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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 18:07:34

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No.277
2010/04/10 (Sat) 23:41:14

熊沢病院から出て、向いの丑寅病院をちらりと見上げたモンスターは、一つため息をついて近くの古びたうどん屋に入っていった。
「誰もいないのか?」
「何でえ、客か?」と、小柄でごましお頭の老人が出てきて言った。色黒で目が細く、驚いたことにその顔や胸には血しぶきがたくさん付いていた。
「おやじ、天ぷらうどん一つ」
「ああ、分かったよ。ちょいと待ってな」
「おやじ、その血、怪我でもしたのか?」
「これか? どうってことねえよ」
そのとき、隣からコンコンコン、という大工仕事をする音が聞こえてきた。
「うるせえな、こんちきしょう!!」うどん屋のおやじは怒鳴り、木製のバットを持って表へ出て行った。やがて大工仕事の音がやみ、おやじが戻ってきた。バットは血だらけで、おやじの顔は返り血でさらに真っ赤になっていた。
「いやね、隣は棺桶屋なんだが、このところ殺し合いが多くて儲けてるのはあいつだけってんで、こちとら頭に血が昇ってんでさぁ」
「棺桶屋を殺したのか?」
「なあに、死なねえ程度にいたぶってやったのよ」ケケケ、とうどん屋は笑った。
「ところでおやじ、勘定のことなんだが」
「分かってるよ、カラッケツなんだろ。顔を見りゃ分かるぜ……しかし何ちゅう顔だおまえ? 目が一つしかない上に鼻がつぶれてまっ茶色な顔して、髪の毛が一本もない」
「いや、放射能障害でな。勘定はあとで十倍にして返してやるぜ。熊沢と丑寅のケンカでひと暴れすりゃ、たんまり銭が入りそうだからな」
「やめてくれ!! これ以上死人が出るのはまっぴらだ。勘定なんか要らねえから早くこの街から出てってくんな」
「そう怒るなおやじ」
そのとき、小太りの白衣を着た男がうどん屋に入ってきた。その男は入り口に突っ立って、モンスターをじろじろ眺め回す。
「なんだよ?」モンスターが言うと
「丑寅病院の内科医、丑寅胃の吉(うしとら・いのきち)ってもんだ。おまえ、そうとうのもんだな。四人もの猛者を瞬く間に殺しちまった。俺は強いヤツが好きでな」
「自分のところの手下が殺されて腹は立たないのか」
「あんなの、どうってことねえよ。それより丑寅病院にちょっと足を運んでくれねえかな。こっちの用心棒になってくれたら、これはたんまりはずむぜ」と言って胃の吉は親指と人差し指で輪を作って見せた。
「よし、うどんを食い終わるまで待ってろ」

「おお、来たな、お客人。私はこの丑寅病院の院長、丑寅小太郎という者だ。俺はお前の腕に惚れた。いきなりだが、この病院の用心棒になってくれないだろうか。五十万円出す」
モンスターはすぐに腰を上げて「悪いが熊沢病院に戻らせてもらおう。あっちならもう少し出しそうだ」
あわてた院長は「いや、百万円出そう」といったが、モンスターは構わず帰ろうとする。「ええい、二百万でどうだ。いや五百万! 駄目か。一千万! 二千万! 五千万!」
「はっ。話にもならないな」とモンスター。
「ええい、一億!」
するとモンスターはやっと院長のほうを振り向き「五十億もらおう。まず前金で二十五億。ケンカに買ったらもう二十五億」
院長は腰を抜かしたように病院の玄関に座りこけたが、すぐに威儀を正して
「よーし、いいだろう。おい、二十五億もってこい」
やがてモンスターの前に銀色のアタッシュケースが山と積まれた。

モンスターは奥の間へ通され、酒さかなが彼の前に並べられた。
「さっ、顔つなぎにひとつ」と言って丑寅院長は徳利を差し出した。モンスターは黙って杯を受ける。「ここに控えているのは丑寅病院最狂患者四天王だ。左から塗りかべの哲郎、橋渡しの淀五郎、黄色い救急車の喜八、般若丸レクターだ」
するといかにも狂人面をした四人の若者が順に会釈した。いずれも顔中に傷を負っており迫力のあるメンバーだ。
「そして、もう一人のうちの用心棒、小柳道太郎先生……先生、困るなぁ。そんな端っこに座ってられちゃ」
「俺は此処でいい。二万五千円と五十億円では格が違うからな」と小柳は言った。「おい、今どき交通量調査を三日もやりゃ二万五千ぐらい稼げるんだぜ。これで命を張れっていったって無理だよな。え? え?」
愚痴を述べる小柳を無視して丑寅院長は言った。「さあ、今夜はうたげだ! 女ども、用意はいいか!」
するとアコーディオン・カーテンが開けられ、頭を島田に結ったビキニ姿の若い女たちが十数名現れたかと思うと、踊り狂いながら三味線でジャニス・ジョップリンの「ダウン・オン・ミー」を弾き始めた。
モンスターのそばにいつの間にか太った中年女が近づいてきて「あたしは院長夫人の兼子。どうだい、いい女たちだろう?」
「何なんだ、この女どもは?」モンスターがいうと
「うちの患者の中の綺麗どころさ。ね、たまってるんだろ? よりどりみどりだよ。気違い女ってのもいいもんだよ」と兼子。
「いや、危ない、危ない……遠慮しとこう」モンスターはそう言うと、さっさと部屋から出て行った。

(つづく)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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