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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:56:34

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No.330
2010/08/05 (Thu) 14:34:50

少年野球チームIRバイアンズは、非情なコーチ岸川と、厳格な監督・一つ目モンスターの指導のもと、日々激しい練習を行なっていた。怠惰な選手はどんどん処刑され、選手たちの死に対する感覚は麻痺しつつあったが、なんとかこの体制で一カ月が過ぎ去った。選手たちはみな中学生だったが、今や彼らの顔からは少年らしい純朴さが失われ、その表情には手負いの狼のような闘争心と残忍さが宿っていた。最初三十人いたメンバーも、今では十四人。選手たちの過半数が岸川とモンスターによって殺されたことになる。しかし残った選手はえり抜きの「野球の虎」であった。
そしてモンスターが監督となって初めての試合が行なわれることになった。試合の三日前、モンスターは岸川と相談して決めた先発メンバーを発表した。
「一番・センター、愚呂(ぐろ)! 二番・セカンド、獄目鬼(ごくめき)! 三番・ファースト、火戸羅(ひどら)! 四番・サード、斬仁(ざんにん)! 五番・ライト……」
名前を呼ばれた選手も先発から外れたメンバーも、一様に不気味な笑みを浮かべ「イヒヒヒヒ」「ウケケケ……」などと奇声を発していた。

試合当日。空はどんよりと曇り、あたりにはかすかに血の匂いがただよい、野球場は不穏な空気に包まれていた。
モンスターが球場に来ると、岸川と選手たちはすでに着換えていて、スパイクの手入れをしているようだった。
「スパイクを磨いているのか。初心を忘れないのは大事なことだからな」モンスターが言うと岸川は
「いや、スパイクの刃にストリキニーネを塗ってるんですよ」
「ストリキニーネ? それは毒だろう。スパイクで相手を殺す気か?」
「え? 試合というのは仁義なき戦いですよ。試合ではスパイクにストリキニーネは常識です。な、野郎ども!」
「おす!」選手たちが応じた。
「まあ、なるべく穏やかにやってくれ……ところで手提げ金庫がベンチにおいてあるが、あれは何だ、岸川?」
「ああ、忘れていた……いや、IR鉄道というスポンサーがついている以上、こいつらはプロなんすよ。プロのやる気を引き出すには、何をおいても実弾です」そういうと岸川は金庫をあけ、中から札束を次々に取り出し、ベンチの奥に積んでいった。
「球場で金をやることはないだろう?」
「え? ヒットを打ったり三振を取ったりするたびに選手に金をやるんすよ……これぐらい常識です。監督、大丈夫ですか?」
「……知らなかった。少年野球の『やる気』は現金に支えられてるんだな」
「当然ですよ」

さて試合が始まると、岸川は宣言したとおり、選手がヒットを打つと即十万円、ピッチャーがピンチを抑えると即三十万円、といった具合に惜しげなく現金を渡していった。しかし怠慢プレーに対しては相変わらず厳しく対応し、エラーをしたショートの選手はベンチに戻ってくる前に岸川によって射殺された。
試合は、互いに点が入らない投手戦になった。六回を終って0対0。岸川は、七回表の攻撃に入ると、具体的な指示を選手に与え始めた。
「いいか、初球はカーブを狙え。それ以後ツーストライクまでは真っ直ぐ一本に絞るんだ」
すると一番・愚呂はみごとに初球のカーブを叩き、センター前のクリーンヒット。
二番・獄目鬼は送りバントをしたが、それが相手の野選とエラーを誘い、ランナー一・三塁となった。
「よし、ツーストライクまでは真っ直ぐ一本に絞っていい。追い込まれたら外角球の見極めに気をつけろ。今日のストライクゾーンは外に広いからな」
すると三番・火戸羅は走者一掃のタイムリー・ツーベースを放ち、バイアンズは2対0と勝ち越しに成功した。
しかし四番・斬仁は初球で頭部にデッドボールを受け、血の気の多いバイアンズの選手たちはグラウンドになだれこんだ。すわ乱闘かと思われたそのとき、監督のモンスターが
「引け、野郎ども! すぐベンチに戻らんと内臓を引きずり出すぞ!」と一喝、すると選手たちは冷や水を浴びたように動きを止め、ベンチに戻ってきた。しかしコーチの岸川は監督の意思を無視して愛用のコルト・バイソンを発砲し、相手チームのピッチャーの脳天を撃ちぬいた。
ピッチャー交代、次のバイアンズのバッターは五番・鹿羽根(しかばね)。相手投手はマウンドに散らばる前のピッチャーの脳味噌を見て、明らかに動揺していた。
「いいか、前のピッチャーがぶち殺されたんだ、絶対に内角には来ない。外一本で絞っていけ」
五番・鹿羽根は、力のない外角の直球を狙い打ちし、打球はぐんぐん伸びてライト・スタンドに吸い込まれていった。ホームランだ! 鹿羽根は斬仁に続いて、ゆっくりダイアモンドを一周し、ホームに戻ってきた。岸川は彼に「よくやった! 貴様には一千万円だ!」と言って札束をどんと手渡した。
鹿羽根のツーランで4対0となり、試合はそのままのスコアでゲーム・セットとなった。
試合を一人で投げきり、みごとに完封したバイアンズのピッチャー・剃度場(ぞるどば)には現金二億円が贈られた。
「いやー、本当に勝って良かったっす」試合後、岸川は笑顔でモンスターに話しかけた。
「いや、たしかに良かったな。ただ金を使いすぎた気がしないでもないが……」
「まあ、うちは親方日の丸みたいなもんすからね。心配ないですよ」
「しかし中学生に二億円だぞ。人生狂っちまうんじゃないのか?」
「剃度場ですか? まぁもともとクルクルパーですが、まんいち頭がおかしくなったらすぐぶち殺しますんで」
「お前は楽観的だな。俺はどうもこのチームの行くすえが恐ろしいよ」

そう、まだまだ楽観は許されない。IRバイアンズはきょう船出したばかりなのだ。
真っ赤に煮えたぎる血の海を航海するごとく、モンスターとバイアンズの行く先々には危険が待ちうけ、不安の暗雲が大きくたれこめていたのである。

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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