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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 19:24:47

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No.16
2009/10/15 (Thu) 22:13:26

 国の法律で、国民はすべてガラスの面を付けなければならなくなった。その仮面は、国から支給された。それはいろいろな表情をしたものがあり、無作為に国民に割り当てられた。
 今まで善人で通ってきた人が、いかにも悪人づらといった面を付けなければならなかったり、根っからの悪人が、いかにも徳の備わったよい表情の面を付けたりした。
 今まで立派な有能な人物として社会から認められ、会社でも高い地位にあった人物が、いかにも不愉快そうな、苦虫を噛み潰したような表情の面を付けることになった。周囲も、はじめは外形よりも内面が大事だと思って、この人の高い地位がおびやかされることはなかったが、次第に、この不愉快きわまる表情の面のために人格を疑われ始めた。人の嫌がる仕事を進んで引き受けていたのが、仕事をまわされたときに、苦虫を噛み潰したような表情をしているために「嫌なのか」と思われてしまう。ついにはこの人物は降格の憂き目を見ることになったのである。
 逆に、以前は怒りやすくつまらぬことで周囲と衝突を繰り返していたある人物は、戎(えびす)様のようなにこにこ顔の面を付けることになり、以前とはうって変わって「人間のできた立派な人物」との評判を得ることになったのである。もっとも、この人も非常に腹が立って相手を殴りつけることもあり、そういうときは、にこにこしながらの激怒なので相手もうす気味悪がったものである。

 しょんぼりした、いかにも楽しくなさそうな表情の面を付けた人物も、具合の悪いことが多かった。宴会の席や、みんなで遊園地に行こうなどというときには、この人は周囲と非常な不調和をきたした。みんなが盛り上がり、楽しくしているのに、一人だけつまらなさそうにしている。そういうわけで、みんなにつまはじきにあうというわけだ。もっともこの人物も、葬式では歓迎された。
 逆に、いかにも楽しそうな「笑いが止まらない」といった表情の面をつけた人は、たいていの場面で歓迎された。笑顔はいつ見ても気持ちがいいものである。いかに憂鬱なときでも、顔だけは笑っている。仕事仲間からも「おい、一杯つき合えよ」と常に声がかかり、人気者だ。ただし先ほどの人物とは逆に、葬式の席では袋叩きにされ、追い返される破目におちいった。

 ことほどさように人間の表情の変化というのは大切なものである。しかしこの悪法はやむことがなかった。そしてこの仮面は特殊硬質ガラスでできており、表情を変えようとしても無駄だった。また、この面は一度付けると外れることがなかった。
 良い表情の面を付けた悪人が、人をナイフで刺し殺した。そして死体を、悪い表情の面を付けた善人に押し付けて逃げた。善人は一瞬なにごとかと思い、押し付けられた体からナイフを引き抜いた。そのとき、女の悲鳴が上がった。
「人殺し!」
 悪い表情の面を付けた男が、血のついたナイフを手に握って、死体を抱えている。これはもう、この悪人づらの人物がやったと思われてもしかたがない。この善人は、真の下手人である悪人を追いかける。悪人は、バス乗り場の人の列に割り込んで、バスに飛び乗る。列の人々も福徳円満な表情のこの人物を、どうぞどうぞといって順番を譲った。しかし罪をなすりつけられた善人が同じようにしてバスに乗ろうとすると、人々は、なんだ順番を守れと怒って突き放す。いかに善人でも悪人づらをしていれば、列の人々も割り込みを許すわけにはいかない。
 そういうわけで、この善人は、バスに乗れず、真犯人を乗せたその車をむなしく見送るほかはなかった。そしてこの善人は、目撃者の証言にしたがって、警察に逮捕された。
「白昼堂々の殺人」「衆人環視の中での凶行」。そんな見出しとともに、この善人の悪人づらは新聞に報道された。
 状況はこの善人にとっていかにも不利だった。真犯人は手袋をしていたため、ナイフには善人の指紋しかなかった。それに、この極めつきの悪人づら! 犯人はこいつに決まっていた。
 そのとき、一人の少年が、一枚の写真を持って警察を訪れた。真犯人が犠牲者をナイフで刺している写真だった。少年はそのときたまたまカメラを持っていて、決定的瞬間を写真に撮ったのだった。
 かくしてこの善人は釈放された。この事件をきっかけに、国民の間に、外見で人を判断しないという風潮が、少しだけ広まった。しかし笑顔はやはり気持ちがよく、不愉快なツラはやはり不愉快なツラなのであった。
 この悪法は、なぜか今日まで続いている。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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