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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 17:29:59

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No.666
2013/11/03 (Sun) 03:17:58

近頃のアントニオ猪木といえば、口を開けば「元気があれば何でもできる」と言い放ち、至る所で「一、二の三、ダーッ」と雄たけびをあげていて、もう単なる変なおっさんとしか見ていない人も多いかも知れない。さきの参議院選挙では日本維新の会から立候補し当選、そのときには「元気があれば当選もできる」とさえ言ったらしく、もう変なおっさんを超えてただの馬鹿と思う人もいるだろう。しかし猪木のプロレスの試合をずっと見てきた印象からすると、彼の「元気があれば何でもできる」という言葉にはそれ相応の説得力があって、じっさい彼ほど元気な人間が世界中に何人いるだろうかと思うのである。

 政治家・タレントとしてどうかはひとまずおいて、アントニオ猪木はまずプロレスの天才だった。猪木は抜群の運動神経でどんな技でもこなしたが、彼の凄い所はそういう事柄ではなくて、まずその人並み外れた気力をあげなければならない。自分よりひと回りもふた回りも大きなレスラーを相手にして、体力的にはどうみても負けているのに、猪木は痛めつけられると突如として闘志に火が付いて、相手のあごに渾身のパンチを叩きこむ。すると一発で相手はよろめき、二発目でマットに崩れ落ちるのが常だった。他にそんなことの出来るレスラーはいなかった。日本人でも前田日明、キラー・カーンなど猪木より体の大きな選手はいくらもいたが、みな猪木の気力のみなぎったナックルパートには叩きのめされてしまう。
 アニマル浜口も引退後よくテレビに出て「気合いだ、気合いダーッ!」と叫んでいたが、浜口などラッシャー木村、寺西勇との三人がかりで猪木一人と対決する試合をやって、それでも完敗しているのであって、浜口の気合いなど猪木の前では線香花火のようなものである。
 見ているとアントニオ猪木の気力というのは、肉体から出てくるというよりは、どこか別次元の世界から湧き出てくるように思えてならなかった。力だけなら満員の大型バス三台をデモンストレーションで引っ張ってみせた「密林男」グレート・アントニオなども猪木に挑戦したが、試合開始から一分もたたないうちに顔面を血みどろにして半殺しにされた。

 猪木のそういう姿を思い出すと、元気があれば何でもできる、というより「気力があれば何でもできる」のほうがしっくりくるが、猪木の目にはじっさい世界はそのように見えているのだろうと思う。もちろん政治家としての能力などはプロレスとは別次元の問題だろうが、彼の信念は気力で大きな相手を倒し続けてきた体験によるところが大きいのではなかろうか。しかし猪木の行動力も凄いというか、イラクだったか戦争が勃発した翌日現地に単身乗り込んだり、先走りすぎのようにもしばしば見え、ときには笑えてくることもあるが、凄いことはすごい。

 こうした行動力は、新日本プロレスの代表として長年先頭に立ち、難しい興行を成功させてきたことから来ているのかも知れない。
 むかし猪木が自ら企画した「異種格闘技世界一決定戦」の一戦では、パキスタンの国民的英雄である格闘家アクラム・ペールワンとの試合のため敵地パキスタンに乗り込んだが、リングの周りには十万人もの観衆が詰めかけ、それらは皆ペールワンを応援する現地の人々だった。試合では猪木がペールワンの腕を関節技で攻め、どうしてもギブアップしないため相手の腕をへし折り、さらには目玉をくりぬいたとされるが、そうなると十万の観衆のあいだには暴動が起きかねない一触即発の空気が漂いだした。猪木はレフェリーストップで試合には勝ったが、無事にその場を去ることが出来るかどうか危ぶまれた。しかし彼は臆することなく両手を高々とあげ勝利の雄たけびをあげた。するとそのポーズがアラーの神へ捧げる祈りの形に似ていたため、イスラム教徒の現地の人々は一瞬にして静まり返り、猪木は無事に日本に帰ることが出来たという。(それにしてもこの一戦のもようを伝える映像では、猪木がリングを去る瞬間に「折ったぞ!」と叫んでおり、なんとも凄惨な試合だったことがうかがえる。)
 猪木はこのような危険な状況での試合を何度も敢行しており、その行動力と積極果敢さは、常人ばなれしていると言おうか、常人の感覚がもはや麻痺していると言おうか、あるいは狂気じみてさえいるのである。一度などはリングの外にいちめん五寸釘を逆さに立てた板を敷き詰めて、リングから落ちたら死ぬという状況で試合をしたこともある。

 さて、現在アントニオ猪木がしていることにそうした気力だの旺盛な行動力だのが生かされ、成功しているのかどうかよく知らない。おそらく政治家としてはあまり成功していないのだろう。
 猪木はこのほど超党派の「拉致救出議員連盟」への入会を断ったという。彼は「個人の立場で拉致問題解決に尽力したい」としている。猪木は北朝鮮と独自のパイプを持っており、そのことを批判する声は当然あるのだろう。ただアントニオ猪木の北朝鮮との関わり方には、どんな批判を受けようともやむにやまれぬ心情がひそんでいると思われる。彼の最大の恩師である力道山が現在の北朝鮮の領土出身だからである。力道山はわずか三十九歳で亡くなったため、猪木は生前その恩に報いることが出来ず、いまの猪木は北朝鮮と日本の国交回復を実現することが泉下の師への最大の恩返しと考えていると伝え聞く。その方法の是非については、国際政治に明るい方に詳しくお聞きしたいところである。

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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