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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 19:22:36

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No.268
2010/04/06 (Tue) 10:32:53

はたして死人の生き血を吸ったあとの緑川は、とたんに生気のみなぎった顔になって登校するようになった。こいつは人間の血をエネルギー源にしている化け物だ、と青柳は確信した。そして一学期の期末試験も、緑川蘭三は全科目満点を取った。校長や教頭をはじめ管理職の者たちは、ますます緑川に期待をかけるようになった。私立高校の進学実績を上げるには時間がかかる。ここ数年、ようやく斬獄学園は国公立大学の合格者が年に数名程度でだしたところで、この学園初めての東大合格者となることが確実である二年生の緑川には、教員たちは大きな期待をかけていたのである。
こうしたなか青柳の気分を暗澹とさせたのは、校長が、緑川が吸血鬼である疑いがあるのを知っていて見過ごそうとしていることだった。

夏休みとなり、生徒たちは一週間ほどの講習会を終えると、クラブ活動にいそしんだり、遠出したり、めいめいの夏を楽しんだ。教員は、夏休みだからといって生徒と同じように休むわけにはいかない。クラブ指導を始め仕事は毎日あり、基本的に休暇は日曜だけである。青柳はサッカー部の練習を見たり、試合の引率に行ったりした。

ある雨の晩である。青柳の腹にできた蛙の顔をした大きな人面疽が、ひさびさに口を聞いた。「吸血鬼……吸血鬼たちが騒いでいるぞ……注意しろ、注意しろ」
「また殺人が起こるというのか?」青柳は言った。
しかし人面疽は「注意しろ……注意しろ」と言うばかりである。そして口をあけ急に舌を伸ばし、蝿を取って口に入れた。人面疽はさも美味そうに蝿をむしゃむしゃと食った。
「ぎゃーっ」突然、女の叫び声がした。青柳がマンションの自室を出ると、若い女が廊下を走ってきた。同じマンションの住人だった。
「そ、そこに変な男がいるんです!」女は言った。
「どんな奴です?」
「まだ若くて、ガリガリに痩せてて……そいつ、私に噛み付いてきたんです」
見ると女は左の二の腕を押さえており、そこから血がポタポタ滴っていた。
「大丈夫ですか!? 消毒しないと……ちょっと待っててください」
青柳は消毒液と清潔な布、そして包帯を持ってきて、女に応急手当を施した。
「ありがとうございます……私、向うの端の部屋ですけど、もう戻るのが怖くて……もしよろしければ、一緒についてきてくださいま、ウギャーオ!!」と女は突然ゾンビのような灰色の顔になって、青柳に噛み付こうとした。そのときである。青柳のシャツの腹の部分から黄色い液体が飛び出し、女の眼に入った。毒液だ! 女は目を押さえて苦しみもがき、断末魔の叫びを上げながら倒れ、体は猛烈な勢いで腐りだし無数の油虫が体内から這い出て、最後はすべてが泡になって溶けてしまった。
「見ろ……吸血鬼の残骸だ……悪の匂いだ……」青柳の腹から、人面疽がつぶやいた。人面疽の毒液に青柳は救われたのだった。
「まだ吸血鬼はそこらにいるぞ……油断するな……」
そのとき、パトカーのサイレンが雨の街を切り裂いて鳴り響いた。今夜のこの街は犯罪の匂いに包まれていた。神経が高ぶり感覚が鋭敏になった青柳には、闇の中を邪悪なものが跳梁跋扈し、絶えず獲物を狙っているのが感じられるようだった。

「またもバラバラ殺人、犠牲者は二十代の女性」次の日の新聞の一面トップの記事がそれだった。「遺体からは血が抜かれる、警察は一連の殺人事件と同一犯であると断定」とも書かれていた。してみると昨日のパトカーのサイレンは、青柳の見知らぬバラバラ殺人を意味していたのかも知れない。
「フフフ……面白くなってきたぜ……敵は緑川だけじゃない……油断するな」人面疽はそう呟いた。

(つづく)

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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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