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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/08/20 (Sun) 16:57:47

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No.10
2009/10/15 (Thu) 21:33:17

 天才少年のほまれ高い一休が深々と座礼していた。部屋に、将軍足利義満が入ってきた。
「よく来た、一休。面(おもて)を上げよ」
 一休が面を上げると、義満は懐からピストルを取り出した。ピストルは火をふき、一休の眉間を撃ちぬいた。
「悪く思うな、一休。何もかも、そちが言い出したことだからな」
 銃声を聞いた蜷川新衛門(にながわしんえもん)が、驚いてやって来た。
「何事でございますか、将軍様! ……や、これは一休殿、一休殿が死んでいる!」
「わしが殺したのじゃ」
「なぜ、なぜでございますか」
「新衛門よ、これはわしと一休の賭けなのだ」
 将軍義満は金閣の回廊に出て、庭を眺めやり、一か月ほど前の一休との会見を思い出していた。

「将軍様。私は謎かけに答えるだけが能の人間ではございません。不死身なのです。私を斬るなり焼くなり煮るなりして、殺してご覧なさい。しばらくすれば、この一休、再び元気な姿で舞い戻ってきましょう」
 それは、普段から謎かけで義満を負かし続けてきた一休といえども、あまりに大胆な発言と受け取れた。
「本当だな、一休。あとで取り消しは効かんぞ」
 義満は興奮して言った。
「本当でございます。武士に二言はないと申しますが、僧侶にも二言はございません」
「ではこの義満、一か月後、そちの命をいただこう。一休。一か月後、きっとここへ参るのだぞ」
 
 一休が死に、再び蘇るであろうという予言をした話は、またたく間に都に広まった。一休は彼の修行していた安国寺に埋葬され、その墓には毎日のように墓参り、というよりも見物の人たちが訪れた。
 一休が死んでひと月ほどがたったが、彼は復活してこなかった。しかし、人の噂は七十五日というが、一休の噂がまださめやらぬその頃、別な事件が京の街の話題をさらった。吸血鬼騒動である。
 若い女が一週間ほどの間に、立て続けに三人、首を咬まれ、全身の血を失って死んでいるのが発見された。はじめは野犬か狼かと言われたが、野犬や狼が人間の血をすべて吸い尽くすということはない。これは妖怪、物の怪(け)の類であろうと人々は言い合った。人々は恐れおののき、日が暮れてからの外出は極力避けるようになった。

 そんな折、ある日の夕暮れ方、一休がふらりと安国寺に姿を現した。寺のみんなは驚き、喜んだ。兄弟弟子の秀念、陳念、哲斉らが一休を取り囲んだ。
「どうして無事だったんだ、一休」
 兄弟子の秀念が尋ねた。
「なあに、簡単なことですよ。将軍様がピストルを抜いてきたからとっさによけたんです。あとは額に血糊に見せかけた顔料を塗りつけておいたんですよ」
 なるほど一休の額のところには、うっすらと赤い跡があった。
 一休は、以前から利発な顔をしていたが、今はより眼光鋭く、他を圧する迫力に満ちた姿に変わっていた。
 寺男吾作の孫で一休ととりわけ仲の良かったさよは、泣きじゃくって一休にしがみついた。
「ばかばか、一休さんのばか。もう戻ってこないんじゃないかって、みんなで心配してたのよ」
「さよちゃん、ごめんよ。さあ、もう泣くのはおよしよ」
 さよは、赤い顔をして、目に涙をいっぱいに浮かべていた。
「一休さん、もう危険な真似はやめてね」

「一休さーん!」
 遠くから、馬のひづめの音とともに、蜷川新右衛門の声が聞こえてきた。
「一休さん! 一休さんが無事と聞いて、駆けつけて来たでござる」
 そう言って新右衛門も一休に抱きついた。
「いたた。痛いなあ、新右衛門さん」
「この新右衛門、一休さんの亡骸(なきがら)を運んだときは、涙が止まらなかったでござる」
「まったく、みんなに心配かけ過ぎだぞ、一休」
 秀念が言った。
 新右衛門は、ひととおり一休と旧交を温める言葉を交わすと、急に浮かない顔つきになった。
「どうしたんですか、新右衛門さん」
「一休さんはいま都を騒がせている吸血鬼騒動をご存知ですか」
「ええ、町でそんな噂を耳にしましたね」
「実は、また新たな犠牲者が出たでござる。今度は七つの男の子です」
「可哀そうに、まだ年端(としは)もゆかぬのに」
 一休は眉をしかめた。
「そこででござる。戻ってきたばかりの一休さんに頼みごとをするのは気が引けるのですが、この吸血鬼騒動の解決に手を貸してくださらんか」
 一休がしばらく黙っていると、後ろで和尚の声がした。
「行ってやりなさい、一休。困っている人を助けるのも修行のうち」
「わかりました。新右衛門さん、この一休、知恵の限りを尽くしてお手伝いしましょう」
「そうこなくっちゃ!」
 新右衛門は笑顔になって言った。

「まず、犠牲者の遺体を見せてもらえませんか」
 一休が言った。一休と新右衛門は遺体置き場に行き、死体を検分した。死んだ男の子の首には、二つの円い穴が開いており、血がこびりついていた。
「吸血鬼にやられたものは、みなこのような歯形がついていて、血を吸い取られているでござる」
「解剖してもいいでしょうか?」
「それは構わんでござるが、なぜ?」
「わかりません。しかし、何かが出てくるかもしれません」

 解剖を終えた一休に、新右衛門は尋ねた。
「何かわかりましたか」
「何も……新右衛門さんの言われたとおり、全身の血が吸い尽くされていますね。すいません、ちょっと考えさせてください」
 一休は座禅を組み、黙想を始めた。
 静かなときが流れた。新右衛門は、調子の良い木魚の音がどこからか聞こえてくるような気がした。
「わかりました。われわれのなすべきことが。私が囮(おとり)になって吸血鬼を誘い出しましょう」
「一休さんに危険な真似をさせる訳にはいかないでござる。私が囮になりましょう」
「いや、新右衛門さんでは見るからに強そうで、吸血鬼も寄り付かないでしょう。子供の私がふさわしいのです」

 それから毎日、日が暮れてから、町娘の格好をした一休が通りを歩き、吸血鬼を待った。通りの陰からは、新右衛門がしっかりと見守っていた。三日間そのようなことをしていたが、吸血鬼は現れなかった。
 四日目の白昼のことである。安国寺の裏手で、さよの悲鳴が鳴り響いた。皆が行ってみると、寺男の吾作が倒れていた。吾作は首から血を流して死んでいた。首には、二つの円い穴が開いていた。一見して、吸血鬼の仕業とわかった。
「おれ、新右衛門さんに知らせてくる!」
 秀念が言って、寺を出て行った。
 新右衛門が到着すると、一休が注意深く現場を調べていた。
「これはまさしく吸血鬼の仕業ですね。一休さん、何かわかりましたか」
「ごらんなさい。ここに猫の死骸がある。猫の首にも、二つの穴がある。おそらく吸血鬼は、猫の血を吸っているところを吾作さんに見られて、それで吾作さんを襲ったんでしょう。いずれにしても、われわれの失策です。吸血鬼は夜出るものとばかり思っていたが、真昼にも警戒を怠ってはいけなかったのです」
「吾作さんの手に鉈(なた)が握られていますな。しかも血がついている」
「おそらく、吾作さんはそれで吸血鬼に抵抗したんでしょう。吸血鬼もおそらく、手傷を負っているはずです」
「今夜も町で罠を張りますか」
「そうしましょう」

 日が沈むと、町は賑わいを失った。どの家も吸血鬼を恐れて固く扉を閉じている。そしてどの家にも、先を尖らせた木の杭が立ててあった。これは、吸血鬼は木の杭に弱いという西洋の伝説を、誰かが広めたせいだ。
 一休は昨日までと同じように、町娘の格好をして、通りを歩いた。霧が濃く立ち込めていた。新右衛門は一休を見失うまいと目を凝らした。そこにはさよもいた。祖父を殺した憎い吸血鬼が捕らえられるのを、わが目で見たかったからである。

 やがて、ウォウーという狼のような遠吠えが聞こえてきた。やがて霧の中に、二つの赤く光る目が見え始めた。一休はそれを凝視していた。やがて、中型の犬が姿を現した。
「なんだ、犬か」
 新右衛門は気を緩めた。
 しかしその犬は、いきなり一休に飛び掛った。犬は牙をむいて一休の首すじに噛み付こうとした。
「吸血鬼だ、新右衛門さん、こいつを早く斬って!」
「承知!」
 新右衛門は刀を抜き、すばやく駆け寄って犬を一太刀(ひとたち)で倒した。
 背中を深く斬られた犬は、痙攣し、やがて息絶えた。そして、背中の傷口から、驚くまいことか、オレンジ色の大きな人魂のようなものがゆっくり抜け出していった。
「悪霊退散。喝!」
 一休が叫んで、数珠を持った拳を突き出すと、そのオレンジの球体は、強風に吹き消される火のように、かき消えてしまった。
 通りを、冷たい風が吹きすぎていった。
「一休さん、今のは?」
 新右衛門が尋ねた。
「悪鬼の魂です。大丈夫、もう退散しました」

 都に平安が訪れた。吸血鬼を退治した一休の名声は、いやがうえにも高まった。
 寺の池のほとりで、一休とさよが腰を下ろしている。
「さよちゃん。吾作さんのこと、救ってあげられなくてご免ね」
「もういいの。一休さんはベストを尽くしたんだわ。いえ……きっとそうね」
「何か気がかりなことがあるのかい」
「わたし、一休さんに襲いかかったあの犬、知ってるの。お寺の裏の小山に棲んでいて、わたし、しょっちゅうエサをあげていたわ。とても人間になついていた犬だったのよ。それが吸血鬼だったなんて、今でも信じられないの」
「だって、さよちゃん、あの犬の背中から悪鬼の魂が抜け出ていくのを見たろう?」
「そうなんだけど……もっと念を押して調べたほうがいいと思うの。たとえば、あの犬の歯型が今までの犠牲者の首の傷と一致するかどうか、調べてみるべきだわ……そう。それがいいわ。わたし、新右衛門さんに知らせてくる」
 立ち上がったさよの手を、一休がつかんで引きとめた。
「それには及ばないよ、さよちゃん」
「どうして? 確実に調べてもらったほうが、都の人たちも安心だわ」
「まあお座りよ」
 一休はぐいとさよの手を引っ張った。
「一休さん、あなたらしくないわ……それに、なんだか目が変。わたし、前から思っていたのだけど、復活してからの一休さんは、なんだか獣じみてるわ。目がらんらんと光って。それに、その額のあざ。一休さんは前に、将軍様にピストルで撃たれたとき、とっさに赤い顔料を額に塗りつけたって言ったわね。額の赤い跡は、その顔料が残ってるんだと思ってた。でもそれ、いつまでたっても消えないじゃない」
「これはちょっと、どこかに強くぶつけたんだよ」
「嘘。それになんだか、一休さん、右腕が不自由そうよ。右の肩を見せてちょうだい」
「何を言い出すんだい。まるで僕を疑っているようじゃないか」
「とにかく、右肩を見せてちょうだい」
「まあ、落ち着きなよ、さよちゃん」
「見せられないわけがあるのね。ひょっとして、鉈の傷跡があるんじゃない? 本当はあなたが吸血鬼なんじゃないかしら」
 さよが言うと、一休はうつむき、くくく、と笑った。
「まさか、さよちゃんに見破られるとはねえ……一休、一生の不覚。そうさ、僕が吸血鬼なのさ」
 一休はそう言って歯をむいた。いつの間にか犬歯が長く伸びていた。それは、牙と言ってもよかった。
「どうして、どうしてなの、一休さん」
「名声さ! なるほど僕は今までも、とんちのきく、どんな謎かけも解いてしまう天才少年として名が通ってきた。しかし、将軍様や桔梗屋さんとのとんち合戦も、いつしかマンネリに陥り、都の人たちにも飽きられはじめていた。それを僕は痛いほど感じていた。よく、天才も二十歳過ぎればただの人って言うだろう。僕はそうはなりたくなかった! そんなとき、『悪魔祈祷書』という本と出合ったんだ。それには、不死身になる術や、悪魔の活力を身につける術が書かれていたんだ。そして僕は、吸血鬼になった。将軍様のピストルの弾も、本当は当たっていたんだ。だが、僕は不死身。都でしばらく吸血鬼騒動を起こしてから、ふらりとこの寺に戻ってきたというわけさ。あの犬も、僕が魔力で操り、吸血鬼に見せかけたんだ」
「一休さん、ひどいわ、悪魔に魂を売るだなんて。そんなにしてまで偉い人になりたいの?」
「そうさ! 卑しい生まれの君には分かるまいがね。さて、何もかも言ってしまったからには、さよちゃん、生かしておくわけにはいかないね」
 そう言って、一休は牙をむき、さよに襲いかかった。
 さよは悲鳴を上げて逃げまどった。助けてと叫んでも、寺からは誰も出てこなかった。
「ふふふ、さよちゃんの血はどんな味かな」
 さよは寺の門を出て行こうとして、転んだ。一休はさよの体におどりかかった。
「てえ!」
 和尚の一喝がこだました。
 一瞬ののち、一休は自分の胸を木の杭が貫いているのに気がついた。和尚が、寺の門に立ててあったそれを、一休の胸に突き立てたのだった。
「ぐ」
 一休はうめき、息絶えた。
「さよぼう、もう大丈夫だよ」
 和尚は優しく、さよの肩に手をかけた。
「うう、一休さんが、一休さんが」
 さよは泣きじゃくった。
「一休のことは、もう忘れなさい。寺のみんなが、さよぼうについているよ」
 和尚は、さよの頭をなでながら言った。

(終)

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快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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