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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2025/04/21 (Mon) 23:06:04

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No.119
2009/10/31 (Sat) 07:02:36

常娥  李商隠

雲母屏風燭影深
長河漸落曉星沈
常娥應悔偸靈藥
碧海靑天夜夜心

雲母の屏風に 蝋燭の影がくっきりと映っている
銀河がしだいに落ちてゆき 夜明けの星も沈むころ
月の女神、常娥はきっと悔やんでいるだろう 霊薬を秘かに飲んで月に昇ってしまったことを
碧い海 青い空 どこを眺めても 彼女の夜ごとの思いがにじんでいるよう

というラブレターを、かつての夫である弓の名人・羿(げい)からことづかって鴉が月まで送ってきたが、不死の霊薬を手に入れ冒険心にみなぎった常娥(じょうが)は、ほとんどそれに目をくれなかった。いつまでいじけてるのかしら、あの人。まあいいわ、わたし惑星探査に行くんだもの。鴉さん、夫から手紙が来て郵便受けがいっぱいになっても構わないでね。
常娥の乗った宇宙船は、まずは順調に火星に向かっていった。彼女の思いは、かつての夫に向けられるどころか、未知の生物、未知の宇宙人に向けられていた。
火星に降り立った彼女は、あたりの赤い砂漠をよく見回した。静かな風が吹きわたっていた。突然、目の前の地面がぼこぼこと盛り上がり、身の丈三メートルほどの恐竜が姿を現した。襲いかかる褐色の恐竜。そのとき地球の方角から、矢が飛んできて、常娥の足もとに突き刺さった。「あら、まだわたしに構う気なのね、羿は。惜しいところで矢は恐竜を外れてるわ。恐竜さん、いっしょに宇宙の果てまで旅しましょう」

四千年後。

月探査船が、月面のクラヴィウス基地に到着した。常娥のかつての住居であった洞穴の前には、戸締りのために黒い大きな石板が置かれていた。
「未知の物質ですな。われわれの科学を超えた技術によって作り出されたものです」
「地球の一般民衆に知れたらパニックになるぞ。クラヴィウス基地にはいましばらく伝染病説を流して立ち入り禁止にせねばなるまい」
そのとき、まだ生きていた羿の放った矢が、科学者たちの背中に次々突き刺さった。
「ぎゃー」

木星探査船が、長期間の航行中に、コンピュータの狂いが生じて、船長はなんとかコンピュータの電源を切った。そのとき船長は、人知を超えた不思議なさまざまな光線を浴び、自分の年老いた姿を幻視した。そして最後に見たものは、宇宙空間に浮かぶ巨大な胎児であった。神々しいまでの光を放つ、視界いっぱいに広がる胎児。しかしその巨大な胎児は背中から弓矢を取り出し、いきなり船長を攻撃してきた。船長は必死で船を操り、弓矢から逃げようとした。胎児は、へその緒をつけながら宇宙空間をどたどたと走りながら追いかけてくる。
人類の全く新しい時代の幕開けが、すぐそこに迫っているのだ。船長は胎児の化け物に追いかけられながら、強く確信したのだった。
ヨハン・シュトラウス二世の「青き美しきドナウ」の優雅な調べに乗せて、巨大な胎児と木星探査船の追いかけっこはなおも続く……


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No.118
2009/10/31 (Sat) 01:29:11

客旅

曉露哀烏繞舎秋
靑燈疎雨草蟲幽
桐飛葉上浮人影
離恨夢回十歳遊

あけがた露が凝るころ 哀しげなからすが建物の周りを飛ぶ そんな秋
青い燈火で書物を読んでいると 疎らな雨のなか 草むらの虫たちの鳴き声がひそやかに聞こえてくる
桐の葉が風に吹かれて飛び その葉に 人影が見えたような気がした
故郷にいる離れ離れになった人たちを 夢に見たのかもしれない 長旅を続けるわたしのことだから


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No.117
2009/10/30 (Fri) 17:44:03

  

今朝八時ごろの空。いい天気だ。しかし何でもない青空のようだが、右の拡大写真を見ると、新型インフルエンザウィルスが多数浮遊しているのが見て取れるだろう(画面左下、薄茶色のビルの上あたり)。

自分はこれまで大病をしたことがない。しかしごくたまに脳が止まるようである。心臓が止まる、などのことなら理解は得られやすいだろうが、実は脳も止まるのであり、思考能力がストップするのである。それは極度の疲労に見舞われたときに起こる。もっとつらいときのことを想像して「今はまだマシ」と思えば精神的に楽になり回復するはずだ、とかつての上司は言ったが、そういう「考え方」の問題ではないのである。そんな想像力を膨らませることなど到底出来ないほどに脳は止まるのである。原因はよく分からないが、自分が何でも考えすぎることとも関係があるのかも知れない。
今は疲れていないし脳は動いている。なのに上記のようなことを思い出したのは、さる八月十五日、年かさの従兄が来て人間の業病というものについて語ってくれたことによる。従兄はどんなに食事に注意してもコレステロール過多と医師に診断されるとのことで、これは自分の業病として一生付き合っていかねばならないようである、と語った。その後僕も考えた。僕の場合は「怠け癖」が業病であると思い当たった。しんどいことと楽なことの二つの選択肢があれば必ず楽なほうを選んで怠けてしまう体質が、この体を蝕んでいるのである。体はそのように怠けて脳はいつも忙しく動いているのだから、きっと自分の将来は、脳だけが過労死してなまった体は生き続ける植物人間であろう。そうに違いない。大変なことになった、と思った。これからは人が車に乗るところを歩き、人が歩くところを走り、人が買って済ませる食物を自ら鍬をふるって田畑から得、そのように残りの人生のすべての場面でしんどい選択をし続けてようやく自然に死ねるかどうか、そのぎりぎりのところに自分はすでに来ているように感じる。
便利を追求して、ということは人を怠けさせるところに産業は競って発達する。それをそのまま受け入れていると、脳死しないまでも体のバランスはきっと崩れてしまうだろう。
だから仮にこれから携帯電話にテレポーテーションの機能がついたとしても、僕は決して使うまい。そんなことを思った。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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