『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.105
2009/10/21 (Wed) 01:55:22
夏の暑い盛りのことである。
近くに薬局があるのに、置き薬の営業の男が僕の家に来て「置いてくれるだけでいいので」としつこく迫ってきた。近くに薬局がない地域を回ればいいのに、と思ったが、暑さで投げやりになっているのか「置くだけなら害がないでしょう」といった台詞一本槍でこの近辺を絨毯爆撃しているらしい。最後にこの男は「三百個置いていかないと帰れないんです!」と言ったが営業がそれを言ったらお仕舞いだろう、こっちは「知ったことか」だもの。電話の営業でもそんなことを言われて腹が立つことがある。「ぜひ梅田のキャンペーン会場に来てください! その地域で来られてないのはNさんだけなんで、Nさんが来られないとキャンペーンが終れないんです!」ってそれはそっちの事情だろ。しかし飛び込みはもちろん、電話でも営業というのはいつも大変だろうと思う。小さな編プロにいたとき、人手が足りなくて電話営業を何度かやったが、百件電話して一件アポが取れるかどうか、アポが百件あって一件仕事に結びつくかどうか、ぐらいの確率だった。電話口で「御社の商品のパンフレットなど印刷物のご用件はございませんか」と自動人形のように喋り続ける。ペットショップに電話をかけてそういうことを言ったら、ペットを「商品」とは何事か、とムッとされたりということもあった。
ごく狭い経験からの感想だが、その編プロで思ったことの一つに、編集者というのは世間の「常識」をたくさん知っていなければならないが、世間の「真実」を知っている必要はない、というのがある。仮に世間で天動説がまかり通っていたら天動説を知っていればいいので、たぶんガリレオは編集者にはなれなかったろう。雑誌で天動説を書けといわれて「編集長、それでも地球は動いています!」なんて叫んだって「それは自分の論文にでも書けや」と言われるだけだ。僕も雑誌の健康特集で、「健康に良いびわエキス」という記事を自信を持って書いたら、真実はともあれ、びわが健康にいいなんて誰も思っていないから却下! なのだ。たとえば学校現場でのモンスター・ペアレントなるものが話題になりだしたのはつい最近のことで、以前はいくら親が学校に無理難題をふっかけている事例があろうと、マスコミは「教師が悪いに決まっている、教師を叩け!」の一本槍だったのだ。それがある教員が保護者対応に神経を参らせて自殺した、という事件が起こって初めて「親が悪いのかも」という発想がマスコミに出てきた。
話は違うが学歴ってなんだろう。自分はごく単純な人間だから、大学は勉強するところ、だと思っていたが、むかし就職活動した際、少なくとも就職する人間にとっては「大学は勉強するところではない」という誰も口には出さない暗黙の申し合わせが存在するのではないか、と感じたのだった。企業にとっては、表向きは面接で「何を勉強してきたか」と尋ねはするが、「本当に勉強が好きな人間」には来て欲しくないのではなかろうか。本音の部分では、勉強は落第しない程度にやって来ていればよくて、むしろスポーツやアルバイトに精を出して「コミュニケーション能力」を磨いている学生に来て欲しい。口には出さないけどその本音を空気で分かってね、と言っているように感じた。僕のように「大学は勉強するところ」という大義名分を真に受けてきた人間には実は用がなくて、大学はおもに「大卒」という肩書きを得るための場所だ、と分かっていてほしい。就職の面接はこういう恐ろしく込み入った「空気を読む術」が要求されているようで常に苦手だった。こういう「暗黙のルール」が分かっていない人間にとっては、就職の際、高学歴というのもちっとも有利にならないのではなかろうか。
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
近くに薬局があるのに、置き薬の営業の男が僕の家に来て「置いてくれるだけでいいので」としつこく迫ってきた。近くに薬局がない地域を回ればいいのに、と思ったが、暑さで投げやりになっているのか「置くだけなら害がないでしょう」といった台詞一本槍でこの近辺を絨毯爆撃しているらしい。最後にこの男は「三百個置いていかないと帰れないんです!」と言ったが営業がそれを言ったらお仕舞いだろう、こっちは「知ったことか」だもの。電話の営業でもそんなことを言われて腹が立つことがある。「ぜひ梅田のキャンペーン会場に来てください! その地域で来られてないのはNさんだけなんで、Nさんが来られないとキャンペーンが終れないんです!」ってそれはそっちの事情だろ。しかし飛び込みはもちろん、電話でも営業というのはいつも大変だろうと思う。小さな編プロにいたとき、人手が足りなくて電話営業を何度かやったが、百件電話して一件アポが取れるかどうか、アポが百件あって一件仕事に結びつくかどうか、ぐらいの確率だった。電話口で「御社の商品のパンフレットなど印刷物のご用件はございませんか」と自動人形のように喋り続ける。ペットショップに電話をかけてそういうことを言ったら、ペットを「商品」とは何事か、とムッとされたりということもあった。
ごく狭い経験からの感想だが、その編プロで思ったことの一つに、編集者というのは世間の「常識」をたくさん知っていなければならないが、世間の「真実」を知っている必要はない、というのがある。仮に世間で天動説がまかり通っていたら天動説を知っていればいいので、たぶんガリレオは編集者にはなれなかったろう。雑誌で天動説を書けといわれて「編集長、それでも地球は動いています!」なんて叫んだって「それは自分の論文にでも書けや」と言われるだけだ。僕も雑誌の健康特集で、「健康に良いびわエキス」という記事を自信を持って書いたら、真実はともあれ、びわが健康にいいなんて誰も思っていないから却下! なのだ。たとえば学校現場でのモンスター・ペアレントなるものが話題になりだしたのはつい最近のことで、以前はいくら親が学校に無理難題をふっかけている事例があろうと、マスコミは「教師が悪いに決まっている、教師を叩け!」の一本槍だったのだ。それがある教員が保護者対応に神経を参らせて自殺した、という事件が起こって初めて「親が悪いのかも」という発想がマスコミに出てきた。
話は違うが学歴ってなんだろう。自分はごく単純な人間だから、大学は勉強するところ、だと思っていたが、むかし就職活動した際、少なくとも就職する人間にとっては「大学は勉強するところではない」という誰も口には出さない暗黙の申し合わせが存在するのではないか、と感じたのだった。企業にとっては、表向きは面接で「何を勉強してきたか」と尋ねはするが、「本当に勉強が好きな人間」には来て欲しくないのではなかろうか。本音の部分では、勉強は落第しない程度にやって来ていればよくて、むしろスポーツやアルバイトに精を出して「コミュニケーション能力」を磨いている学生に来て欲しい。口には出さないけどその本音を空気で分かってね、と言っているように感じた。僕のように「大学は勉強するところ」という大義名分を真に受けてきた人間には実は用がなくて、大学はおもに「大卒」という肩書きを得るための場所だ、と分かっていてほしい。就職の面接はこういう恐ろしく込み入った「空気を読む術」が要求されているようで常に苦手だった。こういう「暗黙のルール」が分かっていない人間にとっては、就職の際、高学歴というのもちっとも有利にならないのではなかろうか。
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
PR
No.103
2009/10/20 (Tue) 21:05:31
題名は忘れてしまったがフレドリック・ブラウンの短編に、無人島に漂流した詩人の話があった。絶海の孤島で助かる見込みとてないが時間はたっぷりとあり、詩人は畢生の大作をものしようと意を決した。かなりの年月を経て、長編の詩が一応の完成を見たが、だからといって故国から助けが来るわけでもない。詩人はそれからの長い時間、詩をより完璧な作品にすべく無駄な部分を削る作業についやした。より本質的な言葉だけを残そうという強い意志をつらぬき、大部の作品がやがてわずか八行の詩に短縮され、さらに何年もかけて四行の詩になり、ついにはたったの一行の句になった。ようやくその孤島の近くに船が通りかかり救出されることになった詩人は、しかしもうほとんど発狂していた。彼はそのとき、残った一行の句をさらにたったの一語につづめ、その一語だけを叫び続け、死ぬまで他の言葉はいっさい口にしなかったという。
この語り手に対し聞き手は、だったら何故詩人が大作をその一語に凝縮したことが分かったのか、と当然の疑問を投げかけていたが、その説明がどうだったか覚えていない。
文章を作る際も、無駄な部分を容赦なく削ることで完成度を上げるという方法があるだろうけど、何が最も言いたいことなのか明瞭にしないとそれは難しい。
さて休日で何か書こうと思ったものの頭に浮かぶのは脈絡のない妄言ばかりで、無駄な部分を削っていくと結局何も残らないということになりそうである。
対義語というものを新たに考えてみることがある。冗談めいたところでは、蟻地獄があるなら蟻天国もあってよいはずだがそれはどんなものだろうとか、ボケ老人がいるならツッコミ老人もいるはずだとか、いやツッコミ老人というのは上岡竜太郎の話していたことだしボケという言葉もいまや認知症と改められているから、そんなことを考えてもしょうがないが、プラス思考とマイナス思考があるなら「ゼロ思考」があるだろう、と思うのである。
コップに水が半分入っているとき、まだ半分あると考えるのがプラス思考で、もう半分しかないと思うのがマイナス思考とよく言われるが、ゼロ思考ではそれを見てただ「水が半分ある」と思うだけで価値判断は与えないのである。あえてプラスに捉えてもマイナスに考えてもどうにも事態が好転しないときには、事実をそのまま受け止めるしかない。きっとどんな仕事でもプロになると、窮地に陥ったときそうした冷静なゼロ思考をするものではなかろうか。落ち込んでも事態がよくなるわけでもなし、もし駄目だった場合は善後策を考える必要があるからあえてプラス方向にも考えない。僕はなかなか窮地でこの頼りがいのある思考方法ができないのだが。
写真はジャズのアルバムで、左がエロール・ガーナーの「ミスティ」、右が「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」。どちらも有名で、今さらかも知れないが最近初めて聴いてとても気に入った。「ミスティ」はピアノ・トリオ作品で、このエロール・ガーナーという人のピアノはとても「とんがった」音と輝くような音色で、ジャズに馴染みのない人でも思わず耳をそばだててしまうような力があるのではなかろうか。
「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」はビッグ・バンド作品で、おそろしく陽気で勢いがあって、勢い余ってアンサンブルが乱れているようだが、それがたまらない魅力。デューク・エリントンやカウント・ベイシーの、完成度の高い多くのビッグ・バンド作品よりも僕はこちらのほうが好きだ。
どちらもおすすめです。
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
No.102
2009/10/20 (Tue) 20:21:59
突然の大雨に降られ、ずぶぬれになりながらも箒(ほうき)に乗って空を飛び続け、届け物を持って瀟洒な邸宅にたどりついた魔法使いの飢鬼(きき)。
呼び鈴を鳴らし、しばらく経つと黄色いドレスを着飾った少女がドアを開けた。
「何?」
「お届け物です」
「あら、またお婆ちゃんからドジョウのパイだわ。私このパイ嫌いなのよね」
飢鬼は祖母の愛情を解さないこの少女が許せず、したがって隠し持っていた散弾銃で彼女を射殺した。邸宅ではパーティーが開かれていたらしく、銃声と蜂の巣になった少女とに、大騒ぎが起こった。それを尻目に、飢鬼はさっさと箒に乗って帰っていった。
「さっき豚墓(とんぼ)とかいう男の子がパーティに誘いに来てたわよ。雨の中、ずっと待ってたわ」飢鬼の下宿先であるパン屋の汚疽乃(おその)が、帰ってきた飢鬼に言った。
「もういいの」と言って、魔法使いの少女は下宿部屋に帰っていった。
飢鬼は部屋に戻って、家計簿を開いた。
「やっぱり、今の宅急便の仕事では、生活は無理だわ」
「でも、他に何がやれるって言うんだい、飢鬼?」飼い猫の痔治(じじ)が言った。
「銀行強盗……いや、現金輸送車を狙うなんてどうかしら」
「いいよそれ、飢鬼!」
婦人警官の制服と、中古のパトカーを手に入れた飢鬼は、警官に成りすまして現金輸送車を止め、運転手を射殺するなどして現金一億円を手に入れた。しかし、下宿先のパン屋に来た刑事の話で、奪った紙幣のナンバーが全て控えられていることを知った。
「こうなったら金をヤクに代えるしかないわ」飢鬼はつぶやいた。
(つづく?)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
呼び鈴を鳴らし、しばらく経つと黄色いドレスを着飾った少女がドアを開けた。
「何?」
「お届け物です」
「あら、またお婆ちゃんからドジョウのパイだわ。私このパイ嫌いなのよね」
飢鬼は祖母の愛情を解さないこの少女が許せず、したがって隠し持っていた散弾銃で彼女を射殺した。邸宅ではパーティーが開かれていたらしく、銃声と蜂の巣になった少女とに、大騒ぎが起こった。それを尻目に、飢鬼はさっさと箒に乗って帰っていった。
「さっき豚墓(とんぼ)とかいう男の子がパーティに誘いに来てたわよ。雨の中、ずっと待ってたわ」飢鬼の下宿先であるパン屋の汚疽乃(おその)が、帰ってきた飢鬼に言った。
「もういいの」と言って、魔法使いの少女は下宿部屋に帰っていった。
飢鬼は部屋に戻って、家計簿を開いた。
「やっぱり、今の宅急便の仕事では、生活は無理だわ」
「でも、他に何がやれるって言うんだい、飢鬼?」飼い猫の痔治(じじ)が言った。
「銀行強盗……いや、現金輸送車を狙うなんてどうかしら」
「いいよそれ、飢鬼!」
婦人警官の制服と、中古のパトカーを手に入れた飢鬼は、警官に成りすまして現金輸送車を止め、運転手を射殺するなどして現金一億円を手に入れた。しかし、下宿先のパン屋に来た刑事の話で、奪った紙幣のナンバーが全て控えられていることを知った。
「こうなったら金をヤクに代えるしかないわ」飢鬼はつぶやいた。
(つづく?)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
文書館内検索