『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.165
2009/12/22 (Tue) 02:20:30
登場人物
アデライン 天才科学者にして絶世の美女。十九歳。
セバスチャン アデラインの執事。彼女によって造られたアンドロイド。
アデラインは脳科学者のセヴリン博士と共同で、人間の脳から言語や視覚にかんする情報を取り出す機器を開発中だった。これが完成すれば、人間が思ってはいても口には出さずにいる情報を抽出できるようになる。そもそもこの研究開発のきっかけは、大西洋沖の未知の油田についての情報をもちながら、大やけどのためまったく意思疎通の出来なくなった地質学者ビョルナー博士とのコミュニケーションを図るためだった。
アデラインは人間の脳について詳しい知識を持たなかったが、今回問題となる視角野、ウェルニッケ野、ブローカ野といった脳の部位の働きについてセヴリン博士から教示を受け、いかに言語情報、視覚情報をそこから取り出すか活発に討議し、どうやら実現のとっかかりらしきものを見つけたところだった。
実験の被験者であるレイ少年は、アデラインが以前人工の翼「イカロス」の開発のときに知り合った、心安くしている少年である。
「やっぱり脳内の電気信号をそのまま抽出しても、もやもやした情報でちょっと役に立たないんだな」アデラインはコンピュータのディスプレイを見ながらつぶやいた。
レイが本を読み、彼の頭に取り付けられた電極を通じて、その本に関する言語情報を取り出そうという試みだった。
「でもアデライン、僕の頭の中には本の内容がくっきり浮かんでいるよ」
「たぶん、自分で分かるということと、口で言い表せるぐらいに明確に意識しているということの間には開きがあるんだと思うの。ほら、言いたいことがうまく言えなくてもどかしい思いをすることってあるでしょう?」
「そうだね。ということはそのもやもやした情報を、外部で補正してやる必要があるってこと?」
「そうかもね。脳からの情報をある種の人工知能に通してやればいいのかも」
アデラインは人工知能については、アンドロイドの開発で多くの経験を持っていたから、そこからの開発は思ったほど時間がかからなかった。脳内の意識にのぼった言語情報、また視覚情報を、かなりの精度で音声化、視覚化することに成功したのだった。
かくしてアデライン=セヴリン型・意識顕在化装置が完成し、それがビョルナー博士に対して使用された。博士は四肢、口、また目を動かせなかったが、意識ははっきりしており、大西洋沖に眠る未知の油田について、その位置や周辺の地質の情報が装置によって把捉された。自然な人間の話し声と、スクリーンに映された鮮明な映像とで、油田についての必要な情報がスムーズに関係者に伝えられた。
またもやアデラインは地球に対し大きな貢献をしたわけだが、この装置は他にもいろいろと使い道があるのは誰の眼にも明らかだった。これを使えば人の持っている秘密、プライヴァシーを簡単に暴けるのだ。そうした悪用を避けるべく、この装置はとりあえず政府の買い上げとなった。
数ヵ月後。休日の午後、アデラインは紅茶を飲みながら刑事もののドラマを見ていた。
「お嬢様、警察のファルコナーというかたからお電話です」アンドロイドの執事、セバスチャンが言った。
「え、誰ですって。いまいいところなのよ」
「録画しておきますよ」
「ああ、もう。で、警察のひとですって。……もしもし、アデラインですが」テレビの画面がドラマから、電話の相手の映像に切り替わった。
「警察庁のファルコナー警視です。ぜひアデラインさんにお力をお借りしたい事件が起きまして。暗黒街のプリンスといわれたマカベという男が逮捕されましてね」
「はい」
「殺人、麻薬の密輸、強盗と数限りない悪行を重ねています。しかしどの事件でもシッポをつかませない。なんとか彼の口を割らせるか、事件の証拠の糸口をつかみたいのです。マカベの悪行を明らかに出来れば、地球の多くの犯罪が解決します。そこで最近、人間の脳内の情報を手に取るように取り出せる装置をアデラインさんが開発なさったことを思い出しました」
「あれはそういう目的で作られたものではないんです。それにほら、どうしてもということであれば、薬があるでしょう。自白剤とかなんとか」
「マカベは自白剤に耐性があるんです。無理に喋らせようとしたら意図的に気を失うことが出来るんですよ」
「うーん……政府は融通がきかないし……分かりました。今回だけならお手伝いします」
かくしてアデラインは、意識顕在化装置の試作品を持って、セバスチャンの運転するエアカーで警察庁本部に向かった。
「あ、壁にぶつけないでください」警察署員に装置を運ばせ、アデラインは取調室に入ってきた。明るい緑のワンピースを着て長袖を腕まくりし、抜けるような白い肌、栗色の長い髪をした絶世の美少女、アデライン。犯人のマカベはヒューッと口笛を吹いた。サングラスをかけているが、口元で不敵に笑っているのが分かる。
「あなたの悪事はすぐにばれるわよ」アデラインはきびきびとたくさんの電極をマカベの頭部に付けていった。
「黙っていても、あなたの頭の中にあることがスクリーンに出て、音声化されるわ。抵抗しても無駄よ。じゃ刑事さん、訊問してください」
「最近の麻薬の取引き相手は誰だ?」
「知らんよ。おれ、肉まんだもの」
「ふざけたことを言うな」
しかしスクリーンには大きな肉まんが映し出されていた。
「肉まんとは、中華まんともいい」と、男性のナレーションがスピーカーから流れ出した。「小麦粉、水、塩、酵母などをこねて発酵させた柔らかい皮で、具を包んで蒸し上げた饅頭である。肉まんの歴史は意外に新しく、1927年に中村屋が中国のパオズを元に……」
「アデラインさん、装置がおかしいんじゃないですか」刑事の一人が言った。
「そんなはずないわ。この男、かたくなに肉まんになりきってるのよ」
「おい! じゃあ、去年スイスの旅客機が墜落した事故の件だ。爆薬を仕掛けたのはチェイスという男で、お前の手下だったんだろう!?」刑事は写真を叩きつけて詰問した。
マカベは口笛を吹いてそっぽを向いた。スクリーンには、緑のワンピースを着たアデラインが映し出された。
「これ、あたしじゃない。どこまでとぼける気?」
スクリーンのアデラインはワンピースを脱ぎ始めた。緑の服を脱ぎ捨てると、アデラインはフンフンと鼻歌を歌いながらブラジャーを外し、乳房をあらわにした。
「ちょっと、何考えてるの! スイスの飛行機の件はどうなったの!? きゃーっ、パンツまで脱がすことないじゃない!」アデラインは自分のヌードが映っているスクリーンを体で隠し、赤い顔をしながらマカベにビンタを食らわした。
マカベは鼻血を出しながらもフフンと笑い「もっとエロいアデラインの映像をみんなに見せてやるぜ」
「その男をすぐ殺しなさい! 銃を貸して! セバスチャン、離すのよ!」アデラインはアンドロイドの執事に羽交い絞めにされて、マカベから無理やり引き離された。
「どうやらこの件では意識顕在化装置は失敗のようですな」セバスチャンはスクリーンのスイッチを切って、取調室から出て行った。
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
アデライン 天才科学者にして絶世の美女。十九歳。
セバスチャン アデラインの執事。彼女によって造られたアンドロイド。
アデラインは脳科学者のセヴリン博士と共同で、人間の脳から言語や視覚にかんする情報を取り出す機器を開発中だった。これが完成すれば、人間が思ってはいても口には出さずにいる情報を抽出できるようになる。そもそもこの研究開発のきっかけは、大西洋沖の未知の油田についての情報をもちながら、大やけどのためまったく意思疎通の出来なくなった地質学者ビョルナー博士とのコミュニケーションを図るためだった。
アデラインは人間の脳について詳しい知識を持たなかったが、今回問題となる視角野、ウェルニッケ野、ブローカ野といった脳の部位の働きについてセヴリン博士から教示を受け、いかに言語情報、視覚情報をそこから取り出すか活発に討議し、どうやら実現のとっかかりらしきものを見つけたところだった。
実験の被験者であるレイ少年は、アデラインが以前人工の翼「イカロス」の開発のときに知り合った、心安くしている少年である。
「やっぱり脳内の電気信号をそのまま抽出しても、もやもやした情報でちょっと役に立たないんだな」アデラインはコンピュータのディスプレイを見ながらつぶやいた。
レイが本を読み、彼の頭に取り付けられた電極を通じて、その本に関する言語情報を取り出そうという試みだった。
「でもアデライン、僕の頭の中には本の内容がくっきり浮かんでいるよ」
「たぶん、自分で分かるということと、口で言い表せるぐらいに明確に意識しているということの間には開きがあるんだと思うの。ほら、言いたいことがうまく言えなくてもどかしい思いをすることってあるでしょう?」
「そうだね。ということはそのもやもやした情報を、外部で補正してやる必要があるってこと?」
「そうかもね。脳からの情報をある種の人工知能に通してやればいいのかも」
アデラインは人工知能については、アンドロイドの開発で多くの経験を持っていたから、そこからの開発は思ったほど時間がかからなかった。脳内の意識にのぼった言語情報、また視覚情報を、かなりの精度で音声化、視覚化することに成功したのだった。
かくしてアデライン=セヴリン型・意識顕在化装置が完成し、それがビョルナー博士に対して使用された。博士は四肢、口、また目を動かせなかったが、意識ははっきりしており、大西洋沖に眠る未知の油田について、その位置や周辺の地質の情報が装置によって把捉された。自然な人間の話し声と、スクリーンに映された鮮明な映像とで、油田についての必要な情報がスムーズに関係者に伝えられた。
またもやアデラインは地球に対し大きな貢献をしたわけだが、この装置は他にもいろいろと使い道があるのは誰の眼にも明らかだった。これを使えば人の持っている秘密、プライヴァシーを簡単に暴けるのだ。そうした悪用を避けるべく、この装置はとりあえず政府の買い上げとなった。
数ヵ月後。休日の午後、アデラインは紅茶を飲みながら刑事もののドラマを見ていた。
「お嬢様、警察のファルコナーというかたからお電話です」アンドロイドの執事、セバスチャンが言った。
「え、誰ですって。いまいいところなのよ」
「録画しておきますよ」
「ああ、もう。で、警察のひとですって。……もしもし、アデラインですが」テレビの画面がドラマから、電話の相手の映像に切り替わった。
「警察庁のファルコナー警視です。ぜひアデラインさんにお力をお借りしたい事件が起きまして。暗黒街のプリンスといわれたマカベという男が逮捕されましてね」
「はい」
「殺人、麻薬の密輸、強盗と数限りない悪行を重ねています。しかしどの事件でもシッポをつかませない。なんとか彼の口を割らせるか、事件の証拠の糸口をつかみたいのです。マカベの悪行を明らかに出来れば、地球の多くの犯罪が解決します。そこで最近、人間の脳内の情報を手に取るように取り出せる装置をアデラインさんが開発なさったことを思い出しました」
「あれはそういう目的で作られたものではないんです。それにほら、どうしてもということであれば、薬があるでしょう。自白剤とかなんとか」
「マカベは自白剤に耐性があるんです。無理に喋らせようとしたら意図的に気を失うことが出来るんですよ」
「うーん……政府は融通がきかないし……分かりました。今回だけならお手伝いします」
かくしてアデラインは、意識顕在化装置の試作品を持って、セバスチャンの運転するエアカーで警察庁本部に向かった。
「あ、壁にぶつけないでください」警察署員に装置を運ばせ、アデラインは取調室に入ってきた。明るい緑のワンピースを着て長袖を腕まくりし、抜けるような白い肌、栗色の長い髪をした絶世の美少女、アデライン。犯人のマカベはヒューッと口笛を吹いた。サングラスをかけているが、口元で不敵に笑っているのが分かる。
「あなたの悪事はすぐにばれるわよ」アデラインはきびきびとたくさんの電極をマカベの頭部に付けていった。
「黙っていても、あなたの頭の中にあることがスクリーンに出て、音声化されるわ。抵抗しても無駄よ。じゃ刑事さん、訊問してください」
「最近の麻薬の取引き相手は誰だ?」
「知らんよ。おれ、肉まんだもの」
「ふざけたことを言うな」
しかしスクリーンには大きな肉まんが映し出されていた。
「肉まんとは、中華まんともいい」と、男性のナレーションがスピーカーから流れ出した。「小麦粉、水、塩、酵母などをこねて発酵させた柔らかい皮で、具を包んで蒸し上げた饅頭である。肉まんの歴史は意外に新しく、1927年に中村屋が中国のパオズを元に……」
「アデラインさん、装置がおかしいんじゃないですか」刑事の一人が言った。
「そんなはずないわ。この男、かたくなに肉まんになりきってるのよ」
「おい! じゃあ、去年スイスの旅客機が墜落した事故の件だ。爆薬を仕掛けたのはチェイスという男で、お前の手下だったんだろう!?」刑事は写真を叩きつけて詰問した。
マカベは口笛を吹いてそっぽを向いた。スクリーンには、緑のワンピースを着たアデラインが映し出された。
「これ、あたしじゃない。どこまでとぼける気?」
スクリーンのアデラインはワンピースを脱ぎ始めた。緑の服を脱ぎ捨てると、アデラインはフンフンと鼻歌を歌いながらブラジャーを外し、乳房をあらわにした。
「ちょっと、何考えてるの! スイスの飛行機の件はどうなったの!? きゃーっ、パンツまで脱がすことないじゃない!」アデラインは自分のヌードが映っているスクリーンを体で隠し、赤い顔をしながらマカベにビンタを食らわした。
マカベは鼻血を出しながらもフフンと笑い「もっとエロいアデラインの映像をみんなに見せてやるぜ」
「その男をすぐ殺しなさい! 銃を貸して! セバスチャン、離すのよ!」アデラインはアンドロイドの執事に羽交い絞めにされて、マカベから無理やり引き離された。
「どうやらこの件では意識顕在化装置は失敗のようですな」セバスチャンはスクリーンのスイッチを切って、取調室から出て行った。
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
PR
目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
文書館内検索