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 『読んで面白い』『検索で来てもガッカリさせない』『おまけに見やすい』以上、三カ条を掲げた〜快文書〜創作プロフェッショナル共が、心底読み手を意識した娯楽文芸エンターテイメントを提供。映画評論から小説、漢詩、アートまでなんでもアリ。嘗てのカルチャー雑誌を彷彿とさせるカオスなひと時を、是非、御笑覧下さいませ。
No.
2024/04/27 (Sat) 05:18:53

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No.665
2013/11/03 (Sun) 03:16:20

ふだん漢詩をよく読み、短歌の本もときおり開いてみるが、俳句についてはこれまでどちらかというと縁が遠かった。それがひょんなきっかけでこのごろ俳句のアンソロジーを紐解くようになって、秋の句を中心に見ているが、面白いものだ。

 爽やかに日のさしそむる山路かな  飯田蛇笏(1885~1962)

 読んだ瞬間に秋の山の爽快さが身に染みてくる。見飽きると「ふつうの作品」という感じもしてくるが、こういう自然な言葉の運びは素人が思うほど簡単ではないのかも知れない。「爽やか」というのが秋の季語らしい。

 初秋の蝗(いなご)つかめば柔らかき  芥川龍之介(1892~1927)

 初心者の自分でも上手いなぁと感じる。いなごのようなばったの類は手にとると柔らかくて、手の中でぷるぷると震える。子供のころに虫取りした時のあの感覚は、言われてみれば忘れがたくて、それはある種の面白さを伴った感覚だ。

 柿の葉や一つ一つに月の影  夏目漱石(1867~1916)

 漱石は漢詩も巧みだが、こういう俳句作品も良いですね。サボテンの棘の一つ一つの先に露が置いているとか、この手の句は例が多いのかも知れないが。

 暮るる日をさう嬉しいか虫の声  

 青空に指で字を書く秋の暮  

 遠山が目玉にうつるとんぼかな  

 小林一茶(1763~1827)の三作。一茶という人は、もう自分の語り口が完成していて、作ればどれも彼独自の良い作品になるんでしょうね。

 秋の日や猫渡り居る谷の橋  原石鼎(1886~1951)

 猫というのは姿が見えないときどこでどういう行動を取っているか分からない動物だ。で、飼い主の知らないところで徐々に縄張りを広げていたりする。この猫を知る人も、まさか谷の向こうまで行動範囲に入っているとは思わないかも知れない。

 もの置けばそこに生まれぬ秋の陰  高浜虚子(1874~1954)

 どうも、アイディアが出尽くすぐらい考え抜いた末に出来た作品という感じがするが、実際どうなのだろう。よく考えてみれば、秋には秋の気が世界のすみずみまで行き渡っているのだから、もの影ひとつとってみてもそこに秋の気配を発見するのも不思議ではないのだろう。

 秋雨や線路の多き駅につく  中村草田男(1901~1983)

 言われてみれば秋雨にぬれた線路というのは絵になる。佐伯祐三などが描けば見事な油絵になるのではないか。

 秋草を出て秋草に消ゆる径(みち)  木下夕爾(1914~1965)

 秋草を出て次はどうなるんだ、また秋草だ、などというこの句の発想は、シュルレアリスムに通じると思う。俳句というのは実に多様な可能性を秘めている形式だと感じる。

 ある時は月を古仏となしにけり  尾崎迷堂(1891~1970)

 尾崎迷堂は僧侶でもあった人だそうだ。月を古い仏像と見るのは面白いが、言われてみればそう見るのが自然なことのように思えてくるから不思議だ。ただ月と言えば俳句では秋の月をさすそうだから月が季語である。
 話はそれるが、満月のときには欲しいものを願い、新月のときには捨てたいものについて祈る、という話をさいきん耳にしたが、これは古いいわれのある信仰なのだろうか。

(c) 2013 ntr ,all rights reserved.
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No.664
2013/10/08 (Tue) 00:29:00

 宇宙飛行士ミナー・バリスは惑星マニプールで異星人に捕えられ、その外科医たちによって改造手術を受けた。理由は分からない。その手術によってバリスのまぶたは縦に付けられ目が左右に開くようになり、口は絶えず円形に大きく開き牙がむき出しであり、両の手のひらには何の役に立つのか分からないミミズのような触手が付いており、内臓も徹底的に作り変えられた。地球に戻ってきた彼は、その醜い姿を人前にさらすまいと隠れて生活するようになった。


 ロナ・ケルビンという十七歳の少女は、ある医学実験のため卵子を提供し、処女のまま百人の赤ん坊の母親となった。彼女も世間の好奇の目に耐えられず、ひとり目立たぬようにひっそりと暮らしていた。


全世界に娯楽を発信しつづけ巨万の富を築いたダンカン・チョークがこの男女に目をつけた。ぶくぶくに太ったチョークは人の苦しみを栄養源にするという奇人だった。彼はバリスとロナを恋人同士になるようしむけ、二人の愛の語らい、セックス、また憎みあって喧嘩する姿を格好の娯楽として全銀河に発信した。


 しかし二人は最後までチョークの操り人形のままではなく、恐ろしい復讐を遂げるのだった。



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No.663
2013/09/15 (Sun) 12:01:05

 昔アメリカで竜巻が発生し、その近くに釘を作る工場があったため、竜巻は無数の釘を暴風に巻き込み、そのせいで多くの人が亡くなったということがあったらしい。それからゴルフ場でクラブを振り上げた瞬間にそこに雷が落ちて死ぬ者だっている。こういうのは天災でどうしようもないことだから、釘の工場やゴルフ用品の会社を訴えるわけにはいかない。そして天災は何の罪もない人間を死なせてしまう残酷なものだ……運転手の上村は山道のカーブでハンドルを切りながら考えた。

 ところが、後ろに座っている横田という男はそうは考えないのだ。何事も因果応報、たとえ津波で百人死のうと、それらの人々には罪がなかったとは言えない、などと考えるのである。いつか横田は言った、たとえ天災に巻き込まれて被害をこうむろうと、その当人は我が身を振り返り、自分の行いに悪い所があったに違いない、そう思うのがまっとうな人間なのだと。しかしそんな説教臭いことをいう横田という男はじつは悪党なのであって、上村たちは彼をボスとしてついさっき銀行強盗を働いてきたところだ。助手席にはもう一人の仲間、井上が座っている。大男で、別に横田に逆らったりしないが、このボスの因果応報論を聞かされると、ときおり「そりゃおかしいぜボス」などと食い下がることもある。

 道路にカマキリがぺちゃんこにつぶれているのが見えた。カマキリというのは自分より強いものはいないというおごり高ぶった考えを持っているから、車が来てもよけないのだという話を上村は聞いたことがあった。馬鹿なカマキリ。俺たちは謙虚な心持で慎重に銀行強盗の計画を立てた。俺たちは成功するだろう。
 いや、まだまだ油断は禁物だ。安全運転でいこう……上村はじっとりと汗をかいた手でハンドルを握りなおした。
 前方に「落石注意」の立て看板が見えた。下見のときから見慣れた看板だが、これはいただけない文句だ、と改めて上村は思った。注意してたって岩がいきなり落ちてきたら逃げる暇なんかあるもんか。落石だって天災でそれに出くわしたときは運が悪かったというしかないが、落石注意と書かれると、ひょっとして注意すれば助かるのかも、などと誤った期待を抱いてしまう。で、せっかく注意したのに落石に潰されて死んでしまったら、その看板を立てたやつを恨むに違いない。どうせなら「落石覚悟」って書けよって。すると井上が
「落石に注意しろよ」などとイラつくことを言った。
「そんなもん注意したって始まらねえや!」上村が怒気を含んで言うと
「いや、このところ雨が続いたろ? だから崩れやすくなってるんじゃねえかって……」
「あーわかったよ。せいぜい注意するさ」
「上村。井上の言う通りだ。すべてにぬかりなく注意するんだ」後部座席から横田が言った。
 横田の足元には銀行から奪った現金の詰まったアタッシュケースが置かれていた。
 
 すると、まさかのことが現実に起こった。岩肌の上のほうからがらがらと大小の石が崩れ落ちてきたのだ。
「ちくしょう!」
 彼ら強盗団の車は、逃げる間もなく落石の下敷きになり、石の山に覆われて車は見えなくなってしまった。

「おい、生きてるか」横田が仲間の二人に声をかけた。
「ああ、生きてる」井上が言った。上村も
「俺もなんとか生きてる」
「普通なら潰されてお陀仏のところだ。俺たちは運がいい」と横田。
「津田が装甲の厚いパトカーを買ってきたおかげだ」
 津田というのは、最初は計画に参加し、足のつかない中古屋でパトカーを買ってきた男で、普通車に見えるよう塗装までやったが、直前になって足を骨折したと言って計画をおりた男だ。
「だが、誰かが気付いて岩をどけたら、助かってもその場でお縄になっちまうぜ。津田は運がいいよ」上村が言うと、
「まだ助かるかどうか分からん。車は密封されてるし、空気がいつまでもつか分からねえ」と横田は言い「これで見納めかも知れんし、札束を拝んでおくか」と懐中電灯で照らしてアタッシュケースを開けた。
 札束から一枚抜き取り、穴のあくほど見つめて横田は言った。「こいつは偽札だ」
「なあんだ。だがどっちみち捕まるんだから偽札でも構うもんか」
「いや、偽札を盗まれたって銀行には被害はない。ということは、俺たちはどちらかというと悪いことをしたとは言えない。悪いようにはことは運ばねえと思うな」
「そりゃおかしいだろ、ボス」と井上。「俺たちゃ盗んだときは本物だと思ってたんだ。だかられっきとした罪になるんじゃねえのかい」
「ということは、動機が悪けりゃ何をやっても悪いっていうのか? 癌患者に毒を飲ませようとして間違って癌の特効薬を飲ませてしまって、相手の命が助かっても、そいつは悪人だっていうのか?」
「そりゃたとえが飛躍しすぎてるよ、ボス。別に俺たちが偽札を盗んだからって誰かの命が助かったりしないだろ?」
「だからお前はうすのろだっていうんだ。いいか、銀行強盗に襲われて本物の三千万円を盗まれたらどうなると思う? 支店長はまず減給じゃすまねえ、離島の支店とかに左遷されるんだよ。単身赴任だったらもう母ちゃんとはヤれねえ、いや家族といっしょに転勤しても、母ちゃんは不機嫌でヤらしちゃくれねえだろうな。それがどっこい盗まれたのが偽札で支店長には落ち度がなかったことになる、そりゃ支店長は天にも昇る気持ちだろうよ。そういうときは夜は母ちゃんとがんがんやるもんだ。子供がひとり出来ることになる。それから支店全体も気分が高揚して、みんな家に帰ったらヤりまくるに決まってる。そうすりゃ子供は何人生まれることになる? 誰かの命が助かるわけじゃねえが、新しい命が生まれりゃおんなじことだ。つまり俺たちゃ何人もの命を救ったのと変わりはないんだよ」
「でもボス、みんなゴムをつけてやりまくるかも知れねえぜ」
「馬鹿かおまえ。こういう自分たちの地位が安泰であることが確かめられたような、こんなめでてえ日には誰だってナマでやるんだよ」
「しかしボス、あそこの行員は若いやつが多かったぜ。みんな独身かも知れねえ」
「そういうときは、銀行の中で行員どうしヤりまくるだろうな」
「銀行員がそんなことするかい?」
「お前なんにも知らねえんだな。銀行は閉店後、手形を扱ったりして忙しいもんだが、手形には商業手形とか代金取立手形ってもんがある」
「知ってるよ」
「それじゃ代金取立手形のことを奴らが『ダイテ』と略して言うのは知ってるか? だから閉店後、女子行員は『係長ダイテください』とかしょっちゅう言ってるんだよ。で、今日のような強盗が入ってしかも偽札を盗んでいって被害がなかった、そんなテンションの上がる日にゃ係長さんは、女子行員に『ダイテください』と言われりゃ『おお、抱いてやるとも』となるに決まってらあ。だから今日の閉店後の支店内は乱交パーティになるんだよ」
「でも、その場合は女子行員と係長は他人だぜ。俺はゴムをつけると思うな」
「井上なあ、ちっとは世間のことを勉強しろ。銀行みたいなお堅い職場にゴムなんか持ってきてみろ、すぐに懲戒免職だぜ。これぐらい小学生だって知ってらぁ」

「おい、石を突き崩すような音がする。助けに来たんじゃないか?」上村が言った。
「こんなに早くか?」と横田。
 彼らが気づいた通り、ショベルカーが強盗団の車を覆っている岩をどける作業を始めていたのだった。
 岩の撤去作業を指揮している男が岩肌の上に向かって叫んだ。
「おい、津田。誰がこんなに岩を落とせと言った! このぶんじゃ予定より二十分は遅れるぞ」
「だってしかたがない、岩肌がもろくなってるんだよ!」崖の上の津田は叫んだ。
 岩がどけられやがて車の姿が現れると
「屋根がつぶれてる、バーナーで焼き切れ」
 バーナーの火がゆっくりと車体を焼き切っていく。そして屋根に大きな穴が開くと、作業していた男は驚いて叫んだ。
「おい、こいつら生きてるぞ! どうします、ボス」
「バラすにゃ及ばねえだろう。おい、お前は横田だな? そのアタッシュケースをよこしな」
 横田はピストルを向けられて、素直にそれを渡した。
「よし、津田も降りて来い。ずらかるぞ」
 そういって男たちはショベルカーを置き去りにして、乗用車で逃げて行った。

「馬鹿な奴らだ……しかし津田の奴、裏切ったのか?」上村が言うと
「はじめからあっちの仲間だったのかも知れねえ」と横田。
「しかしボス、これで津田に罪をなすりつけられますね」と井上。
 三人が車から這い出ると、パトカーがサイレンを鳴らしながら坂道を曲がって現れた。

「だから俺たちは津田武夫って男に命令されてやったんですよ! 現に俺たちはあいつに金を渡しちまった」
「お前たちが言っている津田武夫という男だがね」刑事は言った。「いくら探してもそんな男はいないんだよ」
「そりゃ名前は偽名かも知れない。しかし奴の住処を当たってみれば分かるはずだ!」
「もちろん当たってみたさ。そして津田武夫という男が住んでいたのも確かだ。しかしなんというかな、やつに関していくら調べてみても日本の戸籍にそんな男は存在しないんだ。理解に苦しむことだが」

 そのころ、津田とその仲間は偽札を安全な麻薬にかえ、彼らの故郷である千年後の未来に戻るところだった。つまり彼らはタイムマシンでやってきた未来人だったのである。
「ひょー、二十一世紀の麻薬はこの原始的な快感がたまらんな」
「おい、誰が運転するんだ。みんなラリってるんだぜ」
「まかせときな。俺ぁきのうきょうの薬好きじゃねえんだ。いざ3020年に向けて出発!」
「おい、このタイムマシンに十一人は乗りすぎじゃねえか」
「大丈夫だって……おい誰だよ、勝手にアクセル踏むやつは! いけね、ブレーキが壊れた」
「お、おい。メーターがもう紀元30万年まで来てるぞ。燃料切れまで走り続けたらどこまで行くのかな」
「吾輩の計算によるとだな、約七十億年後だ」
「その時代にはもう地球なんてないぞ。とっくに膨張した太陽に飲み込まれてる」
「もう地球なんか無くたって、ヤクがありゃ俺ぁハッピーだよ」
「そうだな。太陽に突っ込んだって、そんときゃそんときだ」
「誰か、そこのするめ取ってくれ」
 こうして彼らは七十億年後の未来へ、赤色巨星と化した太陽の中へとまっしぐらに突き進んでいった。

(c) 2013 ntr ,all rights reserved.
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執筆陣
HN:
快文書作成ユニット(仮)
自己紹介:
 各々が皆、此の侭座して野に埋もるるには余りに口惜しい、正に不世出の文芸家を自称しております次第。以下、【快文書館】(仮)が誇る精鋭を御紹介します。


 ❁ ntr 〜 またの名を中村震。小説、エッセイ、漢詩などを書きます。mixiでも活動。ふだん高校で数学を教えているため、数学や科学について書くこともあります。試験的にハヤカワ・ポケット・ブックSFのレビューを始めてみました。

 ❖ 呂仁為 Ⅱ 〜 昭和の想い出話や親しみやすい時代物、歴史小説などについて書きます。

 ✿ 流火-rjuka- ~ 主に漢詩の創作、訳詩などを行っています。架空言語による詩も今後作りたいと思っています。

 ☃ ちゅうごくさるなし
主に小説を書きます。気が向けば弟のカヲスな物語や、独り言呟きなことを書くかもしれません。

 ♘ ED-209ブログ引っ越しました。

 ☠ 杏仁ブルマ
セカイノハテから覗くモノ 



 我ら一同、只管に【快文書】を綴るのみ。お気に入りの本の頁をめくる感覚で、ゆるりとお楽しみ頂ければ僥倖に御座居ます。









 ※ 基本的に当ページはリンクフリーです。然し乍ら見易さ追求の為、相互には承っておりません。悪しからず御了承下さい。※







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