『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.39
2009/10/16 (Fri) 00:09:24
(これは、作者が mixi日記にてお題を募集し、「水がめ」「ビニ本」「タイムマシン」の三語をいただいて三題噺にしたものです。)
その海岸には、早朝から釣りをする人たちが集まっていた。当時中学二年生の僕は、母の勤め先のおじさんに連れられ、車でその海岸に向かい、釣りをすることになった。釣りをするのは僕は初めてで、楽しみと言えば楽しみだったが、どちらかというとインドア派の僕はそれほどの期待を抱いてはいなかった。
しかし僕がその海岸に着いてまず驚いたのは、ビニ本、裏本などのポルノ雑誌が大量に、あちらこちらに捨てられていたことだった。当時の僕には刺激が強すぎて、一緒にいる大人たちが男ばかりだとはいえ、それらを拾って食い入るように眺めるという真似はできなかった。大人たちはもちろんそれらを拾って、見て楽しんでいた。「この女、中森明菜にそっくりだな」「いい女だなぁ」当時は、コンビニで見かける成人誌にも、それほど過激な写真は載っていなかった時代だっただけに、それらの写真は僕には衝撃的だった。
さて、釣りを始めることになり、大人たちは僕に釣具の扱い方を教えてくれた。僕は投げ釣りがどうも上手く出来なかったから、近い水面に釣り糸を垂れて当たりを待った。なかなか釣れない。大人たちもたまに小物を釣り上げるぐらいだった。どうも、こういう遊びは自分には不向きだ、家で本でも読んでいたほうがよかったかなと、陽が高くなってくるにつれてぼんやり思った。
「そろそろ引き上げるか」「でもT君がまだ釣れてないぜ」T君とは僕のことである。
「ちょっと待って! 何かが強く引いてる!」僕は叫んだ。大人たちは僕の釣竿をいっしょに持って、獲物を引き上げようとふんばった。水面の底深くから、大きな白い円筒形のものが引き上げられてきた。釣り上げてみると、大きな水がめのような形をしていた。それは大人の人間よりも大きかった。その水がめのような物体は、いまや自らの力で空中に浮遊していた。
水がめの胴の部分が、自動扉のように静かに開いた。まるで土偶のような装備をした、小柄な人間(?)が姿を現した。我々の側の大人の一人が近づこうとすると、その土偶のような生物は手首から白い光線を発射し、足元の岩場が溶けてしまった。威嚇のつもりなのだろう。
「ドゥブブ、ビルクルムリムリ。タベネ、トバラージャー。ヘンドバ」
と、そいつは訳の分からない言葉を発した。話しながら、胸元のラジオのような装置のつまみをくるくる廻していた。まさにラジオのチューニングのときのような音がする。やがてその土偶は
「ワレバレラ。ベ、ブ、ワレワレハ、ミライカラキタ。キミタチトオナジ地球人ダ。キミタチノイウ、たいむましんニ乗ッテヤッテキタノダ。ワレワレハ、古代ノ地球ヲ調査シニ来タ。バー、ビー、ビロヨーン。君ラハ、雄カ。失礼、男性カ」
我々の側の大人の一人が「そうだ」というと
「ナルホド。ケロヨーン。ワレワレノ未来ニハ、モハヤ性別ガナイ。コノ時代ノ男性ヲ一匹、さんぷるニモラッテユク」
といって土偶のような未来人は、光線を僕に向かって発射し、僕は意識を失った。
僕が目を覚ますと、真っ白な部屋の中にいた。ここは先ほどのタイムマシンの中らしい。土偶のような未来人たちは、サングラスのような目で、先ほどの海岸から拾ってきたと思しきポルノ雑誌のページを熱心にめくっていた。そして僕が目を覚ましたのに気づくと
「オイ君、ココニ載ッテイル写真ハ、スベテ女性ナノカ」僕はそうだと答えた。
「イロイロナ姿ノ女性ガイルガ、スベテ生殖能力ヲ持ッテイルノカ」
「なぜそんなことを聞く」と僕が言うと
「女性モ一匹連レテ帰リ、君トツガイニシテ繁殖サセルノダ」
僕はそれを聞くと、ポルノ雑誌をひったくって、いちばん好みに合う女のヌードを指さした。「確実に生殖能力があるのはこいつだけだ。こいつを探し出すんだな」
「ワカッタ」
すると今まで外を映し出していたタイムマシンのスクリーンは灰色に変わり、操縦席の土偶はいろいろなボタンを忙しく押したりレバーを引いたりした。
いきなり、白いタイムマシンの内部に、もう一人の人間が実体化した。
「捕獲完了」
その人間は、まさに僕が指をさした写真のモデルだった。写真よりも色が白く見え、美人だったが、服は着ていた。
「いったいなんなの! ここはどこ!?」
「たいむましんノ中ダ……ダガシカシワレワレハ地球人デハナイ。アルデバラン星系カラ来タノダ。君ラヲツガイニシテ、ワレワレノ動物園ニ連レテ行ク。観客、タクサン来ル。ワレワレ、モウカル。スベテ丸ク収マル」
「収まるわけないでしょ!」女の子は宇宙人の一人をグーで殴った。するとその相手は簡単に参ってしまった。
「お前ら、地球人じゃなかったのか。騙しやがって」土偶たちが意外に弱いのを知って、僕も彼らに殴る蹴るの暴行を加えた。
「ギャー」
「ソレ以上アバレルト、光線銃デアノ世イキダゾ」土偶の一人は銃を構えた。
「なんでこうなるのよ、え、なんで!?」娘は僕に食ってかかった。
「知らないよ」
「ソノ男ガ、オ前ヲ連レテユク女トシテ選ンダノダ」
「何それ!? どういうことなのよ!? 説明しなさいよ!」
「うるせえ、こんちきしょう、ポルノ雑誌なんかに出る女のくせに」
「きー」
「やるか!?」と言って僕は光線銃をひったくった。そして宇宙人の側を向き直り「おっと、みんな手を上げるんだな。おとなしくしな。操縦を代わってもらおう」
「オ、オマエナドニ操縦ガデキルモノカ」
「さっきから見てりゃゲームセンターの宇宙船と同じ要領だ。おい、宇宙人を見張ってろ」と言って、僕は銃を女に渡した。
「地球に帰れるのね」
「ああ、それからこの宇宙人たちを動物園に売って大儲けだ」
「その手があったわね! いひひひひ」
「うけけけけけけ」
それから僕たちは金持になった。宇宙人万歳である。
(終)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
その海岸には、早朝から釣りをする人たちが集まっていた。当時中学二年生の僕は、母の勤め先のおじさんに連れられ、車でその海岸に向かい、釣りをすることになった。釣りをするのは僕は初めてで、楽しみと言えば楽しみだったが、どちらかというとインドア派の僕はそれほどの期待を抱いてはいなかった。
しかし僕がその海岸に着いてまず驚いたのは、ビニ本、裏本などのポルノ雑誌が大量に、あちらこちらに捨てられていたことだった。当時の僕には刺激が強すぎて、一緒にいる大人たちが男ばかりだとはいえ、それらを拾って食い入るように眺めるという真似はできなかった。大人たちはもちろんそれらを拾って、見て楽しんでいた。「この女、中森明菜にそっくりだな」「いい女だなぁ」当時は、コンビニで見かける成人誌にも、それほど過激な写真は載っていなかった時代だっただけに、それらの写真は僕には衝撃的だった。
さて、釣りを始めることになり、大人たちは僕に釣具の扱い方を教えてくれた。僕は投げ釣りがどうも上手く出来なかったから、近い水面に釣り糸を垂れて当たりを待った。なかなか釣れない。大人たちもたまに小物を釣り上げるぐらいだった。どうも、こういう遊びは自分には不向きだ、家で本でも読んでいたほうがよかったかなと、陽が高くなってくるにつれてぼんやり思った。
「そろそろ引き上げるか」「でもT君がまだ釣れてないぜ」T君とは僕のことである。
「ちょっと待って! 何かが強く引いてる!」僕は叫んだ。大人たちは僕の釣竿をいっしょに持って、獲物を引き上げようとふんばった。水面の底深くから、大きな白い円筒形のものが引き上げられてきた。釣り上げてみると、大きな水がめのような形をしていた。それは大人の人間よりも大きかった。その水がめのような物体は、いまや自らの力で空中に浮遊していた。
水がめの胴の部分が、自動扉のように静かに開いた。まるで土偶のような装備をした、小柄な人間(?)が姿を現した。我々の側の大人の一人が近づこうとすると、その土偶のような生物は手首から白い光線を発射し、足元の岩場が溶けてしまった。威嚇のつもりなのだろう。
「ドゥブブ、ビルクルムリムリ。タベネ、トバラージャー。ヘンドバ」
と、そいつは訳の分からない言葉を発した。話しながら、胸元のラジオのような装置のつまみをくるくる廻していた。まさにラジオのチューニングのときのような音がする。やがてその土偶は
「ワレバレラ。ベ、ブ、ワレワレハ、ミライカラキタ。キミタチトオナジ地球人ダ。キミタチノイウ、たいむましんニ乗ッテヤッテキタノダ。ワレワレハ、古代ノ地球ヲ調査シニ来タ。バー、ビー、ビロヨーン。君ラハ、雄カ。失礼、男性カ」
我々の側の大人の一人が「そうだ」というと
「ナルホド。ケロヨーン。ワレワレノ未来ニハ、モハヤ性別ガナイ。コノ時代ノ男性ヲ一匹、さんぷるニモラッテユク」
といって土偶のような未来人は、光線を僕に向かって発射し、僕は意識を失った。
僕が目を覚ますと、真っ白な部屋の中にいた。ここは先ほどのタイムマシンの中らしい。土偶のような未来人たちは、サングラスのような目で、先ほどの海岸から拾ってきたと思しきポルノ雑誌のページを熱心にめくっていた。そして僕が目を覚ましたのに気づくと
「オイ君、ココニ載ッテイル写真ハ、スベテ女性ナノカ」僕はそうだと答えた。
「イロイロナ姿ノ女性ガイルガ、スベテ生殖能力ヲ持ッテイルノカ」
「なぜそんなことを聞く」と僕が言うと
「女性モ一匹連レテ帰リ、君トツガイニシテ繁殖サセルノダ」
僕はそれを聞くと、ポルノ雑誌をひったくって、いちばん好みに合う女のヌードを指さした。「確実に生殖能力があるのはこいつだけだ。こいつを探し出すんだな」
「ワカッタ」
すると今まで外を映し出していたタイムマシンのスクリーンは灰色に変わり、操縦席の土偶はいろいろなボタンを忙しく押したりレバーを引いたりした。
いきなり、白いタイムマシンの内部に、もう一人の人間が実体化した。
「捕獲完了」
その人間は、まさに僕が指をさした写真のモデルだった。写真よりも色が白く見え、美人だったが、服は着ていた。
「いったいなんなの! ここはどこ!?」
「たいむましんノ中ダ……ダガシカシワレワレハ地球人デハナイ。アルデバラン星系カラ来タノダ。君ラヲツガイニシテ、ワレワレノ動物園ニ連レテ行ク。観客、タクサン来ル。ワレワレ、モウカル。スベテ丸ク収マル」
「収まるわけないでしょ!」女の子は宇宙人の一人をグーで殴った。するとその相手は簡単に参ってしまった。
「お前ら、地球人じゃなかったのか。騙しやがって」土偶たちが意外に弱いのを知って、僕も彼らに殴る蹴るの暴行を加えた。
「ギャー」
「ソレ以上アバレルト、光線銃デアノ世イキダゾ」土偶の一人は銃を構えた。
「なんでこうなるのよ、え、なんで!?」娘は僕に食ってかかった。
「知らないよ」
「ソノ男ガ、オ前ヲ連レテユク女トシテ選ンダノダ」
「何それ!? どういうことなのよ!? 説明しなさいよ!」
「うるせえ、こんちきしょう、ポルノ雑誌なんかに出る女のくせに」
「きー」
「やるか!?」と言って僕は光線銃をひったくった。そして宇宙人の側を向き直り「おっと、みんな手を上げるんだな。おとなしくしな。操縦を代わってもらおう」
「オ、オマエナドニ操縦ガデキルモノカ」
「さっきから見てりゃゲームセンターの宇宙船と同じ要領だ。おい、宇宙人を見張ってろ」と言って、僕は銃を女に渡した。
「地球に帰れるのね」
「ああ、それからこの宇宙人たちを動物園に売って大儲けだ」
「その手があったわね! いひひひひ」
「うけけけけけけ」
それから僕たちは金持になった。宇宙人万歳である。
(終)
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No.38
2009/10/16 (Fri) 00:04:48
岳滅鬼(がくめき) 広瀬淡窓
杳杳又冥冥
唯疑入大隧
奔泉心暫醒
危石足頻躓
密林一路無朝昏
群蛭吮人殷血痕
忽然白日翻衣上
樹杪拆処天如盆
どこまでも暗く 何も見えず
てっきり大きな隧道に入ってしまったのかといぶかるばかり
勢いよく流れ落ちる滝に肝を冷やしたり
そそり立つ岩にしばしば足がすくむ
密林は果てしなく続いて 朝なのか夕暮れなのかも分からず
群がる蛭(ひる)は私の血を吸い放題に吸って どこも血の痕だらけ
そのうち思いがけなく太陽の光が私の着物の上で翻り
ふと見上げると樹木のこずえがぽっかり開いたところに 皿のように小さく丸い青空
宮廷からの帰途、裏門から出て通ったことのない山道を進んだら、どんどん道が細くなって、鬱蒼と茂る木々のために辺りは真っ暗になっていった。そして湿気の多い道を進んでいるうち、気がつくと蛭に体中をかまれて血だらけになっていた。宮殿の近くにこのような場所があったとは思ってもみなかったが、しばらく行くと小川があったからそこで傷口を洗うことにした。すると血の匂いをかぎつけたピラニアと思しき魚が群れを成して襲ってきた。わたしは足を無数のピラニアに咬まれ、あっという間に膝の下の白骨がむき出しになった。私は命からがら密林を抜け出したが、そのころはとっぷり日が暮れていた。暗くてよく見えなかったが、辺り一帯は腐臭を放つ泥土がどこまでも広がっているらしかった。自由が利かなくなった下半身を引きずって、両腕で這っていく私。とりあえず星明りでぼんやりと見える巨木を目標に進んでいった。耐え難い腐臭が鼻をつき、私は自分の両足がどうなってしまうのか心配だった。二三時間這って進むと、巨木の根元にどうやらたどり着いた。そこには人がゆうに入れるぐらいの大きな穴があいており、中は乾いて快適そうだったから中に入っていった。私はおそるおそる自分の下半身に触ってみた。私の体はへそ辺りまでとっくに擦り切れ、もう上半身だけの人間になっていた。ところが不思議と気分が滅入ることはなかった。ふと思いついて、中空になった巨木の中の、固い蔦をつたわって私は上へ上へと昇っていった。何がそうさせたのかはよく分からない。まもなく私は木の落とし戸に触れた。ここは人家なのだろうか。それを何とか押し上げて、階上に登ると、巨木の大きな節穴から月明かりがさしていた。そこには大きな書架が見え、黴臭い革表紙の古い書物がたくさん並んでいた。夜が明け、朝日が節穴から差し込んできてもそこを立ち去る気にはなれなかった。それらの書物は魔術的な力で私の好奇心を捉えてしまっていたのである。アラム文字やヘブライ文字で書かれたそれらの書物は、はじめはちんぷんかんぷんだったが、読み解く時間はいくらでもあった。私はやがてアッシリアの魔術に通暁するようになり、巨木の周辺に棲む虎やライオンを子猫同様に手なずけ、不思議な香木から生命力を得る術を身につけた。天を摩する巨木からは、ときおり天の雷の力を得て、そういう時は雨に打たれながら浩然の気をいっそう養った。私はさらに多くの魔術書に読みふけり、やがて尻から糸を吐くようになった。そして大木の枝から枝へと巣を張って鳥や獣を捕らえては食べた。
私はやがて、自分の身につけた術を自分一個のために役立てるだけでは満足できなくなった。私は長年住み慣れた巨木を離れ、人里を求めてさまよった。ある夜、荒野に一軒建つ古い城館から灯りが漏れ、若い男女の歓声が聞こえてくるのに気がついた。私はためらわずに城館に入っていった。とたんに絹を引き裂くような叫び声が起こった。そこに集っていたと思われた男女は実はいたちの集団であった。いたちの分際で音楽をかき鳴らしワインを傾けていたのである。いたちは私を見て、慌てふためいて逃げまどった。私は彼らを蹴散らし、広間に入っていった。そこにはすでに誰もおらず、大きな姿見があるだけだった。そして蝋燭に照らされた鏡面に写っていたのは大きな毒蜘蛛であった。私はいつの間にか、大きな黒い毒蜘蛛になってしまっていたのである。しかし私は悲観しなかった。多年の魔術修行によって、自分の外見にとらわれるがごとき小さな心はとっくに滅していたのである。私はその城館に、蜘蛛男爵と名乗って住まうことにした。その地方ではなかなかの名士として今も暮らしている。
(終)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
杳杳又冥冥
唯疑入大隧
奔泉心暫醒
危石足頻躓
密林一路無朝昏
群蛭吮人殷血痕
忽然白日翻衣上
樹杪拆処天如盆
どこまでも暗く 何も見えず
てっきり大きな隧道に入ってしまったのかといぶかるばかり
勢いよく流れ落ちる滝に肝を冷やしたり
そそり立つ岩にしばしば足がすくむ
密林は果てしなく続いて 朝なのか夕暮れなのかも分からず
群がる蛭(ひる)は私の血を吸い放題に吸って どこも血の痕だらけ
そのうち思いがけなく太陽の光が私の着物の上で翻り
ふと見上げると樹木のこずえがぽっかり開いたところに 皿のように小さく丸い青空
宮廷からの帰途、裏門から出て通ったことのない山道を進んだら、どんどん道が細くなって、鬱蒼と茂る木々のために辺りは真っ暗になっていった。そして湿気の多い道を進んでいるうち、気がつくと蛭に体中をかまれて血だらけになっていた。宮殿の近くにこのような場所があったとは思ってもみなかったが、しばらく行くと小川があったからそこで傷口を洗うことにした。すると血の匂いをかぎつけたピラニアと思しき魚が群れを成して襲ってきた。わたしは足を無数のピラニアに咬まれ、あっという間に膝の下の白骨がむき出しになった。私は命からがら密林を抜け出したが、そのころはとっぷり日が暮れていた。暗くてよく見えなかったが、辺り一帯は腐臭を放つ泥土がどこまでも広がっているらしかった。自由が利かなくなった下半身を引きずって、両腕で這っていく私。とりあえず星明りでぼんやりと見える巨木を目標に進んでいった。耐え難い腐臭が鼻をつき、私は自分の両足がどうなってしまうのか心配だった。二三時間這って進むと、巨木の根元にどうやらたどり着いた。そこには人がゆうに入れるぐらいの大きな穴があいており、中は乾いて快適そうだったから中に入っていった。私はおそるおそる自分の下半身に触ってみた。私の体はへそ辺りまでとっくに擦り切れ、もう上半身だけの人間になっていた。ところが不思議と気分が滅入ることはなかった。ふと思いついて、中空になった巨木の中の、固い蔦をつたわって私は上へ上へと昇っていった。何がそうさせたのかはよく分からない。まもなく私は木の落とし戸に触れた。ここは人家なのだろうか。それを何とか押し上げて、階上に登ると、巨木の大きな節穴から月明かりがさしていた。そこには大きな書架が見え、黴臭い革表紙の古い書物がたくさん並んでいた。夜が明け、朝日が節穴から差し込んできてもそこを立ち去る気にはなれなかった。それらの書物は魔術的な力で私の好奇心を捉えてしまっていたのである。アラム文字やヘブライ文字で書かれたそれらの書物は、はじめはちんぷんかんぷんだったが、読み解く時間はいくらでもあった。私はやがてアッシリアの魔術に通暁するようになり、巨木の周辺に棲む虎やライオンを子猫同様に手なずけ、不思議な香木から生命力を得る術を身につけた。天を摩する巨木からは、ときおり天の雷の力を得て、そういう時は雨に打たれながら浩然の気をいっそう養った。私はさらに多くの魔術書に読みふけり、やがて尻から糸を吐くようになった。そして大木の枝から枝へと巣を張って鳥や獣を捕らえては食べた。
私はやがて、自分の身につけた術を自分一個のために役立てるだけでは満足できなくなった。私は長年住み慣れた巨木を離れ、人里を求めてさまよった。ある夜、荒野に一軒建つ古い城館から灯りが漏れ、若い男女の歓声が聞こえてくるのに気がついた。私はためらわずに城館に入っていった。とたんに絹を引き裂くような叫び声が起こった。そこに集っていたと思われた男女は実はいたちの集団であった。いたちの分際で音楽をかき鳴らしワインを傾けていたのである。いたちは私を見て、慌てふためいて逃げまどった。私は彼らを蹴散らし、広間に入っていった。そこにはすでに誰もおらず、大きな姿見があるだけだった。そして蝋燭に照らされた鏡面に写っていたのは大きな毒蜘蛛であった。私はいつの間にか、大きな黒い毒蜘蛛になってしまっていたのである。しかし私は悲観しなかった。多年の魔術修行によって、自分の外見にとらわれるがごとき小さな心はとっくに滅していたのである。私はその城館に、蜘蛛男爵と名乗って住まうことにした。その地方ではなかなかの名士として今も暮らしている。
(終)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
No.37
2009/10/16 (Fri) 00:01:57
「231番でお待ちのかたw」
「はい、えっと、これとこれとこの会社、面接うけてみたいんですが」
「拝見wひとつが寺社業界の新聞社、ひとつがソフトウェア関係、ひとつが保険会社。職種がバラバラすぎてワロタwwwwあなたいったい何がしたいんですかw」
「いや、以前SEをやっていて、本当は好きじゃない仕事だったんですが、経験を生かせる職種ということでソフトウェア関係。あと学生時代、数学を専攻していたのですが、保険の方面には数学の知識が生かせる職種があるらしいというので保険会社。あとちょっと憧れ、いや、やりがいを感じられそうだな、と思うことで、文学も好きなものですから、出版関係を。でも出版関係といっても募集はマニアックな業界紙ばかりなもので、不本意ながら寺社業界の新聞社」
「ちょwwww数学と文学って支離滅裂wwwお前ゆとりかwあと寺社関係っていうのも地味すぎて吹いたw」
「いや実は、親がすこし病気がちなもので、実家から通勤できる場所っていう点も重視してるんです」
「と、いいながら親に寄生しつつガポーリ稼ごうって魂胆ですね、わかります」
「そんな言い方しないでください。母親の保険金と私の失業保険のなかから治療費を出すのは、ちょっときついんです。じっさい病気になると保険って十分じゃないんです。独立して私ひとりの家賃を払ったりしていると、就職しても出費がかさんでしまって病院代が払えなくなると思うんです」
「マジレス乙。勤務地重視なら向こうに張り出してある求人もオススメですよw」
「見てみたんですが、食品工場の機械操作とか、警備員とか、どうもやりがいが感じられそうにないものばかりで」
「お前ブルーカラー嫌がってる場合かwwwいま大事なのは親の体なんだろw」
「いや、就職するからには長続きする仕事がしたいんです。やりがいっていうのも大事にしないと。短期間で稼ぐことを考えるならバイトでもいいわけだし。長い目で見たら、あんまり簡単すぎる、バカでもチョンでもできるような仕事は」
「嫌韓厨乙」
「訂正します。どんなバカにだってできる仕事は嫌気が差すと思うんです」
「じゃ、この三社とアポをとりますかww電話しますねwもしもし、こちら十三のハローワークですがwいつもお世話になっておりますm(_ _)m いまこちらにNさんという方がお見えで、面接をご希望です。いや明らかにスイーツ脳の奴で(ry あ、そうですか。ガチャwというわけで、残念ながら面接は不可能だそうです」
「なぜですか?」
「この会社、たったいま炎上して消えましたww」
(終)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
「はい、えっと、これとこれとこの会社、面接うけてみたいんですが」
「拝見wひとつが寺社業界の新聞社、ひとつがソフトウェア関係、ひとつが保険会社。職種がバラバラすぎてワロタwwwwあなたいったい何がしたいんですかw」
「いや、以前SEをやっていて、本当は好きじゃない仕事だったんですが、経験を生かせる職種ということでソフトウェア関係。あと学生時代、数学を専攻していたのですが、保険の方面には数学の知識が生かせる職種があるらしいというので保険会社。あとちょっと憧れ、いや、やりがいを感じられそうだな、と思うことで、文学も好きなものですから、出版関係を。でも出版関係といっても募集はマニアックな業界紙ばかりなもので、不本意ながら寺社業界の新聞社」
「ちょwwww数学と文学って支離滅裂wwwお前ゆとりかwあと寺社関係っていうのも地味すぎて吹いたw」
「いや実は、親がすこし病気がちなもので、実家から通勤できる場所っていう点も重視してるんです」
「と、いいながら親に寄生しつつガポーリ稼ごうって魂胆ですね、わかります」
「そんな言い方しないでください。母親の保険金と私の失業保険のなかから治療費を出すのは、ちょっときついんです。じっさい病気になると保険って十分じゃないんです。独立して私ひとりの家賃を払ったりしていると、就職しても出費がかさんでしまって病院代が払えなくなると思うんです」
「マジレス乙。勤務地重視なら向こうに張り出してある求人もオススメですよw」
「見てみたんですが、食品工場の機械操作とか、警備員とか、どうもやりがいが感じられそうにないものばかりで」
「お前ブルーカラー嫌がってる場合かwwwいま大事なのは親の体なんだろw」
「いや、就職するからには長続きする仕事がしたいんです。やりがいっていうのも大事にしないと。短期間で稼ぐことを考えるならバイトでもいいわけだし。長い目で見たら、あんまり簡単すぎる、バカでもチョンでもできるような仕事は」
「嫌韓厨乙」
「訂正します。どんなバカにだってできる仕事は嫌気が差すと思うんです」
「じゃ、この三社とアポをとりますかww電話しますねwもしもし、こちら十三のハローワークですがwいつもお世話になっておりますm(_ _)m いまこちらにNさんという方がお見えで、面接をご希望です。いや明らかにスイーツ脳の奴で(ry あ、そうですか。ガチャwというわけで、残念ながら面接は不可能だそうです」
「なぜですか?」
「この会社、たったいま炎上して消えましたww」
(終)
(c) 2009 ntr ,all rights reserved.
目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
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✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
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我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
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