『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.541
2012/01/24 (Tue) 00:06:00
「みんな、みんな、いずれはエイリアンに殺されちまうんだ!」バイアンズの控えピッチャー、六減(ろくふぇる)が叫んだ。顔面を蒼白にして、体をがたがた震わせている。
ここはIR鉄道が派遣した宇宙船ドリムーン号の中。少年野球チーム・バイアンズのメンバーと監督である一つ目のモンスターが、この宇宙船に乗り込み、土星の衛星タイタンに向けて旅立ってから、八カ月がたっていた。目的はタイタンにおいて、エイリアンをはじめとする宇宙生命体の生態系を調査することである。
リーダーのモンスターは、バイアンズのメンバーをえり抜きの戦士として頼りにしていたが、ここに来て一つの誤算が明らかになった。地球では強心臓の抑えのピッチャーだった六減三蔵(ろくふぇる・さんぞう)が、宇宙病とでもいうのか、極度に神経質になってエイリアンの影に怯えだし、ノイローゼ状態になってしまったのである。
「六減はタイタンにつくまで人工冬眠させておいたらどうですか?」ショートの牟残(むざん)が提言した。
「駄目だ。人工冬眠装置は四つしかないし、その四つは旅の前半の任務を終えたメンバーが使っている」モンスターが言った。その四人とは、セカンドの獄目鬼(ごくめき)、ファーストの火戸羅(ひどら)、ライトの鹿羽根(しかばね)、それに控えの外野手だった魔具虎(まぐどらー)だった。現在目を覚まして任務についているのは、いま発言した牟残、レフトの零刻苦(れいこっく)、キャッチャーの兀奴(ごっど)、それにピッチャーの六減の四人と、監督のモンスターである。モンスターはリーダーという立場からずっと起きてドリムーン号の操作に当たっていたが、バイアンズの八人はタイタンにつくまで、公平に四人ずつ人工冬眠させることになっていた。
「まあ、僕だって六減の代わりに起きて任務につけと言われたら、腹は立ちますがね」
「零刻苦、六減に鎮静剤を飲ませてやってくれ」モンスターが指示した。
しばらく鎮静剤の効果でぐったりと落ち着いていた六減だったが、やがてブリッジの席を立ってふらりと出て行こうとした。
「おい、どこへ行く?」牟残がいうと、
「展望室にいって頭を冷やしてくる」
ドリムーン号の中央上部に位置する展望室は、もともと天体観測などのために作られた部屋で、見晴らしが良かった。六減は星を眺めるのが好きというわけではなかったが、居心地のいいしつらえの部屋で、ときどきここに来てひとり物思いにふけるのだった。
ふと窓の外に目をやると、ドリムーン号の左翼、二号ジェットの上あたりに見慣れぬオレンジ色のものがチラチラと動いているのに気がついた。六減がそちらへ望遠鏡を向けると、信じがたいものが目に入った。サングラスをかけた中年の男が、オレンジ色のTシャツにトレパンといういでたちでそこに立っているのである! 外はもちろん真空であり、宇宙服を着ずに平気でいられる人間などありえようはずがない。さらに観察を続けると、男は傍らに置いたゴルフバッグから一本クラブを取り出し、それを使って左翼の装甲板の一つをはがしにかかったではないか。これはゆゆしき事態である!
「監督、監督!」六減は急いでブリッジに戻り、事の次第をモンスターに話して聞かせた。
「今度は幻覚か? そんなことあるわけないだろう」兀奴(ごっど)が呆れていった。
「念のため左翼をスクリーンに映してみよう」モンスターは言い、メインスクリーンにダークグリーンの広い翼が映し出された。「六減、どの辺だ?」
「二号ジェットの上です」
「何も見当たらんがな」
「さっきは確かにいたんです。宇宙服を着ないで、そこに立ってたんです」
「ま、とりあえず今のところは異常なしだ。もうすこし休んだらどうだ」
「監督、信じてください。確かにいたんだ」
六減はそういうと展望室に駆け戻って、また望遠鏡で左翼を拡大して観察した。やはりサングラスの男が見える。その男はにやりと笑って、巨大な木づちで船体を破壊し始めた。
「このやろう、ドリムーン号を壊す気か!?」六減が叫ぶと、不審者はそれが聞こえたかのように望遠鏡のほうを見てにやりと笑い、サングラスをはずした。どこかで見たことのある顔だった。そう、あれは政治家の……。
やがて不審者は電気ドリルで左翼の基部に穴を開け始めた。あんなところに穴を開けられては大変だ。
「ちくしょう、もう好きにはさせんぞ」六減は怒り心頭に達し、もはや分別がつかなくなったのかレーザーガンを展望室の中で発射し、不審者を片付けようとした。
窓の強化ガラスに穴が開き、たちまち轟音とともに室内の空気が船外に吸い出されていった。六減自身も窓の穴に吸い寄せられ、宇宙空間に投げ出されてしまうかに思われた。
そのとき、六減の手を掴む者がいて、彼は船内に引き戻された。たちまち非常用の装甲シャッターが下り、空気の流出は食い止められた。六減を助けたのはモンスターだった。
「おい、気を確かに持て! 落ち着くんだ!」モンスターは強い口調で言った。
「……すみません、取り乱しました。判断を誤りました」六減は言った。
「まだ先は長いんだ。しっかり頼むぞ」モンスターはそう言って、六減の肩を叩いた。
「ちくしょう、また負けだ。ズバット、ちょっとは手加減してくれ」モンスターはコンピュータを相手にオセロをしていた。
「これでも限りなく手加減しています、ミスター・モンスター」コンピュータが答えた。
このコンピュータはドリムーン号のすべての機能を制御する高性能のもので、正式名をZBT7000といったが、乗組員は親しみをこめてズバットと呼んでいた。実際ズバットは感情を持っているかのように振る舞い、ドリムーン号の十人目の乗組員として皆に受け止められていた。
「ミスター・モンスター。ブリッジ横のトイレですが、一番奥の便座のウォシュレットが二時間十五分後に壊れます」
「確かか」
「ZBT7000型コンピュータはこれまで誤りを犯したことがありません」
「よし、六減。修理してきてくれ」
六減は工具を持ってトイレに入っていった。モンスターは再びズバットを相手にオセロを始めた。
「監督。六減、遅すぎやしませんか」兀奴が言った。
「そういえばそうだな」
モンスターと兀奴はトイレに行き、六減に声をかけた。返事はない。内側から鍵がかかっていたから、モンスターは体当たりして個室のドアを開けた。六減が泡を吹いて倒れていた。白目をむいている。
「死んでるぞ」
「ええっ。いったいどうして!」
モンスター、兀奴、零刻苦、牟残はこの問題を討議した。
「このトイレは完全な密室だった。しかし六減は首を絞められ殺されていた。ズバット、どう思う?」
「完全な密室だったというのは誤りだと思います、ミスター・モンスター。通風孔があります」
画面に、ブリッジ周辺の天井を通るダクトが図示された。それは六減が死んでいた個室の通風孔にも通じていた。
「では、犯人はどこに行ったのだろう?」
「生命反応のありかを調べてみます」ズバットが言うと、
「いや、それには及ぶまい」といってモンスターは槍を持ってきて、天井のあちこちを突き刺し始めた。
「ぎゃー!」
「ここだ、この周辺をレーザーで焼き切れ」
レーザーを使って天井に穴が開けられると、中年の男が落ちてきた。オレンジ色のTシャツにトレパン姿の男。六減が報告した特徴と一致している。モンスターがその男のサングラスをむしりとると、その顔は麻生太郎元首相とそっくりだった。
「松平!」
「監督、この男を知ってるんですか」
モンスターは、RS電機陸上部の鬼監督にして蟻濠図帝国(ぎごうとていこく)の使者である松平平平(まつだいら・へっぺい、第四回・第五回に登場)について皆に説明した。
「お前はなぜここにいるんだ」とモンスター。
「いや、生き別れになった妹がタイタンにいてね、たった一人の肉親だ、そりゃあ元気なうちに会いたい、会いたいとも。で君がタイタンに行くと聞いてだね、わしも連れて行ってもらおうと思ったのだよ」
「その男は嘘をついています、ミスター・モンスター」ズバットが冷静な声で言った。
「なんだね、機械のくせに。失敬だぞきみ」松平が言うと、
「ズバットには高性能の嘘発見器が内蔵されている。あんたの脳波や内分泌物や血流を調べてるんだよ」とモンスター。
すると松平はトレパンの中からショットガンを取り出して、ズバットのメイン画面を撃ちぬいた。
「これで邪魔者はいないというわけだ。わしをタイタンに連れてってくれるね」
「なぜ六減を殺したんだ」
「いやそれは、密航者だなんだと騒ぎ立てるから仕方なかったのだよ。な、昔のよしみでどうかひとつ、頼むよモンスター君」
「じゃあなんで宇宙船の左翼を壊そうとしていたんだ」零刻苦が口を挟んだ。
「そりゃあ穴を開けて中に入るために決まってるじゃないか、若いの」
「なぜ宇宙空間で宇宙服を着ずに平気でいられたんだ」と零刻苦。
「そりゃ陸上で鍛えとるからだよ。しかし細かいことにこだわるねきみも」
「監督、こいつ、宇宙船からほっぽり出しましょうよ。ろくなやつじゃないですよ」
零刻苦が提言すると、松平はただちにショットガンで彼の胸をぶちぬいた。
「本当の狙いは何だ? 松平」とモンスター。
「だから言っとるだろ、生き別れになったたった一人の妹にひとめ会いたい、ただその一心でだな」
「もういい。宇宙船がタイタンの引力圏内に入る。あんたがコンピュータをぶち壊したおかげで手動で着陸させなきゃならなくなった。兀奴、高度計を見ててくれ。牟残は操舵装置の回路が無事かチェックしろ」
けっきょく松平平平を同行してタイタンに赴くことになったモンスターとバイアンズ。
この先どんな展開が待ち受けているのであろうか?
(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
ここはIR鉄道が派遣した宇宙船ドリムーン号の中。少年野球チーム・バイアンズのメンバーと監督である一つ目のモンスターが、この宇宙船に乗り込み、土星の衛星タイタンに向けて旅立ってから、八カ月がたっていた。目的はタイタンにおいて、エイリアンをはじめとする宇宙生命体の生態系を調査することである。
リーダーのモンスターは、バイアンズのメンバーをえり抜きの戦士として頼りにしていたが、ここに来て一つの誤算が明らかになった。地球では強心臓の抑えのピッチャーだった六減三蔵(ろくふぇる・さんぞう)が、宇宙病とでもいうのか、極度に神経質になってエイリアンの影に怯えだし、ノイローゼ状態になってしまったのである。
「六減はタイタンにつくまで人工冬眠させておいたらどうですか?」ショートの牟残(むざん)が提言した。
「駄目だ。人工冬眠装置は四つしかないし、その四つは旅の前半の任務を終えたメンバーが使っている」モンスターが言った。その四人とは、セカンドの獄目鬼(ごくめき)、ファーストの火戸羅(ひどら)、ライトの鹿羽根(しかばね)、それに控えの外野手だった魔具虎(まぐどらー)だった。現在目を覚まして任務についているのは、いま発言した牟残、レフトの零刻苦(れいこっく)、キャッチャーの兀奴(ごっど)、それにピッチャーの六減の四人と、監督のモンスターである。モンスターはリーダーという立場からずっと起きてドリムーン号の操作に当たっていたが、バイアンズの八人はタイタンにつくまで、公平に四人ずつ人工冬眠させることになっていた。
「まあ、僕だって六減の代わりに起きて任務につけと言われたら、腹は立ちますがね」
「零刻苦、六減に鎮静剤を飲ませてやってくれ」モンスターが指示した。
しばらく鎮静剤の効果でぐったりと落ち着いていた六減だったが、やがてブリッジの席を立ってふらりと出て行こうとした。
「おい、どこへ行く?」牟残がいうと、
「展望室にいって頭を冷やしてくる」
ドリムーン号の中央上部に位置する展望室は、もともと天体観測などのために作られた部屋で、見晴らしが良かった。六減は星を眺めるのが好きというわけではなかったが、居心地のいいしつらえの部屋で、ときどきここに来てひとり物思いにふけるのだった。
ふと窓の外に目をやると、ドリムーン号の左翼、二号ジェットの上あたりに見慣れぬオレンジ色のものがチラチラと動いているのに気がついた。六減がそちらへ望遠鏡を向けると、信じがたいものが目に入った。サングラスをかけた中年の男が、オレンジ色のTシャツにトレパンといういでたちでそこに立っているのである! 外はもちろん真空であり、宇宙服を着ずに平気でいられる人間などありえようはずがない。さらに観察を続けると、男は傍らに置いたゴルフバッグから一本クラブを取り出し、それを使って左翼の装甲板の一つをはがしにかかったではないか。これはゆゆしき事態である!
「監督、監督!」六減は急いでブリッジに戻り、事の次第をモンスターに話して聞かせた。
「今度は幻覚か? そんなことあるわけないだろう」兀奴(ごっど)が呆れていった。
「念のため左翼をスクリーンに映してみよう」モンスターは言い、メインスクリーンにダークグリーンの広い翼が映し出された。「六減、どの辺だ?」
「二号ジェットの上です」
「何も見当たらんがな」
「さっきは確かにいたんです。宇宙服を着ないで、そこに立ってたんです」
「ま、とりあえず今のところは異常なしだ。もうすこし休んだらどうだ」
「監督、信じてください。確かにいたんだ」
六減はそういうと展望室に駆け戻って、また望遠鏡で左翼を拡大して観察した。やはりサングラスの男が見える。その男はにやりと笑って、巨大な木づちで船体を破壊し始めた。
「このやろう、ドリムーン号を壊す気か!?」六減が叫ぶと、不審者はそれが聞こえたかのように望遠鏡のほうを見てにやりと笑い、サングラスをはずした。どこかで見たことのある顔だった。そう、あれは政治家の……。
やがて不審者は電気ドリルで左翼の基部に穴を開け始めた。あんなところに穴を開けられては大変だ。
「ちくしょう、もう好きにはさせんぞ」六減は怒り心頭に達し、もはや分別がつかなくなったのかレーザーガンを展望室の中で発射し、不審者を片付けようとした。
窓の強化ガラスに穴が開き、たちまち轟音とともに室内の空気が船外に吸い出されていった。六減自身も窓の穴に吸い寄せられ、宇宙空間に投げ出されてしまうかに思われた。
そのとき、六減の手を掴む者がいて、彼は船内に引き戻された。たちまち非常用の装甲シャッターが下り、空気の流出は食い止められた。六減を助けたのはモンスターだった。
「おい、気を確かに持て! 落ち着くんだ!」モンスターは強い口調で言った。
「……すみません、取り乱しました。判断を誤りました」六減は言った。
「まだ先は長いんだ。しっかり頼むぞ」モンスターはそう言って、六減の肩を叩いた。
「ちくしょう、また負けだ。ズバット、ちょっとは手加減してくれ」モンスターはコンピュータを相手にオセロをしていた。
「これでも限りなく手加減しています、ミスター・モンスター」コンピュータが答えた。
このコンピュータはドリムーン号のすべての機能を制御する高性能のもので、正式名をZBT7000といったが、乗組員は親しみをこめてズバットと呼んでいた。実際ズバットは感情を持っているかのように振る舞い、ドリムーン号の十人目の乗組員として皆に受け止められていた。
「ミスター・モンスター。ブリッジ横のトイレですが、一番奥の便座のウォシュレットが二時間十五分後に壊れます」
「確かか」
「ZBT7000型コンピュータはこれまで誤りを犯したことがありません」
「よし、六減。修理してきてくれ」
六減は工具を持ってトイレに入っていった。モンスターは再びズバットを相手にオセロを始めた。
「監督。六減、遅すぎやしませんか」兀奴が言った。
「そういえばそうだな」
モンスターと兀奴はトイレに行き、六減に声をかけた。返事はない。内側から鍵がかかっていたから、モンスターは体当たりして個室のドアを開けた。六減が泡を吹いて倒れていた。白目をむいている。
「死んでるぞ」
「ええっ。いったいどうして!」
モンスター、兀奴、零刻苦、牟残はこの問題を討議した。
「このトイレは完全な密室だった。しかし六減は首を絞められ殺されていた。ズバット、どう思う?」
「完全な密室だったというのは誤りだと思います、ミスター・モンスター。通風孔があります」
画面に、ブリッジ周辺の天井を通るダクトが図示された。それは六減が死んでいた個室の通風孔にも通じていた。
「では、犯人はどこに行ったのだろう?」
「生命反応のありかを調べてみます」ズバットが言うと、
「いや、それには及ぶまい」といってモンスターは槍を持ってきて、天井のあちこちを突き刺し始めた。
「ぎゃー!」
「ここだ、この周辺をレーザーで焼き切れ」
レーザーを使って天井に穴が開けられると、中年の男が落ちてきた。オレンジ色のTシャツにトレパン姿の男。六減が報告した特徴と一致している。モンスターがその男のサングラスをむしりとると、その顔は麻生太郎元首相とそっくりだった。
「松平!」
「監督、この男を知ってるんですか」
モンスターは、RS電機陸上部の鬼監督にして蟻濠図帝国(ぎごうとていこく)の使者である松平平平(まつだいら・へっぺい、第四回・第五回に登場)について皆に説明した。
「お前はなぜここにいるんだ」とモンスター。
「いや、生き別れになった妹がタイタンにいてね、たった一人の肉親だ、そりゃあ元気なうちに会いたい、会いたいとも。で君がタイタンに行くと聞いてだね、わしも連れて行ってもらおうと思ったのだよ」
「その男は嘘をついています、ミスター・モンスター」ズバットが冷静な声で言った。
「なんだね、機械のくせに。失敬だぞきみ」松平が言うと、
「ズバットには高性能の嘘発見器が内蔵されている。あんたの脳波や内分泌物や血流を調べてるんだよ」とモンスター。
すると松平はトレパンの中からショットガンを取り出して、ズバットのメイン画面を撃ちぬいた。
「これで邪魔者はいないというわけだ。わしをタイタンに連れてってくれるね」
「なぜ六減を殺したんだ」
「いやそれは、密航者だなんだと騒ぎ立てるから仕方なかったのだよ。な、昔のよしみでどうかひとつ、頼むよモンスター君」
「じゃあなんで宇宙船の左翼を壊そうとしていたんだ」零刻苦が口を挟んだ。
「そりゃあ穴を開けて中に入るために決まってるじゃないか、若いの」
「なぜ宇宙空間で宇宙服を着ずに平気でいられたんだ」と零刻苦。
「そりゃ陸上で鍛えとるからだよ。しかし細かいことにこだわるねきみも」
「監督、こいつ、宇宙船からほっぽり出しましょうよ。ろくなやつじゃないですよ」
零刻苦が提言すると、松平はただちにショットガンで彼の胸をぶちぬいた。
「本当の狙いは何だ? 松平」とモンスター。
「だから言っとるだろ、生き別れになったたった一人の妹にひとめ会いたい、ただその一心でだな」
「もういい。宇宙船がタイタンの引力圏内に入る。あんたがコンピュータをぶち壊したおかげで手動で着陸させなきゃならなくなった。兀奴、高度計を見ててくれ。牟残は操舵装置の回路が無事かチェックしろ」
けっきょく松平平平を同行してタイタンに赴くことになったモンスターとバイアンズ。
この先どんな展開が待ち受けているのであろうか?
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No.540
2012/01/22 (Sun) 02:31:51
子供たちが学校の休み時間になるといっせいに携帯電話を取り出し、ゲームをしたりイヤホンをつけて音楽を聴きだす、また電車に乗っていると老若男女問わずスマートフォンなどの携帯端末をいじっている、そんな現象を見ていると、こんご人間はどうなっていくのか、などという壮大な疑問をもつことも多い。
思い出せば自分が小学校に入ったころに任天堂から「ゲームウォッチ」というのが発売され、それが携帯用コンピュータ・ゲームの最初ではなかったろうか。その後「ファミコン」が普及して、多くの同級生がそれを持つようになり、携帯用ゲームの種類も増えていった。しかしまだみんな「暇さえあればゲームをやっている」という状態では全然なくて、遊びといえば小さな子なら鬼ごっこ、長ずるにつれドッジボールや野球、というふうに体を動かすことが主流だった。いまは子供の数自体も減っているが、外で子供が体を動かして遊んでいる風景がめっきり減ってしまった。まあ昔はみんな体を動かして遊んでいた、などと言っても自分は本を読んでいるほうが好きな子供だったのだが。
自分の父の世代になると、体を動かして遊ぶというその度合いがより激しくて、父の子供時代の話を聞くと、友達と海で潜る競争をしていて鼓膜を破ったとか、釘抜きを腰に差したまま海に潜ったら浮き上がれなくなって溺死しかけたとか、家の二階から庭に飛び降りたらそこに落ちていた五寸釘を踏んでしまってかかとからアキレス腱まで釘が突き抜けたとか、それらはもはやスポーツとは呼べない蛮行であって、そんな命にかかわるようなことをして日々遊んでいたらしい。
では父たちは心身ともに健康で長生きしたのかというと、そんなことはなくて、父の兄弟やその周辺の人々はどちらかというと短命だった。前にも書いたけれど六十代で亡くなっている人が多い。もちろん寿命は子供時代の遊び方だけに関わるのではなくて、とくに昔は栄養状態や衛生状態が悪かったことも関係しているはずだが、しかし体を動かすのが体に良いというのにも限度があるのは確かなようで、相撲取りやプロ野球選手などには短命な人が多い。自分の従弟は小学生のころから野球少年で、中学高校と野球に明け暮れ、大人になった今も草野球を楽しんでいるが、長年のバットの振り過ぎでヘルニアに苦しんでおり、医者にはもう治らないと言われているようだ。まあほどほどに体を動かすのが良い、などというのは誰もが思っていることだろうが。
今の日本人の平均寿命は八十歳前後だ。ほどよく体を動かし栄養のあるものを食べるのが健康に良いらしいが、健康といっても精神の健康もあるし、本当のところ何が寿命を延ばすのか、決定的なことは誰にもよく分からないのではなかろうか。西丸震哉という人は、日本は環境汚染が進んでいてそれは食生活に影響を及ぼし、急速に日本人の健康は破壊され、近いうちに平均寿命は41歳になるであろう、と言ったそうだが、それが二十年ぐらい前の話で、しかし実際にはその後も日本人の寿命は延び続けている。西丸氏の話は極端な例だけれど、学識のある人が根拠あって主張することでも、人の健康に関することはどうも相矛盾する説や反例の多いような説を聞かされることが多く、近ごろは最初から話半分に耳を傾ける人が多いのではなかろうか。
だから携帯端末に熱中している人が増え、外で遊ぶ子供が減ったのを見て、みな運動不足になって寿命にさわりはしないかと心配しても、やはりどんどん平均寿命は延びて、思い過ごしだったということになりそうな気もする。
(近ごろは放射能という別の大きな問題が持ち上がっているが。)
しかし携帯端末への人々の関わり方に、寿命は別にしても何か不健全なものを感じるのは確かで、それで目や耳からしじゅう情報を入れる、またその操作が指先だけによってなされる、ということで体には支障がないとしても、精神面、とくに子供の内面にはどうも暗い影を落とすような気がするのである。
たとえば目や耳から入る情報によって刺激されているのが常態になって、それがなくなると耐えられないという中毒症状は、軽微なものなら誰でも感じたことがあるのではなかろうか。その環境が生まれたときからだと、その中毒が脱すべきものだとも思えず、退屈に耐えるということを知らないで育ってしまう、ということもありそうだ。自分は数年前に大阪の公立中学で酷い学級崩壊を目の当たりにしたけれども、とにかく授業中じっと座っていられない子供たちがたくさんいて、それが見た目には不良少年でも何でもないごく普通の子供たちだけに病的なものを感じさせ、ふりかえると上述のような「情報中毒」が関係しているのではないかと思うのである。つまり手元にゲーム機器などがない状態でじっと座っている、という当たり前のことが退屈で耐えられなくなっているのかも知れない。
また最近見ている高校生の「大事を大事と思わない異様なまでの天真爛漫さ」も気になっている。学力が低い子達を見ているせいもあるが、明らかに重要な試験でもまったく努力しない、大切な約束をすぐに忘れる、といった傾向がある。昨日から行なわれたセンター試験で、寝坊して遅刻した受験生が相当数いたと報じられているけれど、これも最近の子供たちの心の傾向を示しているのではなかろうか。この「天真爛漫さ」がどこからくるのか、はたして情報過多とどう関係するのかは、どうも心当たりがないのだけれど。
(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
思い出せば自分が小学校に入ったころに任天堂から「ゲームウォッチ」というのが発売され、それが携帯用コンピュータ・ゲームの最初ではなかったろうか。その後「ファミコン」が普及して、多くの同級生がそれを持つようになり、携帯用ゲームの種類も増えていった。しかしまだみんな「暇さえあればゲームをやっている」という状態では全然なくて、遊びといえば小さな子なら鬼ごっこ、長ずるにつれドッジボールや野球、というふうに体を動かすことが主流だった。いまは子供の数自体も減っているが、外で子供が体を動かして遊んでいる風景がめっきり減ってしまった。まあ昔はみんな体を動かして遊んでいた、などと言っても自分は本を読んでいるほうが好きな子供だったのだが。
自分の父の世代になると、体を動かして遊ぶというその度合いがより激しくて、父の子供時代の話を聞くと、友達と海で潜る競争をしていて鼓膜を破ったとか、釘抜きを腰に差したまま海に潜ったら浮き上がれなくなって溺死しかけたとか、家の二階から庭に飛び降りたらそこに落ちていた五寸釘を踏んでしまってかかとからアキレス腱まで釘が突き抜けたとか、それらはもはやスポーツとは呼べない蛮行であって、そんな命にかかわるようなことをして日々遊んでいたらしい。
では父たちは心身ともに健康で長生きしたのかというと、そんなことはなくて、父の兄弟やその周辺の人々はどちらかというと短命だった。前にも書いたけれど六十代で亡くなっている人が多い。もちろん寿命は子供時代の遊び方だけに関わるのではなくて、とくに昔は栄養状態や衛生状態が悪かったことも関係しているはずだが、しかし体を動かすのが体に良いというのにも限度があるのは確かなようで、相撲取りやプロ野球選手などには短命な人が多い。自分の従弟は小学生のころから野球少年で、中学高校と野球に明け暮れ、大人になった今も草野球を楽しんでいるが、長年のバットの振り過ぎでヘルニアに苦しんでおり、医者にはもう治らないと言われているようだ。まあほどほどに体を動かすのが良い、などというのは誰もが思っていることだろうが。
今の日本人の平均寿命は八十歳前後だ。ほどよく体を動かし栄養のあるものを食べるのが健康に良いらしいが、健康といっても精神の健康もあるし、本当のところ何が寿命を延ばすのか、決定的なことは誰にもよく分からないのではなかろうか。西丸震哉という人は、日本は環境汚染が進んでいてそれは食生活に影響を及ぼし、急速に日本人の健康は破壊され、近いうちに平均寿命は41歳になるであろう、と言ったそうだが、それが二十年ぐらい前の話で、しかし実際にはその後も日本人の寿命は延び続けている。西丸氏の話は極端な例だけれど、学識のある人が根拠あって主張することでも、人の健康に関することはどうも相矛盾する説や反例の多いような説を聞かされることが多く、近ごろは最初から話半分に耳を傾ける人が多いのではなかろうか。
だから携帯端末に熱中している人が増え、外で遊ぶ子供が減ったのを見て、みな運動不足になって寿命にさわりはしないかと心配しても、やはりどんどん平均寿命は延びて、思い過ごしだったということになりそうな気もする。
(近ごろは放射能という別の大きな問題が持ち上がっているが。)
しかし携帯端末への人々の関わり方に、寿命は別にしても何か不健全なものを感じるのは確かで、それで目や耳からしじゅう情報を入れる、またその操作が指先だけによってなされる、ということで体には支障がないとしても、精神面、とくに子供の内面にはどうも暗い影を落とすような気がするのである。
たとえば目や耳から入る情報によって刺激されているのが常態になって、それがなくなると耐えられないという中毒症状は、軽微なものなら誰でも感じたことがあるのではなかろうか。その環境が生まれたときからだと、その中毒が脱すべきものだとも思えず、退屈に耐えるということを知らないで育ってしまう、ということもありそうだ。自分は数年前に大阪の公立中学で酷い学級崩壊を目の当たりにしたけれども、とにかく授業中じっと座っていられない子供たちがたくさんいて、それが見た目には不良少年でも何でもないごく普通の子供たちだけに病的なものを感じさせ、ふりかえると上述のような「情報中毒」が関係しているのではないかと思うのである。つまり手元にゲーム機器などがない状態でじっと座っている、という当たり前のことが退屈で耐えられなくなっているのかも知れない。
また最近見ている高校生の「大事を大事と思わない異様なまでの天真爛漫さ」も気になっている。学力が低い子達を見ているせいもあるが、明らかに重要な試験でもまったく努力しない、大切な約束をすぐに忘れる、といった傾向がある。昨日から行なわれたセンター試験で、寝坊して遅刻した受験生が相当数いたと報じられているけれど、これも最近の子供たちの心の傾向を示しているのではなかろうか。この「天真爛漫さ」がどこからくるのか、はたして情報過多とどう関係するのかは、どうも心当たりがないのだけれど。
(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
No.539
2012/01/10 (Tue) 09:36:13
昨日、普段メトロで行く客先にバスで行こうと思った。
その客先から帰る時には大きな車庫があるので、そこに行って始発のバスで座って帰るのが常だが、逆のコースをたどったことはなかった。
いつも降りる下りのバス停のせいぜい50m以内位で「上りのバス停も
あるだろう」と探したが見つからず、近くの米屋で訊いたら「旦那さん、あと100m先・・・2つ目の信号を渡ったローソンの先にありますよ。気を付けて・・」と
親切に教えてくれた。
近頃、ものを尋ねたり道を訊いて親身にされるとかなり幸福な気分になってしまう。なんだか、年よりじみている感じもするけれどそれだけ今の世間は刹那的で世知辛いのだと思う。
たとえば、地下鉄にしたって、乗り換え駅で各線に紫や橙の色を付け、丸いしるしで分かりやすいように案内するのはいいけれど、スマホまでそんなアプリがあるという。
一体、どこまで利便を追求すれば満足なのか?とも思ってしまう。
昨日ネットで傷がついても直せるスマホだかi-phoneのニュースを流していたが
、だから、どうなのだろうとも思う。
ポケットやカバンであんな電卓大のガラス板を持ち歩けば割れたり傷が付くのは当然だ。
指でなぞればシュッシュと見たい画面に移れるのは画期的だと思わざるを得ない。
確かに便利で合理的だ。
だが、携帯と言うのは開いて相手にかけるものだと最近定義づけてしまっている。
昨日、職場の同僚たち・・・といっても皆自分よりははるかに若かったがi-phoneの普及率やら携帯の使用実態やら新しいモノが出ればそれで世間が取りあげ話題になってブームで・・・とテレビやパソコンをはじめいろんな道具の変遷について世間話をしていた。
頷いては居たが、では音楽を聴くというのも公衆電話をかけるのも昔はLPレコードに傷を付けないように中指と親指、人差し指を子供ながらに巧みに使いターンテーブルに載せたし、赤電話で長距離をかけるときは大量の10円玉を必要とした。
いわば、儀式めいた動作が必要だった。
都バスがいつの間にか変てこなキャラクターの絵を座席にも描くようになって結構経つみたいだけど、その割には乗り方やバス停の在り処は冒頭に書いたように心もとない。だが、調べるとか訊くとかいう儀式は存在する。パスモやスイカで自動改札をくぐって上を見上げてホームへ降りる・・・なんていうことはない。
バス停を訊いたらひたすらそこで待つだけだ。
そんなことを江東区を走るバスの車内で考えていたら、営団地下鉄と言ってた30年以上も以前の地下鉄の改札を思い出した。
いや、当時の国鉄や私鉄各線皆そうだったが、切符を買って改札を通る際の入鋏(にゅうきょう)をする駅員が必ず改札口に座るか立つかで居た。カチカチカチとやるあの動作だ。5mm四方くらいの紙吹雪を飛ばすあの動き・・・・なんで客が通らなくてもカチカチやっているのかと訊いたら「リズムが取りにくいからだ」と誰かに聞いた覚えがある。
その動作は今にして思えば何処となく滑稽だ。
高校の頃通っていた地下鉄東西線の下りホームには、車両の最後部あたりの改札出口で二挺振り回し、場合によってはカチカチやってから二挺をかわるがわる放り投げキャッチして、また客が通るとカチカチするという離れ業?まあ、慣れなんだろうが・・・あたかもローンレンジャーばりの早撃ち西部劇の主人公を彷彿とさせ見てると楽しかったし、駅員も意識してより演技?に身を入れた。
スイカもパスモも便利だが機械に操られていると感じるのは自分だけだろうか?
米屋の主人は俺より若くてもなんだかとても親切で耳触りのよい案内をしてくれた。
店内を覗くとあきたこまちだのコシヒカリだの産地の札を立てたコメが処狭しと並んでいた。旨い白飯が食べたくなったらあの節は御世話に・・と言って買いに来てみよう。
白飯で思い出すのが正月にバイト先の近所で食べたスタ丼だ。確かに上に載っている豚の炒め物は旨いのかもしれないが、ご飯がまるで古米のようでやっとの思いで食べた。昔の店やモノだってこんなに飯はまずくなかったぜ・・・と思ったが、現実にその店は流行っている。味覚と言う価値観の違いか販促ポスターや自販機の行列につられて人が来るのか分からない。
「三丁目の夕日」の続編がまた映画化され公開されるという。
セブンイレブンでは因んだキャンペーンで鉄腕アトムのマーブルチョコなんぞを売っている。文明もインフラも生活を豊かにはするのだろう。
機械や文明の脆さを示す報道は毎日のようにメディアに登場する。
沈没したイタリア客船の船長などは言えば敵前逃亡以下だと思うが、いつの日かなぜ逃げたか真実の物語などと映画化されたりするのかもしれない。
便利、機能も人が操ってこそと改めて問いたいし、責任や自覚のない者がいとも簡単に大量の無責任を生み出し挙句ダイオキシンや放射能・・・といった公害に悩まされ続ける現代は何処まで続くのだろう。
ありそうでなくなった会話や対話の機会に触れ、切符にパンチする駅員たちのあのユーモラスな動きを、紙吹雪のようになった切符の紙片が散らばる改札の床とともに思い出す。
(c)2012 Ronnie Ⅱ , all rights reserved.
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その客先から帰る時には大きな車庫があるので、そこに行って始発のバスで座って帰るのが常だが、逆のコースをたどったことはなかった。
いつも降りる下りのバス停のせいぜい50m以内位で「上りのバス停も
あるだろう」と探したが見つからず、近くの米屋で訊いたら「旦那さん、あと100m先・・・2つ目の信号を渡ったローソンの先にありますよ。気を付けて・・」と
親切に教えてくれた。
近頃、ものを尋ねたり道を訊いて親身にされるとかなり幸福な気分になってしまう。なんだか、年よりじみている感じもするけれどそれだけ今の世間は刹那的で世知辛いのだと思う。
たとえば、地下鉄にしたって、乗り換え駅で各線に紫や橙の色を付け、丸いしるしで分かりやすいように案内するのはいいけれど、スマホまでそんなアプリがあるという。
一体、どこまで利便を追求すれば満足なのか?とも思ってしまう。
昨日ネットで傷がついても直せるスマホだかi-phoneのニュースを流していたが
、だから、どうなのだろうとも思う。
ポケットやカバンであんな電卓大のガラス板を持ち歩けば割れたり傷が付くのは当然だ。
指でなぞればシュッシュと見たい画面に移れるのは画期的だと思わざるを得ない。
確かに便利で合理的だ。
だが、携帯と言うのは開いて相手にかけるものだと最近定義づけてしまっている。
昨日、職場の同僚たち・・・といっても皆自分よりははるかに若かったがi-phoneの普及率やら携帯の使用実態やら新しいモノが出ればそれで世間が取りあげ話題になってブームで・・・とテレビやパソコンをはじめいろんな道具の変遷について世間話をしていた。
頷いては居たが、では音楽を聴くというのも公衆電話をかけるのも昔はLPレコードに傷を付けないように中指と親指、人差し指を子供ながらに巧みに使いターンテーブルに載せたし、赤電話で長距離をかけるときは大量の10円玉を必要とした。
いわば、儀式めいた動作が必要だった。
都バスがいつの間にか変てこなキャラクターの絵を座席にも描くようになって結構経つみたいだけど、その割には乗り方やバス停の在り処は冒頭に書いたように心もとない。だが、調べるとか訊くとかいう儀式は存在する。パスモやスイカで自動改札をくぐって上を見上げてホームへ降りる・・・なんていうことはない。
バス停を訊いたらひたすらそこで待つだけだ。
そんなことを江東区を走るバスの車内で考えていたら、営団地下鉄と言ってた30年以上も以前の地下鉄の改札を思い出した。
いや、当時の国鉄や私鉄各線皆そうだったが、切符を買って改札を通る際の入鋏(にゅうきょう)をする駅員が必ず改札口に座るか立つかで居た。カチカチカチとやるあの動作だ。5mm四方くらいの紙吹雪を飛ばすあの動き・・・・なんで客が通らなくてもカチカチやっているのかと訊いたら「リズムが取りにくいからだ」と誰かに聞いた覚えがある。
その動作は今にして思えば何処となく滑稽だ。
高校の頃通っていた地下鉄東西線の下りホームには、車両の最後部あたりの改札出口で二挺振り回し、場合によってはカチカチやってから二挺をかわるがわる放り投げキャッチして、また客が通るとカチカチするという離れ業?まあ、慣れなんだろうが・・・あたかもローンレンジャーばりの早撃ち西部劇の主人公を彷彿とさせ見てると楽しかったし、駅員も意識してより演技?に身を入れた。
スイカもパスモも便利だが機械に操られていると感じるのは自分だけだろうか?
米屋の主人は俺より若くてもなんだかとても親切で耳触りのよい案内をしてくれた。
店内を覗くとあきたこまちだのコシヒカリだの産地の札を立てたコメが処狭しと並んでいた。旨い白飯が食べたくなったらあの節は御世話に・・と言って買いに来てみよう。
白飯で思い出すのが正月にバイト先の近所で食べたスタ丼だ。確かに上に載っている豚の炒め物は旨いのかもしれないが、ご飯がまるで古米のようでやっとの思いで食べた。昔の店やモノだってこんなに飯はまずくなかったぜ・・・と思ったが、現実にその店は流行っている。味覚と言う価値観の違いか販促ポスターや自販機の行列につられて人が来るのか分からない。
「三丁目の夕日」の続編がまた映画化され公開されるという。
セブンイレブンでは因んだキャンペーンで鉄腕アトムのマーブルチョコなんぞを売っている。文明もインフラも生活を豊かにはするのだろう。
機械や文明の脆さを示す報道は毎日のようにメディアに登場する。
沈没したイタリア客船の船長などは言えば敵前逃亡以下だと思うが、いつの日かなぜ逃げたか真実の物語などと映画化されたりするのかもしれない。
便利、機能も人が操ってこそと改めて問いたいし、責任や自覚のない者がいとも簡単に大量の無責任を生み出し挙句ダイオキシンや放射能・・・といった公害に悩まされ続ける現代は何処まで続くのだろう。
ありそうでなくなった会話や対話の機会に触れ、切符にパンチする駅員たちのあのユーモラスな動きを、紙吹雪のようになった切符の紙片が散らばる改札の床とともに思い出す。
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
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✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
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主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
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