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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/26 (Fri) 05:46:26

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No.403
2011/01/22 (Sat) 10:52:54

 三十円の介は、城代の配下の者が光明寺に集まっているという偽の情報を敵方に伝えに、平田宅を出て行った。三十円の介は具呂藤(ぐろふじ)の屋敷に上がると、室怒(むろど)や具呂藤を相手に「おい、いい話を持ってきたぜ。俺が光明寺の山門の二階で寝ていると……」と話し始めた。

 一方、平田の屋敷。 
 伊瀬地ら九人の若者が集まっている部屋の押入れの戸がいきなり開いた。大目付菊田の役宅から奥方とその娘を救い出した際、なんの因果か三十円の介たちと同行することになった、菊田の家来の木村であった。
「なんだ、いきなり出てくるな」伊勢地が言った。
「あ、こいつ俺のいちばん良い着物を着てやがる」と平田。
「はあ、これは奥方が着せてくれまして。そんなことより、光明寺の山門に二階はありません。あんな話、すぐ底が割れますよ!」
「そうか、しまった」
 若者たちは途方に暮れた。三十円の介はとっくに具呂藤の所に行っているだろう。今となってはじっと成り行きを見守るほかない。

 菊田の手勢が結集し、光明寺に急行した。
「おい、貴様も来い」室怒が三十円の介に言った。
「いや、ここ二三日ろくにものを食ってなくてな。腹が減っては戦はできねえ。なんか食わしてくれ。腹が出来たらすぐに行く」
 室怒が出て行き、まもなく女中たちが豪華な膳を運んできた。座敷にちょこんと座って三十円の介を見つめる三人の女中たち。
「これじゃ窮屈でいけねえ」と三十円の介。「おい、お前ら裸になりな」
 そして三十円の介は十六七歳と思しき若い女中を押し倒し、乳をもみ始めた。
「おい、貴様なにをしている」三十円の介の首に冷たい刀の刃が突きつけられた。室怒だった。

 具呂藤宅の別室。菊田の仲間の一人である竹林が急に大きな声を出した。
「しまった! 光明寺の山門は平屋だ。二階で寝ていたというあの侍の話は大嘘だ」
 竹林と具呂藤がどたどたと三十円の介の所へやってきた。室怒は三十円の介の刀を奪い、相手を睨みつけている。
「おい、光明寺の一件は嘘だ。そやつは敵の間諜だ」
「なんだと……貴様おれをだましたのか?」と室怒。
「こやつの詮議はあとだ。それよりこの屋敷が危ない。お前は光明寺に行って味方を呼び戻してこい!」
 室怒は怒りに震えながら三十円の介を睨みつけたが、すぐに出て行った。
 具呂藤と竹林は、いつ敵が押し寄せてくるか分からないとあって、焦燥して部屋を歩き回った。
「そういえばこやつ、女中の乳をもんでいましたな」と竹林。
「そうだ。おい、右の乳をもむのは何の合図だ、言え!」具呂藤が三十円の介に迫った。
「五十両くれたら教えてやるぜ」
「ふざけるな!」具呂藤の刀が、三十円の介の耳の下に突きつけられた。
「おお、おっかねえ。しょうがねえ、教えるぜ。右の乳をもむのはここに乗り込むのは中止という合図だ。左の乳をもんだらすぐに乗り込んで来い、だ。どちらの乳をもまなくても、これも俺の身に何かあったということですぐ乗り込んでくるぜ」
 具呂藤と竹林は女中たちを押し倒し、気が狂ったように右の乳をもみ始めた。
「おいおい、焦るな。乳はなくなりゃしねえぜ」三十円の介はそう言うとひらりと庭に降り立ち、咲きほこる椿の花を必死に集め始めた。
「貴様、なにをしている」三十円の介の首に冷たい刀の刃が突きつけられた。室怒だった。
「俺は椿の花が好きでな」
「ふざけるな!」
「おい、こやつの詮議はあとだ。赤い椿を集めていたな? 赤い椿は何の合図だ、言え!」
「百両くれたら教えてやるぜ」
「ふざけるな!」具呂藤の刀が三十円の介の喉もとに突きつけられた。
「おお、おっかねえ。しょうがねえ、教えるぜ。赤い椿は右の乳をもむのを見たら乗り込むのは中止、白い椿は左の乳をもむのを見たら乗り込んで来い、という合図だ」
 すると具呂藤、竹林、室怒の三人は必死で赤い椿を集めて庭の水に流し、ふたたび狂ったように女中たちの乳をもみ始めた。
 すると、隣の平田の屋敷から九人の若い侍たちが、いっせいに具呂藤宅の庭に乗り込んできた。
「ははは! 合図には赤い椿も白い椿も右の乳も左の乳もねえんだ。やってきたのは百三十人!」
 悪党たちは九人の侍たちを見ると、腰を抜かして座り込んでしまった。

 城代家老の七田が無事に助け出され、その屋敷では祝いの席が設けられていた。
「椿さん、遅いわねえ」と奥方。
「私たちが探してきましょう」伊瀬地を初めとする若侍たちが言った。

 町はずれの人気のない荒地で、三十円の介と室怒がなにやら言い合っている。
 若者たちは遠くから二人の姿を認め、三十円の介に声をかけようとした。
「お前ら、こっちへ来るんじゃねえ」険しい顔をした三十円の介が言い、ふたたび室怒のほうに向き直った。
「よくも俺をこけにしたな。貴様みたいなひどい奴はない」と室怒。
「しょうがなかったんでね。しかし俺は貴様に一目置いてたんだぜ」
「何を今さら」
「どうしてもやるのか」
「やる」
「やればどっちか死ぬだけだ。つまらねえぜ」
「それもよかろう」
 二人が同時に刀を抜いた。しかし室怒は相手を袈裟がけに斬ろうとしたのに対し、三十円の介は通常とは逆の左手で刀を抜き、相手の胸元に深く斬り込んだ。
 室怒の胸から、鮮血が噴水のように勢いよく噴き出した。と同時に三十円の介の首が飛んでいた。相討ちだ!
 九人の若い侍たちは、戦慄してその様子を見ていた。
 やがてそのうちの一人が言った。「おみごと!」
 三十円の介の首が叫んだ。「ばかやろ! 利いた風なことを言うな。というか、早くのりを持ってきて、胴体とくっつけてくれ」
 若者たちの持ってきたのりで、なんとか一命をとりとめた三十円の介。
 眼をむいたままの室怒の死体を見おろし、三十円の介はつぶやいた。
「抜き身だ。こいつは俺とそっくりだ。あの奥方の言ったとおり、本当にいい刀はさやに入ってるもんだ。おい、貴様らはさやに入ってるんだぜ。あばよ」
 三十円の介が去ろうとすると、室怒が突如生き返り「誰が不気味だ!」と言って三十円の介を後ろから斬りつけた。
「ぎゃーっ」

(おわり)

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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

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