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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
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2024/11/21 (Thu) 17:51:03

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No.652
2013/07/30 (Tue) 14:33:57

ジャズのCDはたいてい録音時間が四十分ほどで、三十分すこしのものも珍しくないから、クラシックのCDに馴染んでいると物足りないような気もし、値段はそう変わらないのだからジャズのアルバムを買うのは不経済のように感じることもある。
 だから、元来は三十数分のジャズのアルバム二枚分を一つのCDに収めた「徳用盤」が出ることもある。しかしそうした「徳用盤」を聴くと正直「長すぎるのではないか」と思うことがあるのに気が付いた。
 デューク・ピアソンというピアニストの「Profile」および「Tender Feelings」という二つのピアノ・トリオ作品はいずれも名盤と言われているが、両者を合わせた徳用盤を聴いていると、さすがにピアノ・トリオで七十分以上というのは集中力ももたないし第一飽きてくる。あるいはジャズのアルバムというのはその録音時間も考慮されて一個の作品として出来上がっていて、安易に二つつなげたからといって感動が倍になるというわけのものでもないのかも知れない。

 マイルス・デイヴィスは最も有名なジャズ・トランペッターだろう。最も有名なジャズ・ミュージシャンとさえ言えるかも知れない。それは彼の残した厖大なアルバムが、多くのジャズ・ファンを魅了し続けているからである。
 しかし僕は彼の作品を聴いても、ほとんどの場合ちっとも好きになれないのである。コルトレーンらと共演した「Cookin’」、「Workin’」、「Relaxin’」、「Steamin’」の四部作はいいと思う。あそこには、くつろぎがあり、ユーモアがある。しかし他のマイルスの代表作、たとえば「Kind of Blue」、「クールの誕生」、「Round About Midnight」、「Milestones」、「Four & More」、「Bitches Brew」などを聴いても、確かに鬼気迫る迫力を感じるし凄いとは思うが、では好きかと聞かれると全然好きになれない。マイルス・デイヴィスという人のかもし出す雰囲気が真面目すぎるのだ。音楽に対し真剣でありすぎるのである。彼には笑っている写真があまり残っていないというのも、さもありなんと思わせる話だ。僕には、音楽というものはもっと気楽なものであってほしい。
 ただ初めにあげた四部作の他では、「Miles Davis and the Modern Jazz Giants」は僕にもとても面白く聴ける。マイルスがここで共演することになった先輩格のピアニスト、セロニアス・モンクに対して「自分が演奏しているときはピアノを弾かないでくれ」という注文を出したことで両者の関係が悪化したが、しかしそのせいで両者の出す音の絡み合いはすさまじい緊張に満ちたものになり、ときにはモンクがマイルスの注文を無視している場面もあって、大変スリルのある録音となっている。

 最も偉大なアルト・サックス奏者は、と聞かれたら「チャーリー・パーカー」と答えるのが常識的なのかも知れない。彼のスピード感あふれる即興はジャズの歴史を変えたと言われる。しかし僕はこのチャーリー・パーカーもどうしても好きになれない。彼の鳴らす音は、僕が聴きたいアルト・サックスの音とまったく違っている。単純な話、パーカーを聴いていると「もっと音を長く伸ばしてくれ」とよく思う。僕は素早いアドリブよりも、サックスの音の色艶をより楽しみたい。
 そういう意味で、最も好きなアルト奏者はと聞かれたら、僕はアート・ペッパーと答えるだろう。彼の艶があって軽快にうねる音はまったく独特のもので、知らずに聞いていてもこれはペッパーだと必ず判る。どの楽器においても、聞き間違えようのない個性を持っているというのは凄いことである。彼の心地よい音のうねりを存分に堪能できるのは例えば「Art Pepper Quartet」、「The Art of Pepper」などだろうが、トランペットとの掛け合いが滅法面白い「Return of Art Pepper」も良い(トランペットはジャック・シェルドン)。
 しかし、とつとつと呟くような音で、なんともいえぬ寂寥感のただよう彼の「Modern Art」というアルバム、あれはいったい何だろうか。静かな、静かな音楽。個人的にはこれがペッパーの最高傑作だ。彼はその後も長く生きて作品を発表し続けたが、本当は「Modern Art」を最後に死ぬべき運命だったのではないか。これはそういう「白鳥の歌」のような雰囲気があるアルバムだ。

 では最も好きなジャズ・ミュージシャンは、と聞かれたとしたら、それはにわかには答え難いが、ジミー・ジュフリーは間違いなく候補に入るだろう。テナーサックス、バリトンサックス、クラリネットの奏者で、ギターのジム・ホールなどとよく共演している。代表作は「Jimmy Giuffre 3」、「ウェスタン組曲」、「M.J.Q with Jimmy Giuffre」といったところか。彼のリーダー・アルバムはとても地味でひっそりとした音楽に満ちている。しかしだからこそ、何度聴いても飽きがこないとも言える。ジュフリーは「非商業主義」とよく言われる。大衆受けしなくとも、自分の音楽を追求し続けているということか。
 彼のアルバムの楽器編成はいっぷう変わったものが多い。「ジミー・ジュフリー・スリー」ではサックス、ギター、ベース。「ウェスタン組曲」や「Swamp People」ではサックス、ギター、トロンボーン。ドラムが鳴っていないことで一聴「なにかが足りない」という感じを受ける。しかしその「足りなさ」が、他の楽器のための静寂を拡大し、そのぶんサックスなりギターなりの音に集中して耳を傾けることになる。楽器の鳴っていない「間(ま)」がジュフリーの魅力とも言えるかも知れない。
 ドラム奏者シェリー・マンも、同じように少ない楽器編成による音楽をしばしば試みているが、マンとジュフリーの共演になる「“The Three” & “The Two”」も傑作である。ここではドラムのシェリー・マン、トランペットのショーティ・ロジャース、そしてジュフリーの三者による共演を聴くことが出来る。ジュフリーは例によってテナー、バリトン、クラリネットを曲によって持ち替えている。通常のジャズならここにベースが入るところが、それが抜けているために広がりのある静寂が生まれている。
 彼は白人ジャズ奏者に独特のクールさ、その権化のような人物である。だから僕がこう熱心に語っても「そう熱くなるなよ」とジュフリー自身から軽く諭されそうな気もする。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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