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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/22 (Fri) 10:46:29

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No.567
2012/05/14 (Mon) 04:44:20

 三島由紀夫の「憂国」には若い軍人が切腹する場面が克明に描かれているが、とにかく腹を切るというのは目が回るほどの苦痛だということになっている。しかし最近読んだ科学雑誌によると、体の中で痛覚を感じる部分は皮膚に集中していて、腸などの内臓にはほとんど痛覚はないそうだ。とすると刀で腹を切るのも痛いのは最初だけで、深く刺してしまえばあとはどうということもないのかも知れぬ。H.G.ウェルズの「モロー博士の島」に登場するモロー博士も、痛覚というのはさほど重要な感覚ではないのだと言いつつ手術用のメスをずぶりと自らの太腿に突き刺し「これでも私は露ほどの痛みも感じてはおらんのですぞ」と喝破していた。ウェルズも生物学を専門とした人だから、僕が科学雑誌を見て思ったように、自分の体を切るのは思ったほどには痛くないというのが本当かも知れない。漫画のブラックジャックは自分で自分の開腹手術をときどきしていたけれど、あるとき寄生虫を摘出するために腸を切って痛がっていたが、あれはリアリティを出すための演出だったのだろうか。そう思うと、剣術で肉を切らせて骨を断つなどというが、骨まで切られたほうがむしろ痛くなくて、例えば腕の骨を切られても戦意はなお盛んで、残った四肢を使って勝ってしまうこともあるかも知れない。モンティ・パイソンの映画版で、アーサー王ものか何かだったと思うが、主人公の騎士が決闘相手の両腕を斬りおとし、勝ったと思って立ち去ろうとしたら、両腕を失った相手が「まだ勝負はついていない」といって主人公の背中をキックする場面があった。ついに主人公は相手の両足も斬りおとし、ようやく勝ったと思い立ち去るのだが、相手は身動きが取れなくなっても「まだ勝負はこれからだ、逃げるのか腰抜け野郎」と悪罵を浴びせ続けるのである。
 
 これまで生きていて一番痛かったことといったら何だろう。子供のころ夏に花火をしていて、打ち上げ花火に火をつけて待っていると花火の筒が倒れ、それを立てようと触った瞬間に花火が噴き出し、手に大きな火傷を負ったが、それが猛烈に痛かったのが記憶に残っている。あと背中に出来物ができて、医者にその膿をしぼり出してもらったとき。ああいうとき、あまりの苦痛に思わず声がもれるが、男ならカン高い悲鳴を上げるのは格好が悪い。医者からも軽蔑される。そこはやはり腹式呼吸で「ウッ」と太く男らしい苦悶の声を出さなければならない。歯医者で奥歯を削られる痛みも酷い。自分の顔から血の気が引いていき、自分がまさに気絶しつつあるのが分かったことがあるぐらいだ。歯医者によっては「緊急用蘇生装置」なるものが置かれていることがあるのもうなずける。気絶の話が出たが、ある小説に出てきた軍の特殊部隊の訓練の中に「対拷問訓練」というのがあり、それはどんな苦痛を与えられても相手の質問に答えない忍耐力を養う訓練だった。それこそ電気ショックから、水槽に窒息寸前まで頭をつっこまれる、爪の下に針を突き刺される、などありとあらゆる苦痛が用意されているが、その訓練にも慣れてくると、拷問されながらも意図的に気絶できるようになる、ということになっていた。気絶してしまえばもう苦痛は追ってこないのである。

 三島由紀夫は実際に切腹して死んだが、同志の森田必勝による介錯は何度も失敗したといわれる。人の首を斬りおとすことなどきっと初めてで仕方なかったろうが、何度も斬り損いされる三島は大変だったろう。斬れないとしても鉄の刀で首をどやされるのだから、首が落ちる以前に死んでいたかも知れない。戦国時代の腹の据わった武将は、刀傷を体中に負いいよいよ命数が尽きたのを感じ、しかも近くに敵がいないときは、わざわざ敵兵を呼び寄せ「おい、俺の首をやろう。名の知れた武将の首だぞ、お前もちょっとは戦功を立てたいだろう」といってわざわざ首を斬らせた、などという話がある。その敵兵のほうが臆病で「腰が抜けました」という場面が、講談の「真田幸村」にあった。


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No.566
2012/05/04 (Fri) 09:16:55

 はるかな昔、教師というものは存在したが、学校の無い時代があった。古代ギリシャのアテナイにプラトンが創設したアカデメイアが、最初の学校といわれる。それ以前は、場所を決めずいろいろな場所で教師が生徒を教えていたのである。
 ほら、今しも葡萄酒色にきらめく海の波打ち際に、長衣をまとった白髪白髯の年老いた男が、年のころ十二三の少年を連れて歩いているのが見えるだろう。
「先生、いぜん先生は全ての生物は海から生まれたと仰いましたが、なぜそれが分かるのですか」
「君とは山を歩きながら話したこともあったね。注意深く観察すれば、どこの陸地でも、そして高山においても、水棲動物の化石を見つけることが出来るのだ。これは多くの陸地がはるかな昔には海底に沈んでいたことを示している。またすべての陸棲動物の骨格を見ても、水棲動物と特徴を共有しているのが分かる。これもすべての生物が海から生まれた証拠といえるのだよ」
「先生、巻貝の貝殻です。巻貝はらせんを描いていて綺麗ですね」
「巻貝は幼生のころから少しずつらせん状に成長していくのだ」
「耳に当てると、音がします。これは昔の人のいうように海の音でしょうか」
「いや、それは耳の中の血流の音に過ぎない。ほら、あっちの岬のほうにも行ってみよう」
 教師と生徒は、岬を登っていった。心地よい春風に吹かれて、二人は髪をなびかせ、黙々と歩く。
 岬の先端近くには、石碑が建てられていた。いまいちど考えよ、死は決して解決をもたらさぬ……と書かれている。この岬から身を投げるものがあとを絶たないからで、つまりここは自殺の名所なのだった。
「先生、魂は不滅なのでしょうか」
「魂などというものはありはしない。君にはたびたび解剖学の話をしてきたね。人間の精神作用は、すべて頭蓋の中におさまっている脳髄が生み出すものだ。脳が機能を停止すれば、精神も活動をやめ、意識は無くなる。魂などありはしないのだ」
「しかし先生、僕はこの岬の突端に近づくたびに、かつて身を投げた者たちの気配を感じて怖くなるのです。この断崖から下を覗き見るなんてとてもできません。先生はお出来になりますか」
 なに、こいつ俺の度胸を試そうとでもいうのか、と思って教師はいっしゅん躊躇したが、やがて岬の突端まで歩き、うつ伏せになった。風が強く、立っていると吹き飛ばされそうだったからだ。うつ伏せになった教師は、断崖の下を覗き見た。
「ほら、何ということも無い。魂などというものは無いのだから、自殺者の霊に怯えるなどというのは馬鹿げたことだ」
 そのときである。崖の下から白い手が伸びて、教師の肩を掴む者があった。その長い手はそのままずるずると教師の体を崖下に引っ張りこんでいく。やがて教師が恐ろしい悲鳴を上げた。見ているうちに、崖下から何本も手が出てきて、黒髪で顔の隠れた白装束の人間たちが次々と崖の上に現れた。いずれもずぶぬれで異様なほど青白くやせ細った手足をしており、場所を考えると、かつて身投げした溺死者が蘇ったのだとしか思われなかった。そのころ教師は上半身を崖からぐったりと垂らし、これらの化け物に脳味噌を食われて事切れていた。
 生徒は恐ろしくなって、もと来た道を駆け戻った。後ろを振り向くと、生ける溺死者たちは何匹も何十匹も岬の突端からあらわれ、手を伸ばして追いかけてくる。生徒が小石につまづいて転ぶと、白装束の亡者たちがどっと襲い掛かった。たちまち生徒の四肢はもぎ取られ、腹は割かれて内臓がむさぼり食われた。頭をかじる者もおり、生徒の脳髄をほじくり出して食おうとしていた。
 そのときである。高さ三メートルほどで幅一・五メートルほどの卵形で銀色の物体が、生ける溺死者たちの群れの上空に突如あらわれた。そして卵形の下端から白くまばゆい光線を溺死者たちに浴びせると、死人どもは一人残らず手足を突っ張らせて痙攣し、動かなくなった。やがて銀色の卵は降りてきて、円い扉が開き、中から若い男女が顔を出した。二人とも、年のころは十六七ぐらいだ。
「襲われていた少年は、古代の学童に間違いないね」少年が言った。
「かわいそう、化け物に襲われて体がズタズタだわ。救命センターに運んで臓器を新しいのと取り替えてあげましょう」少女が言った。
「脳髄の損傷がひどいよ。これでは教育史学のサンプルには使えないよ」
「あれぐらいなら東芝の工場に送れば治るわよ」
「なにせこのタイムマシンも造った世界の東芝だもんな」
「あっちの教師も助けられるかしら」
「教師は脳味噌をほぼ全部食われちまってるから無理そうだな」
「まあ生徒の記憶バンクさえあればレポートは書けるし、とりあえず引き返しましょうよ」
 卵型のタイムマシンはすっと姿を消した。

「ばかもの! 古代の溺死者がよみがえって人間を襲うなどということは滅多に無いのだぞ。なぜ溺死者どもの遺体を一つでも運んでこなかった」
「だって先生、あの白装束の化け物たちってとても臭いのだもの」
「今すぐ戻って遺体を持ってきなさい」
「はーい」
 少年と少女は、鼻をつまみながら溺死者のゾンビの遺体を三体、タイムマシンに運びいれ未来に持ち帰った。遺体の持ち帰りを命じた彼らの指導教授は、文学部史学科の教官であるとともに、農学部醸造学科の教授でもあり、古代の溺死したゾンビの発酵食品化にかねがね関心を抱いていたのだった。もちかえったゾンビの腹を開き、胆嚢を摘出してすりつぶしたものを腹の中に戻し、菌の豊富な土壌にその遺体を埋めた。
「これで五年後には美味い保存食になっていることだろう」
 教授と生徒二人は再びタイムマシンに乗り、五年後の未来へ。
 遺体を掘り出した教授は、それをうつ伏せにし、やおらゾンビの尻に顔をうずめた。
「な、何をしてるんですか、先生!?」
「ゾンビの肛門からとろとろに溶けた内臓を吸い出すのだよ。これがまたとない美味だ。さあ、ゾンビはあと二体埋めてあるから、それぞれ掘り出して君たちも味わいなさい」
「いや、いくらなんでもそんな気持ちの悪いことは……」
「二人ともこれを食さなければ教育史の単位はやらんよ」
「げーっ」

 
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No.565
2012/05/04 (Fri) 09:14:53

 近所でむかし酒屋だった場所にセブンイレブンが建っていて、そこの経営はもとの酒屋の主人だった人物がしている。現在八十六歳である。相当の資産があるらしいが、その人が最近「近ごろは夢も希望もなくなった」と語ったそうだ。お金があっても使う元気がないということか、ずいぶんつまらない話だと思ったが、八十六歳の老人に「おい元気出せよ」と言って元気が出るものなのか、また元気が出るとどうなるのか、ちょっと興味深くはある。

 老後に備えて貯金、とよく人はいうけれど、お金があるがゆえに働かずやることがなくなって、かえって元気をなくしたり、病気になって早く死んでしまう老人は多い。だから貯金の有無と幸不幸とはあまり関係がないようにも感じる。そもそも、自分には老後という言葉がどうもピンとこない。第一に、自分が老人になるまで生きているという保証はどこにもない。また第二には、老いという言葉からは活動の停止を連想し、活動しないのであればもはや生きる意味はなく、あとは死ぬしかなかろう、と思ってしまうから。

 ところで死んだ後はというと、魂はまったく消滅するか、そうでなければブラックホールに行くのである。というのも、魂が消滅しないとすると、これまでの地球人類すべての魂がどこかにあるはずで、では輪廻するのかというとそれでは地球人口の増加とどうも整合性がつかず、輪廻説は不自然である。だから死んだ人間の魂は絶えず増え続けるが、それがいつまでも地球周辺に漂っていたのでは生きている人間の邪魔になる。だから無限に物質を受け入れることのできるブラックホールにおもむき吸い込まれると考えるのが合理的だ。実際ブラックホールの中心、いわゆる特異点においては密度が無限大であると考えられており、それならば特異点の近傍には質量を持った物質が無限に多く存在することが出来て、魂が行く場所としてもっとも適当である。またブラックホールと外の宇宙との境界面においては時間が止まって見えると考えられており、魂は永遠に存在する一方でその主観は境界面に到達するまでの有限の時間しか経験できない、ということもいえるのである。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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