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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 20:21:06

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No.152
2009/12/08 (Tue) 01:15:01

 

 ゴーゴリの短編小説「ヴィイ」、あるいはその映画化「妖婆死棺の呪い」のパロディ。


 神学生ホマ・ブルートは、ある富裕なコサック中尉から、死んだ娘のために三晩にわたって祈祷を上げてほしいとの依頼を受け、キエフから五十キロほど離れたそのコサックの地所にやって来た。なんでもその娘は、ある日散歩に出て、何者かに全身にひどい傷を負わされて息も絶え絶えになって帰宅し、死ぬ間際にホマ・ブルートに三日間の祈祷を上げさせるよう遺言を残したのだとか。ホマはその娘とは会ったこともなかったから驚き、当初は断ったが、コサック中尉の意思は断固としたものであり、神学校の校長からも厳命を受けたから仕方なく引き受けることにした。
 ホマは知らなかった。その娘が、しばらく前に自分に襲いかかってきたため慌てて打ち殺した、妖術使いの老婆だったとは。

「こんな暗いあばら家に女の棺と差し向かいで、三晩も祈祷を上げるなんてぞっとしねえな。外から錠も掛けられちまったし……よし、ありったけの蝋燭に灯をともして、うんと明るくしてやろう」
 ホマは何百本もの大小の蝋燭を、その古い建物の至るところに立てた。その灯りは、部屋を昼のように明るくし、薄気味悪い感じはすっかり消え失せてしまったようだった。
「よし、これで元気も出てきたぞ。そろそろ始めるとするか」
 ホマは大きな聖書を開き、大声で祈祷を始めた。棺のほうをチラチラ見ながら……。
「もし、死んだ女が起き上がったら、どうしよう? いやいや、そんなことなんてあるものか」
 しばらく祈祷に熱中して、ふと棺を見ると娘の死体は起き上がって座っていた。そして立ち上がり、手を伸ばしてホマのほうにフラフラと歩いてきた。
「ぎゃあ! どうすりゃいいんだ。よし、『聖なる円』を描こう。この中には邪悪なものは入って来れないんだ」
 ホマはチョークで自分の周囲の床に直径三メートルほどの円を描き、必死に祈祷を続けた。
 若い女の死体が言った。
「あなた、馬鹿じゃない? 妖怪だって年々科学的になってきてるのよ。何よこんな円。ホラホラ」
 そう言って若い女は聖なる円の中に何度も手を突き入れた。
「うぬ……ではどれぐらい科学的か試そうじゃないか。この円を原点中心半径1として、ここを点(1,0)とする。点(3,1)を通るこの円の接線を考えたとき、その接点からならお前は入っていいことにしようじゃないか」
「やっぱり哀れなほど馬鹿だわ……計算しなくたって点(0,1)がそうだって分かるじゃない。ホラホラ入るわよ」
「いや待った! 今の問題は間違いだ。えーと、そうだな、10の100乗ラジアンの点からなら入っていいことにする(ラジアンは点(1,0)からこの円の円周を反時計回りに測ったときの長さの単位)」
「何ですって!? 10の100乗を2πで割ってその余りを求めるのかしら。ちょっと待ちなさい」
 女は考えながら棺に戻っていき、やがて棺は女を乗せたまま宙を舞い、聖なる円の周りをグルグル回り始めた。
「アハハ、馬鹿な女! そうやって10の100乗だけの距離をまわるつもりかい? 百年かかったって回れやしねえや」
 そのとき暁を告げる鶏の声が響いてきた。棺はゆっくりと着地し、女はいらいらして人差し指を立てて震わせながら、バタンと横になった。

 次の日の晩。ホマが再びあばら家に戻り、チョークで聖なる円を描きなおして立ち上がると、もうそこに女が立って待ちかまえていた。
「ひひひひひ……一日考えて分かったのよ。10の100乗ラジアンの座標が。じゃ、遠慮なく入るわよ」
「待った、待ったー。その問題の回答はもう締め切った。惜しかったな。えっと、次の問題を出すぞ。円周率の小数点以下で、1が1000回続けて表れる部分は小数第何位からか答えろ」
「え、1が1000回!? えーと、3.14159265358979323846264338327950288419716939937510582097494459230781640628
620899……そんなの分かるわけないじゃない! だいいち1が1000回続けて表れる保証なんてどこにもないわ」
「どこにも表れなければその証明をしてみせろ。しかしもし表れるなら、どこから表れるかは神様がご存知のはずだ。神様に聞いてみるんだな。でも妖女のお前が神様にものを尋ねるなんて出来っこないかな。ハハハハ」
「き、きぃー悔しい! 覚えてらっしゃい!!」
そう言って妖女は棺に乗り、棺は窓を突き破って地の果てまで飛び去っていった。


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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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