『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.357
2010/10/09 (Sat) 03:57:40
恩制賜食於麗正殿書院宴賦得林字 張説
東壁圖書府 西園翰墨林
誦詩聞國政 講易見天心
位竊和羹重 恩叨醉酒深
載歌春興曲 情竭爲知音
この書院の東側は、天上の東壁の星にもなぞらえられる図書の蔵。
この書院の西園にもなぞらえられる、文学のゆたかに栄える林。
その書院でわが君は、「詩経」を読んでは国の政治の実情をご聴取になり、
「易経」を講じては天のみ心をみそなわすのである。
私の地位は、おおけなくも宰相の重任をわがものとしているのに、
君のご恩の深さは、その私に十分の酔いを授けたもうた。
そこで私は、春のしらべをこめたひとふしをうたう。
その中に私の真情をかたむけつくしたのは、ほかでもない、真に音楽を理解してくれる人(そして私を真に理解してくれる人)――わが君のためなのだ。
(前野直彬訳)
さてこの国の君主に仕えるようになって、はや半年。この宮殿で王族や貴族の子弟たちに数学を教えるのもだいぶ慣れてきた。かたじけなくも定期試験を作る栄誉にめぐまれ、有り難さと身の引き締まる思いを感じつつ、試験前の忙しい日々を送っている。
毎日の授業は規則正しく礼に始まり礼に終る。ややお脳の足りぬご子弟たちの組では、数学の授業中に突然マーチン・ルーサー・キングの演説を大声で朗読し始める生徒もおり、負けじと後ろの席の生徒が枕草子を朗読するという、混沌とした授業になることもままあるのだが、それでもここで働ける有り難さは筆舌に尽くしがたいほどだ。
しかしこのごろの世の情報洪水、とくに性に関する情報の氾濫は、私のあずかるご子弟たちに確実に悪影響を及ぼしている。とくに中等部の小さなお子たちが、その種の下劣な言葉を口に出されるのを見ると、わが君主に思い切って諫言し、この国での情報の制限をご提案しようかとも思うほどである。私は憂えている。悪しき情報がご子弟たちへの日々のしつけを台無しにして、しまいにはお子達がお子達どうしで子作りを始めるのではないかと。
それはともかく、今日は授業後は試験作りに励んだ。男女四人ずつ計八人が、特定の男女が隣り合いつつ、男女交互に輪になって並ぶ方法は幾通りか、などと少々頭のお弱いご子弟におかれては難渋するであろう問題も混ぜておかなくてはならぬ。たとえ高貴の生まれでも、不断の訓練によって学問は成るものだ、とお分かりいただかなくてはならない。数学に王道なし、である。
授業中「師よ、汝の体重はいかほどかや」と戯れにお尋ねになった姫君の一人。私にとってはあまり答えたくないご質問だったから、思わず「では姫君のご体重を先にお伺いしましょう」と言ってしまった。「こりゃ、お前は女性(にょしょう)に体重を尋ねるのか」とお怒りのご様子。私は話をはぐらかそうと、姫君の御かばんについている小さな人形を指さし「これは何という人形でございますか」。すると姫君は眉をしかめ「もうよい、あっちで江姫(ごうひめ)が質問しておる、答えてまいれ」。私はすごすごと引き下がり、江姫の御用を承りに行った。
体重の件は失言であったが、王族・貴族のご子弟だからといって、恐れ入って畏まってばかりでは、相手は心を開いてくれない。そこで教師の側でも多少ぶしつけな発言もさせていただくのである。
今日も骨が折れた。ゆっくり休んで明日に備えよう。
(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
東壁圖書府 西園翰墨林
誦詩聞國政 講易見天心
位竊和羹重 恩叨醉酒深
載歌春興曲 情竭爲知音
この書院の東側は、天上の東壁の星にもなぞらえられる図書の蔵。
この書院の西園にもなぞらえられる、文学のゆたかに栄える林。
その書院でわが君は、「詩経」を読んでは国の政治の実情をご聴取になり、
「易経」を講じては天のみ心をみそなわすのである。
私の地位は、おおけなくも宰相の重任をわがものとしているのに、
君のご恩の深さは、その私に十分の酔いを授けたもうた。
そこで私は、春のしらべをこめたひとふしをうたう。
その中に私の真情をかたむけつくしたのは、ほかでもない、真に音楽を理解してくれる人(そして私を真に理解してくれる人)――わが君のためなのだ。
(前野直彬訳)
さてこの国の君主に仕えるようになって、はや半年。この宮殿で王族や貴族の子弟たちに数学を教えるのもだいぶ慣れてきた。かたじけなくも定期試験を作る栄誉にめぐまれ、有り難さと身の引き締まる思いを感じつつ、試験前の忙しい日々を送っている。
毎日の授業は規則正しく礼に始まり礼に終る。ややお脳の足りぬご子弟たちの組では、数学の授業中に突然マーチン・ルーサー・キングの演説を大声で朗読し始める生徒もおり、負けじと後ろの席の生徒が枕草子を朗読するという、混沌とした授業になることもままあるのだが、それでもここで働ける有り難さは筆舌に尽くしがたいほどだ。
しかしこのごろの世の情報洪水、とくに性に関する情報の氾濫は、私のあずかるご子弟たちに確実に悪影響を及ぼしている。とくに中等部の小さなお子たちが、その種の下劣な言葉を口に出されるのを見ると、わが君主に思い切って諫言し、この国での情報の制限をご提案しようかとも思うほどである。私は憂えている。悪しき情報がご子弟たちへの日々のしつけを台無しにして、しまいにはお子達がお子達どうしで子作りを始めるのではないかと。
それはともかく、今日は授業後は試験作りに励んだ。男女四人ずつ計八人が、特定の男女が隣り合いつつ、男女交互に輪になって並ぶ方法は幾通りか、などと少々頭のお弱いご子弟におかれては難渋するであろう問題も混ぜておかなくてはならぬ。たとえ高貴の生まれでも、不断の訓練によって学問は成るものだ、とお分かりいただかなくてはならない。数学に王道なし、である。
授業中「師よ、汝の体重はいかほどかや」と戯れにお尋ねになった姫君の一人。私にとってはあまり答えたくないご質問だったから、思わず「では姫君のご体重を先にお伺いしましょう」と言ってしまった。「こりゃ、お前は女性(にょしょう)に体重を尋ねるのか」とお怒りのご様子。私は話をはぐらかそうと、姫君の御かばんについている小さな人形を指さし「これは何という人形でございますか」。すると姫君は眉をしかめ「もうよい、あっちで江姫(ごうひめ)が質問しておる、答えてまいれ」。私はすごすごと引き下がり、江姫の御用を承りに行った。
体重の件は失言であったが、王族・貴族のご子弟だからといって、恐れ入って畏まってばかりでは、相手は心を開いてくれない。そこで教師の側でも多少ぶしつけな発言もさせていただくのである。
今日も骨が折れた。ゆっくり休んで明日に備えよう。
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
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