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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:43:05

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No.19
2009/10/15 (Thu) 22:20:22

「さっき通り過ぎたのは、長吉か」
 摩吉が女房に尋ねた。
「そうらしいね」
「あいつ、また畑を作る気か。これで三度目か」
「四度目だよ」
「何度失敗したら気がすむんだ。お天道様が昇らなくなってからというもの、俺らの仕事はもうあがったりだ。だがあいつだけは諦めずに野良に出かけていくんだもんな」
「ああ、こっちの畑が駄目なら、土がよくないのかも知れねえって、また別の土地を耕しに行くもんね」
 二人は呆れ顔で話し合ったが、しかし心の底では、百姓仕事を決して諦めない長吉に対し、少しばかり畏敬の念を持っていた。
 摩吉が言ったとおり、だいぶ以前から、太陽が昇らなくなっていた。理由は誰にもわからなかった。ただひたすらに夜が続いた。月は以前のように昇ってくるが、永遠に続くかと思われる星月夜だった。農家はそれ以来、カイワレダイコンやモヤシなど、日の光のいらない作物を、ほそぼそと作っていた。その中でひとり長吉は、豆だの芋だのといった、日光を必要とする作物を作ろうとした。
「月や星の光でも、育つようになるかも知れねえ」
 そう言って長吉は、来る日も来る日も、土を耕し、種をまき、水をやった。
「月に憑かれて頭がおかしくなったんじゃねえか」
 村人は、星月夜の下で黙々と農作業を続ける長吉を見て、言った。しかし、変人扱いされながらも、夜空のもとで懸命に鍬を振るう彼の姿は、どことなく崇高だった。
 長吉は、月が昇ると起きだして働き、月が沈むと帰って休んだ。月が、かつての太陽の代わりだった。月が白くても青くても、あるいは黄色くても赤くても、長吉の生活は変わらなかった。餅をつく月の兎は、長吉の友だった。北斗七星の柄杓(ひしゃく)は、畑に水をやる長吉を、見守っていた。
 夜が続くようになってからの、長吉の四度目の畑作りは、どこで行われているのか、村人たちは知らなかった。月が昇ると、長吉は農具を持って、どこか知らない場所へ出かけていくのだった。そして月が沈むと、いつもと変わらぬ表情で帰ってくる。
 長吉は喜怒哀楽というものを、めったに表にあらわさなかった。また無口だった。隣に住む摩吉も、彼とは挨拶をかわす程度だった。
 永遠に続くかに思われる夜。村人たちは灯火のもとで、なすことも少なく無力感に襲われつつあった。ただ子供たちだけが元気よく、星空の下で遊びまわっていた。
 そんなある日、月が沈むころのことだった。
「豆がとれたぞ」
 ひっそりとした村に、そんな声が聞こえてきた。それが長吉の声だと気付くのに、みな時間がかかった。村人たちが家々から出てくると、遠くから、荷車を引いてくる長吉の姿が見えた。
 皆のところにやってきた長吉の顔は、いつになく興奮して、赤くなっていた。荷車には、そら豆、いんげん豆、えんどう豆、小豆、大豆などが山と積まれていた。
「すごいな、長吉よ、どこで作ったんだ」
「丘の向こうだ。今日は初(はつ)なりの祝いだ。みんな、俺のうちに集まってくれ」
 村人たちは長吉の家に集まり、酒宴が催された。豆が煮られ、皆、たらふく食った。豆はどれも、太陽の光で育ったのと同じように、うまかった。今まであまり皆の寄り付かなかった長吉の家が、今日はにぎわい、大人や子供のうれしそうな顔がいっぱいだった。皆、口々に長吉は偉いやつじゃ、とほめたたえた。
 酒宴の最中だというのに、長吉がいつの間にかいなくなっていた。長吉はどこへ行った、と皆が言うと、ある子供が言った。
「さっき、鍬を持って出て行ったよ。今日はもう俺の気はすんだ、丘の向こうの畑は皆にくれてやるって。新しい畑になる土地を探しに行くんだって」
 そして、それ以来、長吉は帰ってこなかった。皆、八方手をつくして捜したが、その行方は知れなかった。
「あの変わり者のことだ、そのうちひょっこり帰ってくるじゃろ。あいつ、今もどこかで畑を耕してるんかなあ」
 村人たちは差し昇る月を眺めながら、口々に言い合うのだった。

(終)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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