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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/23 (Sat) 09:23:19

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No.403
2011/01/22 (Sat) 10:52:54

 三十円の介は、城代の配下の者が光明寺に集まっているという偽の情報を敵方に伝えに、平田宅を出て行った。三十円の介は具呂藤(ぐろふじ)の屋敷に上がると、室怒(むろど)や具呂藤を相手に「おい、いい話を持ってきたぜ。俺が光明寺の山門の二階で寝ていると……」と話し始めた。

 一方、平田の屋敷。 
 伊瀬地ら九人の若者が集まっている部屋の押入れの戸がいきなり開いた。大目付菊田の役宅から奥方とその娘を救い出した際、なんの因果か三十円の介たちと同行することになった、菊田の家来の木村であった。
「なんだ、いきなり出てくるな」伊勢地が言った。
「あ、こいつ俺のいちばん良い着物を着てやがる」と平田。
「はあ、これは奥方が着せてくれまして。そんなことより、光明寺の山門に二階はありません。あんな話、すぐ底が割れますよ!」
「そうか、しまった」
 若者たちは途方に暮れた。三十円の介はとっくに具呂藤の所に行っているだろう。今となってはじっと成り行きを見守るほかない。

 菊田の手勢が結集し、光明寺に急行した。
「おい、貴様も来い」室怒が三十円の介に言った。
「いや、ここ二三日ろくにものを食ってなくてな。腹が減っては戦はできねえ。なんか食わしてくれ。腹が出来たらすぐに行く」
 室怒が出て行き、まもなく女中たちが豪華な膳を運んできた。座敷にちょこんと座って三十円の介を見つめる三人の女中たち。
「これじゃ窮屈でいけねえ」と三十円の介。「おい、お前ら裸になりな」
 そして三十円の介は十六七歳と思しき若い女中を押し倒し、乳をもみ始めた。
「おい、貴様なにをしている」三十円の介の首に冷たい刀の刃が突きつけられた。室怒だった。

 具呂藤宅の別室。菊田の仲間の一人である竹林が急に大きな声を出した。
「しまった! 光明寺の山門は平屋だ。二階で寝ていたというあの侍の話は大嘘だ」
 竹林と具呂藤がどたどたと三十円の介の所へやってきた。室怒は三十円の介の刀を奪い、相手を睨みつけている。
「おい、光明寺の一件は嘘だ。そやつは敵の間諜だ」
「なんだと……貴様おれをだましたのか?」と室怒。
「こやつの詮議はあとだ。それよりこの屋敷が危ない。お前は光明寺に行って味方を呼び戻してこい!」
 室怒は怒りに震えながら三十円の介を睨みつけたが、すぐに出て行った。
 具呂藤と竹林は、いつ敵が押し寄せてくるか分からないとあって、焦燥して部屋を歩き回った。
「そういえばこやつ、女中の乳をもんでいましたな」と竹林。
「そうだ。おい、右の乳をもむのは何の合図だ、言え!」具呂藤が三十円の介に迫った。
「五十両くれたら教えてやるぜ」
「ふざけるな!」具呂藤の刀が、三十円の介の耳の下に突きつけられた。
「おお、おっかねえ。しょうがねえ、教えるぜ。右の乳をもむのはここに乗り込むのは中止という合図だ。左の乳をもんだらすぐに乗り込んで来い、だ。どちらの乳をもまなくても、これも俺の身に何かあったということですぐ乗り込んでくるぜ」
 具呂藤と竹林は女中たちを押し倒し、気が狂ったように右の乳をもみ始めた。
「おいおい、焦るな。乳はなくなりゃしねえぜ」三十円の介はそう言うとひらりと庭に降り立ち、咲きほこる椿の花を必死に集め始めた。
「貴様、なにをしている」三十円の介の首に冷たい刀の刃が突きつけられた。室怒だった。
「俺は椿の花が好きでな」
「ふざけるな!」
「おい、こやつの詮議はあとだ。赤い椿を集めていたな? 赤い椿は何の合図だ、言え!」
「百両くれたら教えてやるぜ」
「ふざけるな!」具呂藤の刀が三十円の介の喉もとに突きつけられた。
「おお、おっかねえ。しょうがねえ、教えるぜ。赤い椿は右の乳をもむのを見たら乗り込むのは中止、白い椿は左の乳をもむのを見たら乗り込んで来い、という合図だ」
 すると具呂藤、竹林、室怒の三人は必死で赤い椿を集めて庭の水に流し、ふたたび狂ったように女中たちの乳をもみ始めた。
 すると、隣の平田の屋敷から九人の若い侍たちが、いっせいに具呂藤宅の庭に乗り込んできた。
「ははは! 合図には赤い椿も白い椿も右の乳も左の乳もねえんだ。やってきたのは百三十人!」
 悪党たちは九人の侍たちを見ると、腰を抜かして座り込んでしまった。

 城代家老の七田が無事に助け出され、その屋敷では祝いの席が設けられていた。
「椿さん、遅いわねえ」と奥方。
「私たちが探してきましょう」伊瀬地を初めとする若侍たちが言った。

 町はずれの人気のない荒地で、三十円の介と室怒がなにやら言い合っている。
 若者たちは遠くから二人の姿を認め、三十円の介に声をかけようとした。
「お前ら、こっちへ来るんじゃねえ」険しい顔をした三十円の介が言い、ふたたび室怒のほうに向き直った。
「よくも俺をこけにしたな。貴様みたいなひどい奴はない」と室怒。
「しょうがなかったんでね。しかし俺は貴様に一目置いてたんだぜ」
「何を今さら」
「どうしてもやるのか」
「やる」
「やればどっちか死ぬだけだ。つまらねえぜ」
「それもよかろう」
 二人が同時に刀を抜いた。しかし室怒は相手を袈裟がけに斬ろうとしたのに対し、三十円の介は通常とは逆の左手で刀を抜き、相手の胸元に深く斬り込んだ。
 室怒の胸から、鮮血が噴水のように勢いよく噴き出した。と同時に三十円の介の首が飛んでいた。相討ちだ!
 九人の若い侍たちは、戦慄してその様子を見ていた。
 やがてそのうちの一人が言った。「おみごと!」
 三十円の介の首が叫んだ。「ばかやろ! 利いた風なことを言うな。というか、早くのりを持ってきて、胴体とくっつけてくれ」
 若者たちの持ってきたのりで、なんとか一命をとりとめた三十円の介。
 眼をむいたままの室怒の死体を見おろし、三十円の介はつぶやいた。
「抜き身だ。こいつは俺とそっくりだ。あの奥方の言ったとおり、本当にいい刀はさやに入ってるもんだ。おい、貴様らはさやに入ってるんだぜ。あばよ」
 三十円の介が去ろうとすると、室怒が突如生き返り「誰が不気味だ!」と言って三十円の介を後ろから斬りつけた。
「ぎゃーっ」

(おわり)

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No.402
2011/01/20 (Thu) 06:21:33

 今は「メトセラの子ら」という邦題でハヤカワ文庫に入っている作品である。
 メトセラとは、聖書に登場するユダヤの族長で、969年間生きたといわれる人物。これは、約十万人の長命人種「ハワード・ファミリー」の物語である。
 ときは西暦2125年。ハワード・ファミリーの人々はみな二百歳近くまで生きることができたが、普通人から敵対心を持たれるのを恐れ、その素性を隠して生活してきた。長生きしすぎて周囲から奇異の眼で見られる前に、名前を変え別な町に引っ越すことで、普通人の間にとけ込んできたのだ。しかし社会の合理化が進み、戸籍が厳格に記録されるようになって、ファミリーの秘密を隠し通すことが出来なくなってきた。ファミリーの人々は単に遺伝によって長寿なだけだったが、普通人たちは、彼らが寿命をのばす特別の方法を知っているに違いないと考えた。普通人は彼らから長寿の秘密を聞きだすことができないと知るや、羨望からハワード・ファミリーを迫害しはじめた。
 とうとう十万人のファミリーは宇宙船で地球を脱出し、新天地を探すことになった。特殊な装置で恒星間飛行をなしとげ、地球に似た星をいくつか探し当てたが、いずれも高度に発達した先住民がいた。そこは地球人が住むにはあまりに異質な世界であり、結局彼らは地球に戻ることを選択する。
 主人公のラザルス・ロングはハワード・ファミリーの中でも最年長だったが、心身ともに若々しい。彼が指導者となってファミリーを率いるが、積極果敢な行動力と判断力を持ち、またファミリーの移住地があまりに安穏とした生活を強いるのを嫌って地球に戻ろうと提案するあたり、非常に進取の気性に富んでいる。ハインラインはこうした男性をしばしば描くが、そこには彼の理想の人間像があるのかも知れない。

ハヤカワ・ポケット・ブックSFレビュー~総合索引へ戻る
No.401
2011/01/08 (Sat) 20:11:33

「春情」

春花謝了歡情薄,

殘香猶想舊時約。

夢裏和君遊,

覺來獨自愁。

蕭蕭聼曉雨,

寂寂更無緒。

何日又相逢?

蓬山一萬重。



春の花は謝(ち)り了りて 歓情(よろこび)は薄く
残んの香になお 旧時(むかし)の約(おうせ)想わる
夢の裏には君とともに遊び
覚め来たりては独自(ひとり)愁う
蕭蕭として 暁の雨を聴けば
寂寂として 更に緒(こころ)無し
何れの日にか 又 相い逢わん
蓬山を 一万重も隔てしに




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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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