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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:52:35

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No.46
2009/10/16 (Fri) 01:07:28

 数日後、アデラインはウォルトンに連絡を入れ、自宅に招いた。ロジャー祖父が姿を変えて蘇ったことは伏せておいた。
「いらっしゃい、ウォルトンさま。どうぞおかけになってください。ただいま祖父を呼んで参ります」
「なんですって?」
「祖父は生き返ったのです。おじいちゃま?」
 ロジャー祖父の精神の宿った黒い箱型のロボットが、静かに室内に入ってきた。
「こちらが祖父のロジャーですのよ」
 ウォルトンは疑わしげにロボットをジロジロと見た。
「おお、久しぶりだな、ウォルトン」ロボットが口を聞いた。
 ウォルトンはギクリとし、一瞬、警戒の表情を浮かべたが、すぐに愛想のいい顔になって、
「お久しぶりです、ロジャーさん。その節はいろいろとお世話になりました」
「うむ、わしのほうこそ、財宝探しなぞという愉快な仕事をさせてもらって感謝してますぞ」
「……あ、あのプラチナの件でございますね、ときにロジャーさん、あなたの最後の通信があいまいな内容だったもので、ちょっと気にかかっていたんですよ。結局プラチナは見つかったんでしょうかね?」
「いや、わしは見つけることが出来なんだ。もう少し探索しようと思っていたところであの流星にやられてな。それから先はお前さんがおそらくよく知っておろう?」
 ウォルトンは少し黙って無愛想に目を細め、黒いロボットをじっと見つめていたが、またすぐにニコニコ笑って、
「そうでしたか、それは残念でした……いやしかし、こうして生き返っておいでになったとは、お宝の発見にもまさる喜びです。今日は商用があってこれで失礼させていただきますが、どうでしょう、またお邪魔させていただいてよろしいでしょうか。積もるお話もありますし」
「うむ、構わんよ」
 ウォルトンはそそくさとアデライン邸をあとにした。明らかに動揺していたようだった。

「奴め、わしを殺そうとした計画がバレていたこともうすうす気付いておるようじゃな」
「そんな感じだったわね。でも彼、もう一度来るって言ってたけど、呼んじゃっていいの?」
「わしは一度死んだ身だ、相手がどう出ようと恐れることはないさ。それよりアデライン、このあいだプラチナはお前にやろうって言ったね。気が進まない様子だったが、受け取ってはくれぬのか」
「あたしはそんなもの、どうだっていいの。おじいちゃまさえいてくれたら……」
「お前は欲がないんだな。いや、お前に再び会えたことが、わしは本当に嬉しいよ」

 数日後、言葉通りウォルトンがアデライン邸に再び訪れた。しかし今度は一人ではなく、部下らしき男を二人、連れてきていた。
「すみません、こいつらはうちの会社の若い者なんですが、伝説の宇宙パイロット、ロジャー翁の話をぜひ聞きたいと申しましてね」
「はじめまして、お会いできて光栄です」二人の若い男は快活に言った。陽に焼けたスポーツマンタイプの男たちだった。
「こちらこそ、よろしく」ロジャーは穏やかに言った。
「思いがけずお客様が増えて、嬉しい驚きですわ」アデラインが鈴が鳴るような美しい声で言った。
「お茶が入りました」セバスチャンがうやうやしく給仕した。
「今日はお土産がございましてね。おい」
 すると部下の一人がケーキが入っているかのような大き目の白い箱を取り出した。
「さて、気に入っていただけるかどうか」
 ウォルトンがふたを開けると、いきなり二人の部下が箱の中に手を突っ込み、中から銃を取り出して構えた。ウォルトンもゆっくりと箱から銃を取り出し、安全装置をはずすと、アデラインの肩をつかまえて乱暴に彼女に突きつけた。
「おい、ロジャーさんよ。あんたがプラチナを見つけたってのはお見通しなんだ。孫娘を死なせたくなかったら、隠し場所を言うんだな」
「おじいちゃま……」アデラインがおびえたように言った。
「アデラインは関係がないぞ……いや、わかった、隠し場所を話すからその子を離してやりなさい」
「ではどこにある?」
「タイタン(土星の衛星の一つ)のある場所に隠してある。その場所はわしでなくては分からん」
「よーし、じゃあロジャーさん、俺たちと一緒にタイタンまで来てもらおうか。おっと、アデラインも一緒だぜ。死にぞこないのお前さんは命は惜しくはねえだろうが、アデラインのためならこっちの言う事を聞いてくれるからな」
「卑怯だぞ……」
「よし、お前たちはロジャーを引っ張って来い」
 そう言ってウォルトンは、部下とロジャー翁を引き連れ、アデラインに銃を突きつけながら屋敷を出て行った。

「お嬢様、ウォルトン氏たちはお帰りになりました」セバスチャンが柔和な声で言うと、アデラインが廊下の陰からピョッコリ顔を出した。続いてロジャー祖父のロボットも姿を現した。
「ふふふ。連中、あたしたちの偽者に恐ろしい剣幕で迫ってたわね」
「いや、わしの偽者が簡単に造れるのは分かるが、アデラインが自分そっくりのアンドロイドを造れるとは驚きだったな」ロジャー祖父のロボットが言った。
「そのうちに気付くでしょうけどね。セバスチャン、今の映像ちゃんと撮れてた?」
「はい、お嬢様」
「これでウォルトン一派は恐喝・誘拐未遂の罪で警察に引き渡せるわね。これで一件落着ってわけね」
「いや、アデライン、本当のプラチナの隠し場所に早く行かんと。あれはお前のものなのだぞ」
「それが……ごめんね、おじいちゃま。プラチナの件は政府に知らせたわ。プロメテウス(土星の衛星の一つ)には、今頃お役人たちの宇宙船が向かってるわ。だって、あのプラチナはもともと政府のものだったのですもの」
「む……そうだったのか。うん、考えてみればそれが良かったのかも知れんな。アデラインは、本当に素直な子に育ったんだな。わしは誇らしいよ」
「わたしも、政府にはいろいろなお仕事をさせてもらっている義理がありますもの。恩をあだで返すような真似はできないものね」アデラインは落ち着いた口調で言って、微笑んだ。
「そうかそうか……しかしわしは、若い頃から仕事一途で、子どもたちや孫たちに何もしてやれなんだという後悔があってな……今のアデラインを見て心を動かされもしたし、いま一つ、贈物をしてやりたいと思うのだ。わしは昔、共同経営である男と鉱山会社を興していたことがあってな。あるとき木星近くの小天体で大量に金(きん)が取れたのだ。わしの共同経営者、ベルという男だったが、彼がその金(きん)を地球に持ち帰る輸送船が事故を起こしてな。その船はどうやらイオ(木星の衛星)に墜落したらしいのだが、十分に捜索してやれず、その船を見つけることがついに出来なかった。その金(きん)、砂金の状態だったのだが、三百トンほどあり、その所有権は今は全てわしにある。ベルという男は身寄りがなかったからな。さあ、今度こそは政府のものでも誰のものでもない財宝だ。それを見つけ出して一族のもので分けてほしい。アデライン、同意してくれるね?」

 アデラインはときどきキラリキラリと目を輝かせて、興味深げに祖父の話を聴いていた。
「え? あ、そうね、三百トンの金。いや、そんなものよりおじいちゃまと一緒に暮らせることのほうが嬉しいんだけど、そうね、そんなに仰るのなら、いただこうかしら。いやもちろん、一族みんなで仲良くね。ええ、それはもう」
「アデライン、何を落ち着きを失っておるのだ。たかが三百トンの金ではないか。いや、お前の科学力をもってすれば、遭難した船の場所を突き止めるのもたやすいだろう。探し出して金(きん)を持ち帰るが良い」
「ええ、そうね、イオにあるのね、金塊を上手く探し出す方法を考えてみるわ」
 アデラインは「そうね、金(きん)ね、どうしようかしら」とブツブツつぶやきながら、心ここにあらずといった調子で実験室の一つに入っていった。


「ねえ、おじいちゃまも本当に行くの? あたしはちょっと用事が立て込んでて今回は行けないんだけど、その走査機があればセバスチャン一人でも十分難破船を探せると思うわ」
「いや、わしも久しぶりに宇宙に出たくなってな。それに昔の友人の船を捜しに行くんだからな、この目で見届けんと」
 ロジャー祖父の黒いロボットはゆっくりと、今回の旅のためにリースした特別装甲の大型船に入っていった。荷物の積み込みをほぼ終えたセバスチャンがアデラインのもとにやって来て、小声で言った。
「お嬢様、ずっと気になっていたのですが、おじいさまと今回の金(きん)の件、ご親族の誰かにお知らせになったのですか?」
 アデラインはそれを聞くと急に息をひそめて、小さな小さな声で言った。 
「知らせるわけないじゃない……あたしの親族って、こんな話を聞かせたらもう阿鼻叫喚の遺産ぶんどり合戦地獄よ。おじいちゃまはもう死んだことになってるんだし、この話を知ってるのはあたしたちだけ。ここはひとつまるく収めましょうよ」
「ということは、お嬢様が独り占めになさるので?」
「人聞きの悪い言い方しないで頂戴。まるく収めるだけよ。さ、おじいちゃまが待ってるから、早く行ってらっしゃい」
 セバスチャンは少し小首をかしげながら宇宙船のほうに向かった。
「アデライン、では行ってくるぞ!」ロジャー祖父が大声で言った。
「うん、言ってらっしゃーい! くれぐれも気をつけてね!」アデラインは天使のような笑顔を浮かべ、元気よく手を振って言った。 

 二週間後。アデラインの開発になる極小ロボットを使った手術で、みごと枢密院議長の命を救ったことを讃えられ、彼女は連日のようにレセプションに出席していたが、その日はある地区の警察の一日警察署長を務めていた。上級婦人警官の制服に身をつつみ、敬礼をして警官たちの行進を見やる凛とした姿は、彼女の功績をさらに輝かしく彩るかのようだった。
「今日いちにち、警察署長を務めさせていただいたことで、警察官の皆様の日々の重責の一端をうかがい知ることができ、平和な日常の尊さを改めて深く感じました。皆様には……」
 アデラインのスピーチの最中、グォーンという轟音が空から鳴り響き、きらきらと光る粒子がたくさん、あたり一面に降り注ぎ始めた。皆がざわめきだした。降って来たのは砂金だった。アデラインが空を見上げると、イオに赴いていた大型宇宙船が低空飛行をしているのを認めた。
 アデラインは慌てて、腕時計の通信機のスイッチをオンにして言った。
「セバスチャン? あなたたちの宇宙船が今あたしの頭の上を飛んでるんだけど、これ一体どういうこと!? この砂金は、まさかあなたたちが降らせてるんじゃないでしょうね?」
「お嬢様? ええ、いかにも私たちの宇宙船から砂金を降らせています。実はロジャーおじいさまが、出発の直前にお嬢様が私に小声で言われたことをすべて聞いておいででして、この砂金はきっとアデラインや一族のものの人生を狂わすであろう、とのことでした。そして全て地上に散布するように、とのご指示でしたので」
「そうだった、おじいちゃまは地獄耳……それであなた、それを文字通り実行しちゃったわけ!?」
「はい、金(きん)の所有者はあくまでおじいさまでいらっしゃいますので。それにわたくしも、お嬢様のためにこれが最善の選択だと思いました」
「あなた、それでもあたしの執事!?」
「ご主人様のことを思えばこそです」
 アデラインはその場にひざまずき、呆然と空を見上げた。
 やがて警官たちが「砂金だ、砂金だ!」と叫びだし、服のすそやハンカチでそれを受け止めようとし始めた。アデラインは慌てて立ち上がり、警官の群れの中に踊りこんだ。
「それ、あたしのよ! 全部あたしのなんだから!」
 金粉が空に美しく舞う、秋の夕暮れ時だった。

(終)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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