『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.348
2010/09/11 (Sat) 04:20:18
銀河系宇宙調査局員アッシャー・サットンは、二十年前に派遣された白鳥座61番星から奇跡的に帰還した。だが彼の乗っていた宇宙船はぼろぼろに破損しており、サットンが生きて戻ってこれるはずはなかった。サットンは異常に強い肉体を持ち、またテレパシー能力も身につけていたのだ。
彼の住む八十世紀の地球では、大量のアンドロイドが人間の従僕として働いていた。アンドロイドは生殖ができないという一点においてのみ、人間と異なっていた。
サットンには、人類の未来を左右する重要な使命があった。タイムマシンで未来から訪れサットンに接近した工作員によると、サットンはある著書を書きあげることになっており、それが全人類の行く末を決定付けるというのだ。それは究極的には人類が宇宙を支配するのか、アンドロイドが人類に代わって覇権を握るのかの分岐点になる。
時間旅行をするなど運命に翻弄されつつ、自分の取るべき行動は何かと自問を続けるサットン。自分は人類の味方か、あるいはアンドロイドの味方なのか。
難解な小説。何度もどんでん返しがあるが、主人公がその時々でどういう状況に置かれているのか、なかなか把握しづらいという難点を感じる。
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彼の住む八十世紀の地球では、大量のアンドロイドが人間の従僕として働いていた。アンドロイドは生殖ができないという一点においてのみ、人間と異なっていた。
サットンには、人類の未来を左右する重要な使命があった。タイムマシンで未来から訪れサットンに接近した工作員によると、サットンはある著書を書きあげることになっており、それが全人類の行く末を決定付けるというのだ。それは究極的には人類が宇宙を支配するのか、アンドロイドが人類に代わって覇権を握るのかの分岐点になる。
時間旅行をするなど運命に翻弄されつつ、自分の取るべき行動は何かと自問を続けるサットン。自分は人類の味方か、あるいはアンドロイドの味方なのか。
難解な小説。何度もどんでん返しがあるが、主人公がその時々でどういう状況に置かれているのか、なかなか把握しづらいという難点を感じる。
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No.336
2010/09/01 (Wed) 06:39:40
蜀山書舍圖 高啓
山月蒼蒼照煙樹
碧浪湖頭放船去
隔林夜半見孤燈
知是幽人讀書處
山の月はもやのかかった樹をおぼろに照している。
碧浪の湖のほとり、舟を出すと、
ま夜中の林の向こうにぽつんと灯が見える。
それは風流人が本を読んでいる所。
(入谷仙介訳)
まだまだ暑い日が続く。自分もこの詩の風流人のように、湖のほとりに住んでひねもす読書していたいが、そういう日は長くは続かず新学期である。働かなければ。
久しぶりに教壇に立ったが、立ち仕事は疲れる。
それにしても「しごと」を変換しようとすると「詩語と」となるこのPCはなんと優雅なのだろう。叶うことならずっと詩語と戯れていたい。
今日明日は部屋で採点の仕事。ふと思いついてインドの香を焚いてみた。箱に梵字でなにか書いてあるが読めない。学生時代サンスクリット語の授業に少し出ていたが、すぐに挫折したからだ。その講義の先生はインド哲学も講じており、「われわれはサンスクリット語においては永遠に初心者です」と仰っていたのをよく覚えている。
岩波全書の『サンスクリット文法』は難解すぎて初心者には向かないから、最初はゴンダの『サンスクリット語初等文法』で学ぶべきだ、と聞いた。サンスクリットは基本的にアルファベットで学ぶが、梵字も最初から慣れ親しんでおかないといつまでも嫌いなままになってしまう、というのも通説らしい。いまサンスクリットを学び直そうという気はないけれど。
ラテン語は文法そのものは難しくないが、単語の語順の自由度が高すぎるから、文献によっては読みこなせるようになるのに非常に時間がかかると聞いた。とくに難しいのは弁論の類らしい。「弁論」という文学のジャンルは今の世の中ではあまり聞かないが、政治家や教師など人前で喋る職業の人間は、そういうものも学ぶべきなのかな、と時おり思う。アリストテレスの『弁論術』を読むとか(どんな本なのかまるで知らないが)。
というのも、数学の授業をしているとよく感じるのだが、「論理的に話す」だけでは聴き手がまったく理解してくれないことも往々にしてあるのである。論理そのものが身についていない相手に話すのだから当然のことかも知れない。そういうとき、論理によらないで相手を言いくるめる術が必要になるが、それがどういうものか自分にはいまいち分からないのだ。
その昔スプートニク・ショックがきっかけで日本でも「数学教育の現代化」が行なわれ、そのカリキュラムのもとでは中学一年から集合論を学ばせた。あまりに子供の頭脳に負担をかけるというので、その教育課程は全面的に見直しがなされたが、近頃自分は、早い段階で集合論をやるのも一理あるのではないかと思うようになった。集合は論理の基本だからだ。これが身についていない者に数学をやらせるのは、水に浮くことも覚えていない者にクロールやバタフライを教えるようなものではなかろうか。
(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
山月蒼蒼照煙樹
碧浪湖頭放船去
隔林夜半見孤燈
知是幽人讀書處
山の月はもやのかかった樹をおぼろに照している。
碧浪の湖のほとり、舟を出すと、
ま夜中の林の向こうにぽつんと灯が見える。
それは風流人が本を読んでいる所。
(入谷仙介訳)
まだまだ暑い日が続く。自分もこの詩の風流人のように、湖のほとりに住んでひねもす読書していたいが、そういう日は長くは続かず新学期である。働かなければ。
久しぶりに教壇に立ったが、立ち仕事は疲れる。
それにしても「しごと」を変換しようとすると「詩語と」となるこのPCはなんと優雅なのだろう。叶うことならずっと詩語と戯れていたい。
今日明日は部屋で採点の仕事。ふと思いついてインドの香を焚いてみた。箱に梵字でなにか書いてあるが読めない。学生時代サンスクリット語の授業に少し出ていたが、すぐに挫折したからだ。その講義の先生はインド哲学も講じており、「われわれはサンスクリット語においては永遠に初心者です」と仰っていたのをよく覚えている。
岩波全書の『サンスクリット文法』は難解すぎて初心者には向かないから、最初はゴンダの『サンスクリット語初等文法』で学ぶべきだ、と聞いた。サンスクリットは基本的にアルファベットで学ぶが、梵字も最初から慣れ親しんでおかないといつまでも嫌いなままになってしまう、というのも通説らしい。いまサンスクリットを学び直そうという気はないけれど。
ラテン語は文法そのものは難しくないが、単語の語順の自由度が高すぎるから、文献によっては読みこなせるようになるのに非常に時間がかかると聞いた。とくに難しいのは弁論の類らしい。「弁論」という文学のジャンルは今の世の中ではあまり聞かないが、政治家や教師など人前で喋る職業の人間は、そういうものも学ぶべきなのかな、と時おり思う。アリストテレスの『弁論術』を読むとか(どんな本なのかまるで知らないが)。
というのも、数学の授業をしているとよく感じるのだが、「論理的に話す」だけでは聴き手がまったく理解してくれないことも往々にしてあるのである。論理そのものが身についていない相手に話すのだから当然のことかも知れない。そういうとき、論理によらないで相手を言いくるめる術が必要になるが、それがどういうものか自分にはいまいち分からないのだ。
その昔スプートニク・ショックがきっかけで日本でも「数学教育の現代化」が行なわれ、そのカリキュラムのもとでは中学一年から集合論を学ばせた。あまりに子供の頭脳に負担をかけるというので、その教育課程は全面的に見直しがなされたが、近頃自分は、早い段階で集合論をやるのも一理あるのではないかと思うようになった。集合は論理の基本だからだ。これが身についていない者に数学をやらせるのは、水に浮くことも覚えていない者にクロールやバタフライを教えるようなものではなかろうか。
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No.335
2010/08/18 (Wed) 01:20:01
18××年、三人の科学者を乗せた気球が、人類未踏の地であった北極への探検を敢行していた。しかし極地についてみると、小さな島の上に、明らかに人工と思われる基地が建てられていた。気球が制御不能になり、探検家たちはその基地の住民によって救われた。その住民たちは実は火星人だった。北極上空に宇宙ステーションが建造されており、そこは火星地球間航路の地球駅となっていたのだ。火星人たちは男性が白髪であるほかは、おおむね地球人とそっくりだった。火星語も難しくなく、探検隊員たちは火星人たちと親交を結んだ。実は火星人は何十年も前から地球に訪問しており、第一次地球探検の隊長であったアルは、ドイツで地球人女性と結婚し、エルという子をもうけていた。やがて探検隊員ら数名の地球人が火星を訪れたが、その出発の際、英国海軍と不運な武力衝突を起こし、それが火星人が地球人を危険視する火種となった。
やがて火星は英国と戦争状態になり、容易に勝ちを収め、ヨーロッパ各国は火星の北極での主権を認めるようになる。火星人は個人の自由の尊重、平和主義を旨とする種族だったが、地球人とりわけヨーロッパ列強の好戦的態度に直面し、地球人を火星のよりよき道徳心で導こうと考え、それはやがて火星人の武力を背景とした強制的な教化になっていった。地球人の間には、火星の文化を取り入れつつもその圧制から脱しようという機運が高まっていく。
火星の女ラーと地球人探検家ザルトナーとの恋、火星人と地球人との混血児として火星の重要人物となっていくエルの苦悩などが生き生きと描かれている。火星の重力が地球の三分の一しかないことからくる両惑星人の接触の困難さは、重力調節装置によってほぼ解決される。宇宙船が超光速を実現する手段として「宇宙エーテルの爆発」を利用するというのは、アインシュタイン以前の小説としてはやむえないところか。
1897年に出版されたドイツの小説。ヴェルヌ、ウェルズ以前に発表された画期的なSF作品だが、古きよきヨーロッパの風俗も垣間見える楽しい小説。
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やがて火星は英国と戦争状態になり、容易に勝ちを収め、ヨーロッパ各国は火星の北極での主権を認めるようになる。火星人は個人の自由の尊重、平和主義を旨とする種族だったが、地球人とりわけヨーロッパ列強の好戦的態度に直面し、地球人を火星のよりよき道徳心で導こうと考え、それはやがて火星人の武力を背景とした強制的な教化になっていった。地球人の間には、火星の文化を取り入れつつもその圧制から脱しようという機運が高まっていく。
火星の女ラーと地球人探検家ザルトナーとの恋、火星人と地球人との混血児として火星の重要人物となっていくエルの苦悩などが生き生きと描かれている。火星の重力が地球の三分の一しかないことからくる両惑星人の接触の困難さは、重力調節装置によってほぼ解決される。宇宙船が超光速を実現する手段として「宇宙エーテルの爆発」を利用するというのは、アインシュタイン以前の小説としてはやむえないところか。
1897年に出版されたドイツの小説。ヴェルヌ、ウェルズ以前に発表された画期的なSF作品だが、古きよきヨーロッパの風俗も垣間見える楽しい小説。
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目次
上段の『☆ 索引』、及び、下段の『☯ 作家別索引』からどうぞ。本や雑誌をパラパラめくる感覚で、読みたい記事へと素早くアクセスする事が出来ます。
執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
♘ ED-209 〜 ブログ引っ越しました。
☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※
❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。
❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。
✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。
☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。
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☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ
我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。
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