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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2017/10/21 (Sat) 11:52:12

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No.686
2015/11/13 (Fri) 23:07:44

ふと目覚めると、毛皮を身にまとったひげもじゃの男が私の「壁」にへばりついてもがいていた。私は男に近づくと、彼の背中にバゾバゾの樹液をたらし「壁」から解放してやった。自由になったひげもじゃの男はいきなり私に襲い掛かってきた。私はしかたなくこん棒で彼の頭を叩きのめし、昏倒させた。私が欲しいのは理性的な人間であって野蛮人ではない。なんとしても宇宙船でこの惑星を離れ地球に帰還するため、頭の良い助手が必要である。私一人の力では宇宙飛行は無理なのだ。
 私の「壁」は宇宙飛行の助手となるべき人間を捕まえるための罠である。もともとこの星に来た時に宇宙船に積んであった娯楽装置がもとになっていて、画面に近づく人間が欲するものがそこに映るようになっている。そしてこの星のアグアナという植物の油から作った接着剤をこの画面に塗り、それに触れた人間は身動きが出来なくなるという仕掛けにした。バゾバゾという樹木の樹液をたらせば接着効果はなくなり、罠にかかった人間は解放されることになる。
 理性的な人間が「壁」に近づけば理性的な精神にふさわしい映像がそこに映るはずだから、その映像を見て人物の判定をすればよさそうなものだが、もとの映像娯楽装置がプライバシーの観点から、映像は本人にしか見えないように出来ているのである。
 しかし、この星が人類と同じヒューマノイド型の生物によって支配されていたのは幸いだった。彼らは遥かな昔、人類が銀河帝国を築いていたころ、地球から移住してきた者たちの子孫だと思われる。

 今度は若い女が「壁」にへばりついた。冷静な女らしく、さほど慌てる様子は見せなかった。私はバゾバゾの樹液で彼女を開放してやった。
 女は「壁」を指さして「これなあに?」と尋ねた。私はこの星の言語はすでにマスターしていた。
「君がもっとも欲しているものを映してくれる壁だよ」
「そうなの。面白いわね」女は青い目を壁に向けながら言った。「どういうしくみで動いているの」
 私は簡単に「壁」の原理を説明してやった。人間精神には本人に自覚されない広大な無意識の領域があって、そこに隠れた当人の本当の欲求を目に見えるようにする技術が開発されたのだが、それによりこの「壁」が生み出されたのである。ちょうど人間の体の中を切ることなく見ることが出来るCTスキャンを精神の世界で実現したようなものだ。この技術は専門的にはサイコロジカル・トモグラフィーと呼ばれ、PTスキャンなどともいわれる。例えばコウモリはなぜ闇夜に障害物にぶつからずに飛ぶことが出来るのか。それは超音波を発してその先に物体があればそれで跳ね返ってくることから、見えない障害物の存在に気づくということによる。これなども見えないものを見る技術で、原理的にはPTスキャンもそれと同じなのだ、と。
 するとかなり聡明な女らしく、この説明をほぼ完全に理解したようだった。この女は宇宙飛行の助手として有望といえそうだ。
「私はメルモス。地球という星からやってきた。君の名は?」
「アイジ」
 聞くところによるとアイジは畑を作りながら、物知りの老人から天文学を学んでいるらしい。この星には学校はないが、彼女のように古老から知識を得て、文明を推し進めようという志のあるものがいることは知っていた。この星は、われわれはアキラスと呼んでいる惑星だが、農耕が始まってまだ間もないという文明の段階にあった。
 私はアイジに、私の宇宙飛行、つまり地球への帰還に助力してくれないかと申し出た。その体験はアイジ自身にとっても得るものが多いであろうし、ひいては惑星アキラスの発展に役立つはずだと力説した。
 アイジは少し考えて、笑顔で「ええ、お手伝いするわ」と言った。おそらく「壁」の高度な技術を目にして、彼女の向学心に火が付いたのだろう。

 あたしは惑星ヘルミダの観測データを届けにモロダー老師のもとへ向かう途中だった。あたしの住む高台から林を抜けたところで妙なものを目にした。灰色の長方形をした石の壁のようなもので、見ているとその表面にはコーヒーにミルクを流し込んだときのような白い渦ができて、やがてぼんやりと高原の風景のようなものが映し出されたのだった。そこには白や黒やぶちの山羊の群れが草をはんでいて、山羊飼いの少年が角笛をもてあそびながら岩の上に寝ころんでいた。それはあたしが忘れていた懐かしい光景だった。あたしは子供のころ、土地の人が魔の山と呼ぶ山岳地帯の高原に、白髪白髯のたくましい祖父といっしょに暮していた。あたしたちの遥かな祖先は、不思議な乗り物でこの星に移り住んだのだという。そのとき、故郷のいろんな動物をひとつがいずつこの星に連れてきて、その中にあたしたちの生活の糧である山羊がいたのだよ。おじいさんはそう話してくれたっけ。山羊がこんなに増えるには、何百年何千年かかったことだろう。そう、あそこで眠りこけている山羊飼いの少年は私の幼なじみのターペーだ。いま「壁」の中でその姿を見るまで何年も思い出したことがなかった。そう、あたしは叔母の誘いで魔の山の暮らしから離れたのだった。九つのときだった。平地の新しい暮らしには刺激が、知的刺激があった。遥かな昔に滅び去った文明がほそぼそと伝えられ、老師と呼ばれる生き字引みたいな人たちがその伝え手だった。老師たちは失われた文明を再建すべく、かつての知識の断片をすこしずつつなぎ合わせ、私たちの生活を前進させようとしていたのだ。この星では、まだ農耕が未熟だ。それにはこの星の不規則な四季のめぐりがまだきちんと理解されていないから。そのために暦学、天文学を追究する必要がある。あたしは子供のときから計算が得意だったから、老師の一人に見込まれ、この星の暦を正確に定めるという大事業に参加することになったのだ。それはあたしの生涯の目標だった。目標だったと思う。こんなあやふやな言い方をするのは、あの地球人メルモスが見せてくれた「壁」の映像のせい。メルモスは、そこに見えるのは「あたしの最も欲しているもの」だと言った。じゃあなぜ、あたしの大事な仕事に関すること、たとえば星座の運行が解明される様子や、正確に計算された二次春分日の日の出や、それに引き続くであろう農耕の発展の様子が見えなかったのだろう? 私が心の底から望んでいるのは、メルモスによれば、九つの年に別れた山岳地帯の暮らしだということになる。そしてああやって「壁」で見せられた懐かしい風景を思い出すと、自分にとって本当に大切だったのは日々没頭している天文や暦学の計算ではなくて、山での暮らしなのではないかという疑いが心に強く根差してきたのである。考えてみれば、農耕の進歩はなるほど大切だが、だがなぜあたしが精魂尽くしてそれに貢献しなければならないのだろう。魔の山のおじいさんにまた会いたい。ターペーに会いたい。ターペーの目の不自由なお婆さんにも会いたい。ああ、あたしは郷愁のとりこになってしまった。しかしあの地球人メルモスの持つ科学力にはおおいに興味がある。あたしが山に帰るとしても、メルモスから知識を得てからにしたい。あいつが地球に帰れるかどうかなんて知ったこっちゃないけど、せいぜい利用してやるさ。

 私メルモスは、まずアイジにワープ航法の原理を説明した。すべての物質は光速を超えて運動することはできないが、宇宙船後部の空間をゆがませることによって、結果的に何光年も離れた場所に数秒で着くことも出来る。空間自体がゆがむ速さは光速を超えることが出来るからである。アイジは驚くべき理解力を示した。
 しかしアイジは確かに私の地球帰還に大きな力となってくれるだろうが、まだ私には助けとなる人間が幾人か必要だった。私がここ惑星アキラスにやってきたときの宇宙船は大破してしまったから、それを再び建造しなければならないが、それには力仕事の側面もあれば、原子炉での作業など職人的修練を要する作業もあった。私と女一人ではこれらは手に余る仕事である。
 そこで私は再び「壁」にアグアナの油を塗り、そこに引っ付いてくる獲物を待つことにした。

 翌日の朝、私メルモスは何かを引っかくような音で目を覚ました。テントから出ると、若い茶色い髪のやせた男が「壁」の罠にかかっていた。そしてナイフのようなもので、自分を「壁」から引きはがそうと努力していた。私が近づくと
「お前は誰だ? これは貴様の仕業か? 何が狙いだ、言ってみろ」
とまくしたててきた。私は自己紹介し、率直に宇宙飛行の援助を必要としていることを述べた。
「で、貴様を地球に返したら俺は見返りに何が得られる?」
「私にできることなら何なりと」
「よし、要求は後で言う。とにかく俺をこの壁から離してくれ」
 その男はヨーデと名乗った。しかしふだん何をして暮らしを立てているのかについてはいっさい語らなかった。ヨーデに宇宙船について説明する際、その設計図を見せると彼は非常な関心を示した。とくにその翼について、なぜそのような形状なのか、この突起物は何か、ここの角度はなぜこうなっているのかなど、熱心に質問した。私はそれに丁寧に答え、翼断面の形状の根拠となる計算を説明するために初歩の複素関数論さえ解説したが、ヨーデは理解できるまで食い下がって教えを乞うた。まもなくヨーデには、宇宙船の翼や装甲を作らせる仕事全般をまかせて差支えないと私は判断した。
 
 俺はいつものように森のはずれにいて、鹿だの猪だのといった獲物を捕らえてきた狩猟者を待っていた。するとでっかい豚をかついだ二人組が森から出てきたから、俺は親しげにあいさつし、世間話をはじめると見せかけて吹き矢を一人の喉に突き立てて殺し、一人はナイフで頸動脈を切って殺害した。もちろん獲物を奪うためだ。俺はいつもこうやって食い物を得ている。この辺も農業が広がっていろんな決まりごとが増えて、最近は殺しは掟に反するって風潮になってきてるが、俺の知ったこっちゃねえや。老師たちのいうことによると、俺たちの遥かな祖先たちは高度に発達した文明をもっていたと同時に無数の法律があって、それにがんじがらめに縛られていたそうだ。みんなが快適な暮らしを送れて、しかもみんなが完全に自由ってのはありえねえって話だろうな。俺は別に快適でなくとも法なんぞにしばられたくはない。弱肉強食万歳だ。考えてみりゃ俺はガキの頃から縛られるのが大嫌いだったな。あのメルモスの「壁」を見て思い出したよ。俺の本当の欲望があそこに映されるって話だが、俺がそこに見たのは翼を背中からはやして鷹のように大空を飛び回る俺自身の姿だった。そうなんだ。この無頼の徒ヨーデはガキの頃、鳥になりたかったんだ。木を削ってよく飛行機を作って遊んだな。それが今でも翼を広げて空を飛び回ることを望んでるだなんて、人殺しにはちょっと似合わねえメルヘンだわな。あのメルモスの野郎についちゃ、はじめは頃合いを見計らって金目のものを奪ってとんずらするつもりだったんだが、やつの宇宙船の残骸と設計図を見せられて気が変わっちまった。俺は今でも鳥キチガイの飛行機キチガイだったんだな。あんなでっかい飛行機をいっぺん飛ばしてみたいよ。そして俺も飛んでみたい。

 力仕事をする男手がもう一人ぐらいほしいと私メルモスは思っていたのだが、次に「壁」の罠に引っ掛かったのは小柄な女だった。話してみると特に宇宙船建造に役立つ人材とは思えなかったが、本人は生活に困っており、料理洗濯掃除なんでもするから小間使いとして使ってくれないかとのことだった。そういえば、われわれはみな汚れた服の着た切り雀で、食事も粗末なものばかりだった。アイジは科学の才能に秀でていたが、主婦のような気づかいのできる女ではなかった。そういうわけで、コレッタというその女をわれわれのそばに置くことにした。彼女は宣言通り、こまめにわれわれの身の回りの世話を焼き、みな服装は清潔になり毎日それなりに美味い食事にありつけるようになった。

 本当に生活に困ってたから、メルモスとかいう人においてもらえて助かったんだけど、私はやせても枯れてもマプー星の女、男なんかに頭を下げるなんてはらわたがちぎれる思いだわ。マプー星は完全な女尊男卑の星。ていうか男が女の奴隷なのは当たり前だと思ってたから女尊男卑なんて言葉も知らなかったわ。だからこの惑星アキラスに来たときは、男が偉そうにしているのを見て腰を抜かさんばかりに驚いたものよ。マプー星では男が女に手を上げようものなら即刻首をはねられるんだ。わたしはマプー星では卑しい生まれだから、最初から名門の家庭の小間使いになるべく育ったけれど、でも男なんかに見下されるような恥辱を受けた覚えはない。男が私を呼ぶときはつねに「コレッタ様」よ。私のご主人様はグレイゼル家のアルテイシアお嬢様。輝くような青い目をした女王様のような気品のある、それは美しいお嬢様だった。腰までとどく豊かな金髪をいつもふさふさと揺らしてお歩きになり、浴槽でお世話するときにはその妖しく光る裸身にいつもわれを忘れて見とれていたものだったわ。マプー星ではつねに女が男を選ぶのだった。それも人間扱いされるのは超美形の男子だけ。そうでない男はどうなるかというと、そうマプー星のおそろしく高度な整形外科手術によって、家具に改造されるの。人の肌ってあたたかくて触り心地が良いものよ。だから醜い男は肉で出来たソファにされたり、絨毯の一部にされたり、便器にされる。家具にされてもあくまで生きた男だから、いつも温かい。男が便器にされるときは、下あごを大きくしてそれが便座になるのね。だから肉便器になった男は、女の排泄物をありがたく口から頂戴するわけ。まったく肉便器の使い心地の良さったらないわ。ちょっと高価な肉便器になるとのどちんこから温水が出てウォシュレットになってるのよ。話は変わるけど女の貞操なんて概念はもちろん無いわよ。貞操を守るべきは男のほうで、マプー星の男性は遺伝子操作で改造されてしまっていて、処女膜ならぬ童貞膜が陰部を覆っているから、経験があるかどうかは見ればすぐにわかるの。卑しい生まれの私だって、ボーイフレンドはいたわよ。童貞膜は初めから破れてたけど、私には分相応ね。でも童貞にこだわらなければ、私程度の女だって美形の男子をとっかえひっかえできたものよ。ああ、美男に囲まれ肉便器に座っていた栄光の日々! そんな日々も、アルテイシアお嬢様について宇宙旅行に旅立ったあの日が最後だったわ。ロケットが爆発してお嬢様は亡くなられた。残骸となった船の中でかろうじて生き残った私は、漂流してとうとう惑星アキラスにたどりついた。しばらくは畑でスイカやなすびなんか盗んでしのいだけど、今日はもうお腹ぺこぺこで、どこをどう歩いたやら小さな丘を越えてやってきた私が見たものは、色鮮やかで超美形の男子でできた懐かしの肉便器! でも手を伸ばしたらそこに引っ付いちゃって動けなくなった。あれはメルモスの「壁」が映し出した罠だったのね。

 さてコレッタが来てから生活の雰囲気が一変したものの、あいかわらず男手がもう一人ほしいと思い日々「壁」を見にいったが、なかなか獲物はかからない。そんなある日、一大事が起こった。
「大変だメルモスさん、テロイタが来た!」とヨーデが駆けてきて言った。
 テロイタというのはこの辺では有名な殺人狂だ。よそ者の私でも噂はたびたび耳にしている。なんでも身長は二百四十センチを超え、自分の背より高い重い鉄杖を振り回して無差別に人に襲い掛かるのだという。人が五人いたら必ず五人とも頭をたたき割られるのだが、人を殺すのには何の理由もない。ものを盗るわけでもなく、ただ生物を死体に変えたいという一心だと聞く。
 やがて鉄杖を頭上で振り回しながら駆けてくるテロイタが見えてきた。皆はあわてふためいたが、熱線銃が二丁あったから、私は一丁をヨーデに渡して使い方を教えた。
「よーしこうなったら一か八かだ、来るなら来やがれ」ヨーデが言った。

 (つづく)


 コレッタの独白にあるマプー星の文物は、ほとんどが沼正三『家畜人ヤプー』から借りてきたものです。極端な女尊男卑の異世界で日本男児が味わう絶望とマゾヒズムの快感をとことん描いたこの巨編、それへのオマージュとご理解ください m(_ _)m

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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209 〜 PNの由来は映画『ロボコップ』に登場するオムニ社の敵役ロボットからです。今まで書き溜めてあった自身の体験談やコラムを発表するには良い機会と思い寄稿させて頂きました。是非、御読みになってみてください。そして何より皆さんに楽しんで貰えれば嬉しいです。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









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