『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.547
2012/02/21 (Tue) 03:59:27
ベム、ベラ、ベロの三人は、日々善行を重ねながらも姿かたちが妖怪であることから迫害を受け、人里はなれた山間僻地に住むことになった。不自由な山の斜面に小屋を立て、雨の日には湿気に悩まされ、雪の日には隙間風に凍えながら、妖怪人間たちはなんとか生きていた。こんな土地で、どうやって糊口をしのごうかという段になって、ベムは養鶏がいいと思い立った。作物を育てにくい斜面であっても、鶏を飼うことはできると何かの本で読んだのだ。
「コーコッコッコッコッコ……」
ベムは渋い声で鶏の口真似をしながら、鳥たちにえさをやる。風が吹く中、黒いソフト帽を飛ばされないように片手で押さえながら。
ベラは鞭を使って狩に出かけていた。たいていは鼠やコウモリなどの小動物を捕まえてきたが、あるときは巨大なアホウドリを捕獲し、それが天然記念物であることにはお構いなく、三人はそれを焼いてむさぼり食った。それを見とがめた近隣の住民が警察に報告し、警官が捜査にやってきたが、三人は警官四人を皆殺しにし、大釜で煮て食った。骨はそこらへんに埋めておいた。
かつて善行を心がけていた妖怪人間たちは、原始的な生活を営むうちにいつしかモラルを失っていた。しかしなぜかベムは、鶏にだけは異常なほどの愛情をふりそそいだ。
鶏たちは毎日卵を産む。それを食べることもあり、ヒヨコを孵化させて育てることもあった。あるときヒヨコが多くなりすぎて育てられなくなったから、近くの村に下りていって子供たちにヒヨコを売った。しかしそのついでに子供たちをさらってきたから、妖怪人間の行動には無駄がなかった。
しかしそれだけベムが可愛がっていた鶏たちに、ある日とんだ災厄が襲い掛かったのである。いつものように早朝ベムは鶏小屋を開けに行ったが、あたりに点々と血痕がある。そして三羽の鶏が無残にも首を切り取られて死んでいるのを発見したのである。
「ウ、ウ、ウガンダー!」ベムは怒りに震えて妖怪の姿に変身し、とはいっても犯人が分からないいま、怒りをどこにぶつけてよいやら分からず、とりあえず巨岩をいくつか眼下の村に投げ下ろし、村人の幾人かを血祭りに上げた。
「ベム、無駄なことはよしなよ!」ベロが言った。「冷静に犯人を捜してみよう……おや?」
ベロは鶏の血痕に混じって、赤い蝋が地面に落ちているのを発見した。蝋のしたたったあとをたどって森の中を歩いていくと、大きな赤い蝋燭が落ちているのを見つけた。それを拾って見つめていると、どこからか絹を裂くような女の叫び声がした。
「きゃーっ」
ベロは久しぶりに正義感を呼び覚まされ、声のするほうに脱兎の如く駆けていった。
林の向こうに、黒いマントを着た十数名の人々が、若い女を縛りつけた板をかついで歩いているのが見える。叫んだのは縛られている女だ。やがて黒いマントの行列は、大きな黒々とした廃墟に入っていった。
「よーし!」
ベロはさっと廃墟に近づき、閉じられた扉の隙間から中をのぞこうとしたが、何も見えない。思い切って扉を開けようとしたが、固く閉じられていてびくともしなかった。窓など他に出入り口はないかと探し回ったが、どこにも入れそうな所はない。
そのうちにとっぷりと日が暮れた。ベロは昼間拾った赤い蝋燭のことを思い出し、木をこすり合わせてそれに火をともした。蝋燭の光が扉の取っ手を照らすと、不思議なことに扉はひとりでに少し開いた。ベロが中をのぞくと、強烈な甘い香りが鼻をつき、うなるような呪文が耳に入ってきた。
「エークステルシオーネーム、エークスルテルシオゥネェェ~ム」
黒いマントを着た男女がその呪文を合唱しながら、よだれをたらしたり白目をむいたりして、訳の分からぬ陶酔にひたっていた。祭壇には一人だけ赤いマントを着た外人の僧侶と思しき初老の男が、十字架のついた杖を振り、その杖に念をこめるように呪文を唱えていた。しかし最も目に付いたのは祭壇の前のテーブルに縛り付けられている若い女だった。彼女は服を脱がされており、その一糸まとわぬ白い裸体は、蝋燭の明かりに照らされてなまめかしく光っていた。その美しい女は意識を失っているのか、目を閉じて浅く呼吸していた。息を吸うたびに膨らむ白い乳房、また栗色の陰毛の間から見え隠れする女の秘肉を見て、ベロは思わず勃起した。
「エ~クステルゥシィオウウネエエエーム」
赤いマントの僧侶は、どこからか生きた鶏を取り出し、鎌でその首をはねた。鮮血が縛られた女の肌に飛び散り、首を失った鶏はバタバタと飛び惑った。その瞬間、なんとも言えぬ恍惚感に襲われていたベロは射精した。そして自分もこの黒ミサの一員になることを心に誓ったのである。その晩、ベロはテーブルに縛り付けられていた女を抱き、さらなる快感を味わったのだった。
黒魔術に魅入られてしまった妖怪人間ベロの今後やいかに!?
(c) 2012 ntr ,all rights reserved.
「コーコッコッコッコッコ……」
ベムは渋い声で鶏の口真似をしながら、鳥たちにえさをやる。風が吹く中、黒いソフト帽を飛ばされないように片手で押さえながら。
ベラは鞭を使って狩に出かけていた。たいていは鼠やコウモリなどの小動物を捕まえてきたが、あるときは巨大なアホウドリを捕獲し、それが天然記念物であることにはお構いなく、三人はそれを焼いてむさぼり食った。それを見とがめた近隣の住民が警察に報告し、警官が捜査にやってきたが、三人は警官四人を皆殺しにし、大釜で煮て食った。骨はそこらへんに埋めておいた。
かつて善行を心がけていた妖怪人間たちは、原始的な生活を営むうちにいつしかモラルを失っていた。しかしなぜかベムは、鶏にだけは異常なほどの愛情をふりそそいだ。
鶏たちは毎日卵を産む。それを食べることもあり、ヒヨコを孵化させて育てることもあった。あるときヒヨコが多くなりすぎて育てられなくなったから、近くの村に下りていって子供たちにヒヨコを売った。しかしそのついでに子供たちをさらってきたから、妖怪人間の行動には無駄がなかった。
しかしそれだけベムが可愛がっていた鶏たちに、ある日とんだ災厄が襲い掛かったのである。いつものように早朝ベムは鶏小屋を開けに行ったが、あたりに点々と血痕がある。そして三羽の鶏が無残にも首を切り取られて死んでいるのを発見したのである。
「ウ、ウ、ウガンダー!」ベムは怒りに震えて妖怪の姿に変身し、とはいっても犯人が分からないいま、怒りをどこにぶつけてよいやら分からず、とりあえず巨岩をいくつか眼下の村に投げ下ろし、村人の幾人かを血祭りに上げた。
「ベム、無駄なことはよしなよ!」ベロが言った。「冷静に犯人を捜してみよう……おや?」
ベロは鶏の血痕に混じって、赤い蝋が地面に落ちているのを発見した。蝋のしたたったあとをたどって森の中を歩いていくと、大きな赤い蝋燭が落ちているのを見つけた。それを拾って見つめていると、どこからか絹を裂くような女の叫び声がした。
「きゃーっ」
ベロは久しぶりに正義感を呼び覚まされ、声のするほうに脱兎の如く駆けていった。
林の向こうに、黒いマントを着た十数名の人々が、若い女を縛りつけた板をかついで歩いているのが見える。叫んだのは縛られている女だ。やがて黒いマントの行列は、大きな黒々とした廃墟に入っていった。
「よーし!」
ベロはさっと廃墟に近づき、閉じられた扉の隙間から中をのぞこうとしたが、何も見えない。思い切って扉を開けようとしたが、固く閉じられていてびくともしなかった。窓など他に出入り口はないかと探し回ったが、どこにも入れそうな所はない。
そのうちにとっぷりと日が暮れた。ベロは昼間拾った赤い蝋燭のことを思い出し、木をこすり合わせてそれに火をともした。蝋燭の光が扉の取っ手を照らすと、不思議なことに扉はひとりでに少し開いた。ベロが中をのぞくと、強烈な甘い香りが鼻をつき、うなるような呪文が耳に入ってきた。
「エークステルシオーネーム、エークスルテルシオゥネェェ~ム」
黒いマントを着た男女がその呪文を合唱しながら、よだれをたらしたり白目をむいたりして、訳の分からぬ陶酔にひたっていた。祭壇には一人だけ赤いマントを着た外人の僧侶と思しき初老の男が、十字架のついた杖を振り、その杖に念をこめるように呪文を唱えていた。しかし最も目に付いたのは祭壇の前のテーブルに縛り付けられている若い女だった。彼女は服を脱がされており、その一糸まとわぬ白い裸体は、蝋燭の明かりに照らされてなまめかしく光っていた。その美しい女は意識を失っているのか、目を閉じて浅く呼吸していた。息を吸うたびに膨らむ白い乳房、また栗色の陰毛の間から見え隠れする女の秘肉を見て、ベロは思わず勃起した。
「エ~クステルゥシィオウウネエエエーム」
赤いマントの僧侶は、どこからか生きた鶏を取り出し、鎌でその首をはねた。鮮血が縛られた女の肌に飛び散り、首を失った鶏はバタバタと飛び惑った。その瞬間、なんとも言えぬ恍惚感に襲われていたベロは射精した。そして自分もこの黒ミサの一員になることを心に誓ったのである。その晩、ベロはテーブルに縛り付けられていた女を抱き、さらなる快感を味わったのだった。
黒魔術に魅入られてしまった妖怪人間ベロの今後やいかに!?
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
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