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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/23 (Sat) 15:57:16

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No.328
2010/08/04 (Wed) 16:37:22

閑自訪高僧
烟山萬萬層
師親指歸路
月掛一輪燈

ふらりと出で立って高僧を訪ねにでかけた。
その道は、烟雲たちこめる、幾万層とも畳なわる山なみのかなた。
やがてそこを辞し去るわたしに、師は親しく帰路を指さして教えたもうたが、
見れば月は一輪のともしびを掲げて、その道を照らしてくれていた。

(寒山詩より。入矢義高訳)

その師は高僧といってもずいぶん若く見える人で、親しく教えを受けること三日、短い滞在だったが、この師と過ごした時間は実り多いものだった。
さて明日の午前に所用があるため、夜の山道を帰ることになった。師は夜道であるし最も安全な道を教えてやろうというので、山並みを指さして道順を説明し始めた。
「まずここを道なりに一里ほど歩きたまえ。白い大きな岩があるから、そこで直角に右に折れる。白い岩はまわりから浮き出て見えるほど白く、ことに今夜は月光に照らされているだろうから見間違える心配はない。で、さっき言ったように右に曲がってまっすぐ行くと、やがて川が見えてくる。その川を渡らなければならないが、古い橋があるからそこを通ればよい。ただしこの橋はそのむかし大勢の人柱を沈めて作られたものだから、夜になると犠牲になった人々の苦しみや無念のうめき声が聞こえてきて、ともすれば亡霊が君の足を引っ張って川に引きずり込もうとするだろう。川を渡り終えるまでに二回は水に落ちることになるだろうね。そして川の底には夜行性の鱷魚、つまりワニがいて、まあ手足の一本や二本は食いちぎられる覚悟が要るな」
「は……はぁ……もっと安全な帰り道はないのでしょうか」
「ないね。別の道で行こうとしたら、出会ったら即あの世行きになる魑魅魍魎がうようよしているからね。さて君がなんとか川を渡り終えたら、こんどは古い街道に出る。通称水子街道だ。小さな池があるのだが、むかし周辺の集落で女が堕胎したら、子を汲んだババァが必ずそこに水子を捨てたんだな。それでその街道では、今でも夜な夜な不気味な水子の声が聞こえてくる。ホンギャアホンギャアとそれは気味の悪いもので、これを聞いたら常人ならまず発狂するね。だから耳をふさいで大急ぎで駆け抜けろ。水子の霊が二三体くっついてくるだろうがこれは仕方がないから、背中に油を塗って火をつけて退散させる。君に油をあげよう」
「背中が焼け焦げてしまうのではありませんか」
「それはそうだが、背中と命とどっちが大切か、天秤にかけてみるんだね」
「水子街道を抜ければ、もう安全ですか」
「いや、その次には首切り爺さんとその一家に出会うだろうね。気の狂った一家で、旅の者をつかまえては首をはね、その首を祭壇に供えて邪神に祈りを捧げるのだよ。狡猾な一族で、そこを通りかかった者の千人のうち九百九十九人までは首をはねてしまうだろうな。だから君が生きてそこを抜け出るのは千に一つの確率だね。しかしこれでも安全な道なのだ。他の道を通っていこうとしたら万に一つも助からないのだから」
「そうすると、やはり出発は夜が明けるまで待ったほうが良さそうですね」
「僕ならそうするね。ところで意地悪を言うようで気が引けるのだが、今晩は宿泊料をいただくよ」
「はぁ、いかほどでしょうか」
「金は要らないんだ。実は数年前から心臓を悪くしてね。いくら修行を積んだ禅僧でも命は惜しい。そこで君の心臓をもらいたいのだよ」というと師は懐から柳刃包丁を取り出した。「君は刺身にしても美味そうだね」
「やっぱり今晩のうちに出かけます」

さて高僧のもとを発って道を一里ほど進むと、師の言ったように白い大きな岩が輝いていた。そこに錆びた鉄柱が転がっているのが見て取れた。起こしてみると、古いバス停のようだった。
「待てよ、これによると午前三時にバスが来るんじゃないか。それまでここで待っていよう」
「お晩です」
「誰だ君は」
「大昔に川に人柱として埋められた犠牲の者ですよ」
「君は幽霊なのか。人を川に引きずり込むという……」
「そんなことしやしませんよ。タバコありますか」
「ああ」
二人で煙草を吸っていると、しばらくしてエンジンの音が聞こえ、バスのライトの光が見えてきた。バスが停車した。
僕は自分が金を持っていないのに気がついた。
「バス代、貸してくれないか」僕は亡霊に言った。
「私もすっからかんなんですよ」
「じゃあ無賃乗車するか」
「そうですね」
バスの乗客は僕と亡霊の二人だけだった。亡霊は話してみると気のいい奴だった。
「こんどメイド喫茶に行きませんか」亡霊が言った。「冥土の土産になりますよ」
「月がきれいだね」僕はそのつまらない駄洒落を無視して言った。

(終)

(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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No.324
2010/07/23 (Fri) 09:12:50

教員たちも少ない、夏休みの夕方の職員室。溝口礼子は、声を低くして青柳に言った。
「わたし、体育館で藤堂先生と話したことがあるの。藤堂先生、そのとき黒い日本刀を持ってた。それ、本物の刀ですか、剣道部でそんなものも使うんですかって尋ねたわ。そうすると、これは本物の日本刀だけど部活で使うんじゃないって。藤堂先生、居合道をされていて、富沢先生も居合をするから、刀を見せるために学校に持ってきたんだって言ってたわ。それから五月、一年の池田紀美子が殺害された晩だけど、わたし遅くまで学校に残って仕事してた。で、帰りに富沢先生とすれ違ったの。先生はいつもどおりニコニコして挨拶してきたけど、白いTシャツに、目立たないけれど新しい血痕が三つか四つ付いてた。それで疑うっていうのも行き過ぎかも知れないけれど、富沢先生、ふだんは温和なのに怒るとちょっと異常なところがあるじゃない?」
「ええ、ときどき普通じゃない激昂の仕方をしますね……」
「でしょ? で、少し突飛かも知れないけど、富沢先生も刀を持ってるだろうし、池田をそれで手にかけたんじゃないかって……あとでふとそう思ったの」
「池田紀美子も一連の被害者のように体をひどく斬りつけられ、しかも全身の血を失っていた……ということは緑川と富沢先生の共犯ですか」
「まだはっきりとは言えないけれど、被害者が受けた傷はどれも鋭利な刃物、それも日本刀のような大きな刃物によるものだって警察も発表しているし……」
「うーん……じゃ、緑川だけでなく富沢先生も注意して見ていましょう。溝口先生も何か気がついたらすぐ知らせてください」
その日は、それで青柳は溝口と別れ、学校をあとにして帰宅した。

しかし、日が落ちてもなんという暑さだ……青柳はシャワーを浴びると、上半身裸でしばらく扇風機に当たり、ぼんやりしていた。
大きな蝿がどこからか舞い込み、ブーンという羽音をたてて青柳の周囲を飛び回った。と、彼の腹にできた蛙のような人面疽が口を開き、すばやく舌を伸ばすと、蝿を捕まえてごくりと呑み込んだ。
「ふん、ありそうなこったな」人面疽が久しぶりに口を聞いた。
「何がだ?」と青柳。
「体育教師の富沢さね。あいつには俺も血の匂いを感じていた。それから藤堂にも同じ匂いを感じるね」
「藤堂も共犯だというのか?」
「たぶんな」
「しかし警察に届け出るには根拠がなさ過ぎる……俺はどうすればいい?」
「さあね。まあ被害者が増えるのは望ましくないんだろうが、殺人の現場を押さえるか、または凶器の刀が手に入ればね」
「凶器か……」
「血っていうのは、いくらぬぐい去ろうとしても痕跡が残るもんだからな」

早朝の薄明のなか、堤防沿いを溝口礼子が向うから駆けてくる。
「青柳先生、助けて……」
「どうされました?」青柳は息を切らした溝口に尋ねた。
「追いかけてくるの、刀を振り回して、富沢先生が……すぐそこに来てるわ、だから……ううっ」
溝口の白いセーターのみぞおちの辺りから、黒いものが頭を出した。刀の切っ先だった。溝口のすぐ後ろに、ジャージ姿の富沢が立っており、刀を握っている。
「うううっ」
刀はさらに深く溝口の体を貫き、セーターはみるみるうちに鮮血に赤く染まった。
富沢は無表情ながら顔を上気させ、額からは汗を吹き出させ、興奮に顔を震わせながら鼻から息を吸いこむと、同時にめりめりと刀を引き抜いた。
ばったと倒れる溝口。血を滴らせた日本刀を片手に、はあはあと息をはずませている富沢。
どこからか現れた緑川蘭三が、美しい白い女のような顔をほころばせ、溝口のもとにしゃがみこんだ。青柳の顔を見てにっと笑ったかと思うと、長く伸びた犬歯をあらわにし、溝口の血に染まった背中に顔をうずめて血を吸い始めた。顔や栗色の前髪が赤く汚れるのも構わず、緑川は夢中になって血を吸う。溝口礼子の美しい顔はまだ生きているかのようだったが、何かの拍子にまぶたが開くと、そこには腐った魚のような白い目が見え隠れした。
「やめろ!」青柳は叫び、がばと身を起こした。コツコツという時計の秒針の音。午前四時。夢だったのだ。
ふーっとため息をついて、青柳は眼をこすった。

青柳はぐっしょり汗をかいていた。浴室に行って顔を洗う。鏡で自分の顔を見ると、げっそりとしてまるで幽霊のようだった。しかし青柳はそれよりおかしなものに目を奪われた。自分の後ろ。白い少年の顔がそこにあった。
緑川蘭三。濃紺のシャツを着て、無造作にそこに突っ立っている。青柳は目を疑った。鏡の中の緑川は、化け物のように大きく口を開き、青柳の肩に噛み付こうとした。
「後ろを振り向け、すぐ!」人面疽が叫んだ。
青柳が振り向くと、人面疽はシャツの下からまたも毒液を吐き出した。それが緑川の眼に入る。
「う、うぉーっ!」蘭三は両眼を押さえ苦悶の声をあげた。青柳を突き飛ばし、慌てて浴室から出て行く。青柳が茫然としている間に、少年はどたどたとマンションの部屋から出て行った。
「……い、今のは夢か?」
「いや、夢じゃないね」人面疽は応じた。「あいつの靴のあとがそこらじゅうにある」
見るとなるほど土足で入ってきたらしい靴のあとが、いくつも浴室の床についていた。
「あいつは何でここに来たんだ?」
「いいか、あいつは自分の正体がお前にばれていると感づいている」
「すると俺を殺しに来たのか?」
「血を吸うだけで簡単に相手を殺せるとは思っていないだろう。お前を吸血鬼の仲間にしたかったんだろうね」
「そうか、血を吸うと……」
「そう、相手は死ななければ吸血鬼になる」
「俺を仲間にしてしまえば、追及をまぬがれられる、か」青柳はタオルを手にとって顔をふいた。「……ん、ちょっと待ってくれ。俺はきょう溝口先生に緑川の正体のことを話した。ということは彼女も危ないんじゃないのか?」
「あるいはな」
「畜生! とりあえず、彼女に電話しよう」
青柳はそう言い、部屋から職員名簿を取ってきて、溝口礼子の番号に電話をかけた。
ルルルル……ルルルル……ルルルル……。
呼び出し音が鳴り出してから、一分がたった。
二分がたった。
青柳は、胸が押しつぶされるような思いでその呼び出し音を聞き続けていた。

(つづく)

(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
No.323
2010/07/23 (Fri) 05:49:22

「俺が少年野球チームの監督に!?」
モンスターはIR鉄道の広報部から呼び出され、広報部長の唐突な申し出を受けて狼狽した。
「ああ、実は私の息子が監督をしているチームなんだがね、息子が病気で急に指導できなくなってしまったんだ。淀川バイアンズというチームなんだが」
「ちょっと待ってくれ。俺は野球はルールぐらいは知っているが、ほとんど素人だ。なんで俺にそんなことを頼む?」
「自分では分からないかも知れんが、君は子供たちにとって英雄なんだよ。正義の実現のためには手段を選ばない、今の時代には欠けた野武士的な魅力が君にはあるんだ。君の言う事なら子供たちはなんだって聞くだろう。もちろん野球に関して素人ということなら、専門のコーチを雇ってもいい」
「しかし部長さんにとってそれは私事だろう? 軽い気持ちでやれることかと思ったら、コーチを雇ってもいいなどと言い出す。あなたの狙いは何なんだ?」
「わがIR鉄道の地域への貢献をアピールすることだよ。淀川バイアンズは君を中心として、IRバイアンズと名前を変える。心身ともに健康な子供たちを育て、日本の輝ける未来を象徴するチームになるんだ」
「しかし、そんな仕事が俺に務まるだろうか」
「務まるとも。わが社はバイアンズに惜しみない協力を約束する。そしてこれは君にしかできない仕事なのだ」
「……わかった」
しばし広報部長と打ち合わせをしたモンスターが部屋を出て行くと、入れ替りに人相の悪い、髪を短く刈った中年男が入ってきた。
「まったくIRの広報部長さんともあろう人が、世のなか狂ってるね」
「何がだ」
「野球賭博に手を染め、既存の枠組みで儲けるだけでは気がすまず、少年野球を賭博の対象にしようなんてね。プロ野球賭博から客を引いてくる代わりに暴力団と儲けを折半……当然八百長も入ってくる。こんなことを実際にやろうなんざ狂ってでもなけりゃ思いつかねえよ」
「新しいビジネスなどというものは、狂気と紙一重のところから生れてくるものだ。さてモンスターが入ってくれたことで、少年野球も盛り上がり、いよいよこのビジネスも現実味を帯びてくるというものだ」
「まあいい、危なくなったらこっちは手を引くだけのことさ」

日曜日の早朝、IRバイアンズのメンバーは淀川の河川敷に集まり、モンスターと初顔合わせすることになった。岸川というコーチも付くことになり、モンスターは意気揚々と少年たちに挨拶した。岸川コーチも、スポーツマンらしい日焼けした顔をほころばせ、にこにこしながら自己紹介した。よく晴れた青空のもと、練習が始まった。グラウンドをうさぎ跳びで三周。三十名の少年たちが、懸命にうさぎ跳びして汗を流す。
「頑張ってる子供たちを見るのはいいもんだな」モンスターは言った。
「そうっすね」ホイッスルを吹いていた岸川が柔和な顔で応じたが、二人の少年が集団から脱落すると、途端に鬼のように表情を変え「おいそこ!!」そして岸川はいきなり拳銃を抜き、少年二人に向かって発砲した。そして倒れた少年たちのそばに駆け寄ると、とどめとばかりにズギュンズギュンと二人の頭を撃ちぬいた。一同うさぎ跳びをやめ、あまりのことにみな息を呑んで沈黙した。
「おい!! 根性なしの蛆虫がどうなるかこれで分かったか!! このチームは勝つために集まっている! 貴様らの心身を鍛えるなどという生やさしい目標なぞまったくない! 勝利あるのみ! さもなくば死!」岸川は叫んだ。
「おい、いくらなんでもやりすぎなんじゃないのか!?」モンスターは狼狽して言った。
「え? 一流のリトルリーグチームになるとこんなもんすよ」岸川は言って「ほらほら、うさぎ跳びを続けるんだよ! それから監督に忠誠を誓うんだ! 合言葉はジーク・モンスター!」
「ジーク・モンスター!」少年たちはうさぎ跳びしながら叫ぶ。
「声が小さい!! ジーク・モンスター!」
「ジーク・モンスター!!」
キャッチボールや守備練習も万事この調子で、根性がないと見なされた子供はつぎつぎ岸川によって消されていった。

練習も三回目になるとモンスターも岸川の流儀に慣れたのか、精神力に欠けた子供をチェーンソーや電気ドリルを使って率先して処刑するようになった。
モンスター、本当にこれでいいのか!?

(つづく)


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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