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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/23 (Sat) 16:32:59

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No.320
2010/07/07 (Wed) 20:21:24

緑川蘭三の父は、自分の息子が吸血鬼であることを知っていた。蘭三が幼いころから、近所の犬や猫を捕まえては物影で血を吸っているのを目の当たりにしてきたのだった。だんだんと蘭三は小動物の血では満足できなくなり、十歳のころ、近くに住む三歳の女児に噛みつき怪我を負わせた。父親は悩み、息子を医師に診察させた。
「この子は動物の血を吸うことでしか、生きるために必要な養分を摂取できない体のようです……それもできれば人間の血が必要なようです。また野生動物のように、新鮮な人間の血を吸わなければ満足出来ないのでしょう。できる限りの治療はします。しかしこういう病気はまだ未知の領域で、完治する保証はできかねます……」
蘭三は投薬治療を受けたが、動物の血を吸わずにいることが大変な苦痛のようだった。彼はしばしば高熱を発した。
「暑い、暑いよ! なんとかして!」
蘭三の両親は、息子の苦痛を和らげようと氷水を張った風呂に彼を入れたが、それでも蘭三は苦しみ続けた。肉屋などから手に入れた動物の血も与えたが、人間の生き血を飲まなければ彼の苦しみはやまないようだった。幾日も幾日もそんな状態が続き、ついに両親は息子が苦しまないで済むのならと、公園で小さな子供を誘拐し、その血を彼に与えた。それ以来、蘭三は自由に行動するようになり、定期的に子供を襲ってはその血を吸うようになったのだった。
斬獄学園に入学したあともその習慣は続き、蘭三の正体はまもなく体育教師の富沢の知るところとなった。刀剣収集家であった富沢は異常性格者で、かねてから人間で名刀の試し斬りがしたいと思っていたが、緑川蘭三をそれに利用しようと思いついた。蘭三が血を吸った人間を富沢が斬る、あるいはその逆の順序で殺人が繰り返された。富沢の子分である後輩の藤堂も、まもなくその犯行に加わることになった。
都合のいいことに、緑川蘭三はまれにみる秀才だった。とくに人間の血を吸った後は抜群に頭脳が明晰になり、定期テストでは常に全科目満点を取った。進学実績を伸ばしたい学校側は、緑川の異常な行動を大目に見た。校長や教頭は、彼が吸血鬼である疑いがあるのを知っていたが、野放しにし続けたのである。

夏休みもなかばになってしばらく何事も起こらず、猟奇殺人の噂もしだいに人々の口に上らなくなっていった。しかし数学科の教師でありサッカー部の顧問であった新任の青柳狂平には、吸血鬼すなわち緑川のことが心から離れなかった。彼の腹に出来た人面疽がときどき吸血鬼のことをささやくせいもあった。相変わらず職場では腹に包帯を巻き、人面疽のことは他人に知られないようにしていたが。
職員室で席が隣の、英語科の溝口礼子は、よく言葉を交わす相手だった。溝口は教師二年目で、青柳の一年先輩に当る。彼女とは、緑川の様子がおかしいことも、ときおり話していた。しかし緑川が吸血鬼であって一連の猟奇殺人と関わりがあるらしい、とまでは話さなかった。ことが重大すぎて、おいそれと口にできる話題ではなかった。
しかし八月のなかば、またも吸血鬼の被害者が出たのだった。そしてその被害者は、溝口が担任を勤める一年B組の女子生徒だった。公園の茂みで発見された遺体は、背中を鋭利な刃物で斬られ、全身のほとんどの血を失っていた。これまでと同じ手口である。
対応に追われ、心を痛めていた溝口に、青柳は自分の知っていることをすべて告げることにした。吸血鬼などあまりに荒唐無稽な話だが、青柳は真剣な口調でこれまでのいきさつを語った。溝口は非常に驚いたが、やがて気丈に言った。
「いいわ。たとえ校長を敵に回すことになっても、緑川君のことは私も協力する。……でも一連の被害者の、刀での切り傷のことは説明がつかないの? 私、まさかとは思うけど、そのこともちょっと心当たりがあるの」

そのとき、いつもの冷水浴をしながら、緑川蘭三は徐々に体に生気がみなぎってくるのを感じていた。血を洗い流した浴槽の水は赤く染まり、蘭三は陶然となって目の前に広がる血の色を見つめていた。蘭三の母親は、その様子から息子がまた罪を犯したことを知り、暗澹たる気持ちになった。こんなことは、いつかやめさせなければならない。いつかは……。

(つづく)


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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No.319
2010/07/05 (Mon) 14:53:09

しばらくすると太陽が急に温度を上げ、地球の生物は全て死に絶えるであろう、と科学者たちは予言をした。世界破滅まであと四日、というところから物語は始まる。火星への移住計画が進められていたが、宇宙艇の数は限られ、地球人口の三百人に一人の割合でしか救うことは出来なかった。宇宙艇の艇長が各地に派遣され、火星へ行く人員の選抜に当った。主人公のビル・イースンは人口3000の町シムスヴィルから、宇宙艇に乗る10人の搭乗者を選抜することになった。取り残された者から妨害を受けないよう、出発ぎりぎりまで搭乗者は明らかにせず、辛くもイースンの宇宙艇は地球を脱出した。
しかし宇宙艇には火星まで行くじゅうぶんな燃料が積まれていないことが、出発してから明らかになった。実際には地球人口の三百人に一人も助からないことが、秘密にされていたのだ。イースンは危険な急加速と急減速によって、燃料の不足をなんとか補い、火星に到着した。
ここまでが話の前半で、後半は火星へ移住した人々の開拓のようすが描かれているが、この後半部分は話がどこに進んでいるのか分かりにくく、読みづらい。働かずして富を得ようとする悪党のリッチー一味と主人公グループとの戦いが話の軸になっていくが、結婚制度の見直しと人々のそれに対する適応の様子も興味を引く場面にはなっている。

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No.318
2010/06/27 (Sun) 18:53:46

サンボは乳首が黒かった。幼稚園のときは自分でもさほど気にしなかったが、小学校に入学し、体育の時間で着換えるときなどに友人から「子供にしては黒すぎる」と指摘され、気になりだしたのだ。

夏のある日。異常なほど気温が上がり、太陽はぎらぎらと強い日光を発していた。四時間目の体育の時間は、プールでの水泳だった。焼けつくように熱くなったプールサイドで、サンボたちは準備運動を始めた。教師の笛の音に合わせて側屈していたそのとき、サンボの黒い乳首が強い日光のため煙を吹き出し、やがて炎を上げて燃え出した。「ぎゃあ!」サンボはのたうち回って苦しみ、すぐに保健室に運ばれた。
そのとき以来、サンボは友人たちから「燃える乳首」と呼ばれ、からかわれだした。いじめの対象にもなった。サンボは悩んだ。いじめられているなど、恥ずかしくて親には言えない。

ある朝のことである。「よっ、燃える乳首!」友人のゼッポがサンボに声をかけた。サンボは怒り心頭に達し「なんだと!」と叫んだ。すわ掴み合いの喧嘩が始まるかに見えたそのとき、サンボの乳首から透明な液体が吹き出し、ゼッポの眼にかかった。「ぎゃあ、痛い!」彼は目を押さえて転げまわった。すぐさま保健室に運ばれたが、ゼッポの眼は焼け焦げており、重傷だった。総合病院に運ばれ、治療を受けることになった。手術を終えた医師は、ゼッポの両親に説明した。
「ゼッポ君の視力が回復する見込みは、今のところ五十パーセントというところです……ゼッポ君の眼に被害を与えたのは、蟻酸という酸の一種です。しかしなぜそんな薬品がそこにあったんでしょうな……」

サンボが乳首から蟻酸を発射したことが分かり、ゼッポの主治医はそれを知って驚愕した。前代未聞の事件である。ぜひサンボ君の体を検査させてほしい、と医師は学校側に申し入れた。
サンボの血液を採取し、そこからサンボの遺伝子を解析すると、驚くべきことが分かった。サンボの実の母親は蟻だったのだ。蟻が人間を生むことが出来るのか? どこかに巨大な蟻がいて、人間を受胎したのだろう。そう考えるしかない。

サンボは友人に重傷を負わせてしまったことを後悔していた。乳首が燃えたことを指摘されたぐらいで、何もあんなに怒ることはなかったではないか。そんなことを考えていたおり、ゼッポの主治医がサンボの家を訪問し、彼の実の母親が蟻であることを告げた。
サンボは驚愕した。そして苦しんだ。自分が人間と蟻のあいのこだったなんて!
「サンボ君、気をしっかり持ちたまえ。君は蟻なんかじゃない。ちょっと変わっているけれど、君の体は人間としての機能を立派に備えている。乳首が黒いぐらいなんだ。実のお母さんも、きっと君を誇りに思っているよ。君はありのままでいいんだ」
アリのママ。意図せず発せられたこの駄洒落にサンボは衝撃を受け、しばし一言も発することが出来なかった。


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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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