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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:55:57

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No.429
2011/04/09 (Sat) 20:15:35

 深夜。

 ベッドに横たわる青白い顔の少年は、ぐっしょりと汗をかき、数時間前から激しいあえぎ声を上げて苦しんでいた。緑川蘭三だった。
「血が、血が足りない! もっと血が欲しい! ちくしょう、俺の体はどうなっちまったんだ? これまでは上手くやってきたのに! 内臓がちくちく痛みやがる、骨がぎりぎりと今にも砕けそうだ、もっと血が欲しい! 俺はきっと成長期なんだ」
 蘭三の母は彼の手をしっかり握ってやることしか出来なかった。彼の苦痛をやわらげる術を知らなかった。
 ふいに蘭三は落ち着いた声で言った。
「母さん。僕には仲間がいることを知ってるだろう……母さんも、そろそろ仲間に入りなよ」と言うなり蘭三は母親の頸動脈に牙を立てた。

 血の気を失いぐったりした緑川の母と蘭三の前に、人影が現れた。
「蘭三。とうとうやってしまったな」そこには蘭三の父親が立っていた。その手にはライフル銃が握られている。

 河合虎児郎(かわい・こじろう)刑事は、緑川邸の裏手に車を止めて、蘭三の様子をうかがっていた。不可解な苦痛のうめき声がずっと続き、河合刑事も何事かが起こればすぐに行動に移れるよう身構えていた。助手席には部下の村松がいたが、同じように緊張した面持ちだった。そのとき、大きな銃声が緑川邸から聞こえてきた。
「村松、行くぞ!」河合刑事は緑川邸の玄関の扉を開けようとしたが、鍵がかかっていた。カーテンで閉め切られていたリビングのガラス戸の一部を石で壊し、そこから二人の刑事は侵入した。しばらく辺りを見回していると、二階から緑川家の主人・哲郎氏がライフルを持って、階段を転げ落ちてきた。
「どうしたんです?」河合が尋ねると、哲郎氏は息も絶え絶えに
「家内も吸血鬼になってしまった……息子と家内は二階の窓から出て行った……息子は危険だ……息子は、私の息子は、殺してしまわなきゃならん」
「村松、救急車を呼べ。俺は逃げた二人を車で追いかける」
 河合刑事は車にサイレンを取り付け、それを鳴らしてアクセルを踏んだ。

 そのとき体育教師の藤堂は、学校から近い自宅アパートで、大きないびきをかいて眠っていた。蒸し暑い夜で、玄関の扉を開け放っていた。無用心だが、この辺で起こる物騒な殺人事件はすべて藤堂が関係していたから、別に怖いものは無いと思っていた。
 そこへ、緑川蘭三と、若い吸血鬼仲間五、六人が忍び込んできた。
「藤堂先生」緑川が抑揚のない声で言った。「藤堂先生」
 藤堂がまぶたをこすって眼を開けると、そこに数人の人影が見えた。みな手にバットなどの棒状のものを持っているらしい。
「先生にも仲間になってもらわなきゃ」蘭三は言った。「言ってること判る? これまでの関係はもうおしまいだ。先生にも吸血鬼になってもらうよ」
 若者たちは藤堂の体を押さえつけようとしたが、藤堂は枕元に横たえてあった日本刀で抵抗した。
「藤堂、無駄だよ。吸血鬼に太刀打ちしようだなんて」緑川は顔に血しぶきを浴び、微笑みながら言った。「無駄だってば」

 河合刑事は、道のあちこちで血を吸い取られた死体を見つけた。吸血鬼どもは、大々的に人間への攻撃を始めたのだ。河合は警察本部に応援を要請した。しかし救援のパトカーのサイレンは、いつまで経っても聞こえてこない。河合はその不思議さと、いつもと違うこの町の雰囲気を感じ取っていた。暗闇からいつ魔物が出てきてもおかしくないような、血の匂いの混じった殺気だった空気。
 耳を澄ませていると、男の野太い叫び声が遠くから聞こえてきた。

 斬獄学園のベテラン体育教師・富沢は、なんとなく寝付かれず、ビールを飲みながらテレビの深夜番組を見ていた。妻と二人の子供は、奥の部屋で寝静まっている。
 玄関のチャイムが鳴った。「富沢先生、緑川です。急用です。開けてください」
 富沢がドアを開け、門の外にいる人影に対し「おい、うちには来るなと言ってあるだろう」と話しかけると、スイカぐらいの大きさのものが彼の胸元にどさっと投げつけられた。
 富沢が受け止めると、表面がぬらぬらしており、玄関の明かりで自分のパジャマがみるみる赤く染まっていくのがわかった。
「富沢先生、それが何か判る? 藤堂の首だよ。そいつ、仲間にしようと思ったんだが、刀で抵抗したんでね。首をちょん切ったよ。先生もそうなりたくなかったら、おとなしく俺たちの仲間に入るんだね」
 富沢はしばらく無言で立ち尽くした。そして家の奥に戻ると、名刀正宗を持って表に出てきた。その目は吸血鬼に負けず劣らず殺気に燃え、蒼白な顔に微笑さえ浮かべていた。
「蘭三、この先生も歯向かう気だぜ」
 富沢は乱杭歯をむき出し、押し殺したような声で言った。
「緑川、こうなったら何もかもおしまいだ。俺にはもう地位も名誉もない。むしろさっぱりした気分だ」そして深く息を吐き「これだ……これだよ……この生きるか死ぬかの緊張感がたまらんのだ」と言いつつさやを払い、白刃をきらめかせて蘭三たちの人影に斬り込んでいった。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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