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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/03/29 (Fri) 20:57:14

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No.354
2010/10/08 (Fri) 00:06:44

いま高校1年で順列・組合せの授業をやっている。
順列とは、例えば5個の異なるものから3個を選んで並べる、というようなことで、その方法の総数は 5P3(左右の 5, 3 は通常下に小さく書く)と表される。これを計算すると
5P3 = 5×4×3 = 60
で、60通りである。一般に n 個の異なるものから r 個を選んで並べる順列の総数は
nPr = n×(n-1) ×(n-2) ×…×(n-r+1)
と r 個の数の積となる。

授業で新しい内容に入るときは、教師としては何かしら生徒の興味を引きそうな話をしたくなるものだが、ことしこの授業に入る前に考えていた話題は、野球の話だった。15人の野球部員の中から先発メンバーを選ぶ方法は、どれぐらいあるだろうか? 1番バッターから9番バッターまで決めなければならないから、これは15個から9個とる順列の総数である。その答えは
15P9 = 15×14×13×12×11×10×9×8×7 = 18億1261万4400.
まさかそんなに選び方があるとは思えない、というところが面白い。しかしこれは数が大きすぎる。生徒の中には、僕が話すことは何でも試験に出るものと思っている子もいるから、こんな巨大な数を見せておびえさせるのは考えものだ。
そこで、30人のクラスから4人のリレー走者を選ぶ方法の話にした。第1走者から第4走者まで決めるから、これも順列の話である。その選び方の総数は
30P4 = 30×29×28×27 = 65万7720.
これも意外なほど大きな数字である。しかし生徒の中には「足がめっちゃ遅くて選手に選ばれへんに決まってる奴もおるし、そんな計算をするのはおかしい」という者もいた。まぁそういう意見もあるだろうが、そんなことを言ったら数学の話は出来ない。

職員室でこの話をしていたら、ある女性の数学の先生が「わたし競馬の話でそれやったことありますよ」。仮に16頭の馬が出走したら、上位3着までの馬の並び方は
16P3 = 16×15×14 = 3360(通り).
つまり「三連単」が当る確率は 1/3360 である。「ほら、当てるの無理やろ?」と話したという(本当は確率の大前提である「同様に確からしい」が成り立っていないから、正しくはその確率にはならないだろうが)。
しかし女の先生の口からバクチの話が出るのは生徒にとっては面白かったに違いなく、かなり盛り上がったらしい。

「指数」の話でも、そうした大きな数字がよく顔を出す。
一、十、百、千、万、億、と数の位を昇っていくと、その上は兆、京、垓(がい)、秭(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(ごうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)ということになっている。無量大数は10の68乗だそうだ。こういう大きな数の名前は、子供向けのTV番組や本によく出てくる。このうち恒河沙(ごうがしゃ)は10の52乗で、その名の由来は「ガンジス川の砂の数」だという。

自分の大学の先輩は、実際にガンジス川にそれだけの砂があるのか考察した。ガンジス川の流域面積を調べ、砂粒一個の平均体積を妥当な線で決めて計算すると、結果は恒河沙よりはるかに少なかった。そこで「ガンジス川の砂」を拡大解釈して、「ガンジス川周辺の土砂」と考え、その一般的な流域面積を100倍して深さ100メートルまでの土砂の数を計算してみると、それでも3.4×10^28 (3穣4000秭)ほどしかなく、恒河沙にはほど遠かった。恐らく地球全体の砂の数も恒河沙よりずっと少ないであろう、と。

そのころ自分も大きな数や小さな数に興味を持っていたから、この問題について別な角度から考えてみた。すなわち、地球の質量は約6.0×10^27g、電子1個の質量が約9.1×10^(-28)gである。前者を後者で割ると、約6.6×10^54。つまり電子が「660恒河沙」集まってやっと地球全体の質量になる。電子は砂粒よりもずっとずっと軽い。一粒の原子の1000分の1よりまだ軽い。つまり上の結果によると、地球に存在するすべての原子を集めても「1恒河沙」に達しない。「地球上の全ての砂粒」ならなおさら恒河沙には程遠いはずである。

むかし自宅にあった子供向けの百科事典にも、大きな数の単位が載っており、恒河沙についてはガンジス川のほとりに座って砂粒を数えるインド人のイラストがついていた。ターバンを巻いて長いひげをたくわえたそのインド人は、いかにもうんざりした表情で砂をつまんでいた。そのインド人はもう存命ではないだろうが、生きていたらそんなことはもうやめろと言ってあげたい。

ところで中一の授業で幾何をやっているとき、あるクラスの生徒が
「この世に本当に平行なものってあるんですか?」
と素敵な質問をしてきた。なるほど教師が黒板に描く平行線はもちろん、鉄道のレールだって、精密に測れば本当の平行ではないだろう。簡単には答えられない問題である。だがそういう問いに対してこそ真剣に考えてあげなければならない。どうもそれはなさそうに思えたから
「僕は無いと思う。本当に平行な直線はおそらくみんなの頭の中にしかない」
と答えた。そして「頭の中」という言葉にピンと来ない生徒もいたようだから
「心の中にある」
と言い換えた。
こちらで答えずに生徒たちに考えさせたほうが良かったかも知れない。

しかし後になって、その答えで良かったのかと気になりだした。この世に平行なものは本当に無いだろうか?
二つのビー玉を同時に落としたときの両者の軌道は平行ではなかろうか。いや、ビー玉はきっと地球の重心に向かって落ちていくのであり、地球は丸いから、二つは落ちていくにつれて互いに近づくはずだ。

どなたか真に平行であるものについて、心当たりがあるでしょうか。


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 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


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