『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.11
2009/10/15 (Thu) 21:34:48
「これで子供たちは全部かね? マイクはもう入ってるの? ……ええ、皆さん。私がエンタープライズ号の艦長、ジェームズ・カークです。私たちがこの惑星に来てから一ヶ月、この地域を支配していたクリンゴンを撤退させることにようやく成功し、皆さんが安心して通える小学校が今日、再び開校されることになりました。皆さんや皆さんのご家族が、命を脅かされ、通りを自由に歩くことすらできないような毎日は、終わりを告げました。このことは宇宙艦隊を代表して、私が保証します。皆さんは、クリンゴンの怖いおじさんたちの顔を、もう見なくてすむのです」
「おっちゃん、おっちゃん」
「おっちゃんとは何だね。これでも宇宙艦隊で一番若い艦長なんだぞ」
「でもおっちゃん、おっちゃんらはクリンゴンが悪い奴らやっていつも言うてるけど、クリンゴンの人らもええ事してくれてんで。おれ、みっちゃんとかやっくんらと野球してたとき、クリンゴンのおっちゃんが来て、あめとかチョコレートとか、いっぱいくれてんで。それにな、そのクリンゴンのおっちゃんは、お前らそのうち宇宙船に乗せたったる、おもちゃかてなんぼでもやる、そない言うてくれてんで」
「それはね、クリンゴンがよく言う嘘なんだ。宇宙船に乗せてあちこち見物させてやると言っておきながら、彼らの故郷に連れて行かれ、奴隷として一生こき使われるんだ。君たちも、君たちやお父さんお母さんが奴隷になったりしたら嫌だろう。だまされてはいけないんだ」
「そしたらおっちゃん、クリンゴンは嘘つきなんか? おっちゃんらは嘘つきと違うんか?」
「われわれ宇宙艦隊は、クリンゴンなんかと違って嘘はつかない。われわれが約束を守ってきたのを知ってるだろう? 病院も立派なものを建てたし、市場も元通り復興して、お父さんたちも仕事できるようになった。全部約束どおりだろう?」
「おっちゃん、わしも言いたいことあんねんけど」
「ええと、どこだね。ああキミ。何でも言ってみたまえ」
「おっちゃんらがこの星に来てから、クリンゴンらとドンパチやらかして、しまいにはクリンゴンもシッポ巻いていねさらしたけど、おっちゃんらの方もぎょうさんドンパチでごねさらしたやないか。わし、赤い服着た宇宙艦隊のおっちゃんらがごっついぎょうさん倒れてるの見てん。またクリンゴンが攻めてきてけつかって、おっちゃんらが負けたらどないすんねん」
「ええと。スポック、今の言葉はどういう意味だ? ……ああそうか。つまり君の言いたいのは、最初の戦闘でわれわれは勝ちはしたが、当方にも死者が出た。今度クリンゴンが攻めてきたとき、われわれが勝つという保証はあるのかと、そういうことだね?」
「せやせや。何や、その耳のとがったおっちゃんの方が賢いやないか」
「余計なことは言わんでよろしい。その点については、安心してもらいたい。クリンゴンは確かに強力な兵器も持っている。しかし、われわれ宇宙艦隊の方が科学が進んでいて、より強力な武器もある。われわれが負けるということはない。皆さんも、その点は安心してください。他に気になる事はありますか? このさい何でも聞いてください」
「はい、はい」
「はい、そこの赤い服を着たお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんと違う。くみこっていうレッキとした名前があるねん」
「ハハ、悪かった。ではくみこちゃん、君の質問は?」
「ほんまに何でも聞いてええの?」
「何でも言ってごらん」
「そしたら、あたし、前から気になっててんけど、赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?」
「赤ちゃん? そんなこと今は関係ないだろ。保健室の先生にでも聞きなさい」
「おっちゃん、何でも聞いてええって今言うたやん。それは嘘やったん? おっちゃんらも嘘つきなんか? そしたらクリンゴンと同じやないか」
「嘘つきとは何だね。人聞きの悪い。赤ちゃんがどうやって生まれるかだろ。答えてやるとも。それはね、お父さんとお母さんが愛し合って生まれるんだよ」
「アイシアウって何? あたしそんな抽象的な言葉じゃ分かれへん。もっと具体的かつ生物学的に答えてもらわんと」
「ずいぶん難しい言葉を知ってるんだな。ええと、子供はだね。まずお父さんのナニがお母さんのアレにだね」
「ナニとかアレじゃ分かれへん。もっと男らしゅうにハッキリ言いや」
「困った子供だな。チェコフ、フェーザーを麻痺にセットしてくみこちゃんを撃て」
「きゃー」
「ほらほら騒がない。くみこちゃんはちょっと眠っただけだ。おじさんは今、大事な話をしてるんだ。ふざけた言動は慎みたまえ。君たちにとって、もっと大事なこと、聞かなければどうしても困るという事を質問するんだ」
「じゃあおっちゃん」
「はい、そこのグリーンの服の君」
「おれらな、結局のところ、宇宙艦隊とクリンゴンと、どっちがええ人らなのかよう分からんねん。両者の決定的な違いは何なん?」
「良い質問だ。簡単に言おう。クリンゴンは戦争を好む種族だ。彼らが行くところ、戦闘が起きないということはない。その点、われわれ宇宙艦隊は平和を愛する。そりゃ戦わなきゃならない時だってあるが、それは平和を守るためだ。そこを分かって欲しい」
「ヘイワって何?」
「平和とは……そうだね、みんなが仲良く手と手を取り合って、憎しみや争いのない暮らしを築いていくことだ」
「ああ、みんな仲良くっていうことか。そういえばおっちゃんらは、うちらの星のみんなと仲良くしてくれるもんな」
「そうとも。宇宙艦隊は、この惑星の住民みんなの幸せを考えているんだよ」
「そういえばおっちゃんは、よし子先生ともごっつい仲いいもんな」
「何で今よし子先生の話が出てくるんだね」
「だって、宇宙艦隊がこの星に来た最初のころ、おっちゃんこの学校によく忍び込んどったやん。おれら見ててんで。おっちゃんとよし子先生が職員室で二人きりのところ。おっちゃんえらい優しげに話しかけとったやん。ほら、よし子先生、先生のつらいお気持ちはよく分かります。クリンゴンは誰だって怖い。しかしよし子先生、いま勇気をふりしぼらなくてはなりません。クリンゴンの作戦本部の場所を教えてください。この星の平和のために。ほら泣かないで、よし子さん。涙で美しい顔が台無しだ。よし子、なんて君は美しいんだ、ああよし子……とか言うておっちゃん、よし子先生抱きしめてぶちゅーってチューしてたやないか。なあおっちゃん、よし子先生は結婚してるねんで。これは不倫っちゅうやつや。あかんことや。それとも宇宙艦隊には、不倫してもええっていう法律でもあんのか?」
「それはだね、君、緊急を要する外交の一手段としてだ。どう言えば分かるのかな。しかしまずい所を見られたな……ああそうだ、君たちのうちで、私とよし子先生がチューしているのを見たという子は手を挙げてごらん」
「はーい」
「チェコフ、フェーザーの威力を最大にセット。いま手を挙げた三人を消すんだ」
「きゃー」
「ほらうるさくしない。君たちも消えたくなかったら変なことに首を突っ込まないことだ。話を元に戻そう。今も言ったように、宇宙艦隊は平和を愛します。ここが皆さんの住みよい星になるように最大限の協力を惜しみません。クリンゴンのような平気で人殺しをする野蛮な種族を信じてはなりません。われわれは皆さんの友だちです。友だち。何と素晴らしい言葉ではありませんか」
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
「おっちゃん、おっちゃん」
「おっちゃんとは何だね。これでも宇宙艦隊で一番若い艦長なんだぞ」
「でもおっちゃん、おっちゃんらはクリンゴンが悪い奴らやっていつも言うてるけど、クリンゴンの人らもええ事してくれてんで。おれ、みっちゃんとかやっくんらと野球してたとき、クリンゴンのおっちゃんが来て、あめとかチョコレートとか、いっぱいくれてんで。それにな、そのクリンゴンのおっちゃんは、お前らそのうち宇宙船に乗せたったる、おもちゃかてなんぼでもやる、そない言うてくれてんで」
「それはね、クリンゴンがよく言う嘘なんだ。宇宙船に乗せてあちこち見物させてやると言っておきながら、彼らの故郷に連れて行かれ、奴隷として一生こき使われるんだ。君たちも、君たちやお父さんお母さんが奴隷になったりしたら嫌だろう。だまされてはいけないんだ」
「そしたらおっちゃん、クリンゴンは嘘つきなんか? おっちゃんらは嘘つきと違うんか?」
「われわれ宇宙艦隊は、クリンゴンなんかと違って嘘はつかない。われわれが約束を守ってきたのを知ってるだろう? 病院も立派なものを建てたし、市場も元通り復興して、お父さんたちも仕事できるようになった。全部約束どおりだろう?」
「おっちゃん、わしも言いたいことあんねんけど」
「ええと、どこだね。ああキミ。何でも言ってみたまえ」
「おっちゃんらがこの星に来てから、クリンゴンらとドンパチやらかして、しまいにはクリンゴンもシッポ巻いていねさらしたけど、おっちゃんらの方もぎょうさんドンパチでごねさらしたやないか。わし、赤い服着た宇宙艦隊のおっちゃんらがごっついぎょうさん倒れてるの見てん。またクリンゴンが攻めてきてけつかって、おっちゃんらが負けたらどないすんねん」
「ええと。スポック、今の言葉はどういう意味だ? ……ああそうか。つまり君の言いたいのは、最初の戦闘でわれわれは勝ちはしたが、当方にも死者が出た。今度クリンゴンが攻めてきたとき、われわれが勝つという保証はあるのかと、そういうことだね?」
「せやせや。何や、その耳のとがったおっちゃんの方が賢いやないか」
「余計なことは言わんでよろしい。その点については、安心してもらいたい。クリンゴンは確かに強力な兵器も持っている。しかし、われわれ宇宙艦隊の方が科学が進んでいて、より強力な武器もある。われわれが負けるということはない。皆さんも、その点は安心してください。他に気になる事はありますか? このさい何でも聞いてください」
「はい、はい」
「はい、そこの赤い服を着たお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんと違う。くみこっていうレッキとした名前があるねん」
「ハハ、悪かった。ではくみこちゃん、君の質問は?」
「ほんまに何でも聞いてええの?」
「何でも言ってごらん」
「そしたら、あたし、前から気になっててんけど、赤ちゃんはどうやって生まれてくるの?」
「赤ちゃん? そんなこと今は関係ないだろ。保健室の先生にでも聞きなさい」
「おっちゃん、何でも聞いてええって今言うたやん。それは嘘やったん? おっちゃんらも嘘つきなんか? そしたらクリンゴンと同じやないか」
「嘘つきとは何だね。人聞きの悪い。赤ちゃんがどうやって生まれるかだろ。答えてやるとも。それはね、お父さんとお母さんが愛し合って生まれるんだよ」
「アイシアウって何? あたしそんな抽象的な言葉じゃ分かれへん。もっと具体的かつ生物学的に答えてもらわんと」
「ずいぶん難しい言葉を知ってるんだな。ええと、子供はだね。まずお父さんのナニがお母さんのアレにだね」
「ナニとかアレじゃ分かれへん。もっと男らしゅうにハッキリ言いや」
「困った子供だな。チェコフ、フェーザーを麻痺にセットしてくみこちゃんを撃て」
「きゃー」
「ほらほら騒がない。くみこちゃんはちょっと眠っただけだ。おじさんは今、大事な話をしてるんだ。ふざけた言動は慎みたまえ。君たちにとって、もっと大事なこと、聞かなければどうしても困るという事を質問するんだ」
「じゃあおっちゃん」
「はい、そこのグリーンの服の君」
「おれらな、結局のところ、宇宙艦隊とクリンゴンと、どっちがええ人らなのかよう分からんねん。両者の決定的な違いは何なん?」
「良い質問だ。簡単に言おう。クリンゴンは戦争を好む種族だ。彼らが行くところ、戦闘が起きないということはない。その点、われわれ宇宙艦隊は平和を愛する。そりゃ戦わなきゃならない時だってあるが、それは平和を守るためだ。そこを分かって欲しい」
「ヘイワって何?」
「平和とは……そうだね、みんなが仲良く手と手を取り合って、憎しみや争いのない暮らしを築いていくことだ」
「ああ、みんな仲良くっていうことか。そういえばおっちゃんらは、うちらの星のみんなと仲良くしてくれるもんな」
「そうとも。宇宙艦隊は、この惑星の住民みんなの幸せを考えているんだよ」
「そういえばおっちゃんは、よし子先生ともごっつい仲いいもんな」
「何で今よし子先生の話が出てくるんだね」
「だって、宇宙艦隊がこの星に来た最初のころ、おっちゃんこの学校によく忍び込んどったやん。おれら見ててんで。おっちゃんとよし子先生が職員室で二人きりのところ。おっちゃんえらい優しげに話しかけとったやん。ほら、よし子先生、先生のつらいお気持ちはよく分かります。クリンゴンは誰だって怖い。しかしよし子先生、いま勇気をふりしぼらなくてはなりません。クリンゴンの作戦本部の場所を教えてください。この星の平和のために。ほら泣かないで、よし子さん。涙で美しい顔が台無しだ。よし子、なんて君は美しいんだ、ああよし子……とか言うておっちゃん、よし子先生抱きしめてぶちゅーってチューしてたやないか。なあおっちゃん、よし子先生は結婚してるねんで。これは不倫っちゅうやつや。あかんことや。それとも宇宙艦隊には、不倫してもええっていう法律でもあんのか?」
「それはだね、君、緊急を要する外交の一手段としてだ。どう言えば分かるのかな。しかしまずい所を見られたな……ああそうだ、君たちのうちで、私とよし子先生がチューしているのを見たという子は手を挙げてごらん」
「はーい」
「チェコフ、フェーザーの威力を最大にセット。いま手を挙げた三人を消すんだ」
「きゃー」
「ほらうるさくしない。君たちも消えたくなかったら変なことに首を突っ込まないことだ。話を元に戻そう。今も言ったように、宇宙艦隊は平和を愛します。ここが皆さんの住みよい星になるように最大限の協力を惜しみません。クリンゴンのような平気で人殺しをする野蛮な種族を信じてはなりません。われわれは皆さんの友だちです。友だち。何と素晴らしい言葉ではありませんか」
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
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