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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2025/04/22 (Tue) 08:31:17

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No.55
2009/10/16 (Fri) 01:25:59

 毒島(ぶすじま)をまじえて、殺気(さつき)、冥(めい)、姦太(かんた)、それから鬼婆は、階段でデパートの上の階へ向かった。殺気と冥は缶詰など食料品を集めにかかった。
「毒島さん、みんな、ちょっとこっちに来て! 屋上にヘリコプターがある」姦太が非常口から手招きした。
 皆は屋上に向かった。そこには五人は充分に乗れそうな黄色いヘリコプターがあった。
「燃料は入っているようだな」毒島は言った。
「毒島さん、操縦できる?」殺気が聞いた。
「いや、残念ながら出来ない」
「はぁ、ぬか喜びだったか」姦太がつぶやいた。
「しかたねえの、わしが操縦すっか」鬼婆はそういうと、懐から取り出したサングラスをかけ、操縦席についた。
「婆ちゃん、操縦できるの!?」姦太が驚いて言った。
「お婆ちゃん、すごーい!!」殺気と冥が叫んだ。
「むかしSWAT部隊にいたからの」
 皆はすっかりヘリコプターに乗り込んだ。
「テイク・オフぞな」鬼婆はヘリを離陸させた。地上を見おろすと、どこもかしこもゾンビの群れがのろのろ歩き回っていた。
「ひどいわ……お父さん、どこにいるんだろう」殺気が心細げに言った。
「ちょっと姦太くん、その腕どうしたんだい」毒島が尋ねた。
 姦太の二の腕に、噛まれたような化膿しかかった傷があった。
「殺気のうちでゾンビと戦ったときに噛まれたんだ。どうってことないよ」
「そうか……」
「……そろそろ病院が見えてきたわ。屋上にヘリ、着陸できそうじゃない、お婆ちゃん?」殺気が言うと鬼婆は首を振った。
「もう病院も危ねえ、近寄らんほうがええわ。獄門島はもう駄目だ、このまま逃げちまったほうがええ」
「いやよそんなの! 病院にはお母さんがいるのよ。お母さんとお父さん、みんないっしょでなきゃ嫌!」
「そげなこと言ってもなぁ……じゃ、病院に降りるから三十分以内に戻ってきな。三十分たったら婆ちゃん独りで逃げちまうからの」

 鬼婆を除く四人は病院の屋上でヘリを降り、無事に生きている人間を慎重に探した。さいわい最上階にはゾンビの姿は見当たらなかった。
「誰だ」角を曲がろうとした姦太のこめかみに銃が突きつけられた。
「ぼ、僕はゾンビじゃありません、怪しい者でもありません」
「西神先生!」殺気が叫んだ。そう、そこにいたのは、母の主治医の西神博士だった。
「お母さんを探してるんです、お母さんは無事なんですか!?」
「なんだ、草壁さんのお嬢さんか。いや……いきなりゾンビの大群に襲われたもんで、できるかぎり多くの患者をこの最上階に上げて階下を封鎖したんだが……草壁さんの奥さんはどうも見当たらないんだ」
「そんな、そんな」
「あたしが下に行ってお母さん探してこようか」冥が拳銃を両手に持って言った。
「いや、いくら人間離れした冥ちゃんでも危険だ」
「おお、ここにいたのか」病院内を手分けして探っていたので、はぐれていた毒島が来た。
「こちらは?」西神が聞いた。
「毒島といいます」
「たしか喪漏博士(もろうはかせ)の助手も毒島といったが……」
「はい……博士の助手です」毒島は少し決まり悪そうに言った。この騒ぎの責任は、間違いなく喪漏博士と自分にあったからだった。しかし皆はまだそのことを知らない。
「喪漏博士なら、この騒ぎを静める効果的な方法を知っているかも知れない、と思っていたのだが」
「いや……何もかも白状します。隠したって仕方がない」
 毒島は、ゲルジウム・ガスで人造人間吐屠郎を生み出し、その過程でガスが漏れ、この騒ぎにつながった、という一部始終を語った。
 冷然と毒島を見おろす西神博士。しかしやがて
「起こってしまったことはしょうがない。事態の収拾策を考えよう。そうしたガスについて詳しそうな人物といえば、喪漏博士と、あとこの島では石黒博士……いや、石黒さんは死んだんだっけな」
 石黒博士は、無実の罪で処刑されたのだった。
「……いや、実は石黒博士の首というのが……」毒島が言いかけたとき、姦太が叫んだ。
「あれを見ろ。ヘリコプターが!」
 皆がいる場所の窓から、ちょうどヘリポートが見えたが、今しもヘリが飛び立とうとしていた。しかし驚くべきはそのことではなく、白衣の医者や患者らしき大勢の男たちが、ヘリになんとか乗ろうとしてしがみつき、機体が大きくバランスを崩しかけていたことだった。
「危ない! 婆ちゃん、離陸をやめろ!」
 姦太が必死に叫んだが、ヘリの爆音もあり聞こえるはずもなく、鬼婆は必死でヘリを飛び立たせようとしていた。操縦席から乗り出して、機体につかまっている大勢の男たちに向けて銃を撃ちまくっている。サングラスをした鬼婆は、物凄い形相でなにやら悪態をついているようだった。
「まるで蜘蛛の糸にむらがる亡者の群れだ。まさに地獄だ」西神博士はつぶやいた。
 ヘリコプターはついに亡者たちの重みに耐えかね、炎上しながら地上に墜落していった。多くの者を巻き添えにしながら……。
「お婆ちゃん!!」
「ああいう死に方はしたくないものだ……この状況の中、いずれ死ぬにしても」西神は言った。

 ドン!……ドン!……封鎖している非常口の扉が、何者かによって衝撃を受けていた。
「ゾンビが大群で襲ってきたのか!?」西神博士は銃を構えた。
「ウォ、ウォ、ウォー! ウォ、ウォ、ウォー!」
「と、と、ろ……吐屠郎の声だ!!」冥が叫んだ。
「吐屠郎は味方と思っていいのか?」西神が言うと、殺気と冥は声をそろえて
「もちろん味方よ!」と叫んだ。

 吐屠郎は迎え入れられた。青白い顔を神経質に引きつらせている。その毛むくじゃらの手には風呂敷包みをぶらさげていた。
「吐屠郎、それ何?」冥が尋ねると、吐屠郎はバリケード用に廊下に出された机の一つに包みを載せ、開いてみせた。
「それは、人間の首……!?」一同は驚いた。
「待て、それは石黒博士の首じゃないか? そんなものをどうして……」西神が言った。

(つづく)
 
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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No.54
2009/10/16 (Fri) 01:24:11

 吐屠郎の運転するトラックは、ゆるやかな坂道をしばらく登り、そのまま病院へ向かうかに見えたが、右折して最近オープンした大型ショッピング・モールの前に停まった。
「ここ、ゾンビがうじゃうじゃいるわ! ここに冥(めい)がいるっていうの?」
 吐屠郎は「あ、う」と声を発して小さくうなずき、アクセルを強く踏んで、うつろな目をした青白いゾンビたちを次々はねとばし、建物の入り口にトラックを横付けした。
 ダダダダダダ!! ダダダ!! 機関銃の音がショッピング・モールの中から響いてきた。
 冥が、二階からマシンガンで階下のゾンビたちを撃ちまくっているのが見えた。
「ウキキキキキキー!!」
「冥、そこで何やってるの!?」
「あ、お姉ちゃん! こいつら、頭を吹っ飛ばしたら死ぬよ!」
 殺気(さつき)と姦太(かんた)が、停止したエスカレーターを駆け上って、よだれを垂らして赤紫に顔を上気させた冥のもとに向かった。
「ばか冥! 心配したんだから! しかも病院じゃなくてなんでデパートなんかにいるの!?」
「お腹がすいちゃったの。でも、ヒキガエルよりもっといいもの、見つけた!」
 冥は後ろの「佐伯銃砲店」という看板を指差した。
「手榴弾にバズーカ砲、なんでもあるよ! ね、お婆ちゃん!」
「こげな立派な銃、初めて持っただよ、あたしゃ」そこには鬼婆がいた。
「婆ちゃん、なんでここに!?」姦太が目を丸くして言った。
「池に冥ちゃんのらしきサンダルが浮んでてね、何かあったんかと思ってあたしゃ冥ちゃんの匂いを追跡してここまで来たんだよ。ほれ、そこに一匹」と言うなり鬼婆は拳銃を構え、姦太の背後に迫っていたひげ面のゾンビの眉間を撃ち抜いた。

 あたりがしんとなった。ゾンビたちの姿はあまり見えなくなった。
「冥、今のうちに病院に行きましょ」殺気が言った。
「あれ、吐屠郎は?」姦太が言った。たしかに吐屠郎の姿がさっきから見えない。
「これ何かしら」殺気が紙切れをひろいあげた。「タビニ デマス。トトロウ。吐屠郎の手紙だわ!」
「あいつめ! トラックもないぞ!」姦太が叫んだ。
「デパートの外はまだゾンビだらけぞな、車がないと動きが取れんわ」鬼婆が言った。
「……どうすりゃいいんだ」姦太が言った。
「じたばたしてもしょうがないわ。何か食べましょ……上の階に食べ物あるんじゃない?」
「そうじゃな」
 そのとき、デパートの入り口から若い男の声が鳴り響いた。
「すみません! そこにおいでの方! こっちです!」
 一同はその人物のほうを見た。
「あ、撃たないで。僕、ゾンビじゃありません」若い男が言った。
「うきー!」冥がかまわず機関銃を発射した。ダダ、ダダダ! 
 男はあわてて床に伏せた。
「違うんです、撃たないでったら!!」
「冥、やめな。ゾンビじゃないのよ」殺気が冥を制した。
「でも姉ちゃん、とどめを刺さなきゃ」
「お願いです! 僕はれっきとした人間です! 毒島(ぶすじま)といいます! 島の南部に住んでいる科学者です」
 吐屠郎の生みの親でゾンビ騒動をひきおこした喪漏博士(もろうはかせ)の、片腕として働いてきた助手の毒島、彼はここに何をしにきたのであろうか。物語はさらに続く。

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
No.53
2009/10/16 (Fri) 01:22:11

吐屠郎が置いていった新聞紙の包みには、小さな骨のかけらがたくさん入っていました。冥(めい)は、それを家の庭に埋めて「まだ芽が出ない、まだ出ない」と言っています。まるで欲深いナメクジのようです

 殺気(さつき)からの手紙を見て、母は微笑んだ。そこには「めいナメクジ」という不気味な生物のリアルなイラストが描かれていた。病室には、午後の日差しがやわらかに差し込み、平穏そのものだった。


 蚊帳の中で、殺気と冥が眠っていた。深夜、殺気がふと目を覚ますと、庭に、頭は若い男、胸と腕はゴリラ、腹は牛、足は馬、という生物がひざまずき、手を合わせてブツブツと呪文のようなものを唱えていた。吐屠郎だ。彼が力をこめて地面を指差すと、そこから骸骨の腕が一本飛び出した。続けて四方八方を指差すと、そこらじゅうから骸骨の手足、頭がニョキニョキ出てきた。
「冥、起きて! 吐屠郎よ」
 冥が目を覚まし、姉妹は興味津々で庭の光景をながめた。骸骨たちは手に手に飾りのついた笠をもち、奇妙なダンスを踊りながら吐屠郎の周囲を回った。
 吐屠郎は大きなコマを回すと雨傘を広げ、コマの上に飛び乗った。殺気と冥が吐屠郎にしがみつくと、吐屠郎はニーッと笑って空に舞い上がった。姉妹が上空からながめると、獄門島全体がぼんやりと青く光り、島のいたるところで骸骨が盆踊りを踊っていた……。

「さつき!」庭のほうから、男の子の声が聞こえてくる。殺気は目を覚ました。もう朝だ。
「姦太くん?」
「大変だ、早く目を覚ませ! 島の南のほうから死人が群れをなして襲ってくるんだ! あれはゾンビだ。みんな島の北部に逃げている。ぐずぐずするな」
 冥も目を覚ました。
「ほら、そこからもゾンビが出てくるぞ!」姦太が地面を指差すと、青白い手がにょきっと出てきていた。
「夢だけど!」殺気が叫んだ。
「夢じゃなかった!」冥が応じた。
「夢だけど!」
「夢じゃなかった!」
「二人とも、喜んでる場合じゃない!」二人の父親である草壁博士がいつのまにか後ろにいて、叫んだ。「早く逃げるんだ、一刻も早く!」
「草壁さん、電報です」
「えーい、こんなときに!」草壁が叫んだ。
「わたし、もらってくる!」殺気が玄関に行き、電報を手に戻ってきた。
「シキュウレンラクコウ、シチコクヤマビョウイン。病院からだわ! お母さんに何かあったのよ!」
「まあ落ち着きなさい。今はゾンビに集中しよう!」父が言った。
「そうだ、じきに大群が来るぞ」姦太はバットを振り回し、庭の畑から湧いた黒い着物のゾンビを倒した。
「あれ、冥は? 冥が消えた! きっと一人で病院に行ったんだわ!」
「えーっと、どうすりゃいいんだ、いやとにかく病院へは北への一本道だ、とにかく北へ向かおう」
 草壁が言うと、青い中型トラックが遠くから走ってくるのが見えた。そこらにまばらにフラフラしているゾンビたちを次々はね飛ばしながらトラックは疾走し、やがて草壁邸の庭先に停まった。ドアを開け運転席から降りてきたのは巨体の吐屠郎だった。彼は小石で、フロントガラスに金釘流で「めい」と書いた。
「吐屠郎! 私たちを冥のところに連れてってくれるの!?」殺気が叫ぶと、吐屠郎はニヤニヤ笑いながらうなずいた。
「ありがとう!!」殺気と姦太は助手席に乗り込んだ。
「よし、偉いぞ、吐屠郎」草壁もトラックに乗り込もうとすると、なぜか吐屠郎は「うがーっ」と叫んで草壁を突きとばし、そのまま車を発進させた。
 草壁は走り去るトラックを見送りながら「どうも俺は吐屠郎に嫌われているようだ……って冗談じゃないぞ、おい!」
 迫り来る男女のゾンビに血相を変え、草壁も北へ走っていった。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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