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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
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2024/11/21 (Thu) 18:00:57

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No.166
2009/12/22 (Tue) 03:09:04

バート・ランカスター主演の「ドクター・モローの島」を観た。直後にH・G・ウェルズによる原作も読んだ。

難破船からボートで脱出した主人公アンドリュー(原作ではエドワード)が、流れ着いた孤島で奇妙な人々に出会う。顔の真っ黒な獣じみた男たちと、彼らを支配するモロー博士という人物。どの船の航路からも外れた島であるため、アンドリューは博士の家でしばらく生活することになった。獣じみた男たちはいろんなタイプの容姿をしていたが、みな醜く毛むくじゃらで、脚が極端に短い。島では、モロー博士とその助手、それと博士の妻だけが普通の人間だった(博士の妻は原作には出てこない)。獣のような男たちはまさに獣のような行動を取り、また彼らは博士から恐ろしい虐待を受けていた。アンドリューが不審に思って問い詰めると、博士は猿や牛や豚などの動物を改造して彼らのような生物を造ったと話した。

ところで映画では、そんなことをする動機として博士は「奇形に生まれた人間を、正常な容姿に戻す医療にも役立つ研究だ」のようなことを言っているが、原作ではただ単に「科学のため」となっており「科学の進歩のためなら実験動物たちの苦痛など取るに足らぬ」とまで言い切っている。また映画では動物に何かの薬品を注射することで人間化させているが、原作では外科手術によっており、動物たちを切り刻んで必要なら猿と牛をつなぎ合わせるなどして人間を造っている。そんなふうに、原作のほうがモロー博士のマッド・サイエンティストっぷりが凄まじく描かれている。原作にだけある場面だが、「動物にとって苦痛など実は大した問題ではないのだ」と言って博士は、自分の太ももにナイフをずぶりと突き刺し
「わしはこれでも針で刺したほどの痛みも感じてはおらんのですぞ。痛みを感じる点は、すべて皮膚に分布しており、筋肉や神経は元来痛みを感じる必要のないものだ。苦痛とは、我々を危険から守るために存在しているものだが、動物はいずれは進化して全ての危険を知力で避けるようになるはずであり、苦痛などという野蛮な感覚は第一に捨て去らなければならないものだ」と、狂気じみたセリフ。

獣人たちは、博士から与えられた「人間の掟」を絶えず口ずさみ、掟を破った者は「苦しみの家」と呼ばれる博士の研究室で恐ろしい罰を受けることになっている。
「言葉を用いよ、これ、掟なり。殺すなかれ、これ、掟なり。這い歩くなかれ、これ、掟なり。木の皮に爪みがくなかれ、歯や指で草の根をほじくるなかれ、鼻でくんくん地面をかぐなかれ」
つまり人間になったからには、獣のような行いをやめるよう自らに言い聞かせているのだが、薄汚い洞窟の中でこんな文句を熱心に合唱している獣人の姿は、なんとも奇妙で哀れだった。
最後のほうで、博士が反抗的な獣人をはずみで殺してしまい、しいたげられていた獣人たちの怒りが爆発する。獣人たちにとってモロー博士は神のような存在だが、その博士自身が「人間の掟」を破った。「掟」など、もう無効だ……獣人たちの全てのモラルが崩壊し、博士はなぶり殺しにされてしまう。


なんとも不気味なSFで色々感じることはあったが、最後の場面を観ていて、指導者にとって「規則を守ること」は実に重要なことなのだと改めて思った。規則といっても状況によっては破るほうが良い場面もきっとあるだろうが、指導者となると、なかなかそうはいかないだろう。なんといっても「規則を課す側」なのだから。

ある高校の校長先生に聞いた話だが「学校の近くでは、たとえ一歩か二歩で渡れる横断歩道でも、赤信号では決して渡らない」のだそうだ。教師も、そんなふうに規則に縛られる立場なのだろう。たとえ小さな規則違反でも、教師がやれば蟻の一穴というか、生徒に見られるとモラルの崩壊につながりかねないのかも知れない。

(いぜん地元の中学に教育実習に行ったが、先生は学校の周りでは変な行動は取れない。しかし困ったことに、実習校は自宅から歩いて10分もかからない場所にあった。普段どおりの行動が取れず、コンビニで変な雑誌を立ち読みするわけにもいかない。窮屈な生活だった。)


(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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