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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2025/04/04 (Fri) 07:16:24

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No.311
2010/06/09 (Wed) 02:42:03

彼の顔を、思い出せない。
 
だから、また会いたくなるんだと思っていた。 
 
 
まだ特別を知らなかったから。 
 
 
 
例えてみると、 
季節のフルーツとコーンフレークと冷たくしたフローズンヨーグルト、バニラアイス、ウエハースにプリン、お好きなものを好きなだけ、といわんばかりに詰め込んだおもちゃ箱のような楽しいものであるとか、 
 
 
舌にのせた途端にふわりととろけてしまうほど滑らかな、コアントローのほんのり効いたガナッシュクリームを上等で硬質なビターチョコレートで薄く薄くコーティングして、繊細な飴のリボンと金箔で飾り立てたような大人向けのものであるとか、 
 
 
恋はそのようなものであると、ことあるごとに耳に入るのだけど、 
必要か不要であるかで物事を判断していたその頃のあたしには、 
手間隙をかけた割にはすぐにお腹に収まってしまうものなのかしらと、 
何故だか寂しいような気分になってしまって 
逆に欲しいと思えなかった。 
 
 
甘いものが欲しいなら、角砂糖で十分だった。 
 
深く考えずに他人と知り合い、深く考えずにお付き合い。それでもそれなりに楽しかったし、それなりに相手を好きになれた。 
 
遊べる人たちは周りに不自由しなかったから、それ以上望みもしなかった。 
 
あたしは常にふわりふわりと今のことだけを考えて、 
しがらみやいざこざを上手に避けて笑って生きていたかった。 
それが許されると思っていた。 
あたしはとても幼かった。 
 
彼はそんなあたしよりも一回り年上で、友達とお喋りをする私を遠目で眺めていた。 
近寄るといつも、彼はそっけない態度をとった。 
彼はあたしのことが嫌いだったかもしれない。 
まるで接点もなかったし、ただの煩いだけの存在だったようにも思う。 
あたしは彼を不思議な人だと思っていた。 
こんなにも遠いのに、顔も会わないと思い出せないくらいなのに、 
どうして気になってしまうのか。 
 
好奇心のままに彼に近づいた。 
最初は頑なだった彼も、次第に友人として受け入れてくれるようになった。 
それだけでいい。 
花も咲かぬ、根も張らぬ、今は自由の根無し草で、皆で笑って今日寝る寝床があれば、それでよしとする。 
それがいつまでも続くなんて思ってはいないけど。 
 
 
楽しい日々が過ぎ去ると、それぞれ潮が引くように人が居なくなっていった。 
帰郷する者、転勤する者、結婚する者、海外へ跳ぶ者、命を落とす者。 
事情もそれぞれにあった。 
くしの歯が抜けていくように、顔見知りが消えていった。 
そして、その中には彼も居た。 
あたしはただの友人で、彼には守るべきものができた。 
何かを守る為の背中というのは、いつだって凛々しい。 
「お前もいつか歩こうと思える道が見えてくるよ」 
いつも彼は表情を顔に出さないのだけれど、 
「大丈夫だ、大丈夫」 
このときの彼の口調は、なんだか熱っぽかった。 
 
やがてあたしも、この場を去るときが来た。 
 
そのとき付き合っていた人と嵐のような諍いを起こし、 
共通の友人に中に入ってもらって話し合いをし、その結果やはり別れることになった。 
それをいい機会だと思い、今までとは全く違った生活をしてみようと思い立った。 
仲裁に入ってもらった友人に頼み込み、つてをたどって仕事にありついた。 
ウエディングや結婚式場など、ブライダル関連を取り扱う会社の事務を任され、毎日穏やかな空気の中でキーボードを叩いている。 
仕事柄、パンフレットや会場の写真にはいつも目を通す。 
眩しい程の輝きをたたえて、純白に包まれた二人が、自然にこぼれる笑みをこちらに向けている。 
厳かで、どこか可愛らしいピアノの旋律が似合うような・・・。 
 
帰りにCDショップに寄って、適当にピアノ演奏の曲を選んだ。 
眠る前に聴いたら、ヒーリングにもなりそうだ。 
そう思いながらベッドの中で聴いているうちに、そのまま本当に眠ってしまった。 
 
 
こんな、夢を見た。 
 
その世界は、崩壊していた。 
エンジンが狂ってスンとも動かなくなったバスの中で、夢の中であたしは一生懸命笑っていた。 
人はもうどこにも居ないように思えた。 
一人取り残された世界は容赦なくあたしを突き放して。 
その寂しさは強烈で、寂しさを通り越して恐怖になろうとしていた。 
それなのに空はこんなにも青くて。 
泣き出しそうな瞬間に、”落ち着け”と人の声がした。 
前の座席に、彼が居た。 
振り返って私の顔を覗き込むと、 
「大丈夫だ、大丈夫」 
と言って頭を軽く小突いた。 
それで気持ちがすっと落ち着いた。笑顔を返すと、彼は安心したように座席に座りなおした。 
あたしは彼の座席シートに手を伸ばした。 
彼の胴体を座席と一緒に抱きしめた。 
彼はがらにもなく照れながらも、あたしの手と手の結び目に軽く手を乗せる。 
大きな、乾燥した男の人の、手。 
あたしは心から愛しいなぁと、思う。 
 
夢から覚めて我に返ると、顔が濡れていることに気づいた。 
 
寝起きついでに歯を磨こうと、洗面台に立つ。 
ああ、そうか。 
歯を磨きながら、あたしはひとつの結論を下す。 
顔を思い出せなかったのは、彼に会いたいと思う為だ。 
一見くだらないことが必要事項だと思えるほど、彼が好きだった。 
彼に大切なものがあっても、守るべきものがいると知っても、 
抗えないほど引き寄せられている自分がいた。 
それでも気持ちをせき止めていたのは、気づいていたからだ。 
二人きりでどんなに楽しい時間を共有しようとしても、彼には帰る場所がある。 
彼は、いつだって守るべき者たちの所へ帰っていくために、あたしに背中を見せるのだ。 
多分あたしは、それに耐えられそうにない。 
 
顔を洗い終え、顔をタオルに突っ伏したまま、あたしは静かに嗚咽を洩らした。 
 
そうして、漸く、恋を知った。
 
 
 
(c) 2010 chugokusarunashi, all rights reserved
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No.310
2010/05/29 (Sat) 20:37:32

一つ目のモンスターは、かつて勤務していた阪急電車に復職し、掃除夫兼「副車掌」として列車に乗り込むことになった。ある日の夕方五時ごろ。
京都線の梅田行き特急の最後尾の車両は、携帯電話電源オフ車両だったが、いつに変わらず携帯電話をいじっている男女が大勢いた。モンスターは規律を重んじる性格だったから、こういう光景を見ると黙ってはおれない。
「携帯電話電源オフ車両ですよ」と、一人ひとりに声をかけて回った。
そのとき「うぎゃあ!」という男性の悲鳴が聞こえてきた。モンスターが駆けつけると、白髪の初老の男が頭を抱えて苦痛に顔をゆがめていた。
「どうしたんだ、おじさん」
「俺は、脳に特殊なホルモン調節装置を埋め込んでいるのだが、携帯電話の電波でその動作が狂うのだ。苦しい! 助けてくれ!」
モンスターは慌てて、車両内で携帯をいじっている者たちに電源を切らせて回り、言うことを聞かないものに対してはその携帯電話を破壊した。
「まだ頭が痛む! なんとかしてくれ!」先ほどの男は叫んだ。モンスターが再び駆け寄ると、男は先ほどより二十は年を取った老人になっていた。しかも見る間に老化は進み、頬はどんどんやせこけていき、髪の毛は抜け落ち、歯もぼろぼろと抜けていった。
「しっかりしろ、爺さん!」
「俺は爺さんじゃねえ。まだ十七歳なんだよ」見ると彼はなるほど学生服を着ており、高校名の入ったバッグを持っていた。
「すると十七歳からいっきにここまで老け込んだのか?」モンスターの問いかけにも老人は答えることが出来なかった。瞳が曇り、ぶくぶくと泡を吹いてこときれてしまったのだ。
モンスターは呆気に取られていたが、やがて憤怒の表情を浮かべ「おい! おい!」と車内に鳴り響く声で叫んだ。「貴様らが携帯電話電源オフという規則を守らなかったから、ひと一人が死んだんだぞ! 見ればいい大人もルールを守っていない! 貴様らは他人の迷惑も考えられない腐れ外道だ!」
モンスターは怒りに震えながら、のっしのっしと次の車両に歩いていった。

次の車両に移ると、優先座席に若者たちが座り、やはり携帯電話をいじっている。優先座席付近はやはり電源オフが原則である。モンスターは先ほどの怒りもあって
「おい貴様ら! 優先座席では電源を切れ!」と怒鳴った。
皆がぽかんとしているとモンスターは再び、「電源を切れと言ってるんだ!」とがなりたてた。そのときである。
「うっ、ペースメーカーが!」と一人の若い男性が叫んで胸を押さえた。
「ペースメーカーが狂ったのか?」モンスターは叫んで、周囲の乗客の携帯電話を片っ端から破壊した。しかしペースメーカーの男性はまだ苦しそうにうめいている。
「心臓が、心臓が止まる! 助けてくれ!」
それにもかかわらず一人、大声で通話している者がいて、モンスターはこれを見て激怒した。
「貴様には心臓はいらん!」と言ってモンスターはその男の胸に勢いよく腕を突っ込み、心臓をつかみ出した。血がぼたぼたとしたたり、どくどくと脈打つ心臓がモンスターの手の中にあった。
「お客さんの中に医者はいないか? 心臓ペースメーカーの患者が苦しんでるんだ」
一人の男が名乗りを上げた。その医師は「ここでは応急処置しか出来んぞ」と言いながら、ペースメーカーの男の処置を始めた。モンスターは「良かったらこれを移植してくれ」と言ってえぐり出されたばかりの心臓を差し出した。医師はそれを見て卒倒しかけたが、なんとか「いや、それには及ばん」と言って首を振った。

今日いちにちで、携帯電話のために二人の命が失われかけた! モンスターは怒りに顔を赤黒くして次の車両に赴いた。
そしてそこにも、携帯をいじっている大勢の老若男女がいた。モンスターは怒り心頭に達し、腰に吊ったライフルを抜いて、携帯を手にしている乗客の頭を片っ端から撃ち抜いていった。モンスターは数々の犯罪解決の功績のため、銃の所持を認められていたのである。頭を吹き飛ばされ、朱色の脳漿を飛び散らせる乗客たち。窓も片端からこなごなに割れ、車内は阿鼻叫喚の惨状を呈した。
「そこまでだ、おっさん」若い男の声がして、モンスターは後頭部に銃口が押し付けられるのを感じた。「冷静になんな」
「誰だお前は?」
「ケチなスリさ。今日の仕事はもう済んだが、この乗客たちは俺のお得意さんたちでもあるんでね。そうむやみに殺されては黙っちゃいられねえ。ライフルを捨てな」
モンスターがライフルを捨てると、全身黒ずくめのスーツを着たスリと名乗った男は、高らかな笑い声とともに次の駅で降りていった。
モンスターは新たなライバルの出現を感じていた。近いうちに、あのスリとはまた出会う気がする。モンスターは列車を降り、今日の行き過ぎた行動に対する始末書を書きながらも、そのスリのことを思い浮かべていた。


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
No.309
2010/05/28 (Fri) 22:08:14

下記のリンク先で「ど根性ガエル」の歌詞を見ながら鑑賞なさって下さい 。

ど根性ガエル 石川進・荒川少年少女合唱隊 歌詞情報-goo音楽  

(ラテン語訳)

Piocon petan pittanco,
Piocon petan pittanco.
Ranidae, Hylidae,
Quamvis ranae multa genera sunt,
Unus in huic mundo!
Rana planitiae Pioncitius
Non cero, cero, cero, clamat,
Sed anime, anime, maxime anime!
Lacrimat, ridet, et pugnat.

"Impavidus! Maximi animi rana!"
Tamen vivit in subuculae.

Piocon petan pittanco,
Piocon petan pittanco.
Bufonidae, Hylidae,
Quamvis ranae multa genera sunt,
Unus in huic mundo!
Rana planitiae Pioncitius
Non cua, cua, cua, clamat,
Sed anime, anime, maxime anime!
Supplodit terram et mordet.

"Papae! Maximi animi rana!"
Tamen furit in subuculae.

Piocon petan pittanco,
Piocon petan pittanco.
Ranidae, Bufonidae,
Quamvis ranae multa genera sunt,
Unus in huic mundo!
Rana planitiae Pioncitius
Non gero, gero, gero, clamat,
Sed anime, anime, maxime anime!
Edit, dormit, et madefacit lectum.

"Noli! Maximi animi rana!"
Tamen nititur in subuculae.

「根性」は animus と訳したがこの語は「精神」「魂」「知力」といろいろな意味がある。その中に「意気地」という意味もあるらしく、さほど的外れでもないのではと思った。

種々の蛙のラテン名は現在の蛙の学名でお茶を濁した。
古代ローマで使われた「蛙」という語は rana(一般的なカエルを差す語)と bufo(ヒキガエル)しか調べ切れなかったが、他にもあるのだろうか。
むかし「宇宙船サジタリウス」というアニメがあったが、それに出てきたカエル型の宇宙人「ラナ」はここから来ているのかも知れない。

 (c) 2010 ntr ,all rights reserved

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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