ダイアナ・ブラックリーはダア・ハウス開発研究所に籍をおく生化学者だった。ある日、彼女がいつも猫にやっているミルクの皿に、ある種の地衣類(藻類と菌類の共生体)が繁殖しているのに、彼女と所長のサクソバー博士は気が付いた。地衣類は抗生物質として医療に役立つことがあるため、サクソバー博士はその点について研究してみるといってサンプルを持ち去った。ダイアナもその地衣類を自分で調べてみた。
結果、それは驚くべき性質を持った物質であることが分かった。それは、人間の代謝を遅らせる働き、すなわち人間を長生きさせる働きを持っていたのだ。サクソバーもダイアナもそのことを突き止めたが、互いにそれを隠し、ダイアナは突如研究所を退職する。その「超寿物質」はのちにアンチ・ジェローンと名付けられた。
ダイアナは「ネフェルティティ」という高級美容院を始め、客にアンチ・ジェローンを投与して、文字通り客の「若さを保つ」施術を行った。しかしアンチ・ジェローンにアレルギーを起こした婦人がネフェルティティを訴えたことから、ダイアナは十四年ぶりにダア・ハウスのサクソバー博士に連絡を取る。博士はあくまでアンチ・ジェローンの効能について公表を避けており、自らと自分の子供たちだけにその投与を行っていた。サクソバーの娘ゼファニーは自分が二百年も生きることを知らされ、衝撃を受ける。息子のポールも同様に驚いたが、自分の妻も同じく長生きする権利があると主張、しかしポールの妻はこれを金儲けの種と考えたため、アンチ・ジェローンの秘密が広く流出し、やがてマスコミをにぎわすようになる。
ダイアナがアンチ・ジェローンについて正式な発表を行ったが、今のところイギリス全国民に行き渡るだけのそれは確保できないと言わざるを得なかった。かつての発明品と同じくそれを多く製造することもやがてはできるだろうという楽観論もあったが、人間が二百歳まで生きることによる食糧問題、次の世代に起こるであろう失業問題を重く見て、アンチ・ジェローンの製造は禁止するべきだ、という声もあった。
さまざまな利害関係にある勢力がうずまき、ダイアナはなんとか事態を収拾しようとするが、暴徒によって暗殺されてしまう。ただしこの物語はハッピーエンドで終わる。
「人間が二百歳まで生きられる薬品が開発されたと人々が知ったら?」という設定で社会の各層が次々とテンポよく映し出されていくさまは面白く、かつリアルである。実際に人々が長生きするところは描かれていないから、その際に起こる社会の変動については、読者の想像に任されている。
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