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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/11/23 (Sat) 22:37:33

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No.273
2010/04/07 (Wed) 20:35:27

「おふくろさん」の元の歌詞は下記のリンク先。

おふくろさん 森進一 歌詞情報 - goo 音楽


ラテン語訳

mater, o mater,
cum in caelum suspicio, es in caelo.
dum pluit, umbella facta es.
docuisti me umbellam fieri mundi olim.
tuum, tuum verum,
numquam obliviscor.

mater, o mater,
cum florem aspicio, es in flore.
vita floris brevis,
tamen cor floris validum.
docuisti me vivere valide.
tuum, tuum verum,
numquam obliviscor.

mater, o mater,
cum in montem suspicio, es in monte.
dum ningit, mihi calorem dedisti.
docuisti me dare amorem mundo olim.
tuum, tuum verum,
numquam obliviscor.


誰か節をつけて歌ってみてください。


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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No.272
2010/04/06 (Tue) 23:10:30

 細い葉巻とテキーラ・ショットが私を象徴した。 

仕事を終え、夜が更けてくると立ち寄る、ややうらぶれたジャズ・バーにて大切なひと時を過ごす。 

ピアニストとして、繊細でいちいちとがりすぎる神経質な性格のメロディとの評価は自分の中では満足のいくものだし、今のところどの精神科医より、占いよりも的確に自分を診断されている。 
自分の性格を音が知らせるというのもおかしなものだけど。 

気楽な顔見知りはいつ行っても、何人でも居た。 
ただ、友人は一人も居なかった。 
故意に、人との深い関わりを避けようとしていたところがあった。 
仕事柄と神経過敏な性格の所為か、親身になればなるほど 
年下からは怖がられ、 
同い年とは話が合わず、 
年上からは敵意を向けられた。 
そうして今まで生きてきた。 
20代の終わり。その年の割には達観していると眉を潜める人達を、お世話様と受け流す。 

ぼんやりと、デザインキャンドルの灯火が手元だけを照らす。 
緩やかで密やかな音楽の流れる空間に、そっと藤色の煙を吐きかけて乗せる。 
それは広がっては消えていき、店内の空気の密度を一層濃くする。 
垂れ込める闇と、その奥にある人々の囁き、毒の効いた皮肉。 
そういう場所が一番、呼吸をしていると感じる。 

細身で長身の体に、裾のドレープが美しいワンピースドレス。 
まっすぐな髪に目元を中心とした、色味のない化粧を施す。 
黒が似合うね。 
人は言う。私も、そう思う。 


静寂はいきなり破られる。今回は、乱暴に開けられたドアにより。 


入店した客は、幼い顔をしていた。まだ、学生のようだった。 
緊張している。完全に場の雰囲気に飲まれてしまっている。 
それでも、止せばいいのに踏み込んでくる。 
私の居る、一番奥のテーブル。 

目が合ってしまい、彼は何故かにっこりと微笑む。 
憮然として睨み返しても、お構いなしに隣に座った。 
ビールとピスタチオ。 
「食べる?」 
つまみの入った器を差し出してくる。私は首を横に振った。 
「あ、そう。」 
せわしない指の動きが、いちいち気になる。 
「待ち合わせしてるんだけど、○○って知らない?」 
「一応知ってるけど、今日は見ないわよ」 
「あー、また待ちぼうけかよ」 
と、彼は嬉しそうに言う。 
私の飲んでいるテキーラを勝手に飲んで、むせる。 
葉巻のケースをしげしげと見る。一本差し出してみると、火を点けずに口に挟む。 
「格好いい?」 
「似合わない」 
苦笑。照れくさそうに笑う彼をみて思ってしまった。 

白い子犬のようで、可愛い。 


煙のように密やかに。 
互いの手の温度を馴染ませるのに、時間はあまり要らなかった。 


彼は私に関して、とても興味を示してきた。 
私が示す、食べるもの、好きな本、考え方や行動を、素直に吸収して自分のものにしてしまう。 
彼は私の生活が大人びたものだと感じたらしい。私のすることを、よく真似したがった。 
「このままだと、ワンピースまで着こなしてしまいそうね」 
「華奢すぎて無理だよ」 
「私好みの、君サイズのやつ、買ってあげようか?」 
「・・・着てみようかな」 
「冗談」 
私は、何も変わらなかった。 
彼が好きであること以外、どうでも良いことのように思えた。 
それに、彼が好むものは、多分私は好きではないだろうと思っていた。 
彼の通う大学も。彼の大切な友達も。彼の行きつけのお店も。 
突然プレゼントされた、ピンク色の口紅のように。 
あまりに健康的過ぎて、私には絶対そぐわないもの。 


やがて変調は訪れた。 
ジャズ・バーにたむろする、たちの悪い輩が、こぞって彼をからかった。 
あの空気の中に居続けるには、彼はあまりにも異質だった。 
そして格好のカモだった。 
真に受けた彼は、面白がって遊びに乗った。 
私が気づいた頃には、もう、彼にはしていいことと悪いことの区別すらつきかねる状態だった。 
私はジャズ・バーに通うのを止めた。 
彼に、奴らとつるむのを止めさせた。 
彼はばつの悪そうな、ふてくされた顔で呟いた。 
「なぁ、どうやったら、俺はあんたに近づけるんだ」 


漆黒の闇は、私に馴染む。だけど、彼を侵蝕するばかりだ。 
しかし彼の居た光あふれる世界は、眩し過ぎて私の目を傷めようとする。 

私は今までの住居を捨て、彼の前から姿を消した。 

黒は白を冒してはいけない。 
白は黒を冒してはいけなかったのだ。 


闇の空気の立ちこめたバーなら、どこの町でも見つかった。 
同じような顔見知りも、同じように出来た。 
私を象徴する二つが揃いさえすれば、 
また、ピアノさえ弾くことができるなら、別にこだわるものなど何もなかった。 

引っ越したからといって、仕事に困るようなこともなかった。 
いくつもの演奏会に参加した。 
ごく稀にだがソロ演奏もさせてもらえた。 
満たされない気持ちなど、起こらなかった。 
ただ、ふと目を閉じると、かすかな光が見える。 
かつて、それに憧れていた。 

演奏終了後に葉巻を吸っていると、ドアをノックする音が響いた。 
ドアを開けると、彼が居た。 
そぐわない、艶やかな紅い薔薇の花束を持って。 
どうやって手に入れたのだろう。薔薇の表面は水滴を鏤めたようにみずみずしい輝きを放った。 
相変わらず、彼には白が似合うのに。 
彼の瞳の奥のほうに、悲しみが宿っているのを、じっと見続けていた。 
やがてそれが膨張し、零れ落ちる様を。 
「どうして?」 
私に尋ねるこの人は、何故こんなにも素直に涙を流せるのだろう。 
「君が、そうやって泣くから」 
灰皿に葉巻を押し付けそう言った私を、彼は花束も置かずに抱きしめた。 


練習用の黒いピアノ。磨かれた白い床。 
ところどころに、花束から零れた花びらが散る。



(c) 2010 chugokusarunashi, all rights reserved.
No.269
2010/04/06 (Tue) 10:35:18

郵便配夫  千家元麿

お爺さんの郵便配夫はやつてくる
世界の隅から山を越え海を渡つて
はるばると
不思議な郵便配夫はやつて來る
若い者にも負けない脚で
太陽や月や星をうしろにして
春はポカポカ暖に
霜解け道も輝いて
電信柱も芽が出るやうな
田圃の水も温む時
それでも夜は銀世界霜を戴き輝く屋根に
清い空から幸福が窓の燈に來るやうに
彼は急いでやつて來る。
手には日月星辰に劣らぬ愛の小形のランプをさげ
背後にかけた鞄からは貴いカードが新鮮な花のやうに溢れてゐる
今折り立ての新しい綠の小枝も交つてる
大人も子供も女も皆んな
彼の來るのは大歡迎
どこの家でも知つてゐて
どこの道でも知つてゐる
不思議な若いお爺さん
私位の息子があつてもよささうな
六十年缼勤なしの
すばらしい健康のお爺さん
太陽の軌道を眞下に
雷様でも嵐でも
雨でも月でも星でも
ものともしない英雄の郵便配夫はやつて來る
無數の妖魔の住む國を
丈夫な脚で踏みしだき
綠の小枝や無數の花を一杯背中にくつつけて
いつも新鮮にやつて來る
元氣なお爺さん
鹿や兎もゾロゾロと
あとから皆んなついて來い。


昼から学校で打ち合わせがあるのに眠れない。もう牛乳配達も来た。
千家元麿のこの詩は素敵だ。
仕事に嫌気が差した郵便配達夫が、自分の仕事が皆が心待ちにしている手紙を配って歩く立派なものだと気付く、などというお伽話もあったっけ。

今まで大病をしたことがなく、生命保険の有難みがよく分からない。会社を辞めていったん学生に戻ったとき、月々の保険料を最低ラインまで下げてもらったのだが、営業のお姉さんの電話攻勢に負けて、この六月から大幅アップすることになった。いま何か病気をしていないか聞かれたものの、実は馬鹿という名の精神病を抱えており脳ドックの受診も考えている、ということは黙っておいた。

脳というと、以前大学の講義でビデオを観せられたのだが、ものの形を把握するための多くの神経細胞が、人間の脳には生まれつき備わっているとのことだ。つまりある細胞は直線、ある細胞は円、またある細胞は三角形を把握するために存在している、という具合に、基本的な図形に対して役割分担が決まっているらしい。そして面白いことに、その中にはニコチャンマークを把握するための細胞があるのである。それはすなわち人間の顔である。つまり人間の顔を最も基本的な図形の一つとして把握するようヒトの脳は出来ているのである。だから小さな子供でも、紙にニコチャンマークを描いて見せてやると喜ぶ。
その辺の図形把握をつかさどる脳の機能に支障をきたしている人も、中にはいるのかも知れない。数学者ポアンカレは、図形を描くのが極端に苦手だったという。三角形を描こうとしたら丸になってしまうぐらいだった。だからというのではないだろうが、ポアンカレは三角形と円、ドーナツとコーヒーカップなどを同一視する数学の分野、位相幾何学(トポロジー)の創始者となった。

一つの球体を適当な有限個の部分に分けて、再度うまく組み合わせると元と同じ大きさの球体が二つ出来上がる、というのは有名なバナッハ・タルスキーのパラドックスである。ところでその「一つの球体を適当な有限個の部分に分ける」というのは、実は5個の部分で十分である、という信じがたい結果がある。
http://mathworld.wolfram.com/Banach-TarskiParadox.html
一つの球体を5つに分けて再度組み合わせると、同じ大きさの球体が二つできる。にわかには信じがたい話だが、おそらくは数学が無限小を扱うことから生じる結果で、5つの部分は「体積不確定」であるためになんら矛盾は生じないのだろう。


(c) 2010 ntr ,all rights reserved.
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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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