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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:47:28

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No.51
2009/10/16 (Fri) 01:18:25

考古学者草壁が、殺気(さつき)と冥(めい)の二人の娘を連れて獄門島に越してきてから数日がたっていた。
冥は、殺気が学校に行く前に毎日作ってくれる弁当を楽しみにしていた。その日の弁当は、冥の大好物であるコウモリの姿煮だった。
「ウシシ、ウシシ~! コウモリのスガタニ~!」冥はちゃぶ台のまわりで泡を吹いて狂喜乱舞した。黄色味がかった赤黒い眼球を、ぐりぐり回している。
「冥、座って食べなさい」草壁が憂鬱な声で言った。

今日は研究所が休みだったため、草壁は戸を開け放って、庭に面した書斎で浩瀚な学術書に目を通していた。ときどき、森のほうからどこかの狂女の叫び声が聞こえてくる。
「キィー! イヒヒヒヒ……ウケケケケケケ」
草壁は体をぶるっとさせて、すでに依存症になって久しいヒロポンの錠剤を何錠か口に放り込んだ。獄門島の湿気の多い陰鬱でかび臭い空気が、生来の憂鬱な性質をさらに暗いものにしつつあった。
ふと机の上を見ると、小さな髑髏がいくつか並べられていた。
「お父さん骨屋さんね」
冥がどこから拾ってきたのか、こどもの頭蓋骨を父の机の上に並べていたのだった。
冥は弁当を片手に、森のほうへ歩き出した。
「どこへ行くんだい」
「ちょっとそこまで♪」冥は黄色いギザギザの歯をむき出してニッと笑った。

「ウシシ、ウシシ、うまそうなゴキブリ~」冥は小さな昆虫を追いかけて、四つんばいになって灌木の中へ這って行った。無我夢中で虫を追い求めるうちに、林の中の開けたところに出て、うっかり段差から転げ落ちてしまった。
ぽん、とやわらかい場所に冥は着地した。
そこには、不気味な巨大な動物が横たわっていて、冥はその腹の上に落ちたのだった。その動物は、頭は人間で、腕と胸部はゴリラのよう、胴体は牛のようで足は馬のようだった。
「うが、うが」その動物は青白い顔を持ち上げてうめいた。
「あなた誰?」
「うぉ、うぉ、うぉー」
「と、と、ろ……ととろ! 分かった、あなた吐屠郎っていうのね!」
「ウォー!」その動物は苦しそうに口からどろどろの血へどを吐いて、さらに顔面を蒼白にした。
「吐屠郎♪」冥が嬉しそうに足をばたばたさせた。

そのとき、喪漏博士(もろうはかせ)の家の実験室では、博士と助手の毒島(ぶすじま)が意識を失って倒れていた。そこらじゅうに実験器具やガラスの破片が散乱していた。うっすらと白いガスがたちこめている。
喪漏博士が先に気がついた。鉄のベッドに目をやって、驚愕の表情を浮かべた。
「毒島君、おきろ! 大変だ、モンスターが逃げ出したぞ」
毒島はもうろうとした顔をしてなんとか起き上がった。
「逃げた……あの鎖をちぎって? あの頑丈な扉をやぶって?」
「のんきなことを言っている場合ではない、モンスターを早く確保せねば」
「しかし私は……どうも頭がぼんやりして……博士、これはゲルジウム・ガスが漏れているのではありませんか!?」
「うむ……しかしこの家からはまだ漏れてはおらんだろう。吸気装置を作動させたまえ」
毒島はいそいで装置のスイッチを入れた。
毒島はそのときまざまざと思い出していた。死者を生き返らせる作用を持つゲルジウム・ガス。いぜん喉切島(のどきりじま)でこのガスを使った実験をした際の、悪夢のような思い出。地面から、つぎつぎと腐りかけの生けるしかばねが這い出し、島の住民はすべてゾンビと化した。
数百におよぶゾンビの大群をかいくぐって、喪漏博士と毒島は小さなボートで命からがら喉切島を逃げ出してきたのだった。
 
二人は実験室で落ち着きを取り戻し、モンスター捕獲の段取りを冷静に検討した。
しかし博士も毒島も気づいていなかった。少量のゲルジウム・ガスが、客間の暖炉から伸びる煙突から放出されてしまっていたことを。

(つづく)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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