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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:57:57

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No.442
2011/07/24 (Sun) 01:07:07

 無意識の海の中で声にならない声を上げ、その声の奇妙さに驚いて目を覚ます。
悪夢につきものの寝覚めの悪さというものだ。
嫌な夢というのは大抵の場合何らかの(ほぼよろしくない事柄の)兆候であったり、さらに最悪なことには、予知夢であるということがある。


寝ぼけ眼で仰ぎ見た空は青白みがかっていて、徐々に明るさを増していった。漸く朝が始まるところだ。
時計を見るまでもない。
約束の時間まで、まだまだ長い。
私は、もたげかかった頭をまた寝床に戻した。
ここは現実なのだ、という安堵。
夢から逃げるように覚醒したものの、体はまだ寝ていたい。
そういう心境のもと体を丸めて息をひそめながら、さざ波のようにやってくるまどろみを楽しんだ。

それにしても嫌な夢だった。
大きな少女に追いかけまわされ、足を引っ張られそうになり、挙句の果てには背中から踏みつぶされそうになる夢だった。
もともと子供は嫌いなのだ。
無神経に近づき、頭をくしゃくしゃに撫で回し、髭や耳をを引っ張り、不愉快そうな顔をすれば可笑しいと笑い、逃げればどこまでも追いかけてくる。まったくもって理解不能な生き物だ。
元来、私の外見は温和で、不本意ではあるが愛嬌があるほうらしく、、人に警戒心を持たせない。そのために子供たちはあんなに無遠慮に振舞うのだろうか。しかし、無邪気さと残酷さは紙一重だ。フロイト的にも、そういう解釈がなされるのではなかろうか。
。なんにせよ、会話が成り立たず、意思の疎通が不可能な者と関わってもろくなことはない。

そして・・・追いかけられるのはさらに嫌いだ。
周りの空気や目の前の脅威に対して、皮膚感覚は非常に敏感に察知してしまう。
そして脳が信号を発する前に、筋肉の条件反射が脚に鞭を打つ。
はたから見れば小心で臆病と映るだろうが、それこそ不本意と言わざるを得ない。
ただ、立ち向かい攻撃を仕掛ける度量も術をも持たないのも事実。
否、素早さと後ろ脚の強さに優れているのだということにしておこう。
例えその場を後にしたとしても、生きてさえいればその場にまた戻ることも、作戦を練って挑みなおすことも可能なのだ。
そうとも、私は弱く、生きるためにその場から逃げだすことだってある。
まるで、脱兎さながらに後ろ脚で強く蹴りあげ、腕を精一杯伸ばして、一筋の光になったように空を切る。
もしかしたら、生き物は脅威(あるいは自然界の食物連鎖)から逃げることにより進化を遂げて来たのかも知れないな。生死紙一重の生存競争から離脱する為に、さらにより良い条件、より良い環境で生きていく為に。
それこそ世界の思うつぼで、面白い方向に成長を遂げていくのを天上から見ている誰かさんが居るのかも知れないけれども。
雑念に駆られた途端に視界がぶれ、私は走っていた地面が崖崩れを起こしたのに伴い、バランスを失ってそのまま地面めがけて真っ逆さまに落ちていく―――。

額からはじわりと汗が噴き出していた。硬直した手足の先は冷え、荒くなった息をやっとの思いで整えた。
心臓の音が耳に直接振動として響いてくる。
なんなんだろう。この、夢の中でどこぞから落ちた時に感じる非常に凄まじい衝撃は。
というよりもいつの間に眠っていたのだろう。時計を見ると、さほど時間は経っていない。いよいよ、気味が悪くなってきた。
夢見の悪い時は、いつだってろくなことがない。
私はとりあえず起き上がり、今日の待ち合わせのための準備だけを始めることにした。
まず服を着替え、こざっぱりとしたチョッキを羽織る。
そして大切にしている懐中時計のねじを巻き、携えておいた。
帽子をかぶるかは大いに迷ったが、それは家を出る時に考えることにした。
顔を洗い、食事を済ませるといくらか落ち着いた。
準備を早々にしておくと、心に余裕が生まれる。
ソファーにゆったりと腰を下ろし、淹れたてのコーヒーを啜る。
夢の中のあの焦燥感、走っているときの余裕のなさが嘘のようだ。
しかし夢は所詮夢にすぎない。
私は元来こうして穏やかな時間をたっぷり使ってじっくりと考え事をするのが好きなのだ。
脅威からは逃げなければならぬ。だが、好き好んで誰がバタバタと走りまわらなければならぬのだ。
逃げれば追い、追えば逃げるのが恋の法則と誰かが言っていた。
でもそれでは埒があくまい。
捕まったからとてとって喰われるわけでもないのだから、一度立ち止まって向き合ってみるべきだ。
だからと言ってあの巨大な少女と向き合うなんざ願い下げだが。
そういえば少し前に仲良くなったあの娘は元気だろうか。また近いうちに会ってみようか。
何歳になったところで、恋愛というものはいい。
彼女のことを考えるだけで顔色が上気するのがわかる。年甲斐のない、と言われようと、相手を好きになる感性はいつまでも持っていたいものだ。彼女もそうであればいいと思うのだが・・・。
しかし、本当に暑くなってきた。どういうわけだろう。まるで日中のような・・・。

まどろみをかき消し、慌てて時計を見ると、約束の時間はとっくに過ぎていた。
・・・やってしまった。
寝覚めに考え事をしてしまうと止まらなくなるのは構わないが、夢とも現ともつかなくなるのだから始末が悪い。
もともと白い顔を紙のように白くさせ、私は懐中時計を握りしめてわき目も振らずに飛び出した。

その道中、嫌な予感が脳裏をよぎる。

後ろに誰かいる。

まさか。

恐る恐る振り向くと、そこには人間の少女がいた。
目が合うやいなや、眼をパッと輝かせ捕まえようと手を伸ばしてくる。
「あん、待ってようさぎさん、どうしてチョッキを着ているの?」
「アリス、どこにいるの?」
「ねえ、お姉ちゃん!お姉ちゃん!!うさぎがいるわ!!早く来て!うさぎが逃げちゃう!!」


ああ。これが夢なら早く醒めて欲しいものだ。


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快文書作成ユニット(仮)
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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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