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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 18:15:55

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No.61
2009/10/16 (Fri) 01:38:03

阪急梅田駅の巨大なテレビスクリーン「ビッグマン」の前には、待ち合わせする人々も多かったが、今日はそこに映し出されるサッカーの試合を見物する人が大勢いた。日本対ウズベキスタン戦。
一つ目のモンスターも、モップを片手に人だかりの中で、その試合に見入っていた。日本が先に一点を入れ、再三の敵の攻撃をぎりぎりのところで防ぎ続ける日本のディフェンダーたち。手に汗握る攻防だった。双方のシュートが放たれるたびに、喚声が沸く。

そのときである。試合の応援とは違う、男女数名のかん高い叫び声が駅構内に鳴りひびいた。「おい、なんだ貴様!」
「あーっ、腕を切られたあ!!」
「きちがいだ!!」
大勢がいっせいに振り向くと、血だらけの白いシャツを着た顔面蒼白の若い男が、軍用ナイフを振り回して、周りの人間に手当たりしだいに襲い掛かっていた。腰にはバールやドライバーなど凶器になりそうなものをわんさと吊っていた。
「そいつを取り押さえろ!」
「あぶない、下手に手を出すな!」
モンスターは、一つ目を怒らし、無言で通り魔に近づいていき、その腕をひねりあげた。
「お前、なんでこんな真似をする?」
「うるせー、俺は死刑になりたいんだ!」
モンスターは冷然と通り魔を見おろした。しかし、いつものようにすぐにとどめはささなかった。見れば気の弱そうな男だ。社会全体に恨みをもち、同時に死にたいと思っているが自分では死ねない。思い返せばモンスターも放射性廃棄物を浴びて超人となるまでは、そんな心理状態におちいったことがよくあった。

「おちつけ。抹茶アイスクリームでも食べながら話そうぜ」
モンスターはいきつけの喫茶店「茶茶」に青年を連れて行った。
「おれ、会社をリストラされてから、バイトとか派遣の仕事やってたんです。でも、もうこのごろはぜんぜん仕事がなくなっちまって」
「そりゃ今のご時勢、そういう悩みを持ってる奴はいくらでもいるもんだ。人を殺して死刑になろうなんて、俺に言わせれば甘ったれてる。だがお前はまだ若い。それにいい目をしている……どうだ、俺のように悪党を片付ける仕事をやってみないか?」モンスターは目を輝かせて言った。
「悪党を片付ける……?」
「そうだ。死刑になるぐらいに根性が座ってるなら、それぐらいできるはずだ」
「正義の味方か……」青年は真剣な目をして思案した。「よし、俺やってみる」
「その意気だ!」
そのときである。ウェイトレスが水のおかわりを入れようとして、青年の飲んでいたアイスコーヒーをこぼしてしまった。「あっ、すみません!」
「ちきしょー、許せねー!!」突如として青年は激昂し、腰に釣っていたバタフライナイフを逆手に持ち、ウェイトレスの口に正面から深々と突き刺した。ばたりと倒れて口から噴水のように血を吹き上げ、ぴくぴく痙攣してこと切れるウェイトレス。
「やっぱり駄目だなお前は……」腕を組んでため息をついたモンスターは、青年をひきずって店を出て行き、HEPファイブの屋上に連れて行った。モンスターはエレベーターのワイヤーをいやがる青年の首に巻きつけ、屋上の赤い大観覧車を滑車がわりにして、青年を吊り上げ絞首刑にした。
「これがお前にふさわしい刑だー!」

青年が地上九十メートルの観覧車にぶらさげられる様子は、全国にテレビ中継された。
はたしてこのモンスターは英雄か、あるいは悪魔か? 日本国民はその夜みな、かたずを呑んで考え込み、そして議論を戦わせたのだった。

(つづく)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

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