『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.119
2009/10/31 (Sat) 07:02:36
常娥 李商隠
雲母屏風燭影深
長河漸落曉星沈
常娥應悔偸靈藥
碧海靑天夜夜心
雲母の屏風に 蝋燭の影がくっきりと映っている
銀河がしだいに落ちてゆき 夜明けの星も沈むころ
月の女神、常娥はきっと悔やんでいるだろう 霊薬を秘かに飲んで月に昇ってしまったことを
碧い海 青い空 どこを眺めても 彼女の夜ごとの思いがにじんでいるよう
というラブレターを、かつての夫である弓の名人・羿(げい)からことづかって鴉が月まで送ってきたが、不死の霊薬を手に入れ冒険心にみなぎった常娥(じょうが)は、ほとんどそれに目をくれなかった。いつまでいじけてるのかしら、あの人。まあいいわ、わたし惑星探査に行くんだもの。鴉さん、夫から手紙が来て郵便受けがいっぱいになっても構わないでね。
常娥の乗った宇宙船は、まずは順調に火星に向かっていった。彼女の思いは、かつての夫に向けられるどころか、未知の生物、未知の宇宙人に向けられていた。
火星に降り立った彼女は、あたりの赤い砂漠をよく見回した。静かな風が吹きわたっていた。突然、目の前の地面がぼこぼこと盛り上がり、身の丈三メートルほどの恐竜が姿を現した。襲いかかる褐色の恐竜。そのとき地球の方角から、矢が飛んできて、常娥の足もとに突き刺さった。「あら、まだわたしに構う気なのね、羿は。惜しいところで矢は恐竜を外れてるわ。恐竜さん、いっしょに宇宙の果てまで旅しましょう」
四千年後。
月探査船が、月面のクラヴィウス基地に到着した。常娥のかつての住居であった洞穴の前には、戸締りのために黒い大きな石板が置かれていた。
「未知の物質ですな。われわれの科学を超えた技術によって作り出されたものです」
「地球の一般民衆に知れたらパニックになるぞ。クラヴィウス基地にはいましばらく伝染病説を流して立ち入り禁止にせねばなるまい」
そのとき、まだ生きていた羿の放った矢が、科学者たちの背中に次々突き刺さった。
「ぎゃー」
木星探査船が、長期間の航行中に、コンピュータの狂いが生じて、船長はなんとかコンピュータの電源を切った。そのとき船長は、人知を超えた不思議なさまざまな光線を浴び、自分の年老いた姿を幻視した。そして最後に見たものは、宇宙空間に浮かぶ巨大な胎児であった。神々しいまでの光を放つ、視界いっぱいに広がる胎児。しかしその巨大な胎児は背中から弓矢を取り出し、いきなり船長を攻撃してきた。船長は必死で船を操り、弓矢から逃げようとした。胎児は、へその緒をつけながら宇宙空間をどたどたと走りながら追いかけてくる。
人類の全く新しい時代の幕開けが、すぐそこに迫っているのだ。船長は胎児の化け物に追いかけられながら、強く確信したのだった。
ヨハン・シュトラウス二世の「青き美しきドナウ」の優雅な調べに乗せて、巨大な胎児と木星探査船の追いかけっこはなおも続く……
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
雲母屏風燭影深
長河漸落曉星沈
常娥應悔偸靈藥
碧海靑天夜夜心
雲母の屏風に 蝋燭の影がくっきりと映っている
銀河がしだいに落ちてゆき 夜明けの星も沈むころ
月の女神、常娥はきっと悔やんでいるだろう 霊薬を秘かに飲んで月に昇ってしまったことを
碧い海 青い空 どこを眺めても 彼女の夜ごとの思いがにじんでいるよう
というラブレターを、かつての夫である弓の名人・羿(げい)からことづかって鴉が月まで送ってきたが、不死の霊薬を手に入れ冒険心にみなぎった常娥(じょうが)は、ほとんどそれに目をくれなかった。いつまでいじけてるのかしら、あの人。まあいいわ、わたし惑星探査に行くんだもの。鴉さん、夫から手紙が来て郵便受けがいっぱいになっても構わないでね。
常娥の乗った宇宙船は、まずは順調に火星に向かっていった。彼女の思いは、かつての夫に向けられるどころか、未知の生物、未知の宇宙人に向けられていた。
火星に降り立った彼女は、あたりの赤い砂漠をよく見回した。静かな風が吹きわたっていた。突然、目の前の地面がぼこぼこと盛り上がり、身の丈三メートルほどの恐竜が姿を現した。襲いかかる褐色の恐竜。そのとき地球の方角から、矢が飛んできて、常娥の足もとに突き刺さった。「あら、まだわたしに構う気なのね、羿は。惜しいところで矢は恐竜を外れてるわ。恐竜さん、いっしょに宇宙の果てまで旅しましょう」
四千年後。
月探査船が、月面のクラヴィウス基地に到着した。常娥のかつての住居であった洞穴の前には、戸締りのために黒い大きな石板が置かれていた。
「未知の物質ですな。われわれの科学を超えた技術によって作り出されたものです」
「地球の一般民衆に知れたらパニックになるぞ。クラヴィウス基地にはいましばらく伝染病説を流して立ち入り禁止にせねばなるまい」
そのとき、まだ生きていた羿の放った矢が、科学者たちの背中に次々突き刺さった。
「ぎゃー」
木星探査船が、長期間の航行中に、コンピュータの狂いが生じて、船長はなんとかコンピュータの電源を切った。そのとき船長は、人知を超えた不思議なさまざまな光線を浴び、自分の年老いた姿を幻視した。そして最後に見たものは、宇宙空間に浮かぶ巨大な胎児であった。神々しいまでの光を放つ、視界いっぱいに広がる胎児。しかしその巨大な胎児は背中から弓矢を取り出し、いきなり船長を攻撃してきた。船長は必死で船を操り、弓矢から逃げようとした。胎児は、へその緒をつけながら宇宙空間をどたどたと走りながら追いかけてくる。
人類の全く新しい時代の幕開けが、すぐそこに迫っているのだ。船長は胎児の化け物に追いかけられながら、強く確信したのだった。
ヨハン・シュトラウス二世の「青き美しきドナウ」の優雅な調べに乗せて、巨大な胎児と木星探査船の追いかけっこはなおも続く……
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
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セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
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