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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 18:17:49

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No.127
2009/11/09 (Mon) 17:31:49

モンスターは思いがけず蟻豪図帝国の君主となり、国民に第一声を発する日が来た。
演壇に登った一つ目のモンスター。しかし演説を始めようとすると、民衆の熱烈な声がわんわんといつまでも鳴りやまず、とてもモンスターの声を伝えるどころではなかった。
「今日は新帝王の顔を民衆に見てもらうというだけにしましょう。演説はまたの機会に」執事の松平が言った。
王宮に戻ったモンスターは、自分のメッセージは伝えられなかったけれども、これほどに自分が歓迎されていることに、満足しないでもなかった。ふと気がつくと、侍女が大きな団扇でモンスターに柔らかな風を送っていた。
「きみ、名前は何という?」
「はい、神様、ラリアと申します」
「神様? 神と言ったのか? 私は単なるモンスターで、もとは人間だ」
「民衆の一部には、陛下を神と信じる者もいるようでございます。一つ目の神の古い伝説がありまして、陛下をその再来と見なしているのです」と松平。
「そうか。しかし神というのは誤解だぞ、ラリア」
「陛下、僧侶たちがお目通り願いたいとのことでございます」
ぞろぞろと、白い長衣を身にまとった禿頭の僧侶たちが五名、しずしずと王の間に入ってきた。そしてひざまずいて深々と頭を下げ、中央の僧侶が口を開いた。
「三千年前にわが王国に訪れ富と秩序をもたらし去って行った一つ目の神様、ようこそお戻りくださいました。いつの日か自分は戻ってくるであろうという言葉を、われわれは代々忘れずにおりました。この国にある物はすべて、一つ目の神様のものです。宝物蔵の宝もひとつ残らずそうです。われわれは宝物蔵を代々守ってきました」
「なんだと。宝物蔵? それはどんなものだ。どこにある」とモンスター。
「僧侶ども、一つ目の神様を宝物蔵に案内いたせ」と松平。
「ちょっと待て松平」と小声でモンスター。「お前まで俺を神などと。俺が放射性廃棄物を浴びた、ただの鉄道員だということを知らぬわけではあるまい」
「ふふふ、大丈夫ですよ。この石頭の僧侶どもには神様と思わせておいて、宝物を手に入れてください。しかし私めにもすこし分けてくださいまし」
「おぬしもワルよのう」
暗い宝物蔵に案内され、金銀の目も眩むような財宝に、モンスターと松平の目は輝いた。
「俺はこの財宝を日本に持ち帰り、人々の役に立てようと思う。やはり俺は帝王などという柄ではない。また鉄道員をやることにする」

さて日本に戻ってみると、モンスターがいない間にIR鉄道は大規模な脱線事故を起こし、大勢の死傷者を出していた。IRは遺族に多額の慰謝料を支払い、事態はようやく鎮静化に向かっていた。事故調査委員会が開かれたが、実はIR幹部が委員会のメンバーに賄賂を贈っていたという話を、モンスターは日課のモップがけの際に同僚から聞いた。血気盛んなモンスターは、IRという組織を浄化しようと決意し、幹部を脅しにかけた。IR社長の別荘に押しかけ、幹部たちが集まっている前でモンスターは言った。
「多額の賄賂が委員会のメンバーに渡った証拠はつかんでいる。お前たちは性根の腐りきった権力者どもだ。俺が権力を握ったほうがましというものだ。お前たちには、IRの株を七百万株出してもらおう」
「七百万株? 馬鹿な。社長のわしだって二百万株しか持っていないというのに」
「何も社長一人に出してもらわなくていい。皆さん方で出し合ってもらいましょう」
そのときIRの社長秘書が現れ、ピストルをモンスターに向けた。
「モンスター、調子に乗りすぎたようだな。君には死んでもらおう」と社長。
しかしモンスターは全く動じず、「お前さんがた、銃のことをあまり知らないようだな。あの手の強力な銃はねえ、この距離でぶっ放せば俺の体を貫通して、社長さんの体をさえ打ち抜いてしまうんだよ。俺が体の角度をちょっと変えるだけで、社長さんの命を奪うことだって簡単に出来るんだ。まったく小僧っ子どもが」と言ってモンスターは、社長秘書の銃を持った腕をつかみ、肩から腕を勢いよく引きちぎった。
「ぎゃーっ」
その瞬間、銃が暴発して専務に弾が当たり、胸から血を吹き出させた。
社長の別荘の一室は凍りついたような沈黙に包まれた。
「おいベートーベン! 続けるんだよ!」社長お抱えのピアニストは、またショパンのノクターンを弾き始めた。
モンスターはソファにどっかと座り「さてビジネスの話と行きましょうか」と言いつつ、社長秘書に「おい、大株主にコーヒーを出さんか!」

モンスターはこうして巨万の富を得た。しかし彼はあくまで一鉄道員として、モップを片手に車両や駅の掃除をしつつ、悪と戦い続けるのだった。彼は人間のあるがままの姿を愛した。あるがままの姿、それは善であるはずである。根っからの悪党はいない。
駅構内に、不自然に大きな乳房をゆすって歩き、男の視線を集めている女がいた。モンスターはそこに人間のいつわりの姿を見た。
「お前これ擬乳だろー!!」といってモンスターはその乳房を握りつぶし、シリコンを飛び散らせた。
今日もモンスターはどこかで戦っている。


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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

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主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

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