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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/24 (Sun) 22:31:34

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No.51
2009/10/16 (Fri) 01:18:25

考古学者草壁が、殺気(さつき)と冥(めい)の二人の娘を連れて獄門島に越してきてから数日がたっていた。
冥は、殺気が学校に行く前に毎日作ってくれる弁当を楽しみにしていた。その日の弁当は、冥の大好物であるコウモリの姿煮だった。
「ウシシ、ウシシ~! コウモリのスガタニ~!」冥はちゃぶ台のまわりで泡を吹いて狂喜乱舞した。黄色味がかった赤黒い眼球を、ぐりぐり回している。
「冥、座って食べなさい」草壁が憂鬱な声で言った。

今日は研究所が休みだったため、草壁は戸を開け放って、庭に面した書斎で浩瀚な学術書に目を通していた。ときどき、森のほうからどこかの狂女の叫び声が聞こえてくる。
「キィー! イヒヒヒヒ……ウケケケケケケ」
草壁は体をぶるっとさせて、すでに依存症になって久しいヒロポンの錠剤を何錠か口に放り込んだ。獄門島の湿気の多い陰鬱でかび臭い空気が、生来の憂鬱な性質をさらに暗いものにしつつあった。
ふと机の上を見ると、小さな髑髏がいくつか並べられていた。
「お父さん骨屋さんね」
冥がどこから拾ってきたのか、こどもの頭蓋骨を父の机の上に並べていたのだった。
冥は弁当を片手に、森のほうへ歩き出した。
「どこへ行くんだい」
「ちょっとそこまで♪」冥は黄色いギザギザの歯をむき出してニッと笑った。

「ウシシ、ウシシ、うまそうなゴキブリ~」冥は小さな昆虫を追いかけて、四つんばいになって灌木の中へ這って行った。無我夢中で虫を追い求めるうちに、林の中の開けたところに出て、うっかり段差から転げ落ちてしまった。
ぽん、とやわらかい場所に冥は着地した。
そこには、不気味な巨大な動物が横たわっていて、冥はその腹の上に落ちたのだった。その動物は、頭は人間で、腕と胸部はゴリラのよう、胴体は牛のようで足は馬のようだった。
「うが、うが」その動物は青白い顔を持ち上げてうめいた。
「あなた誰?」
「うぉ、うぉ、うぉー」
「と、と、ろ……ととろ! 分かった、あなた吐屠郎っていうのね!」
「ウォー!」その動物は苦しそうに口からどろどろの血へどを吐いて、さらに顔面を蒼白にした。
「吐屠郎♪」冥が嬉しそうに足をばたばたさせた。

そのとき、喪漏博士(もろうはかせ)の家の実験室では、博士と助手の毒島(ぶすじま)が意識を失って倒れていた。そこらじゅうに実験器具やガラスの破片が散乱していた。うっすらと白いガスがたちこめている。
喪漏博士が先に気がついた。鉄のベッドに目をやって、驚愕の表情を浮かべた。
「毒島君、おきろ! 大変だ、モンスターが逃げ出したぞ」
毒島はもうろうとした顔をしてなんとか起き上がった。
「逃げた……あの鎖をちぎって? あの頑丈な扉をやぶって?」
「のんきなことを言っている場合ではない、モンスターを早く確保せねば」
「しかし私は……どうも頭がぼんやりして……博士、これはゲルジウム・ガスが漏れているのではありませんか!?」
「うむ……しかしこの家からはまだ漏れてはおらんだろう。吸気装置を作動させたまえ」
毒島はいそいで装置のスイッチを入れた。
毒島はそのときまざまざと思い出していた。死者を生き返らせる作用を持つゲルジウム・ガス。いぜん喉切島(のどきりじま)でこのガスを使った実験をした際の、悪夢のような思い出。地面から、つぎつぎと腐りかけの生けるしかばねが這い出し、島の住民はすべてゾンビと化した。
数百におよぶゾンビの大群をかいくぐって、喪漏博士と毒島は小さなボートで命からがら喉切島を逃げ出してきたのだった。
 
二人は実験室で落ち着きを取り戻し、モンスター捕獲の段取りを冷静に検討した。
しかし博士も毒島も気づいていなかった。少量のゲルジウム・ガスが、客間の暖炉から伸びる煙突から放出されてしまっていたことを。

(つづく)

(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
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No.50
2009/10/16 (Fri) 01:16:16

 浪山帝国大学サイバネティックス研究所――大学本部から遠く離れ獄門島に設けられたこの研究所が、考古学者草壁の新しい職場だった。その名前に似合わず石造りの古めかしい建物で、なかへ一歩足を踏み入れるとかび臭い空気が鼻をつき、昼間でも薄暗く、何ともいえぬ陰鬱な雰囲気につつまれた空間だった。
 草壁が赴任してから二日目、出勤してくると、建物の中を数名の警官が行ったり来たりしており、時おり誰かの怒号も響き渡ってなにやら騒々しかった。同僚に出くわしたから、草壁はわけを尋ねてみた。
「物理学の石黒教授ですよ、公金横領の容疑で逮捕されたんです。教授は否定してますがね」
 同僚はそう言うと、足早に立ち去った。草壁もしばし怒声の聞こえるほうを見ていたが、やがて肩をそびやかし自分の研究室に入っていった。

 草壁の長女、殺気(さつき)は早くも新しい学校に、すっかり馴染んでいた。隣の席になったミッちゃんとはすぐに仲良しになった。今朝もミッちゃんは殺気の家に迎えに来てくれ、父親は「もう友達ができたのかい」と目を丸くしていた。
 すこし離れた席にいる姦太(かんた)は、近づいては来ないものの、その不気味な黄色い目で四六時中、殺気を凝視していた。
「姦太のやつ、また殺気ちゃんを見てるわよ。きもーい」とミッちゃん。
「ご近所さんなの。仲良くしなきゃ」殺気は苦笑いしながら言った。
 三時間目のあとの休み時間。
 姦太は左手を机の上において、カッターナイフの刃で指の間をトントンと突き始めた。級友がわらわらと姦太の机のまわりに集まってくる。
「殺気ちゃんの気を引こうとしてるのよ」とミッちゃん。
 カッターが指の間を移動するスピードがどんどん増してくる。その間もときおり殺気のほうを見て「うー、うー」とうなる。そして何度目かのよそ見をした瞬間、薬指と小指の間を突くはずだったカッターが、姦太の小指をはね飛ばした。
「うがー!」
「ちょっと姦太くん!」殺気が驚いてかけ寄ろうとすると、ミッちゃんが手を引っ張った。
「ほっときなさいよ。あいつ、しじゅうあんなバカやってんだから」
 教室はしばしどよめいていたが、ミッちゃんの言うとおりこんなことは日常茶飯事らしく、級友たちはすぐに関心を失った。

 いちにちの授業が終わると、ミッちゃんが言った。
「今日はちょっと寄り道して帰らない? 面白いイベントがあるの」
「なに、イベントって?」
「ギロチンよ、ギロチン」
 ミッちゃんの話によると、学校の裏手をすこし行ったところに高台があり、そこに断頭台があるらしかった。そこで今日、死刑がおこなわれるという噂が伝わってきたのだ。
 二人が高台に行くと、すでに人だかりが出来ていた。どんよりと曇った空の下、黒々とした断頭台がそびえ立ち、その刃は鈍い光を放っていた。
「今日は誰が死刑なのかしら。あ、死刑囚が見えたわ……あれ、石黒博士じゃない?」
「誰それ?」
「サイバネティックス研究所の物理学教授よ。天才というもっぱらの噂よ」
「その研究所って、あたしのお父さんの勤め先だわ……なぜそんな人が死刑になるの?」
「待って……他にも死刑囚がいるらしいわ」
 石黒博士の他、手錠をはめられた男たちが三人、警官に引っ張られてきた。そのなかに、容貌が石黒博士とよく似た男がいた。
「あれは石黒博士の双子の弟じゃないかしら……このあたりでは札つきの浮浪者で、しかもキチガイよ。みんなタケやんって呼んでるけどね」
 警官の一人が一枚の紙を広げ、刑の執行に先立って一人ひとりの罪状を読み上げた。
「イシグロアツシ。サイバネッティクス研究所教授。罪状は公金の横領」
「違う! 私は無実だ! 誰かにはめられたんだ!」石黒博士は叫んだ。しかし警官は無視して、淡々と書類を読みあげる。
「イシグロタケシ。無職。罪状は強盗殺人……タニヌママサヒロ。無職。罪状は……」
「冤罪だ!」
「よって大日本帝国刑法の定めるところにより、本日この四人を斬首刑に処す」
 石黒博士は最後まで叫び続けた。しかし刑吏は耳を持たないかのように、博士の頭を断頭台にむりやり据えつけ、無情にも躊躇なく、その重い刃を落とした。博士の首がとぶ。
「首、ひとーつ!」
 博士の双子の弟、タケやんもあとに続く。
「首、ふたーつ!」
 他の二人の死刑囚の斬首もつぎつぎ執り行われた。

 見物人が三々五々帰っていき、辺りが静かになると、刑吏は死体を一体ずつ別々に袋につめ、馬車で来ていた墓堀人に引き渡した。墓堀人は荷台に死体をのせると、夕闇のなか墓地へと続く道を、馬車を走らせていった。
 しかし、この墓堀人の行く先は墓場ではなかった。獄門島の南端にある、世捨て人として知られる喪漏博士(もろうはかせ)の屋敷に向かったのだった。

「喪漏博士、わしです、猿川です」墓堀人はドアをノックして言った。
「ああ、ご苦労」ドアを開けたのは、小柄で痩せてはいるが、知的で精悍な顔立ちの男だった。年は五十代半ばぐらい。これが喪漏博士だった。
「これが石黒博士の頭だね」
「へえ、そうでさあ。いや、ちょっと待てよ……この袋の中の胴体は、確かに石黒博士のもんですが、その顔立ちはどうも、タケやんのほうに似てますね……刑吏のやつ、チョンボしやがったのかな」
「誰だね、タケやんというのは」
「石黒博士の双子の弟でさあ。待ってくだせえ、タケやんの袋のほうの頭も持ってきますんで」
 喪漏博士と猿川は、二つの頭をならべて見比べた。
「タケやんというのも科学者なのかね」
「とんでもねえ、ウスノロの浮浪者です」
「では、こっちの頭が石黒博士のものだろう。この前額部の張り出し方を見たまえ。これは前頭葉が非常に発達し、科学的な思考に秀でた頭脳だ」
「難しいことは分からねえでがすが、あっしにはそれがタケやんのように思えますがね」
「いや、間違いなかろう。ほら、約束の金だ。もう引き取っていいぞ」
「しかし喪漏博士、あんたもよくやりますなあ。あっしが小耳にはさんだところでは、石黒教授の公金横領も、すべてあんたの差し金によるデッチ上げだとか……さぞ大金をバラ撒かれたこってしょう。そんなにまでしてその首が欲しいわけって、いったい何ですかい?」
「余計なことには首を突っ込まんことだ」
「あんたが助手さんと一緒にこの島に漂着したとき、船にヘンテコな猿をいっぱい積んでなさったね。両腕をもぎ取られたのや、両足だけ鹿みたいに長いやつとか。キチガイじみた実験を、今もこのお屋敷で続けなさってるんだろ。石黒博士の頭も……」
「もういい。あと幾ら払えば、その口を塞いでいてくれる?」
「へへ、さすが喪漏博士は話が早いね」

 猿川を追い返し、扉に施錠した喪漏博士は、買い上げた石黒博士の首を持って地下の実験室に下りていった。そこでは助手の毒島(ぶすじま)が、真空管や電気回路が複雑に入り組んだ装置を、熱心に調整していた。
「毒島君。待ちに待った石黒博士の頭が手に入ったぞ。天才の頭脳だ」喪漏博士はそういうと、頭の入った袋を丁寧に実験台の上に置いた。
「これで全てのパーツがそろったわけですね。ゴリラの腕と胸部、牛の胴体、馬の足、そして石黒博士の頭。これらをつなぎ合わせれば、強靭な肉体と優れた知能をあわせ持った、もっとも優れた生物が出来上がる……」
「それは人間を超えた、いわば神人類、ゴット・メンシュとでも呼ぶべきものだろう」
「しかし博士、これら各部を拒否反応なしにつなぎ合わせる外科的な理論は分かりましたが、仰っていた、確実に命を吹き込むという最後の段階の具体的方法については、まだうかがっていません」
「そう、そうだった。というのも、それを話してしまうと、君が引きつづき実験に協力してくれるかどうかが危ぶまれたからだ」
「まさか、私がこの期に及んで実験を放棄するとは、博士も本気で思ってはいないでしょう?」
「いや、それほどに危険をはらんでいる方法なのだ。覚えているだろう、わしたちが喉切島(のどきりじま)を脱出したときのことを」
「ええ、まあ」毒島はとたんに不愉快そうに表情をゆがめた。
「あの騒動のきっかけになった危険なガス、あれをもう一度使うのだ」
「まさか……」
 重苦しい沈黙が、喪漏博士の実験室を支配した。

(つづく)

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No.49
2009/10/16 (Fri) 01:13:18

考古学者草壁が、殺気(さつき)と冥(めい)のふたりの娘を連れて獄門島に到着したのは、夕刻に近いころであった。

これから住むことになる、じめじめした古い屋敷を見て冥は言った。
「お父ちゃん、この辺にイボガエルいるかな」
「ああ、いっぱいいるとも。冥の好物ならなんだっているぞ」
「青い目の男の子も? 今から楽しみ~イヒヒヒ」
「こら冥、がっつかないの!」殺気が言った。
草壁は屋敷の雨戸をいきおいよく開けた。二、三十羽のコウモリが、バタバタと羽音もけたたましく飛び出してきた。
「ウシシ、ウシシ、うまそうなコウモリ~!」赤黒い目玉をぐりぐり回し、よだれをたらしながら冥が叫んだ。
「さーて、二階へ昇る階段はどこにあるでしょーか!」草壁がニヤニヤしながら言った。
「ウワーイ」殺気と冥はどたどたと屋敷に上がりこんだ。
「ここかな? ここかな? ここだー!」
「なんだか真っ暗ねー。ウヒヒ、なめくじいるかなー」
ザワザワという音とともに、黒い小さな球体がたくさん見え隠れした。
「まっくろくろすけ出ておいで、出ないと内臓ほじくるぞお!」
二人の娘は包丁を持ってくわっと目を見開き、猛然と階段をかけ上った。
「なんにもいない」
殺気が窓を開けた。光がサッと差し込む。
「ぎゃあ、お姉ちゃん、目がつぶれるぅ」冥がのたうちまわった。
「お父さん、ここお化け屋敷みたい!」殺気が階下にいる父親に言った。
「なーんだ、またお化け屋敷か! これはこれは、研究が進むぞぉ」

鬼婆が来た。
「手伝いにきたぞな、もし」
「これはこれは、すみません」と草壁。
「おやおやおや」殺気と冥を見た鬼婆はニンマリとして言った。
「可愛い子たちだこと……そら、おみやげじゃ」
鬼婆がブリキのバケツを差し出すと、中にはトカゲの尻尾や何かの目玉、芋虫などがたくさん入っていた。
「わー、お婆ちゃん大好き!」二人の娘は声をそろえて言った。

目が黄色くてがりがりに痩せた、坊主頭の少年が布をかぶせた大きな皿を持ってやってきた。
「これ、母ちゃんが、婆ちゃんに」といって皿を殺気に差し出す。
「何これ?」殺気が布を取ると、皿には腐った牛の首がのっていた。
「わー、ありがとう!」
少年は口元をぶるぶる震わせてあとずさった。
「や、やーい、お前んち、自殺の名所!」
「姦太(かんた)!!」鬼婆が叫んだ。
「男の子きらーい!」殺気はそういって、鬼婆の持ってきたみやげをムシャムシャほおばっていた。

(つづく)

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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