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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/05/03 (Fri) 22:01:15

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No.217
2010/02/01 (Mon) 22:03:19

自分はいま数学の教師をし、大学時代も数学を専門にしていたが、初めは文学部に所属していた。大学院から数学に転向した自分のようなケースはかなり珍しいようだ。

文学部にいたころの研究室は、とにかくいろんな外国語を勉強しなくてはならないところだった。指導教官は、確か11ぐらいの外国語に堪能だと聞いた。まあ、文学作品の類ならどんな国のものでも卒論の題材にしてよいという研究室だった(僕がやったのは、インド・ヨーロッパ語族の言語を話す民族に共通の神話のパターンを探る、というものだったが、卒論はほとんどデュメジルという人の本に書いてあることをまとめただけのようなもので、とても「研究」とは言えないものだったと思う。その頃は数学に興味がいっていて、文学部の勉強はあまりやる気がなかったんだな)。

よく言われたのが、外国の文学を研究するものは最低、英独仏の三つ、あとはラテン語かギリシャ語のどちらか一方には精通していなければならない、ということだった。僕が本腰を入れたのは、英語、ドイツ語、ラテン語の三つで、フランス語とギリシャ語の勉強は中途半端に終わった。本腰を入れたものも、今はほとんど忘れてしまったが。

ラテン語はとくに好きだった。この言語では、動詞に限らず、名詞や形容詞も格変化する。例えば名詞は主格(……は)、呼格(呼びかけ)、属格(……の)、与格(……に)、対格(……を)、奪格(……から、etc)と六つの格に変化し、それぞれ単数と複数があるから、ひとつの単語について計十二の変化形がある(たとえば「友達」amicusの属格はamiciで、「本」はliberだから「友達の本」は"amici liber"という具合)。変化形もいくつかのパターンを覚えてしまえば、この十二個もすらすら言えるようになるのだが、初めは覚えるのに四苦八苦する。学部一年生の初めのころのラテン語の教室は、先生の後について格変化の大合唱になった。

「主人 dominus について、まず単数。ドミヌス、ドミネ、ドミニー、ドミノー、ドミヌム、ドミノー!」
合唱して笑えてくるものもときどきあった。
「女神」dea の単数。「デア、デア、デアエ、デアエ、デアム、デアー!」まるでパニックに陥った悪代官だ。
「骨」os の単数。「オス、オス、オッスィス、オッスィー、オス、オッセ!」何をそんなに押すのだろう。
代名詞も格変化する。「これ、この」の中性形hoc。呼格は主格と同じだからとばし、単数・複数続けて。「ホク、フーイウス、フイーク、ホク、ホーク、ハエク、ホールム、ヒース、ハエク、ヒース!」ヨーロッパでは、これを暗唱していてしゃっくりと間違われるというのが「あるあるネタ」なのだそうだ。

ラテン語の母音には長短あって、文法書や辞書では長母音の上に横棒がついていて区別できるが、普通のテキストにはそんな記号はついていないから、読み上げるときには注意が必要だ。きちんと勉強したことのない人はこれを間違えがちで、NHKのアナウンサーなどもよく誤った発音をしている。「次はモーツァルトの大ミサ曲ハ短調より『ラウダムーステ』をお送りいたします」これはLaudamus te(われらはあなたをほめたたえる)で、「ラウダームス・テー」と発音するのが正しい。

ちょうど学部一年生のころ塩野七生の『ローマ人の物語』の第一巻だったかが出て、それを読んだラテン語の先生が憤っておられた。ローマ人は地中海のことを"mare nostrum"(われわれの海)と呼んだが、塩野七生はこれを「マーレ・ノストルム」と書いていた。mare(海)は「マレ」と発音されるべきで、断じて「マーレ」ではない。このようないい加減なラテン語の知識しかない者がローマ人についての本を書くのはおかしい、とのこと。

ラテン語も普通に生活しているぶんにはトリビアな知識だな。バチカン市国にでも引っ越そうか。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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