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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:37:20

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No.174
2010/01/07 (Thu) 01:18:15

「きのうの晩、偶然通りかかって聞いたんだが」朝早く、モンスターが牧場主の勝山と顔を合わせるなり言った。「この牧場で大麻草を育てようとしているそうだな」
「何、大麻草? 勘違いだよ、それはタイム草だ」
「タイム草?」
「ハーブの一種でな。精神を落ち着かせる効能があるんだ。そうだ、お前も試してみろ」といって勝山は、煙草状のものをモンスターにくわえさせ、火を点けた。
「思い切り吸ってみな……どうだ、美味いだろう」
「確かに精神が落ち着くようだ。これがタイム草か。ハーブというのも馬鹿に出来ないもんだな」モンスターが遠い目をしてつぶやいた。
「さ、仕事だ。牛にエサをやりにいってくれ」
「わかった」
モンスターが去っていくと、勝山はひとりほくそ笑んだ。「馬鹿で無知なモンスターだ。あれこそ大麻なのに」
その日以来、モンスターはことあるごとに「タイム草をくれ」と勝山にせがんだ。一週間後にはもう立派な麻薬中毒となっていた。ひとり原っぱで横になりながら、大麻をふかすモンスター。もう仕事などほとんどしなかった。
「今まで俺は何をしゃかりきになっていたのだろう。正義のため? 正義って何だ? もうどうだっていい」
勝山がモンスターに与えたのは大麻だけではなかった。あるときは「モンスター、顔色が悪いぞ。栄養注射を打ってやろう」といって、覚醒剤を注射した。モンスターはまたもや恍惚となった。「栄養注射とはこんな素晴らしいものだったのか」
モンスターは覚醒剤をも常用するようになった。「俺は最強だ。俺は最強のモンスター、いや神だ」よく彼はつぶやいた。

ある日のこと。パトカーが五六台、けたたましくサイレンを鳴らしながら牧場にやってきた。
警官や私服刑事がつかつかと、勝山のもとへやってきた。「ここで大麻の栽培および覚醒剤の不法所持をしている者がいるとの通報が入った。あなたが牧場主ですか」
「そうですが……何かの間違いじゃないですか?」勝山はまったく何のことやら分からぬという顔をして言った。
「家宅捜索させてもらおう」
しばらく勝山の家が捜索されたが、何も薬物らしきものは見つからなかった。
「ふうむ、おかしいな」刑事が言った。「ご主人、本当に心当たりはありませんか」
「そうはいっても……いや、わかった、わかったぞ」と勝山は叫んで、「うちで雇っている一つ目のモンスターですがね、このごろ訳もなくヘラヘラ笑っているし、仕事も全然しなくなったし、様子がおかしいんですよ。あいつだ、きっとあいつが大麻をやってるんだ」
というわけで、モンスターの住む使用人小屋に捜査の手が入った。
「何だ、何事だ」モンスターはうろたえた。
「警部、大麻の吸引器がありました!」
「こっちには注射器と覚醒剤の容器らしきものがあります!」
「待て、それはタイム草と栄養剤で……」
「モンスター、観念しろ。大麻および覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕する」
「ぬれ衣だ!」モンスターは警官らを突き飛ばし、脱兎の如く逃げ出した。かつて松平平平に鍛えられた足はだてではなく、あっという間に地平線の彼方まで駆抜けていった。しかし、警察は周到にモンスター捕獲の準備をしており、ヘリコプターでモンスターを追跡し、機関銃を掃射、また容赦なくミサイルを撃ち込んだ。
「こうなったら薬が体から抜けるまで逃げ回ってやる」モンスターは一人つぶやいて逃げ続けたが、雨あられのように降りそそぐ爆弾と催涙弾に、体力はみるみる消耗していった。
モンスターが北の原野を逃げ惑う姿は、全国にテレビ中継された。不世出の正義感にして大富豪、一つ目のモンスターに薬物疑惑! 少年少女たちは目を疑った。地に墜ちたヒーロー。汚れた英雄。モンスター、もう逃げないでくれ! 子供たちは叫んだ。
ついにモンスターの頭上に原子爆弾が落とされ、不気味なきのこ雲が立ち昇った。するとさしものモンスターも観念したのか、煙の中から手を上げて進み出て、全面降伏の意を表した。
無数の戦車、パトカーに囲まれ、モンスターには手錠がかけられた。彼の一挙手一投足を全国民が注視していた。サイレンの音にまぎれて、彼の声が聞こえてきた。
「今回は決して手を染めてはいけない薬物というものに手を出してしまい、皆様には大変な迷惑をおかけしました。これからは介護の勉強をし、少しでも世の中の役に立てるよう頑張ってまいります」モンスターは深々と一礼した。
モンスター、あっさり罪を認めるのか? それにお前は介護の仕事などに収まっていられる男なのか?
物語はさらに続く。


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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