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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:37:26

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No.255
2010/03/16 (Tue) 00:44:20

男からもらった花束は、とてもよい香りがする。
なんて名前だったかしら?とにかくとても綺麗な深紅。

放っておけば枯れてしぼんでしまうでしょう。
さりとて、活けて飾るには多すぎる。

だから、花びらを千切ってバスタブに浮かべた。
湯気で香りがむせ返る。
衣服を脱いで髪をまとめると、足の先をほんの少し、湯の中につけてみた。
適温。
身を清めて今度は肩まで、心地よい暖かさに身体を沈める。

男の顔すら、もう、忘れた。

その程度の出会いだったのだと思い直し、今、この時間のほうがよっぽど重要だわ、とひとりごちる。

そう。多分、私は孤独が好きなのだと思う。


知り合いの映像作家に、ショートムービーの主役を演じて欲しいと頼まれたとき、
感電したような感覚に襲われた。
監督である彼の作品が好きだった。
作品の力強さと繊細さが、彼の腕が本物であるということを物語っていた。
それでも、どこかで必然だと自惚れた。
「孤独な女性を撮りたいんだ」
「ええ、出来ると思うわ」
それなら、得意だわ。


清濁合わせた混沌を醜さとし
その醜い土を糧として
美しさは生まれる
その美しい花を咲かせる

孤独を胸の内に秘め。


牢獄のようなロケーションで、黒い服を身にまとった私は、
この短いセリフをとつとつと呟くだけでよかった。
あまりの簡単さに、拍子抜けした。
充実感はなかったものの、この経験は私に自信をつけた。


「なんか、違うんだよねぇ。。。」
監督の声はいつもどおりだった。ただ、その一言は重かった。
不安にざわめくスタッフの声を無視して、監督は何度も映像を再生紙、画面を凝視し続けた。
そのとき、自分が原因だとは、夢にも思わなかった。
「やっぱり、撮りなおそう」
監督はそう口に出してしまうと、スタッフにきびきびと指示を入れだした。ただ、一向に撮影が始まる気配はなかった。

君ね、と監督は私の方を向いて言った。
「綺麗だと思ったんだけど、ここは孤独がわかっている子じゃないとだめなんだ。だから、今回はもういいよ。別の子を探すことにする」
そう言うと監督は現場へと戻っていった。
否、正しくは、私が現場から隔絶されたのだ。

酷く、腹が立った。
自分が無くなるくらいに怒りで一杯になると、
今までにないくらいの大声で監督を怒鳴りつけていた。
早口でまくし立て、しまいには悔しさのあまり涙が出た。
そんな私を、彼は醒めた目で見ていた。
感情の起伏が収まるのを見計らって、彼は溜息をついた。
「じゃあ三日だけ待とう。その間に、君に僕の撮りたいものが解ったら、君を採用する。三日間じっくり考えてみて」


三日の間、部屋にひとりきりで閉じこもって考えた。
彼の言う孤独とは何だろう。
私の思うところの孤独と言うのは、孤独でなければ何だというのだろう。
彼の思うところの孤独と、私の思う孤独との違いは何なのだろう。
そもそも、孤独って何?

時間はすぐに消費され、精神的に疲弊したまま、また同じカメラの前に立つこととなった。


結果から言うと、彼は上機嫌だった。
映像は採用されたけど、その理由は解らなかった。
そう彼に伝えると、彼は出来上がったショートムービーを見せてくれた。
そこには、私と同じセリフを吐く、私とよく似た女が映っていた。
自分だと解っていても、
映像の中の私は所在無い風で、頼りなく肩を揺らし、不安に負けそうな目でこちらを見つめていたので、戸惑った。
そんな顔をした自分を、見たことも想像したこともなかった。

隣で監督が囁く。
「考えた?」
少しむっとする。
「できるだけのことは」

「おかげさまで、いい映像が出来たよ」
「そう、それはよかったわね」

「悪い部分がいい具合に削げたね」
「・・・わからないわ。私はただ考えただけだもの。答えなんか見つからなかった」
「でも、自分と向き合えたろう?」
「悪い部分しか見えなかったわ。一人で悶々と苦しんで。馬鹿みたい」

彼は子供じみた笑い方をした。
「孤独なんざ、そういうもんだろ」


                                      end.

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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