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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/24 (Sun) 21:42:18

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No.63
2009/10/16 (Fri) 01:43:07

ボルト、パウエル、タイソン・ゲイといった錚々たるスプリンターと並んで、ロンドン・オリンピックの百メートル走決勝のスタートラインに立ったモンスター。これまでの、松平監督との厳しい特訓の思い出が走馬灯のように彼の脳裏によぎった。

「ほれほれ、速く走らんと轢き殺すぞ!」ダンプカーでモンスターを追いかける松平平平。
弓矢でモンスターを射殺しようとする松平平平。
活火山の噴火口にモンスターを突き落とす松平平平。
チェーンソーをうならせて追いかけてくる麻生総理そっくりの松平平平。

スタートの合図の、ピストルが発砲された。

金メダルを獲ったら、松平監督を血祭りに上げてやる。そうだ、そうだ。なぜ今まで松平の命令を唯々諾々と受け入れてきたのだろう。殺せ、殺すんだ。

「モンスター、ぶっちぎりの一着でゴールイン! タイムは6秒97!!」
モンスターは日本国旗を持って、陸上競技場のフィールドをウィニング・ラン……するかに見えたが、松平監督の姿を認めると、観客を押しのけて近づいていった。
「よくやったぞ、モンスター! お前は本物の金メダリストだ!」
「そうだ、だがこれまでの仕打ちを忘れてはいまいな、松平」
「何のことだ?」
「貴様の拷問のような訓練、その苦痛、そして死んでいった同じ陸上部員の仲間たち……この恨みは深いぞ。俺はお前を殺す! もっとも苦痛に満ちた死に方をさせてやる!」
「おお、お前のその瞳! 単なるスプリンターを超えた、神のような眼だ! お前、いや、あなたこそわが蟻濠図帝国(ぎごうとていこく)の次期帝王にふさわしいお方だ!」
「何を言い出すんだ、松平!?」
「実は私は、跡継ぎのいない蟻濠図帝国の王位にふさわしいものを探しに日本に参ったのでございます。いやあなたこそ私の求めてきた人物だ! 皆のもの、凱旋の用意だ!」
一つ目のモンスターは訳がわからないまま金銀の細工できらびやかに飾られた輿(こし)に乗せられ、朱や桃色の薄絹を身にまとった少女たちが花を辺りに撒き散らした。そして「ほいだらほい、ほいだらほい」という訳のわからない歌とともに、モンスター一行はロンドンをあとにしたのだった。

蟻濠図帝国に着いたモンスターは、民衆の熱烈な歓迎を受けた。
「一つ目モンスターの王様、万歳! モンスター万歳!」
しかし輿の上から、歓迎に参加しない、白い着物を着た大勢の人々が遠くに集まっているのが見えた。
「あの連中は何をやっているのか」
「葬儀でございます」と松平。
「ちょっと待て。火葬のようだが、二つ棺が見えるぞ?」
「あれは死んだ者の妻が殉死するというしきたりがありまして……」
「殉死!? そんな悪習はやめさせるのだ!!」
モンスターは輿を飛び降り、火葬が行われている葬儀場に飛び込んだ。モンスターを止めようとする者は容赦なくチョップで首をはね飛ばされた。鮮血が勢いよく飛び散る。
山と積まれた薪の上の棺から、殉死しようとする妻を助けようとして、炎の中に果敢に飛び込み、薪の山を這い登るモンスター。
「王様、王様! その故人の妻はですね!」
「やかましい! 罪なく死ぬ者を放っておけるか!!」
「だからその妻は!」
「よし! もうすぐ棺に手が届くぞ」
「その妻、人形なんです!」
と言われてモンスターは、薪の山が崩れると同時に地面に転げ落ちた。

「なんだ、人形だったのか」体中に大火傷を負ったモンスターは、体中に包帯を巻かれて横たわり、つぶやいた。
「だからそう言おうとしたら火の中に飛び込むんだから……もう殉死なんて不合理な風習はやってませんよ。その風習の名残りとして人形を燃やしてはいますが」と松平。
瀕死の重傷を負ったモンスターだったが、もともと不死身の体であり、一昼夜もするとすっかり回復した。

宮殿の王の居室で、執事の松平が
「あすは国王として初の演説です。こちらに原稿を用意してありますので……」と言うとモンスターは、原稿を奪い取りビリビリと引き裂いた。
「俺は俺のやり方でこの国を治める。この国には因習にとらわれない、俺のような者の生の言葉が必要なんだ」
宮殿の窓から空を見やると、満月は不気味な紅色に光っていた。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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No.62
2009/10/16 (Fri) 01:40:45

一つ目のモンスターが、操車場に入った回送列車をモップで掃除していたとき、読み捨てられたスポーツ新聞のある記事が目にとまった。「驚異の短距離ランナーを次々と生み出すRS電機陸上部、松平監督に聞く」というタイトルで、サングラスをかけたいかつい男の写真が載っていた。

松平平平(まつだいら・へっぺい、62歳)氏の話
「日本人は短距離ランナーとしては、天性の瞬発力の点でどうしても黒人にはかなわない、というのがこれまでの定説でした。オリンピックのメダルなど夢のまた夢である、と。しかしです。日本人が肉体的に劣っているのは確かですが、精神面ではまだまだのびしろがあると、わしは思うとります。ただ精神力を伸ばすには並大抵の訓練では無理で、それこそ選手を殺すぐらいのトレーニングが必要です。実際わたしの課した過酷なトレーニングのため、六人の選手が死んどります。日本人として初めて百メートル九秒台を出したうちの橋本など、脚光を浴びた選手の影にはそれだけの“捨て石”があるわけです。これからの日本の短距離界はまさに生き地獄ですわ。しかしわしゃそうでなきゃならんと思うとります」

この記事を見て、モンスターは怒りに震えた。中学生のころ、まだ放射線を浴びる前のモンスターは虚弱な少年で、体育の教師にさんざんいじめられた記憶があった。スポーツの記録のために選手を殺す鬼コーチ。こんな人間がいまの日本にいてよいわけがない。よし、俺が制裁を加えにいこう。

モンスターは次の日さっそく、RS電機陸上部の練習場がある神奈川県に向った。
そこは確かに陸上競技場だったが、松平平平監督はなぜかゴルフクラブを振り回していた。キーン、キーンと金属的な音がして、体中あざだらけのスプリンターたちがそのたびに猛然とスタートを切っている。
「それそれ! 速く走らんとこの鋼鉄のゴルフボールがお前らの体をぶち抜くぞ!!」
そう、松平監督は選手の背中に向けて、鉄のボールを打っていたのだ。
「次は五番アイアンだ。うかうかしてると本当に死ぬぞ!」
まさにこの男は鬼だ。モンスターは慄然とした。こんなことが許されてはならない。
しかしモンスターが監督のゴルフクラブをつかんでこの修羅場をやめさせようとすると、監督はサングラスを外し、ものすごい形相で相手をにらみつけた。彼は日本の麻生太郎元首相にそっくりだった。
「なんだ貴様は?」
「正義の使者だ。こんな殺戮が許されると思っているのか?」
「殺戮? これは日本のスポーツ界のためだ。スポーツはきれいごとでは済まされない、生きるか死ぬかの世界なのだ」
「そんなスポーツならやめてしまえ」モンスターは五番アイアンをぐにゃりと曲げ、威嚇的に監督をにらみつけた。
「貴様、貴様……」松平監督はぶるぶる震えながらこぶしを握り締めた。「その腕、その足、その瞬発力……貴様、日本人か? すごい素質だ……陸上選手になる気はないかね?」
「なんだと? なんで俺が……」
「そうかそうか、スプリンターになってくれるか! めでたい、めでたいぞ! よし、明日から本格的に特訓だ!」

次の日の朝。モンスターは訳がわからないまま百メートル走のスタートラインに立っていた。そして松平平平の手には黒い拳銃が握られている。
「よし、速く走らんとこのコルト・ガバメントが貴様の脳天をぶち抜くぞ!」
空に一発、スタートの合図に撃った松平監督は、死ぬ気で走るモンスターの背中に向けて容赦なく発砲した。
「貴様の道は、死ぬか金メダルか、そのいずれかしかない! 走れ走れ、明日のために! 走れモンスター!」
日本陸上界の今後の明暗は、この二人に握られているのだ。

(つづく)

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No.61
2009/10/16 (Fri) 01:38:03

阪急梅田駅の巨大なテレビスクリーン「ビッグマン」の前には、待ち合わせする人々も多かったが、今日はそこに映し出されるサッカーの試合を見物する人が大勢いた。日本対ウズベキスタン戦。
一つ目のモンスターも、モップを片手に人だかりの中で、その試合に見入っていた。日本が先に一点を入れ、再三の敵の攻撃をぎりぎりのところで防ぎ続ける日本のディフェンダーたち。手に汗握る攻防だった。双方のシュートが放たれるたびに、喚声が沸く。

そのときである。試合の応援とは違う、男女数名のかん高い叫び声が駅構内に鳴りひびいた。「おい、なんだ貴様!」
「あーっ、腕を切られたあ!!」
「きちがいだ!!」
大勢がいっせいに振り向くと、血だらけの白いシャツを着た顔面蒼白の若い男が、軍用ナイフを振り回して、周りの人間に手当たりしだいに襲い掛かっていた。腰にはバールやドライバーなど凶器になりそうなものをわんさと吊っていた。
「そいつを取り押さえろ!」
「あぶない、下手に手を出すな!」
モンスターは、一つ目を怒らし、無言で通り魔に近づいていき、その腕をひねりあげた。
「お前、なんでこんな真似をする?」
「うるせー、俺は死刑になりたいんだ!」
モンスターは冷然と通り魔を見おろした。しかし、いつものようにすぐにとどめはささなかった。見れば気の弱そうな男だ。社会全体に恨みをもち、同時に死にたいと思っているが自分では死ねない。思い返せばモンスターも放射性廃棄物を浴びて超人となるまでは、そんな心理状態におちいったことがよくあった。

「おちつけ。抹茶アイスクリームでも食べながら話そうぜ」
モンスターはいきつけの喫茶店「茶茶」に青年を連れて行った。
「おれ、会社をリストラされてから、バイトとか派遣の仕事やってたんです。でも、もうこのごろはぜんぜん仕事がなくなっちまって」
「そりゃ今のご時勢、そういう悩みを持ってる奴はいくらでもいるもんだ。人を殺して死刑になろうなんて、俺に言わせれば甘ったれてる。だがお前はまだ若い。それにいい目をしている……どうだ、俺のように悪党を片付ける仕事をやってみないか?」モンスターは目を輝かせて言った。
「悪党を片付ける……?」
「そうだ。死刑になるぐらいに根性が座ってるなら、それぐらいできるはずだ」
「正義の味方か……」青年は真剣な目をして思案した。「よし、俺やってみる」
「その意気だ!」
そのときである。ウェイトレスが水のおかわりを入れようとして、青年の飲んでいたアイスコーヒーをこぼしてしまった。「あっ、すみません!」
「ちきしょー、許せねー!!」突如として青年は激昂し、腰に釣っていたバタフライナイフを逆手に持ち、ウェイトレスの口に正面から深々と突き刺した。ばたりと倒れて口から噴水のように血を吹き上げ、ぴくぴく痙攣してこと切れるウェイトレス。
「やっぱり駄目だなお前は……」腕を組んでため息をついたモンスターは、青年をひきずって店を出て行き、HEPファイブの屋上に連れて行った。モンスターはエレベーターのワイヤーをいやがる青年の首に巻きつけ、屋上の赤い大観覧車を滑車がわりにして、青年を吊り上げ絞首刑にした。
「これがお前にふさわしい刑だー!」

青年が地上九十メートルの観覧車にぶらさげられる様子は、全国にテレビ中継された。
はたしてこのモンスターは英雄か、あるいは悪魔か? 日本国民はその夜みな、かたずを呑んで考え込み、そして議論を戦わせたのだった。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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