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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:54:36

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No.243
2010/03/11 (Thu) 12:53:08

その胸を患った少年が、都会の病院から空気の良い田舎の病院に移ってきてから三日目、家族が目を離したほんの少しの間に病室から消え失せてしまった。窓がいっぱいに開け放たれ、ベッドには鳥の羽根らしきものが多数散らばっていた。
「黒鷹のしわざだ。奥さん、お子さんは黒鷹にさらわれたんですよ。不幸なことですが、いっぽうでこの地方ではこの鳥に食われて死ぬのは幸福なことだともされています。普通の人間は死んで土に返っていくのに、大空を羽ばたく鳥に食われて死ねば、文字通り天に召されるわけですからね」
そう医師は説明した。どんより曇ったその日、遠くの山の天辺ではその黒鷹が四羽、不気味な低い鳴き声で鳴きながら、輪を描いて飛び回るのが見えた。

実際その地方では、幼児が黒鷹にさらわれるということがときおり起きていたが、地元民はその鳥を神の使いとして畏れ、退治しようなどとはさらさら考えなかった。
黒鷹は夜もその大きな羽をうって飛来することがあり、どうかすると大人がさらわれることもあった。そして満月の夜などには、月に向かって飛翔するその不吉な影がよく見られた。黒鷹の巣がどこにあるのか誰も知らない。いつも高空をどこまでも舞い上がっていくことから、月に巣があるのだという伝説もあった。

ところが黒鷹の巣は実際に月にあったのである。黒鷹にさらわれた人間は、この鳥に丸呑みにされ、月までの長い旅に連れて行かれる。胸を患い病院からさらわれた少年は、黒鷹の胃の中で気を失い、少しずつ消化されながら月まで運ばれ、月面上の大きな巣のそばでげえと吐き出されてショックで目を覚ました。見ると三羽の大きなひな鳥がびいびい鳴きながら襲ってくる。彼は必死で逃げた。そこが月だとは知らなかったが、大きな岩陰に隠れてひな鳥から逃げることに成功した。
「おい」少年の後ろから誰かが話しかけてきた。見ると皮膚が薄茶色にどろどろに溶けかかった不気味な人間がそこにいた。少年は仰天してぎゃあと叫んだ。
「何も驚くことはないじゃないか。そこの水辺で自分の姿を見てごらん」
少年は言われるままに、水たまりの水面を覗き込んだ。そこには話しかけてきた奴と同じく皮膚がどろどろに溶けかかった人間がいた。
「俺たちは黒鷹に飲まれて此処まで来たんだ。長旅の間に俺たちの皮膚はこんなになってしまった」話しかけてきた少年は説明した。
「これからどうすればいいんだろう」
「来いよ。宮殿があるんだ」

少年たちが駆けていくとやがて見晴らしの良い高台に出た。そこから崩れかかった黄褐色の石造りの建造物が見えた。屋根はなかばなくなり、かつてそれを支えていたであろう円柱が多数並んでいた。二人の少年は高台を駆けおり、その「宮殿」にやってきた。その奥から、さらに三人の全身薄茶色の人間が走って出てきた。
「また仲間が増えたな」彼らも黒鷹に飲み込まれてここまでやって来たのだった。「変な音が宮殿の奥から聞こえる。別の住人がいるのかも知れない」
と少年の一人が言うやいなや、ぶんぶんと羽音を立てて、手足の異常に長い人間大の蜂が数匹飛んできた。彼らはみな金属製の槍を手にしており、少年たちを威嚇しているようだった。その蜂のような奴らは、ぶぶ、ばびぶ、と変な声で互いに会話しているようだった。
「どうする?」
「味方とは思えない。逃げよう」
彼らは言い合ったが、宮殿の奥から蜂たちが突然大群で飛んできて、あっという間に取り囲まれてしまった。そして少年たちは今度は蜂にさらわれることになった。

彼らが蜂に捕捉されて飛んでいくと、ほどなく巨大な蜂の巣と思しきものが月の砂漠に見えてきた。蜂たちは、多数ある六角形の巣穴にぽいぽいと少年たちを放り込んだ。彼らが巣穴の中を滑り落ちると、すぐに暖かな広場に出た。そこには十人ほどの地球人の先客がいた。同様に薄茶色に皮膚が溶けかかっている。彼らは蜂たちと盛んに話し合っていた。蜂の言葉が話せるようである。
「やあ、新しい仲間だね」先客の一人は言った。「ここが良い場所だと言い切る自信は俺にはないのだが、とりあえず蜂が与えてくれる蜜を食って生きていける。その代わり労働はしなければならないが」
「どんな労働ですか?」
「あれを見ろ」
蜂たちが数名、大きな本をめくって、さかんにばび、ぶぶぶ、と奇妙な声を発していた。
「あれは俺たちが蜂の言葉を覚えて書いた本だ。いや、本というより漫画だ」
「漫画?」
「ああ、ここにはこの種の娯楽は少ないんでね。見ろ、馬鹿な蜂たちが腹を抱えて笑っている」ば、びびびびびび、という気味の悪い声が、蜂の笑い声だというのだ。
「いつか故郷に帰れる日もあるだろう。さ、君たちも漫画を描いて蜂たちに奉仕するのだ」
新しく来た少年たちは最初は戸惑いながらも、やがて漫画家としての生活に慣れていった。胸を患っていた少年も、定期的に締め切りに追われる規則正しい生活のためか、いつしか病気が完治していた。そしてギャグ漫画の新境地を開いて蜂たちの読書界を風靡するようになった。
やがて月日が流れ、少年たちも年老い、次々と死んでいった。蜂たちは彼らを手厚く葬った。蜂たちは、笑いを与えてくれた地球人に心底感謝していた。

やがて地球での宇宙開発が進み、ロケットに乗った地球人が月を訪問するようになった。しかし、彼らは蜂のような月人に会うことはなかった。地球人が何の気なしに宇宙船の中で焚いたバルサンが彼らを全滅させたのである。地球人たちは、月の廃墟を探検し、かつて月人たちが住んでいた蜂の巣を発見した。そこで見つかった地球人の手になる漫画本は彼らを非常に驚かせた。月の謎の文明。その資料を地球に持ち帰り、ぜひとも研究せねばならぬ。しかしそれを阻む者がいた。蜂の巣近くに葬られていた少年たちがゾンビとなってよみがえり、月に来訪した地球人たちを皆殺しにしたのである。ゾンビたちは彼らの残したロケットを操縦し、地球にやってきた。血に飢えた彼らは地球人たちに次々と襲いかかり、あっという間にゾンビは増え、北半球全体と南アメリカ大陸を占拠した。正常人はオーストラリアにごく少数生き残っただけだった。徹底抗戦を図る人間たちとゾンビとの最後の決戦が、いま始まる。


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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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