最近聴いたジャズが立て続けに良かったから、ちょっと紹介してみたい。
しかし今度はジャズか。毎回の話のテーマがこうも支離滅裂だといっこうに読者は増えないような気もするがまあいいか。
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ヴィブラフォン奏者のボビー・ハッチャーソンによる “ Four Seasons “。ハッチャーソンは有名な奏者だからこれまでいくつかのアルバム、たとえば “ Happenings “ , “ Dialogue ” などを聴いてきたが、あまり好きにはなれなかった。これらは彼が1960年代に「新主流派」と呼ばれて注目を集め始めたころの作品だが、今回聴いた「フォー・シーズンズ」は1983年の録音で、これは大いに気に入った。60年代とは彼の奏でる音色自体が変わってきている可能性があるが、一聴して「何とかわいらしい音色だろう」と驚いた。かわいらしいなどというと誉めているのか貶しているのかよく分からないが、もちろん褒め言葉である。ここでの彼のヴィブラフォンの音は、とがった、影のない明るい、そして粒のそろった音である。その音はどんなに速いパッセージのときも濁らない。「サマータイム」のような陰気な曲のときでも影のある音は出していないから、これは彼のこだわりの音色なのかも知れない。そしてこのヴァイブの音はどこをとっても耳当たりが良い。他のメンバーはピアノのジョージ・ケイブルス、ベースのハービー・ルイス、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズで、計四人のカルテットである。ヴァイブ、ピアノ、ベース、ドラムという編成のカルテットといえばモダン・ジャズ・カルテット(MJQ)が有名だが、MJQの演奏とこの「フォー・シーズンズ」は何と違っていることか。まずMJQのヴァイブ奏者ミルト・ジャクソンとハッチャーソンでは徹底的に違う。ミルト・ジャクソンの場合、もっとヴァイブの音色に幅を持たせて、暗い沈んだ音も出すし、ねばっこい間の取り方をして聴くものの情感に訴えてくる。いっぽうハッチャーソンは明るい単一な音色にしぼることでかえって稀有な個性を獲得している。
すずやかな鉄琴の音の好きな人には、ジャズ入門になりうるアルバムかも知れない。
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フランスのギター奏者ルネ・トーマによる “ Hommage a…Rene Thomas”。この人のことはよく知らなかったが、すでに ” Rene Thomas et son quintette “ というアルバムを持っていたのにあとで気が付いた。ということはそれを聴いた時にはあまり印象に残らなかったのだろう。今回聴いたこの「オマージュ」と名の付いたアルバムは、彼の遺作であるらしい。1975年に48歳の若さで亡くなっているが、その前年の録音である。ここでの他のメンバーはエレクトリック・ピアノのロブ・フランケン、ベースのコース・セリーセ、ドラムのルイ・デビジで、四人編成。このアルバムの魅力は、録音技術のせいかこくのある渋い音が鳴っているのに楽想がとても斬新で、またライブ録音ならではの熱気が漂ってくる、という点だろう。楽想が斬新、といっても音楽の素人の自分には専門用語で説明することがかなわずもどかしいのだが、とにかくどこをとっても陳腐な古臭いところがないのである。フランスのジャズ・ギタリストで最も有名なのはジャンゴ・ラインハルトだろうし、また彼は今でも高い人気を誇っているが、僕などその録音を聴くといかにも古臭くてあきあきしてしまう。しかしこのルネ・トーマのアルバムで聴かれる音楽については、今後も古びることはないのではないか。トーマのファンによると、この「オマージュ」は彼のアルバムの中でもっとも斬新な音楽に満ちているという。トーマがもっと長生きしていたらどうなったろうと考えずにはおれない。なお僕はエレクトリック・ピアノという楽器は従来あまり好きではなかった。その人工的な電子音を聴いていると頭が痛くなってくる気がするのだ。しかしこの「オマージュ」でのロブ・フランケンによるエレクトリック・ピアノは実にいい。録音のせいかもしれないが、オルガンにも似た手作りという感じの音に聞こえる。
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ピアニスト、テテ・モントリューによる “ Live at the Keystone Corner “。ピアノ・トリオ作品で、ベースはハービー・ルイス、ドラムはビリー・ヒギンズ。実はこの有名な盲目のピアニストの作品を聴くのは初めてだった。題名の通りライブであるという事情にもよるのだろうが、ここまでノリのよい爆裂的なピアノ・トリオ作品はそう聴けるものではない。テテ・モントリューは元来自分のアドリブが始まって調子が乗ってくると、周囲のことなど忘れてピアノに没入してしまうタイプらしいが、その個性はここで存分に発揮されているのだろう。非常に長いアドリブを弾きまくるのだが、決して飽きさせず、勢いはどんどん加速して、聴衆を巻き込んでしまう。“ I’ll remember April “ のようなメジャー曲のアレンジも面白いけれども、それよりテテという人の勢いが何より印象に残る。勢いに乗ったら止まらないピアニストだというのは彼が盲目であるせいもあるらしい。つまりピアノの次に別な楽器のミュージシャンがアドリブに入ろうとしても、テテに合図を送ろうと思ったらそばに寄って肩をつつくなどしなければ気づかないからだ。マルチ・リード奏者ローランド・カークとしばしば共演しているそうだが、カークも盲目であるためコミュニケーションをとるのが大変だったらしい。
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レイ・ブライアント・トリオ。ただし短調の名曲 “ Golden Earring ”で始まる有名な Prestige盤ではなく、” Cubano Chant “ で始まる Epic盤。どちらもブライアントのピアノによるピアノ・トリオ作品だが、後者のほうがブライアントのクセがよく出ていて僕は気に入った。というより彼のアルバムはPrestige盤 “ Ray Bryant Trio “を除いてはどれを聴いても同じではないかという感想もわいてくるのだが、名店の変わらぬトンカツの味のようで、ときどきブライアントが聴きたくなるのである。僕がとくに好きな彼のアルバムは “ Alone at Montreux “ という作品である。一時間近くあるソロ・ピアノ作品で、これを最後まで飽きさせず聴かせるブライアントの手腕は素晴らしいのひとこと。ピアノが好きな人にはジャズ入門として好適ではなかろうか。ちなみに自分はジャズ・ファンには珍しいと思われるビル・エヴァンス苦手派であるので、エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」は勧めません、悪しからず。
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