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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/24 (Sun) 20:28:56

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No.66
2009/10/16 (Fri) 03:21:19

エドガー・アラン・ポオの「赤死病の仮面」という短編が大好きなのだけれど、これが映画化されたものを最近観た。
ロジャー・コーマン監督、ヴィンセント・プライス主演による「ポオ・シリーズ」の一篇で、1963年撮影の作品。映画は、色彩豊かでキレイな映像だったけれど、僕は原作のほうが好きだなと思った。

ある国で「赤死病」という死の伝染病が猛威を振るい、民衆の半ばが死に絶えようというとき、領主のプロスペロ公はその惨状を無視して宏大な城郭に閉じこもることにした。赤死病も堅固な城郭の中までは入り込んでこないだろうと高をくくり、千人ばかりの貴族や貴婦人を呼び寄せ、敢えて陽気な酒宴を毎夜くりかえしていた。ある日、城内で壮大な仮装舞踏会が開かれることになった。

それが催されることになった七つの部屋は美しく豪華きわまりない。七つの部屋は不規則に折れ曲がってつながっており、東の端の部屋は青色を基調とし、壁掛けや装飾品はすべて青。次は全ての物が紫色になっている紫の部屋、続いて緑の部屋、オレンジの部屋、白の部屋、すみれ色の部屋、最後は黒の部屋。各部屋の壁にはおのおのの色に合わせたステンド・グラスが嵌めてあり、それは七つの部屋に沿った廊下に面していて、廊下に置かれた幾つものかがり火で外から照らされている。色ガラスを通して差し込んでくるその光で、青の部屋はいっそう青く、紫の部屋はいっそう紫に輝き、宴をさらに妖しく演出している。

西の端の黒い部屋には黒檀の巨大な時計があり、それが一時間毎に陰鬱な音で鳴り響くたび、にぎやかに騒ぎ踊っていた参加者も不吉な面持ちで沈黙してしまう。鳴り終われば元通り楽しげな雰囲気に戻り、宴はえんえんと続く。最後は不気味な仮面の男とともに、この部屋にも赤死病が入り込んできて、舞踏会の人々もすべて死に絶える。


と、こんな感じの話だった。外の世界で荒れ狂う伝染病を無理に忘れようとして、酒や音楽で浮かれ騒ぐ人たちの姿は不気味でもあり、ときに身につまされるような気もする。借金に追われたり、やるべき仕事をほったらかしにして享楽的な生活を送っている、そんな自分に気づいた瞬間とか。



建てもの探訪

ポオの小説や、それを映像化したものに登場する建物には、美しい調度や妖しげな小物もあいまって、いつも魅力を感じる。

僕は「渡辺篤史の建てもの探訪」という番組が好きで、いつも見ているのだけど、ポオの世界に出てくるような建物が紹介されたら面白いと思う。
長寿番組で、渡辺篤史さんもすでに建てものレポートの大ベテランなわけだけど、ときにはつまらないと感じつつレポートしている場合もあるだろう。このあいだ見たときは、二階に上がったところにある「階段のフード」の斜面をほめたたえ、それにもたれかかって天井を見て「うわー、いいですねぇ」と言って、そこに付いていた小棚を見るや「お! これ取り外しが出来るんですねぇ。いやなんとも小粋で素晴らしい」と、執拗にその斜面で話を膨らませていて「渡辺さんも今回は時間をつぶすのに苦心しているな」と思った。

ポオ風の建物ならそんな気苦労は要らないだろう。玄関を入ったら、いつもなら「下駄箱がいかに機能的に出来ているか」のような賞賛をしなきゃいけないけど、この建物なら入るなり迫力ある地下室に直行。先祖伝来の拷問用具を鑑賞。渡辺さんはプロだから、ひるまずいつもの笑顔をまったく崩さないで「お、私もこういうものには目がないほうでしてねえ」と言うだろう。
「この台も趣きがあっていいですね。横になってもいいですか? うわー、あの天井から釣り下がっている巨大な三日月形の刃物! 趣きがありますねえ」
振り子状の刃物が勢いよく左右に揺れながら下がってきても、目を細めながらにこやかに、
「建築家のこだわりを感じます」。

二階に上がるとそこはリビング。上方にはロフト状の空間があり、そこに登ってみる渡辺さん。いつもだと、だいたいその家の子供がチョコンと机に向かっていて「どうだい、こんな家だと勉強も進むだろ」のようなセリフが出てくる。しかしこの建物では、ロフトにはほとんど素っ裸の若い男女が大勢横になっていて、アヘンか何かを吸って虚ろな目をしている。渡辺さんはこれにも全く動揺せず「うわー」と叫びながら女体の群れにおどりこむだろう。自分もアヘンを吸わせてもらい、美女のお腹を枕にして「いや、まったく極楽です」。

ポオといえば最後はやはり「呪われた家の破滅」ということで、失火で燃えていく建物が見たいところ。邸宅がぼんぼん燃えさかり、渡辺さんは落ちてきた梁の下敷きになっても汗ひとつかかず、笑顔でレポートをしめくくる。
「いかがでしたでしょうか、閑静な中にも歴史の重みを感じさせるアッシャー邸。延床面積30000平米、建築費202億円、坪単価250万円」
炎上する建物をバックに、いつものように小田和正の平和的なエンディング・テーマ。 
「どんなに小さな声でも きっといつもきいてるから♪」
で、次週は何事もなかったように普通の家を紹介する。


ってふざけた話ですみません。断っておきますが「建てもの探訪」は大好きです。映画「赤死病の仮面」を観た翌朝にこの番組を見たものだから、つまらない妄想が膨らんでしまったようです。

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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No.65
2009/10/16 (Fri) 01:48:52

磯野家のあるS-7地区の核シェルターに、突如として放射能汚染の警報がわんわんと鳴り響いた。死の灰の降り積もった地上から、放射線が漏れてきているときに鳴るものであり、緊急度が高いとコンピュータが判断したためか、あっという間にS-7地区は分厚いシャッターで他の地区から隔離されてしまった。
「どこが汚染されたのか?」人々は防護服を着て探知機であちこち調べて回ったが、どこにも異常は認められなかった。どうもコンピュータの誤作動らしい……しかし一度降りてしまった重いシャッターを開けることはなんとしても不可能だった。そして間もなくこの地区で食糧危機が叫ばれるようになった。
「この地区の食糧庫には、一ヶ月分の余剰しかないそうだ。なんとか他に食糧を確保する方法を考えんと」波平は言った。
波平を含めこの地域の大人たちは、もやしやカイワレ大根のようにすぐに育つ植物の栽培を試みたり、プラスチックからパンを作る研究も始めた。

「どうせそのうち死ぬんだから、今を楽しめばいいのになあ」カツオは大人たちを見て言った。「なあワカメ、バーチャルリアリティもいいけど、そろそろ飽きてきたよ。俺、本当にうきえさんとやりてえよ。ワカメ、いい方法考えろよ」
「簡単よ。うきえさんを薬漬けにすればいいんじゃない」
ワカメとカツオは、うきえのいる伊佐坂家に、大量の薬物を持って押しかけて行った。

「大変ですぅー!」タラちゃんが叫びながら、磯野家に帰ってきた。「カツオ兄ちゃんが、うきえお姉さんと変なことしてるです!」
血相を変えた波平が、伊佐坂家の窓からその行為の最中のカツオに怒鳴りつけた。
「カツオ!! 何をしとるか!」
しかしカツオは動じなかった。「へっ。もうモラルもへったくれもあるかい! うきえさんが孕んだとしてもどうせ一ヶ月の命じゃないか。なっ、うきえ」
「カツオくん、もっと上」
波平にはもう言う事がなかった。そう、一ヶ月もすれば、おそらくみんな餓死だ。この期に及んでくどくど説教するのは野暮かも知れない。いやしかし、親として何か伝えられることはないだろうか。

食糧がほとんど底をつきかけてきたある日。磯野家のみんなはげっそり痩せこけていた。波平は庭で麻酔を自分の脊髄に注射し、のこぎりを片手に瞑想していた。
「む、麻酔が効いてきたぞ。感覚がなくなってきた」波平はやおらのこぎりで自分の右の太腿を切り始めた。「こりゃ一人では手に余るな。おーい、マスオくん」
「なんですか。わぁ、何やってらっしゃるんですか!?」
「みんなにわしの足を食ってもらおうと思ってな。すまんがのこぎりで切ってくれんか」
「そそそんなこと、できませんよ」
「血におびえたか。意気地なしめ。おーい、サザエ!」
サザエは割合に平気に、血しぶきを浴びながら波平の右足を切断した。
「肉はたくさん付いとるから、味噌味、しょうゆ味、いろいろ試すといいぞ」波平が言うと、フネが調理の準備を始めた。

「いやあ、食った食った。お父さんも久々にいい事したねえ」爪楊枝を片手にカツオが言った。
「おいしかったですぅ」タラちゃんが言った。
「ところでマスオさんは?」とサザエ。
「さっき鴨居で首吊ってたわよ」とワカメ。
「わはははははは。じゃあ次はマスオくんを食うか!」と波平が言うと、久しぶりに磯野家の居間に、どっと笑い声が起こった。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
No.64
2009/10/16 (Fri) 01:45:54

燦燦と照る太陽の下、いつものように空き地で野球する仲間たち。ピッチャー中島の投げた球を、カツオは狙いすましてすくい上げた。きれいな放物線を描いた打球は、外野の塀をはるかに越えていった。カツオ、きょう二本目のホームラン。息を弾ませてダイヤモンドを一周する。きょうは絶好調だ……。

「カツオ、起きなさい。もう八時よ」薄暗い、じめじめしたコンクリートの天井の下、母フネの顔がのぞく。「朝ごはんのおつゆには本物のさやえんどうが入ってるわよ。食糧省が未発見の倉庫を見つけたんですって……それで今朝の配給品が……」
カツオはさっきの夢の続きを見ようと寝返りを打った。核シェルターでの生活にはもううんざりだ。

関東平野の地下に点在する三十あまりの大型核シェルターは、網の目のように張り巡らされた通路によって連結され、そこでは核戦争を生きのびた日本国民七百万人が細々と生きながらえていた。冷戦後再び核の危機が叫ばれてから数年でこれだけの施設を造り上げたのは、日本人の堅忍力と日本の土木技術の水準の高さを示していた。
しかし電力の節約のため、人々は昼間でも薄暗い照明の下で暮らさねばならなかった。

食事を終えたカツオに、サザエが言った。
「ワカメがまたどこかに行っちゃったの。また悪い仲間と付き合ってるかも知れないから探してきてくれない?」
「悪い仲間って中島のことを言ってるの?」カツオはぼそりと言った。
「そうとは限らないけど……でも中島君、さいきんヤクの売買に手を染めてるっていうじゃない」
「わかったよ」カツオは憂鬱な顔をして磯野家を出て行った。
ワカメの行きそうな場所なら分かっている。R-25地区の拡張工事が凍結している、警察の目の届きにくい空き地だ。ここではいかがわしい連中が毎日、鬱陶しい日常を忘れるためにダンスパーティーを開いていると聞く。ここに来れば、違法ドラッグも簡単に手に入る。そうは思いたくないが、ワカメはもうシャブ漬けだ。目を見れば分かる。どろんと黄色味を帯びた、感情を欠いた目。
「背はこのぐらいで、おかっぱ頭の女の子を見ませんでしたか?」カツオはいろんな大人に聞いてまわった。十人ぐらい聞いてまわって、ようやくワカメが見つかった。ワカメはコンクリートの床に座り、白目をむいて意識を失い、失禁していた。あたり一面に割れた注射器が転がっている。カツオはため息をついてワカメを背負い、磯野家のあるS-7地区に向かって歩いていった。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん」背中からワカメが話しかける。「ごめんね、いつも」
カツオが無言でいると、ワカメは眠たげな声で話し続ける。
「私、きょう大人たちが噂してるのを聞いたんだけど、日本で宇宙ロケットの打ち上げの話がすすんでるんだって……地球はもう駄目だから、他の星を探しに行くのよ。ね、素敵じゃない?」
またワカメの妄想だろう。カツオはそう思って返事をしなかった。
「嘘だと思ってるでしょ。でも、R-17地区でロケットの乗組員の抽選が始まるらしいわよ。そう遠回りじゃないんだから寄ってみて」
「ああ、行ってみるか」ワカメの話が本当かどうかは怪しいが、その方面には植物園がある。草木に触れれば、ワカメもすこしは具合が良くなるかも知れない。
しかしその地区に行くと、ワカメの言ったとおり「ロケット乗組員募集会場」という張り紙がしてあり、大勢の大人が集まっていた。マイクを持った初老の男が演説している。
「宇宙に飛び立って、新しい居住地を探し求めようという有志を募っています。危険はもちろんあります。しかし死の灰のためあと千年は地上に出られないという状況に甘んじるのみでは、人類の希望の灯はついえてしまいます。われわれは太陽の子です。明るい太陽のもと、ふたたび暮らす夢を捨ててはなりません」
「ワカメ、本当だったんだね。僕と一緒に応募しよう」
「ううん、一緒に応募は駄目。この宇宙船には、男十人に対し女ニ百人が乗り込むの。人類が新天地で子供をたくさん作って繁栄するためよ。その十人と二百人とで多夫多妻制の社会を作るのよ。兄妹で夫婦にはなれないわ。それに私の体はもう薬でボロボロ。お兄ちゃんだけ応募してちょうだい」

そしてカツオは、幸運にも宇宙船の乗組員に選ばれた。時代に似合わぬ粗野な丸刈り頭が、絶倫な精力を思わせたためかも知れない。
自動操縦の宇宙船の中では、食べるか、寝るか、セックスのいずれかしかすることがなかった。しかし腕白ながらナイーブな一面をもつカツオは、はじめは女性との交渉には引け目を感じていた。しかし二百人の女性乗組員の中にかつて隣に住んでいたうきえさんが乗り組んでいることを知り、顔なじみの親しさからすぐに親密になった。八歳年上のうきえは、カツオの手を取ってセックスの手ほどきをする役目をになった。うきえにリードされ、自信にみなぎったカツオのそれはうきえの成熟した体を貫き、熱い精液を何度も彼女の体内に放った。
カツオはぐったりしてベッドに横たわった。
「カツオくん、初めてにしては良かったわ。これからもよろしくね」そう言ってうきえは微笑んだ。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。時間よ」ワカメはヘルメット状の幻影装置をカツオの頭から外し、カツオの顔をのぞきこんだ。「楽しかったでしょ!」
「ここは……」
「こんどR-17地区に出来た、バーチャルリアリティを楽しむ施設よ」
「なんだ、現実じゃなかったのか……よく考えたらあんなうまい話、あるわけないものな」
「また来たくなったでしょ!」
「ああ! 現実なんてもうこりごりだよ。これからは毎日ここに来るよ! ワカメ、俺、ふっきれたよ。俺もヤクをやってみる。気持ちいいことならなんだってするんだ!」
「分かってくれると思ったわ!」

「じゃん、けん、ぽん! うふふふふ」サザエさんが微笑んで出したジャンケンの棒には、グーとチョキしかない。人類は核戦争による遺伝子の異常により、とっくに指が三本しかなくなっていたからである。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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