『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.60
2009/10/16 (Fri) 01:35:55
以前は品のよい乗客が多かった阪急電車も、京阪神での麻薬汚染の拡大も影響して、車内での非行少年や犯罪者の乱行が目立つようになってきた。
その日の午後五時ごろ、宝塚線・急行梅田行きの後ろから二両目は、降魔学園の男子生徒たちで占領されていた。喫煙するものはもちろん、堂々と大麻を吸引する者もいる始末である。こういう日は、車掌も恐れをなして注意しないのが通例になっていた。また、普通の人間ならこうした車両には乗り込まなかった。しかし蛍池駅で、事情を知らない盲目の少女が、運悪くこの不良の巣窟と化した車両に乗り込んだのだった。
「おい、スケだぜ。しかも上玉だ!」
不良の一人は叫び、ナイフを少女の前でちらつかせて
「おう、言うことを聞きなよ。痛い目を見たくなかったらよ」
しかし少女の眼はナイフを追ってはいなかった。
「このスケ、目が見えないんだぜ! こりゃ面白いや。めくらのスケとやるってのも乙なものだぜ」
少年は、少女を座席のところで四つん這いにさせ、スカートをまくり上げた。そのときである。一つ目で醜く黒ずんだ顔の車掌が、少年の首根っこを後ろからつかんだ。
「快適な車内の環境づくりにご協力ください。いや、協力しろ。といってもお前らには無理だろうな。麻薬で煙った体の中の風通しを良くしてやる」
そういってモンスターは、少年の背中にパンチし、そのこぶしは相手の体を貫通し胸から突き出た。正面にいた他の少年たちは、顔に血しぶきや生暖かい胃の内容物を浴びてあっけに取られた。しかし筋金入りのこの鬼畜どもは、すぐに戦闘意欲を燃やし、鉄パイプでモンスターに襲い掛かった。しかしパイプはモンスターの頭に直撃すると、ぐにゃりと曲がってしまい相手になんらのダメージも与えられなかった。飴細工のようにU字型に曲がった鉄パイプを奪ったモンスターは、その両端を攻撃してきた少年の両目に突き刺し、車両の天井に穴を開けて、列車に電力を送る架線にパイプを接触させた。すさまじい電気ショックがパイプを通じて少年の体をつらぬき、彼はあっという間に焦げ臭い匂いを発するしかばねと化した。
それに肝をつぶした不良少年たちは、十三駅で全員車両から逃げ出した。
あとに残った盲目の少女とモンスター。
「あなた、私の命の恩人なのね」少女は、手探りでモンスターの顔に触れた。光を失ったその目は、しかし美しく輝き、頬をばら色に染めていた。モンスターは自らの醜悪な顔のため、こういう状況に不慣れだったが、少女に顔を自由に触らせた。
「やさしそうなお顔……お礼がしたいわ。私のうちに来てくださらない?」
モンスターは彼女とともに、その住まいに向かった。そして彼女は、モンスターにとって生れてはじめての恋人となった。
(つづく)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
その日の午後五時ごろ、宝塚線・急行梅田行きの後ろから二両目は、降魔学園の男子生徒たちで占領されていた。喫煙するものはもちろん、堂々と大麻を吸引する者もいる始末である。こういう日は、車掌も恐れをなして注意しないのが通例になっていた。また、普通の人間ならこうした車両には乗り込まなかった。しかし蛍池駅で、事情を知らない盲目の少女が、運悪くこの不良の巣窟と化した車両に乗り込んだのだった。
「おい、スケだぜ。しかも上玉だ!」
不良の一人は叫び、ナイフを少女の前でちらつかせて
「おう、言うことを聞きなよ。痛い目を見たくなかったらよ」
しかし少女の眼はナイフを追ってはいなかった。
「このスケ、目が見えないんだぜ! こりゃ面白いや。めくらのスケとやるってのも乙なものだぜ」
少年は、少女を座席のところで四つん這いにさせ、スカートをまくり上げた。そのときである。一つ目で醜く黒ずんだ顔の車掌が、少年の首根っこを後ろからつかんだ。
「快適な車内の環境づくりにご協力ください。いや、協力しろ。といってもお前らには無理だろうな。麻薬で煙った体の中の風通しを良くしてやる」
そういってモンスターは、少年の背中にパンチし、そのこぶしは相手の体を貫通し胸から突き出た。正面にいた他の少年たちは、顔に血しぶきや生暖かい胃の内容物を浴びてあっけに取られた。しかし筋金入りのこの鬼畜どもは、すぐに戦闘意欲を燃やし、鉄パイプでモンスターに襲い掛かった。しかしパイプはモンスターの頭に直撃すると、ぐにゃりと曲がってしまい相手になんらのダメージも与えられなかった。飴細工のようにU字型に曲がった鉄パイプを奪ったモンスターは、その両端を攻撃してきた少年の両目に突き刺し、車両の天井に穴を開けて、列車に電力を送る架線にパイプを接触させた。すさまじい電気ショックがパイプを通じて少年の体をつらぬき、彼はあっという間に焦げ臭い匂いを発するしかばねと化した。
それに肝をつぶした不良少年たちは、十三駅で全員車両から逃げ出した。
あとに残った盲目の少女とモンスター。
「あなた、私の命の恩人なのね」少女は、手探りでモンスターの顔に触れた。光を失ったその目は、しかし美しく輝き、頬をばら色に染めていた。モンスターは自らの醜悪な顔のため、こういう状況に不慣れだったが、少女に顔を自由に触らせた。
「やさしそうなお顔……お礼がしたいわ。私のうちに来てくださらない?」
モンスターは彼女とともに、その住まいに向かった。そして彼女は、モンスターにとって生れてはじめての恋人となった。
(つづく)
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
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✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
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我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
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