人を殺して死刑になろうなんて、俺に言わせれば甘ったれてる。だがお前はまだ若い。それにいい目をしている……どうだ、俺のように悪党を片付ける仕事をやってみないか?」モンスターは目を輝かせて言った。
「悪党を片付ける……?」
「そうだ。死刑になるぐらいに根性が座ってるなら、それぐらいできるはずだ」
「正義の味方か……」青年は真剣な目をして思案した。「よし、俺やってみる」
「その意気だ!」
そのときである。ウェイトレスが水のおかわりを入れようとして、青年の飲んでいたアイスコーヒーをこぼしてしまった。「あっ、すみません!」
「ちきしょー、許せねー!!」突如として青年は激昂し、腰に釣っていたバタフライナイフを逆手に持ち、ウェイトレスの口に正面から深々と突き刺した。ばたりと倒れて口から噴水のように血を吹き上げ、ぴくぴく痙攣してこと切れるウェイトレス。
「やっぱり駄目だなお前は……」腕を組んでため息をついたモンスターは、青年をひきずって店を出て行き、HEPファイブの屋上に連れて行った。モンスターはエレベーターのワイヤーをいやがる青年の首に巻きつけ、屋上の赤い大観覧車を滑車がわりにして、青年を吊り上げ絞首刑にした。
「これがお前にふさわしい刑だー!」

青年が地上九十メートルの観覧車にぶらさげられる様子は、全国にテレビ中継された。
はたしてこのモンスターは英雄か、あるいは悪魔か? 日本国民はその夜みな、かたずを呑んで考え込み、そして議論を戦わせたのだった。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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No.60
2009/10/16 (Fri) 01:35:55

以前は品のよい乗客が多かった阪急電車も、京阪神での麻薬汚染の拡大も影響して、車内での非行少年や犯罪者の乱行が目立つようになってきた。
その日の午後五時ごろ、宝塚線・急行梅田行きの後ろから二両目は、降魔学園の男子生徒たちで占領されていた。喫煙するものはもちろん、堂々と大麻を吸引する者もいる始末である。こういう日は、車掌も恐れをなして注意しないのが通例になっていた。また、普通の人間ならこうした車両には乗り込まなかった。しかし蛍池駅で、事情を知らない盲目の少女が、運悪くこの不良の巣窟と化した車両に乗り込んだのだった。
「おい、スケだぜ。しかも上玉だ!」
不良の一人は叫び、ナイフを少女の前でちらつかせて
「おう、言うことを聞きなよ。痛い目を見たくなかったらよ」
しかし少女の眼はナイフを追ってはいなかった。
「このスケ、目が見えないんだぜ! こりゃ面白いや。めくらのスケとやるってのも乙なものだぜ」
少年は、少女を座席のところで四つん這いにさせ、スカートをまくり上げた。そのときである。一つ目で醜く黒ずんだ顔の車掌が、少年の首根っこを後ろからつかんだ。
「快適な車内の環境づくりにご協力ください。いや、協力しろ。といってもお前らには無理だろうな。麻薬で煙った体の中の風通しを良くしてやる」
そういってモンスターは、少年の背中にパンチし、そのこぶしは相手の体を貫通し胸から突き出た。正面にいた他の少年たちは、顔に血しぶきや生暖かい胃の内容物を浴びてあっけに取られた。しかし筋金入りのこの鬼畜どもは、すぐに戦闘意欲を燃やし、鉄パイプでモンスターに襲い掛かった。しかしパイプはモンスターの頭に直撃すると、ぐにゃりと曲がってしまい相手になんらのダメージも与えられなかった。飴細工のようにU字型に曲がった鉄パイプを奪ったモンスターは、その両端を攻撃してきた少年の両目に突き刺し、車両の天井に穴を開けて、列車に電力を送る架線にパイプを接触させた。すさまじい電気ショックがパイプを通じて少年の体をつらぬき、彼はあっという間に焦げ臭い匂いを発するしかばねと化した。
それに肝をつぶした不良少年たちは、十三駅で全員車両から逃げ出した。

あとに残った盲目の少女とモンスター。
「あなた、私の命の恩人なのね」少女は、手探りでモンスターの顔に触れた。光を失ったその目は、しかし美しく輝き、頬をばら色に染めていた。モンスターは自らの醜悪な顔のため、こういう状況に不慣れだったが、少女に顔を自由に触らせた。
「やさしそうなお顔……お礼がしたいわ。私のうちに来てくださらない?」
モンスターは彼女とともに、その住まいに向かった。そして彼女は、モンスターにとって生れてはじめての恋人となった。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
No.59
2009/10/16 (Fri) 01:34:12

阪急電車・急行河原町行きの最後尾の車両で、不良少年たちと正義感あふれる青年との間で、激しい口論が起こった。
「君たちはなんだ。お年寄りがこんなに前に立っているのに席を譲ろうとせず、しかも大股開きで場所を取って! 電車でのマナーを守れ!」
「うっせえ! 俺たちにそんな口をたたいてタダで済むと思ってんのか!?」
黒い革ジャンを着た少年の一人が、ふところから拳銃を出し、いきなり青年の胸に向けて発砲した。青年は胸の真ん中から血しぶきを飛び散らせて倒れ、ぴくぴくと痙攣してこと切れた。
そのときである。
片手にモップを持ち、一つ目で真っ黒な顔をした車掌が現れ、銃を持った少年の手をつかんだ。
「いて、いてて!」
少年の苦悶の声を無視して、車掌はその腕をひねり上げ、勢いよく引っ張ると、少年の右手は肩からちぎれてしまった。血が血管からぴゅっぴゅと飛び出る。
「ぎゃー!!」
「ついでに貴様のはらわたを見てやる」とつぶやいた化け物の車掌は、少年の腹に腕を突っ込み、腸をずるずると引きずり出した。少年はとっくに息絶え、大きく目を見開いて痙攣していた。乗客たちは、中には喝采を上げる者もいたが、大混乱の情況を呈していた。
「ちきしょう、俺の仲間に何てことしやがる」と、もう一人の少年が車掌に立ち向かった。その少年は空手をやっているらしく、構えがさまになっていた。しかしその突きや蹴りは、車掌には何ら痛痒を感じさせることが出来なかったらしい。逆に車掌はその少年の首根っこをつかみ、窓に彼の頭をぶち当ててガラスを破り、地下線路のコンクリートの壁に頭をがりがりとこすりつけた。猛スピードで電車は走っているから、またたくまに少年の頭蓋骨は粉砕され脳が飛び散り、頭部の半分ほどが削り取られてしまった。頭が半ば無くなったその少年の口にモップを押し込み、その車掌は烏丸駅で降りていった。

「何なんだ、今の車掌は!?」
「化け物だが、正義の味方には違いない」
乗客は口々に言いあった。その中に、新聞記者の土呂間(とろま)がいた。彼はこのモンスターに、時代が求める英雄像を見た気がした。そしてモンスターの追跡取材をしようと心に決めたのである。

モンスターが住む郊外の一軒家。
二階の自室でモンスターは、放射性廃棄物を浴びた後遺症に苦しんだ。その被害が、彼から普通の人間としての生活を奪ったかわりに、超人的な体力と正義感を植え付けたのである。モンスターは苦悶にのたうち、叫ぶ。
しかし事情を知らない彼の年老いた母親は、階下で「あの子もやっと性に目覚めたのね」と、微笑みつつつぶやくだけだった。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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