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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/21 (Thu) 18:04:21

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No.668
2013/11/04 (Mon) 03:07:19


 ドンドン、と礼子宅のドアをノックする音がした。「河合です」
 礼子が青柳の顔を見てうなずき、ドアを開けて河合を招じ入れた。
「お迎えに上がりました。しかしここに来る途中、何人もの吸血鬼が邪魔してきましてね。そのつど車ではね飛ばしましたが、本庁まで行くとなるとどんな敵の集団に出会うか分かりません。もっと武器があったほうがいいですね。なにせ今持っている武器は拳銃一丁と、私のポケットの中に催涙弾が一個ですから。途中で岩澤署に寄って、お二人のぶんも武器を調達しましょう」
「ふん。敵方はあんたを警戒しているな。岩澤署に行くのは危険かも知れないぜ」
 青柳のシャツの下の人面疽が言った。
「誰です?」
「僕らの仲間ですよ」青柳はちょっとおどけながらシャツをまくり上げ、蛙の顔をした人面疽を見せた。
「しかし手近なところで武器を調達するとなると、あそこしかない」
「まあ、気を付けて行きましょう」青柳が言った。

 三人が乗った車は、ときどき吸血鬼がしがみついてくるのを振りほどきながら走り、国道に出た。数分で岩澤署に着くと河合が言った。
 しかし、しばらく進むとパトカーが何台も道路に横向きに止められ、バリケードを作っているのが見えた。
「刑事課の河合だ。なぜこんなところで道路を封鎖している?」
 しかし、バリケードの前にいる警官たちは口をきかない。
「これはこれは、河合警部。お初にお目にかかります。緑川です」
 思いがけぬ緑川蘭三の登場に、車内の三人は驚いて口をつぐんだ。
「ここにいる警官たちはわれわれの仲間、つまりみな吸血鬼なんですよ」
 そういわれれば警官たちはみな異様に青白い顔をし、ときどき犬歯をむきだしにして歯ぎしりのような音を立てていた。
「そうそう、河合警部、署長さんがよろしくと仰ってました。もう会えないだろうからってね」
「署長に何の関係があるんだ?」河合が叫ぶと
「あれ、知らなかったんですか? 署長さんはずいぶん前から吸血鬼なんですよ」
「河合さん! ここはいったん撤退しましょう!」青柳が言ったが
「いや、もう遅い。後ろも固められた」
 振り返ると、後方には数台のパトカーと白バイがいつのまにか待機していた。
 河合警部は車の窓から拳銃を緑川に向け、一発二発と撃った。一発は緑川の額に当たり、もう一発は腹に当たった。しかし蘭三はそのたびに頭をのけぞらせたりちょっと後じさりしたりするものの、微笑を浮かべたまま、なんら痛痒を感じていないようだった。
「心臓だ、心臓を狙うんだ!」青柳が叫び、河合の放った三発目は蘭三の胸の真ん中に当たったが、弾丸はキーンと跳ね返された。
「あんたたち、馬鹿かね。弱点ぐらい防備してくるさ」緑川のシャツの胸の破れ目からは、鉄片らしきものが見えていた。
「さ、河合さんとはもうお別れだ」緑川は近くの警官から拳銃を受け取ると、ニヤリと笑って河合に向けて撃った。河合警部は脳天を撃ち抜かれて運転席でぐったりとなった。
「青柳先生、溝口先生、なんだか久しぶりにお会いしたようですね」緑川は死んだ河合の後ろの席にいる二人に話しかけた。
「あなたがたはいち早く僕の正体を見抜いたんでしたね。僕もあのころは、大人しく勉強を続けて東大に入り、ゆくゆくは官僚になるつもりでした。日本の中枢から吸血鬼のための国を作ろうなんて考えてたんですね。しかし、僕の体はだんだん理性で押さえつけられなくなった。優等生を演じ続けるのは難しくなりましてね。それからは成り行きまかせですよ。手あたりしだい吸血鬼の仲間を増やすだけです……さて、溝口先生は思い切って我々の仲間になりませんか? そのほうが楽ですよ……しかし青柳先生はいけない。知ってますよ。あなたのお腹にくっついている蛙の化け物。そいつが危険だ。あなたには死んでもらいましょう」
 青柳はドアを開け、車を降りた。
「なあ、もういちど話し合いをしようじゃないか」
「話し合いって何をいまさら」緑川は嘲笑いながら、しかし拳銃を構えながら言った。
「俺と溝口先生は結婚するつもりなんだよ。二人ぐらいここで見逃したって害はないだろう?」青柳はすたすたと緑川に歩み寄りながら言った。
「それ以上近づくな!」と緑川。
 そのとき、青柳は催涙弾を緑川の足元に投げつけた! 車から降りる前に河合刑事のポケットから拝借したものだった。もうもうと煙が立ち込める。
 青柳はハンカチで顔を覆いながら「人面疽、頼む!」
 すると青柳の腹の人面祖は、緑川はじめ周囲の警官の顔に次々と毒液を吐きかけた!
「ぎゃーっ」
 緑川と警官どもは毒液で目を焼かれ、みなうずくまった。とくに緑川は顔面全体が溶けかかっており、まず命は無かった。
 青柳は河合警部の死体を車から降ろし、急いで車を発進させた。後ろにいた白バイたちが追いかけてきたが、しばらくすると引き返して行った。ボスの緑川が死んで、混乱が生じたのだろう。
「警察の本庁に行くの?」溝口礼子が言った。
「とりあえずは」
「そこも吸血鬼だらけだったら?」
「吸血鬼のいないところまで走り続けるさ」青柳はそう言うとアクセルをいっぱいに踏みしめた。

(完)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

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