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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
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2024/11/23 (Sat) 20:22:11

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No.297
2010/05/15 (Sat) 09:14:40

モンスターは熊谷谷谷(くまがや・やつや)の弟子となり、ゾンビ狩りの手ほどきを受けることになった。熊谷の猛特訓で体中あざだらけになったモンスターは一人、伝授された技を磨くべく、古びた小屋で隙間風に吹かれながら座り込み、庖丁を片手に枯葉を目で追っていた。
「モンスター、今まで不死身だったからといって自惚れるなよ。お前なんか、早い話俺の手にかかれば、新聞紙一枚あれば簡単にあの世に送れるんだからな」モンスターは格闘技の特訓でこってりしぼられ、ダウンして天井を見上げながら熊谷のそんなセリフを何度となく聞いた。訓練を始めて一ヵ月が過ぎ、いまモンスターは眼光鋭く今までにない精悍な顔立ちになって、ちらちらと動く木の葉を見つめている。
シュタッ。庖丁が木の葉を射止めて床に突き刺さる。シュタッ、シュタッ。モンスターは何度もその訓練を繰り返す。
「モンスター、粥が出来たぜ」うどん屋の権爺(ごんじい)が小屋に入ってきた。権爺はすっかりモンスターと打ち解け、身の回りの世話を焼いてくれる。
「権爺、お師匠さんは見なかったか?」モンスターは尋ねた。
「熊谷さんかい。今朝ふらりと出て行ったぜ。こんな書置きを残してな」
書置きを見るとこんなことが書かれてあった。「モンスターよ、お前に教えることはもう何もない。わしは再び大空を天井とし大地をねぐらとする生活に戻るとしよう。ぞんぶんにゾンビと戦うがよい」
「お師匠さん!」モンスターは感に堪えず一つ目から涙をこぼしながら、あてどもなく走った。何度も転び、なおも走った。自分でもどこに向かっているのか皆目分からない。薄闇の中、朝日が昇り、モンスターの茶色い顔を照らした。俺はこれからどうすればいいんだ……モンスターは途方に暮れた。

そのとき、熊沢病院と丑寅病院の間の道路には、青白い顔をした数百のゾンビがぞろぞろとうごめいていた。ゾンビたちは毎日増えてくる。今までは安全だった権爺のうどん屋にも、窓からゾンビたちが侵入してこようとしてきた。
「この権爺、昔は爆弾屋として朝鮮で鳴らしたもんだ。最後の一花、咲かしてくれる!」権爺がもろ肌脱ぐと、その胴や胸には無数のダイナマイトが縛り付けられ、導火線は一斉に火を吹いていた。「うはははは、この宿場はこの権爺とともに滅ぶのよ!」彼がそう叫ぶと、宿場全体が一瞬白く輝いた。

モンスターは背後で轟音が鳴り響いたのに気付き、はっとして振り向いた。宿場からキノコ雲が上がっているではないか。そう、ゾンビたち……俺の戦うべき相手、俺の宿敵どもはどうなったのだろう? モンスターが呆然としていると、宿場のほうから足を引きずりながら、痩せた男がゆっくりと歩いてきた。手には拳銃を持っている。熊沢の卯之介だ。
「おい、モンスター! よくも俺たちをコケにしてくれたな! もう宿場はくろこげで熊沢も丑寅もゾンビも何もありゃしねぇ。だが大金を巻き上げ何も仕事をせずずらかろうとするお前を、俺は許しちゃおけねえ。最後の勝負だ!」
「……どうしてもやるのか。やればどっちか死ぬだけだ。つまらねえぜ」
「やる! やらなきゃ俺の気がすまねえ」
「そうか。じゃ、やろう」
二人が至近距離で沈黙し向かい合っていると、遠くから若い男の声が聞こえてきた。
「モンスターさーん。そこにいらっしゃいますかーっ? IR鉄道のものです! あなたの解雇は取り消しになりました! IRの鉄道員に戻っていただきたいのです!」
突然の朗報だったが、モンスターは「そこで待ってろ! こいつとの勝負が先だ」と決然と言った。
再び沈黙。重苦しい空気が二人の間に流れた。
卯之介が拳銃を抜く。と同時にモンスターの短刀が光り、卯之介の腕を切り捨てた。次いで繰り出されたモンスターの一突きが卯之介の心臓を切り裂き、驚くほどの血しぶきが吹き出た。卯之介の拳銃を持った腕は宙を舞い、空しく弾丸を発射した。
IRの若手社員は茫然としてこの決闘を見つめていた。平凡な鉄道会社の社員がこのような光景を目の当たりにすることはまずあるまい。
モンスターは刀を納め、さっさと立ち去っていく。
「モンスターさん……」IRの若者は何か言葉をかけようとしたが、モンスターは
「てめえは首でもくくりな!」と訳の分からないことを叫んだ。
長めの棒を拾い、宙に放り投げる。さて次に行くべき道は、東か西か。
モンスターは、やはり天性の風来坊だったのだ。


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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No.296
2010/05/15 (Sat) 01:02:18

はるかな未来。人類は八十億を超え、「シティ」と呼ばれる外気から遮断された都市に住んでいた。資源は枯渇しかけており、人々は配給制の生活を細々と送っている。「宇宙人」と呼ばれる、かつて宇宙に殖民に出た人々の子孫が、ごく少数地球に戻り、地球人との接触を絶って「宇宙市」と呼ばれる都市に住んでいた。少数の市民が快適に暮らす宇宙市は、地球と外交的緊張状態にあった。宇宙人は優越人種であると自ら誇り、ロボット文化を発達させている。宇宙市から地球に広がったロボットは、地球人の職を次々と奪いつつあり、そのためロボットと宇宙人は、多くの地球人から憎悪の的となっていた。そんな中、シティと宇宙市をつなぐゲートの近くで、サートン博士という宇宙人が何者かに殺害された。そこで宇宙市はダニイル・オリヴォウという人間そっくりの優れたロボット刑事をシティに派遣し、地球側の刑事イライジャ・ベイリと協力して捜査に当ることになった。

SFと推理小説が融合した、緊張感のある作品である。
アシモフの作品に登場するロボットは、いわゆる「ロボット工学の三原則」を守らなければならないとされる。いわく第一条、ロボットは人間に危害を加えてはならない。第二条、第一条に反しない限り、ロボットは人間の命令に従わなければならない。第三条、第一条第二条に反しない限りにおいて、ロボットは自分の身を守らなければならない。ロボットがこうした「三原則」に縛られていることが、主人公ベイリの推理を明確にする一方で、しばしば袋小路にぶつからせることにもなり、推理小説としての面白みを増している。とくに結末に近づくにつれ増していくスリル、緊迫感が素晴らしい一篇である。

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No.287
2010/05/01 (Sat) 04:43:06

主人公マーカムは、不幸な事故により冷凍状態になり、二十二世紀の人々によって蘇らされた。そこはすべての労働をアンドロイドが担い、人間は自由に余暇を楽しむ時代だった。人間一人ひとりが私用アンドロイドを持ち、身の回りの世話の一切を行う。マーカムにはマリオンAという女性型アンドロイドがつくことになった。非常に優れた頭脳を持ち、ユーモアをも解するアンドロイドだった。しかしこの世界に満足できない「逃亡者」と言われる者たちがいた。アンドロイドに支配される世界に異を唱える者たちである。やがてマーカムは、自分の責任を負って生きていた二十世紀人の生き残りとして、逃亡者たちのリーダーとなり、アンドロイド社会に対する革命軍を組織する。
本来感情を持たないマリオンAが、マーカムと接し、人間らしく扱われることで葛藤に陥り、ついにはマーカムへの愛情を持つようになる変化が説得力を持って描かれている。
この小説のアンドロイドは、人間と敵対する中で殺人能力をもつようになるなど、アシモフの小説に登場するロボットとは一味違ったものだった。

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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